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53 どっちも嫌です

 俺の笑顔で観念したらしいネロが漸く話し始めてくれた。昔、ネロが俺の歳よりも、もう少し若いくらいの時に、世界を巡る武者修行に出た事があったらしい。闘技大会とか、武術大会とか、剣術の大会とかを渡り歩くって感じの武者修行だったらしい。その武者修行の道中での話。


 東の大陸オウリュウで立ち寄った村の小さな神社に、打ち捨てられるように奉納されていた一対の薙刀と大太刀。対って言葉を使うのは、武器の種類的におかしいと思ったけど、伝え聞く話では対の武器。


 奉納された武器だけど、呪われた武器。いつ奉納されたかは誰も覚えてない程の昔の事だったみたい。でも、呪われた武器が現れてからは、その村は凶荒続きになってしまったらしい。


 月の影響を受ける波が凪いで海からの恵みがなくなり、陽の光の影響を受ける作物や山の恵みも不作になっていた。村は貧困で荒れ果てていたけど、不思議と村が存続不可能な状態になる前に救いが訪れていた。


 武器達が不在になると、途端に海の恵みや山の恵みが潤い始めて村が潤っていく。でも、戻ってくるとその恵みがピタリと止んでしまう。武器の不在が村を存続させていたのは、間違いようのない事実。


 訪れる旅人達に呪われた武器達を押し付けようと画策する村人達。村人達の思いとは裏腹に、何をやっても、誰に渡しても気が付いたら戻ってきてしまう不思議な武器達。


 偶然通りかかったネロにも、押し付けようとした村人が涙ながらに逸話を話して渡してくる。普段なら面倒に巻き込まれるのは、と回避するトコロだった。


 でも、武器を一目見て気に入っちゃったネロは受け取って村を後にした。当時のネロは今みたいに背が高くなくて、リーチの長い武器が必須だった事も理由の一つらしい。


 受け取った当時の武器はかなり酷い状態だったみたい。薙刀も大太刀も刃はぼろぼろで欠けまくっている。握る柄も装飾は欠けたり歪んでいる、飾り糸もくすんで擦り切れている。とてもそのままでは使えるような武器ではなかった。


 でも、予感のようにいい武器だと確信した、と。当然、修復をして使用可能な状態にする為に刀鍛冶を探して補修を依頼する。預けた鍛冶屋が直ぐにこの武器は無理、と突き返してくることが数度。


 近場にはもう頼める鍛冶屋もいなくなってしまった。使えない武器は気に入ったとしても、流石に手元に所持しておくのは無駄。見切りをつけて、武器を返しに村に戻ってみた。


 村人達はこんなに長い間、戻ってこなかったのは初めてだから、もう持ってくるなと追い返してくる。返せないままで困って、森で野宿をしていた時に、なんか超強いモンスターに襲われたらしい。


 ネロをもってして強いと言われても想像ができないけど。体中ぼろぼろになりながら戦って、死を覚悟したネロの前に、薙刀が使えと言わんばかりに突き刺さった。背中には知らない間に大太刀が帯刀されていたんだって。


 勿論、大太刀を帯刀した覚えもないし、薙刀も持ち物の中に入れて布で巻いていた筈。死んでもいいやと、目の前の薙刀を手に取って振ってみた。ぼろぼろの刃なのに超強いモンスターの体にずばずばと傷が入る。薙刀と大太刀を入れ替えて大太刀を振るうと、すぱすぱと切れる。


 武器を手にした途端に形勢逆転して無事に倒す事ができた。窮地を乗り切った後で武器を見るとさっきより刃が綺麗になっている気がしたらしい。同時に、何か声が聞こえるようになった。でも何を言っているか分からない。


 だけど名前のような響きは分かって、その人物を捜し歩いて見付けたら刀鍛冶だったらしい。その人物に武器の修復を依頼して今の綺麗な見た目になったそうな。


 綺麗になった武器は相当強かった。でも、扱いが難しくて、寸止めの筈なのに深く切ってしまう。軽く当てただけなのに、殴り切るような衝撃で吹き飛ばしてしまう。


 人の来ない森の中で一人で武器を試して出た結論は使えない。超強い敵、ネロでも危険な敵には有効ではある。でも、それ以外ではオーバーパワーで無理ってなって、今に至る、と。あの子達はちょっと暴れん坊なのかもしれない。


 ネロの低い声がゆっくりと昔話を読み聞かせてくれてるみたいに響いてくる。後半はウトウトと夢の中で聞いていたような気もする。眠りに落ちながらも話はすんなりと頭に入ってきた。


