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57 ん?どういうこと?

夢を見た。懐かしい日本の実家。足を踏み入れた家の中に人の気配は無い。一階、二階と探し回る。

一階には誰も居ない。足元に雪丸を感じて見下ろしたけど、姿が見えない。頭を擦りつけてくる感触だけある。

二階にもやっぱり誰もいなくて、肩を落としながら階段を下る。リビングに続く扉のガラスの部分から明かりが漏れている。


リビングに飛び込むとソファに少しの窪みが二つ見える。姉と母の微かな話し声が聞こえる。何を話してるかはっきりとは聞こえない。姿も見えない。

キッチンの換気扇が回ってる。父の煙草の匂いがする。でも姿が見えない。気配はするのに姿が見えない。

足元にすり寄る雪丸を感じて視線を下に向ける。何も見えない。


泣きそうになってしまう。人の気配がして振り返る。銀髪赤目の日本人形と西洋人形が手を繋いで立っていた。

「白雪、胡蝶。来てくれたんだ。」

『『琥珀、悲しまないで。』』『これは夢。』『これは幻。』『『現実じゃないから。』』

慰めるように話し掛けてくる二人の顔が辛そうで、悲しそうで思わず頭を撫でる。

「そうだよね、分かってる。」

『ここは琥珀の家?』『ここは琥珀の故郷?』

「うん。俺の家で俺の故郷。懐かしくて大切な場所。もう、帰れない、俺の大切な家族のいる場所だよ。」


 自分の言葉で再認識してしまってぽろぽろと涙が零れる。白雪と胡蝶は俺の頭を撫でてくれる。

白雪の瞳も、胡蝶の瞳も俺と同じくらい潤んでて俺の悲しみを共感してくれてるみたいだった。

『琥珀の大切な場所。』『琥珀の大切な家族。』

静かに噛み締めるように呟く可愛い子達を抱き締める。二人が俺にしがみ付いてくれる。頭を撫でながら、一緒に泣いてくれる。





「琥珀。」


 目を開けると視界がぼやけていた。温かい濡れたタオルが目に押しあてられる。タオルを持ち上げると、少しだけクリアになった視界にネロの心配そうな顔が映り込んだ。


「琥珀。あいつらに何かをされたのか?」


「昔の、俺の故郷の夢を見て辛かっただけ。白雪も胡蝶も一緒に泣いてくれた。何もされてない、一緒に泣いてくれたの。」


 怖い顔をするネロに気持ちを分かって欲しくて、首を横に振ってしまう。夢の中だけど、あの子達の想いは凄く伝わった。俺を思いやってくれる優しい気持ちが伝わってきた。


「そうか。」


「ネロ、お願い。あの子達を出してあげて。ちゃんと話がしたい。」


 怖い顔のままで眉を寄せてしまったネロを見上げて、お願いをしてみた。俺を真っ直ぐに見ているネロは視線を逸らさない。俺も視線を逸らさずにじっと見つめていたら、ネロが小さく息を吐き出した。


「もし琥珀を害するのであれば叩き壊す。それでもいいか?」


 折れてくれたネロの言葉からは本気しか伝わってこない。でも、俺は知ってるから大丈夫。あの子達は俺を害する事なんてしない。深く頷くと、ネロがそれでも何かを考えるように俺をじっと見つめてくる。ネロの瞳にあるのは心配の感情だ。そんなに心配する事態にはならないと思うんだけどな。


「ここに持ってくる。」


 少しして、小さく呟いたネロが寝室から出て行った。武器の保管庫の扉を開ける音がする。直ぐに2つの大きなガラスのケースを抱えたネロが戻ってきた。ガラスのケースを俺から遠い壁に立てて置いたネロが振り返った。上半身を起こしてケースを眺める。心配そうな顔をしているネロに頷いて、お願いって伝えてみた。


「一振ずつ出す。薙刀か、大太刀か。どちらがいい。」


「両方。」


「駄目だ。」


「選べない。胡蝶も白雪も二人共大事なの。両方共出してあげて。」


『そうだ、出せ。無愛想猫。』『そうだ、開けろ。無表情猫。』


「白雪、胡蝶。そんな事を言っちゃ駄目だよ。ネロは今出してくれるから。」


『だって、琥珀。あいつ、私たちの事を睨んでる。』

『だって、琥珀。あいつ、僕たちの事を信じてない。』


「大丈夫。ネロは睨んでないし、信じてくれてるよ。ね、ネロ。」


 二人を安心させたくて、仲裁の言葉を掛けてみる。ネロに目を向けると、ネロがめっちゃ睨んでるのが見えた。目力がヤバい。眉を寄せて睨んでるから、眼光が鋭過ぎて怖い。なんでそんな顔してんの。


「ネロ、睨まないで。二人共いい子だから。信じてあげて。」


 ネロの表情が二人の言う通りで、文句を言ってしまった。眉間に皺を寄せたままで俺に視線を移してくれたネロを睨んでしまう。俺が睨んだ事に怯んだのか、ネロの眉間の皺がなくなった。いつもの無表情に戻ってくれたネロを安心させるように、にっこり笑顔を浮かべてみる。


