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60 もう一つお願いしていいかな?

 ネロを見送った後で、武器の保管庫の前に移動してみる。扉を開けると、端の方に二振の深紅の武器が立てかけられていた。もうあの〈封印〉のケースにこの子達を入れなくていいって、分かってくれたんだよね。ありがと、ネロ。


 手を伸ばしてそっと薙刀と大太刀に触れてみる。あの元気で、賑やかで、可愛くて、少し寂しそうな綺麗な声はもう聞こえてこない。少し悲して寂しくて、でも感謝を込めて二振の美しい武器を撫でていると風が動いた。


「おかえりなさい。ごめんなさい。勝手に武器のとこ開けちゃった。」


「問題無い。」


「ネロはお腹いっぱいで動けない?」


「いや?」


「何度もお願いして悪いんだけど、もう一つお願いしてもいいかな?この子達を見てみたい。もう、夜だけど無理かな?」


「分かった。」


 お願いをしてみると、何も聞かずにネロは了承してくれた。ネロは後ろにいるから顔は見えてないけど、優しい顔をしてくれてると思う。振り向かずに武器を撫で続けていると、後ろからブランケットが巻きつけられた。


 更にもう一枚追加で巻きつけられてしまった。その上からマントを羽織らされて、着ぶくれで全く動けなくなっちゃった。ネロは有無を言わさず、俺を抱き上げてソファに運んでしまう。ソファに座ってネロの行動を見守ってみる。


 深紅の二振を手にしたネロが外に出て行ってしまった。そして、直ぐに戻ってきて、慎重に俺を抱えて鍛錬場に移動してくれた。空を見上げると月も星も見えない。今日は暗いね。


 鍛錬場に到着すると、いつの間に持ってきていたのか、ネロが一枚のブランケットを四つ折りにして、鍛錬場の端っこに敷いてくれた。その上に俺を慎重に下ろしてくれる。


 巻かれたブランケットとマントで円錐状の俺を、座布団のようなブランケットに慎重に置いてくれるネロの行動が、シュール過ぎてちょっと面白い、と思ってしまった。


 真剣な顔で動くなよ、と忠告してきたネロが鍛錬場の真ん中に移動していく。動くな、と言われてもグルグル巻きで、尚且つ、着膨れで、全く動けませんよ。心配ご無用です。


 ネロが床に置かれた紅い薙刀と紅い大太刀を背中に交差するように担いだ。固定する為のベルトみたいなのとかはなかったのに、背中に吸い付くように帯刀された武器が少し不思議な感じがする。


 一振ずつの演武だけど、もう一振もちゃんと一緒に装備してくれるみたい。二人で一緒だからね、その方が嬉しいよね。俺に正面を向けて立ったネロが薙刀を手にして構えた。


 刃をやや斜め後ろの上部に向けて、左手は腰の位置、右手は顔程の位置に、半身を引いてこちらを見据えてくる。八相の構え、攻撃特化っぽく見えるネロによく似あう構えだ。ふっと頬が緩んでしまう。やっぱ、ネロは好戦的なのかな。普段はあんな優しいのにね、構えを見て攻撃特化って頭に浮かんじゃった。


 一瞬ピンと張りつめた空気で気が引き締まる。俺も全てを見逃さないように、ネロの動きの全てに神経を研ぎ澄まして見つめる。背筋が伸びたネロの構えは、凛とした美しさがある。


 ネロが動く。振り翳した刃を下に向かって振り下ろし、床に着く直前で斜め上に切り上げた。切り上げた刃を途中で引いて、突きをするように前に繰り出す。前に突き出された刃をまた弧を描くように下に切り下げてから、足を払うように水平に切り結んだ。


 刃を下に向けて下段の構えを取り、すっと、後ろに引いて刃をやや上に突き出しながら捻るように突きを繰り出す。そのまま、真上に切り上げて、高い位置で止まった切っ先を少しぶれるように動かした後に斜め下に切り下した。腰ほどの位置で横に薙ぎ、そこから斜め上に切り上げる。


 背の高いネロの長い腕から繰り出される薙刀の攻撃は、ゆったりと動いているからか優雅で、まるで踊るように動いているネロの姿が綺麗だ。艶のある紅く長い柄部の先にある白銀色の刀身と、柄部に施されてる金色の装飾や石突きの金色が、ネロの動きに合わせて蝶が舞うようにひらひらと光を散らしていく。


 上に向かって切り結んだ切っ先を最後にゆっくりと降ろし、俺に全景を見せてくれるように、地面から水平に構えてくれた。ネロの横に水平に突き出た紅い光沢のある薙刀は綺麗で可愛い。


 背中に薙刀を担いで、今度は大太刀を持ち正眼に構えた。背筋がスッと伸びたネロは、真剣で触れると切れそうな程、研ぎ澄まされて美しい。一旦目を閉じたネロは集中をしたみたいだ。目を開けた瞬間から演武が開始された。


 素早く振り上げて叩き切るように真下に刀を振るう。腰程の位置に刃が到達した瞬間に今度は水平に薙ぎ払った。そのまま、半身を引いて腕を引き腰を落とす。頭の横まで柄を引き上げて、刃を上にして切っ先を少し下げた霞の構えを取った。