 どれくらい寝ていたのか、目を開けた時にもネロの手が額にあった。顔を動かしたら手を退けてくれたネロと目が合って、いてくれた事に安心する。


「ネロを助けてくれた子達じゃん。悪い子じゃないよ。」


「そうだな。」


 寝惚けながら掠れる声でネロに思いを伝えてみる。懐かしそうに、悲しそうに呟くネロの声が聞こえた気がしながら、また眠りに落ちてしまった。きっと、直ぐ出してあげれそうだよ、もうちょっと待っててね。心の声が胡蝶と白雪に届いたらいいな。


 次に目が覚めた時もネロはまだ隣にいてくれた。起き上がって、おはよう。と声を掛けてみる。もう起きるか?と聞いてくれたネロに頷いて返す。


 俺を片腕に座るように抱えたネロがもう片手でブランケットを掴んだ。立ち上がったネロより俺の顔の位置が高い。うぉ、視界が高い。腕に座ってるとネロより背が高くなった気分を味わえるらしい。


 ってか、片腕に座ってるじゃん。ネロの右腕の上に座らされていた俺はバランスを崩しそうになって、慌ててネロの頭にしがみ付いてしまった。


「なんで片手?」


「両手で横抱きの方が良かったか?」


「どっちも嫌です。」


 素朴な疑問に対して、ネロは苦笑しながら選択を突き付けてきた。そう言われると、抱っこされる事自体が恥ずかしいんですよ。俺の不満を受け流して、そうか、と呟いたネロは下ろしてくれる気配がない。


 ネロは俺を抱き上げたままで、寝室からリビングに移動していく。ソファに下ろされて、すかさずブランケットを巻き付けられてしまった。俺が大人しくされるが儘でいると、ネロがお茶を淹れてくれる。はい、と渡されたお茶が美味しい。


 お茶を飲みながら和んでいると、テーブルに移動したネロがゼリーの入ったバスケットを運んできてくれた。食べるか?と聞かれてニッコリ笑顔で大きく頷いてしまう。


 丁寧に取り出した大きい器のゼリーを俺の膝に置いてくれた。落とさないように器を抱えた俺の手から、カップを抜き取ったネロはローテーブルに移動させてくれた。床に座って小さな器のゼリーを持ったネロが俺を見上げてきた。


「ネロはこの味がそんなに好きなの?デザート全部が駄目かと思ってた。」


「これは美味い。」


「うん。美味しいよね。ヒンヤリしてて酸っぱくて少し甘くて。後でユリアさんにお礼言わなきゃね。」


「伝えておく。」


「次に宅配してくれた時に自分で伝える。じゃあ、いただきます。」


 口の中に入れるとスッと溶ける甘酸っぱいゼリーを、ちびちびと楽しませて貰う。ヒンヤリとして喉が気持ちいい。ちらっとネロに視線を向けると、もう食べ終わっていた。ローテーブルに置かれた器の中が空だ。


 ネロ、と呼んでスプーンを差し出すと口を開けてくれた。時々ネロに餌付けをしながら食べていたら結構多かったゼリーもあっという間になくなってしまった。ふー、美味しかった。ご馳走様。


「こうやって一緒にデザートを食べられると、より美味しく感じるね。」


「そうだな。」


「ネロも好き嫌いせずに食べよう。」


「琥珀も好き嫌いせずに魚の香草蒸しを食べたらな。」


「う。」


 無表情に冗談を返してくるネロを睨んでしまった。気にする様子もなくネロが食べ終わった器を片付けてくれる。ふーっと息を吐き出して、背もたれに寄りかかってしまった。


 視線を武器の保管庫に向けると、慰めるように紅い点滅が見える。俺の視界を塞ぐようにネロが立ちはだかって俺を見下ろしてきた。


「あの子達を出してあげる気になった?」


「駄目だ。」


 ネロを見上げてにっこり笑顔で聞いてみる。直ぐに拒否されてしまって悲しい。


「そっか。あ、そういえば、学び舎を休むって連絡もいれてなかった。大丈夫かな?」


「問題無い。琥珀は子供ではないし、必須で行く所でもない。行きたい時に行けばいいし、行きたくなければ行かなくてもいい。アイラも理解している、筈。」


「そっか。良かった。」


 何気に外に出て知らない環境で、凄い年下の子供達に混じってだけど、学び舎でゆっくりと読書する時間は楽しいんだよね。少しだけ騒がしい環境で読書って、集中度が増す感じがするからね。それに、子供達とも、少しだけ交流ができてきた感じがしたからな。長期休みはしたくなかった。

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