「ネロ。俺は前にも言ったけど、死んだとしても神殿に戻るだけ。ネロはその子達が暴れても対処できるんでしょ?だから、二人共出してあげて。もし駄目ならまた仕舞ってもいいから。」


 ゆっくりと説得してみた俺の言葉が通じたんだと思う。ネロが渋々とガラスケースの蓋を同時に開けてくれた。


『『琥珀、ありがとう。やっと琥珀とちゃんと会える。』』


 嬉しそうな二人の声に俺も嬉しくなる。ケースが開くのと同時に、2つの紅い光の玉が同時に飛び出てきた。俺の周りを元気に飛び回ってメッチャ可愛い。


 すりすりと頬にすり寄ったり、髪の上を元気に移動したり。ホント、可愛い。撫でるように紅い光に手を伸ばしてみると、俺の手の下で二人が嬉しそうに飛び回ってくれた。


「胡蝶、白雪。夢の中でありがとね。」


『少しは悲しくなくなった?』『少しは辛くなくなった?』


「うん。ありがと。」


『『琥珀が治ったなら嬉しい。』』


「二人共、ホントにありがとね。」


 俺の声に応えるみたいに、2つの紅い光は俺の周りを嬉しそうに動き回ってくれる。夢の中でも可愛かったけど、現実でも元気で可愛い二人だ。


『琥珀、家族に言葉を届けたい?』

『琥珀、家族に言葉を伝えたい?』


 暫く元気に俺の周りを飛び回っていた紅い光達が不意に少し距離を取って離れてしまった。俺の前でピタッと止まってしまった二人に疑問が浮かんでしまう。俺の疑問に答えるように、綺麗な透き通った声が問い掛けてくる。


「うん。でも、もう無理なんだ。」


『僕たちが届ける。』『私たちが伝える。』


『植物の王が僕たちを助けてくれる。琥珀のために。』

『精霊の王が私たちを手伝ってくれる。琥珀のために。』


「どういう事?何を言いたいのかが分からない。」


(神樹の特性:【プラントイド】【草木の王者】【精霊王】のうち、後者2つの事を指していると思われます。)


『僕たちが琥珀の家族に言葉を届ける。』

『私たちが琥珀の父上様、母上様、姉上様、雪丸様に想いを伝える。』


「そんな事、」


『『できるよ。』』

(できます。)


 二人と一人の声が重なった。二人の声は自信に満ちていて、一人の声はいつも通り冷静。えっと、できるの?


(はい。可能性の話ですが、不可能では御座いません。兎霞・胡蝶様と烏隠・白雪様はこの世界の理から外れた存在で御座います。琥珀様はこの世界に存在か確定した時点で理の中に入りました。従って、理の外に出る事は魂の消滅を意味する為、琥珀様が故郷の地に戻る事は不可能です。しかし、兎霞・胡蝶様と烏隠・白雪様は元から理の外に存在しています。従って、理の外側を旅する事は可能です。更に、精霊王のお力がお二人に及ぶ為『可能』となります。)


『僕たちがんばる。』『私たちできる。』


(ただ、非常に困難である事は必至です。理の外の世界を旅し、琥珀様の故郷の世界を探し当て、琥珀様の過ごされた同じ時間軸に辿り着くのは至難の道程です。但し、兎霞・胡蝶様と烏隠・白雪様には寿命は御座いませんので、時間をかければ辿り着けると思われます。)


『『琥珀、信じて。必ず伝えて戻ってくる。』』


(尚、辿り着いた後で、またこの世界に戻って来るのにも悠久の時間が必要だと思われます。又、注意点としては往路、復路に於いて費やされる長い時間の中で、自我を保てなくなる可能性もあります。)


「そんな事、胡蝶と白雪に頼めない。もう会えなくなるかもしれないのに。それならずっと俺の傍にいて。」


『『琥珀の家族に伝えたら、戻る。その後は一緒。』』


「嫌だ。傍にいて。家族の事はもういいから。」


「琥珀、どうした?仕舞うぞ?」


 苦しそうに呟いてしまった俺が害されたと思ったらしい。ネロが心配そうに声を掛けてきた。


「待って、ネロ。違うから。待って。仕舞わないで。」


 声がどんどん涙声になっていく。声だけじゃなくて感情が爆発したみたいに涙も溢れてきてしまった。


『琥珀の気持ちが伝わった。僕は琥珀を助けたい。』

『琥珀の想いが伝わった。私は琥珀を癒したい。』


「胡蝶、白雪、ダメ。一緒にいて。離れないで。」


 ぽろぽろと涙が零れてしまう。二人にもネロにも泣いてる事を知られたくなくて、顔を覆って涙を隠してしまった。


『『泣かないで、琥珀。』』


『泣くと僕たちも悲しい。』『泣くと私たちも辛い。』


『『琥珀の想い、伝えてくる。お願い、行かせて。必ず戻る。』』


「待って。」


 不意に二人の声が遠くなって聞こえなくなってしまった。顔を上げると苦しそうな表情のネロがガラスのケースを片付けるトコロだった。


「ネロ、お願い。胡蝶と白雪を出してあげて。」


「駄目だ。今日はこのくらいにしておけ。」


「ネロ。」


 涙が止まらない。俺の声でもネロは止まってくれない。片付けて戻ってきたネロの顔も見れずに泣き続けてしまう。俺の傍にネロが腰を下ろした。黙って、慰めるように俺の頭を撫でてくれるネロの手が冷たくて気持ちいい。