 少しの静止の後で、素早く突きを繰り出す。突いた腕が伸びきった瞬間に、斜め下に切り落とし地面に着く直前で軌道をなぞるように斜め上に切り上げた。


 再び半身を引いて腰を落とし、もう一度霞の構え。素早く前に突き出した後はそのままで、水平に横に薙ぎ払い、返す刀でもう一度横に薙ぎ払う。刀を引き体を反転させながら遠心力を使って力強く袈裟切りをした後で、素早く刀を引いて、胸の位置に真っ直ぐな突きを繰り出した。


 ネロが大太刀の攻撃を繰り出す度に、刀身が白銀色に反射してちらちらと雪が舞っているように見える。素早く大太刀を振るう姿は舞うように滑らかで、美しい動きに見惚れてしまった。柄頭の深く紅い色も、刀身の白銀色も動く度に見せつけるように光を反射している。


 最後の突きを出した後は、もう一度正眼に構えてくれた。少し反り上がった美しい刃紋を浮かび上がらせる刃が白銀に輝いて綺麗で美しい。息を整える為なのか、目を閉じたネロが大太刀を背中に担いだ。ネロの背中で二振の武器が交差して紅く、そして銀色に輝いている。


 ネロは目を閉じて小さく息を吐き出している。そして、目を開けて、担いでいた薙刀と大太刀を丁寧に床に並べて横たえた。置かれた二振の武器から一歩下がったネロが静かに正座をした。背筋を伸ばした綺麗な所作のネロは思わず見入ってしまう程に凛として静謐な感じだ。


 そのまま、ネロは愛しい者を見る眼差しで二振の武器を見下ろした。金色の瞳が優し気に二振を見つめている。結構な長い時間、視線を二振の武器に注いでいたネロが視線をこちらに向けた。金色の瞳が光っている。


 優しい顔で二振の武器を見つめていたネロを見て思う。やっぱり、その子達が好きなんじゃんと、胡蝶、白雪、良かったね。ネロはやっぱり君達が大好きで大切だったんだよ。


 二振の武器をそのまま床に残して、ネロが俺の方に歩いて来る。そして、ぐるぐる巻きのままの俺を抱き上げてくれた。一度家に戻るみたいだ。


「ネロ。あの子達も連れて帰るよね?」


「ああ、でも。少しの間預かっても構わないか?」


 不安になって聞いてしまうと、安心させるようなネロの低く優しい声が響いてきた。ネロの要望に頷いて了承を伝える。ネロはその後は何も言わず家に向かってしまう。


 家に到着して、ネロが俺のマントを優しく脱がしてくれた。その後でブランケットも解いてくれる。俺をソファに座らせて、ネロはまた家を出て行ってしまった。


 ネロってホント、なんの武器も卒なく使い熟せるんだ。改めて感心してしまった。胡蝶、白雪、綺麗な姿が見られたよ。本当に綺麗だった。また、戻ってきたら見せてね。その時は俺が扱えるようになってるといいな。


 ずるずると体がずり落ちてソファに寝転がってみる。右手の人差し指の指輪を触ると、ひんやりと気持ちいい。そのまま目を閉じた。




夢を見る。優しい笑顔のネロに纏わりつく、楽しそうな銀髪赤目の二人の少女。二人はとても幸せそうにネロの尻尾に戯れたり、抱き着いたり。やっぱり二人はネロの事が大好きで正解だった。ネロも二人が凄く大切なんだよね。良かった。俺は、映画を見るように観客席からピクリとも動けないけど、二人の楽しそうな笑顔とネロの穏やかな笑顔に癒される。




 目を開けると、ベッドの上に寝かされていた。まだ外は薄暗い。久しぶりに早起きだ。上半身を起こしてみると、ベッドの脇で座って本を読んでいたネロと目が合った。


「おはよ。ネロの想いが伝わった。ありがとね。嬉しかった。」


 別に寝惚けていた訳ではないんだよ。でも、はっきりと覚えている夢を思い出して、ふふっとなりながらお礼の言葉を口に出していた。俺の言葉に首を傾げたネロが疑問の表情を浮かべてしまう。なんでもない、と言い直して立ち上がった。今日はだいぶ体調がいい。


「今日は結構早く起きられたのかな?まだ外は暗いね。まさか、もう夕方とか言わないよね?」


「昼時。少し天気が悪い。」


「えっ、もうお昼なの?」


「昼だ。食事はどうする。」


「あ、食べます。お腹がとっても空いてます。」


「分かった。薬と茶を用意しておく。飲んでおけ。」


 返事も聞かずに寝室を後にしていったネロの後姿を見送ってみる。ネロが部屋を出たら、服を着替えてリビングに移動した。テーブルに置かれている薬を口に入れ、苦みを流す為にお茶を口に含んだ。


 武器の保管庫の前に移動して扉を開けてみる。薙刀と大太刀が見付からない。引き出しを全部開けてみたけどやっぱりない。武器の保管庫の扉を閉めて、入り口に向い、外に出てみる。

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