「元気になったらまた解放する。今は休め。」


 優しく言い聞かせて、起きたばかりなのに寝かそうとしてくるネロに抵抗してしまった。でも、力では勝てずに寝かされてブランケットを掛けられてしまう。


 涙が溢れて止まらない。目の上にネロが濡れた温かいタオルを置いてくれた。もう結構長い間泣いていたのに、まだ涙が出てきてしまう。スツィ、ホントにあの子達は行って帰ってこれるのかな。心の中で呟くように聞いてみた。


(はい。時間をかければ可能です。戻った時には元の彼女達ではなくなっている可能性もありますが。)


 そっか。白雪と胡蝶はなんで俺の為に必死になってくれるんだろう。出会ってからまだ数日なのに。


(琥珀様の心に入って視たから、だと思われます。琥珀様の心の軋みを感じた。琥珀様を癒したいという想いが、あそこまで頑なな態度になっていると思われます。)


 行って貰ってもいいのかな?


(琥珀様の御心次第です。)


 白雪と胡蝶の気持ちは?


(先程の対応で、琥珀様は分かっている筈です。)


 スツィは冷たいね。冷静なスツィの意見に思わず悪態を吐いてしまった。


(真実を述べさせて頂いています。)


 そうだね。分かってる。ごめんね、八つ当たりした。


(分かっております。)


 ふーっと長い息を吐き出してみる。目の上のタオルを持ち上げてみると、ぼやけた視界に入ってくる光が眩しい。俺を覗き込んでいるネロに視線を向けてみた。無表情の中にも、何か緊張感のような怒ったような感情が見える。


「さっきのネロの顔、超怖かった。思わず涙が出ちゃったよ。」


 軽口を叩いてみると、ネロの表情が少し緩んでくれた。ベッドの傍に腰を下ろし、俺を覗き込んでくるネロに笑顔を浮かべてみた。俺の笑顔で、何故かまたネロが緊張したように顔を引き締めてしまった。ネロの頬に手を伸ばして、頬をふにふにして直に緩めてみる。全く緩まないネロの表情筋は手強いかも。


「琥珀、何を言われた。ここまで動揺するような事を言われたのか?」


「ん~。あの子達がね。俺の故郷に行って家族に俺の事を伝えてくれるって。俺はもう行けないけど、あの子達は行って戻ってこれるから行ってくれるって。出会って数日なのに、俺のために何百年かかるか分からないのに、でも行ってくれるって。ほんと、いい子達だよね。」


 また涙が出てきそうになって、言葉を止めてしまった。ネロが俺の頭を撫でてくれる。無言の緊張感漂う表情のネロだけど、行動は凄く優しい。


「で、何年かかっても俺の所に絶対に帰ってきて、その後は一緒にいてくれるって。でもね、戻ってくる迄に自我がなくなっちゃう可能性もあるんだって。俺の悲しさや辛さを癒す為に、自分達を犠牲にしても行くって言うんだよ。そんな事より、傍にいて欲しい。ずっと、傍にいて欲しい。俺と一緒に時を刻んでほしい。」


 スツィに言われた、分かっている筈の白雪と胡蝶の気持ち。言葉に出す度にどんどん形になっていく。あの子達の気持ちは凄く嬉しいし、大切にしたい。でも、それより一緒にいて欲しい。俺の力だと、今はあの子達を扱う術はない。でも、いつか、力も技術も身につくかもしれない。


 でも、分かってる。これは俺のエゴだ。優しい二人の気持ちを何も考えていない。また涙が溢れて止まらなくなってしまった。どうしていいか分からなくなる。後半は泣きながらで、詰まり詰まり話していく俺の話を黙って聞いてくれたネロが、頭を優しく撫でてくれる。


「琥珀の言うように、悪い子達ではない、みたいだな。琥珀を大事に思っている。」


 ネロは、言い聞かせるように、低い声でゆっくりと話してくれる。良かった、ネロも分かってくれた。白雪も胡蝶も、凄くいい子達なんだよ。本当に俺の事を想ってくれている。ネロの言葉が嬉しくて、少しだけ落ち着いて涙が止まってくれた。


「そうなんだよ。めっちゃいい子達なんだよ。俺には勿体無いくらい、いい子達なの。あんなに俺を想ってくれても、俺は何も返せない。」


「そうか。」


 たった一言のネロの言葉は優しくて、一度落ち着いた筈なのにまた涙が溢れてしまった。俺の頭に手を添えて、優しく撫でてくれるネロの手のひらの感触が落ち着く。ネロが優しくて安心できて、また眠りに落ちていってしまった。

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