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49 誰に呪われたの

夢を見た。懐かしい日本の俺の実家の中にいた。家には誰もいない。父も母も姉も、雪丸も。

家の中を歩き回って探す。一階も二階も。どこにも誰もいない。俺だけしか存在していない。

急に怖くなって外に飛び出そうと玄関に走る。玄関脇の和室から人の気配がした。ほっとして和室の襖を開けてみる。


中には俺の家族はいなかった。いたのは静かに正座をして此方を見つめている、顔は違うけど雰囲気が一緒の二人の少女。

紅い短めの振り袖に赤い袴のふわふわした髪の女の子と、紅い振り袖の着物を着た凛とした美しい直毛の髪の女の子。

同じ色合いの銀色の髪の毛に深紅の瞳の、ぞっとするほど綺麗な人形のような女の子達。二人は真っ直ぐに俺を見ている。何の感情もない。もしかすると、本当に人形なのかもしれない。


一人で家にいた怖さはなくなった。二人に対しても怖さや恐れの感情もない。本当に人形を、モノを見ている気持ちになる。

声を掛けようとするけど声が出ない。動いて和室に入ろうとするけど足が動かない。ただ、二人と視線を交わらせる。目の前にいるのは二人なのに一人のような不思議な感覚。




「琥珀?」


 呼ぶ声で眼を開けた。視界に入るのは懐かしい実家ではなく、木の柱と梁が組まれて布で覆われた天井だ。目を少し動かすと、心配そうな顔のネロが見える。おはよう、と声を出そうとしたけど、何故か声が出ない。体も動かない。


 さっきまでなんか夢を見てたような気がする。懐かしい夢だったなような気がするんだよ。思い出せないけど、少し懐かしくて幸せな気分になった。夢だけど、胸の奥が温かくなる感じだけが思い出せる。


「琥珀?大丈夫か?」


 頷こうとしたけど体が動かない。無理遣り動かそうと必死になる俺の額にネロの手が当てられた。俺より体温が高いらしいネロの手は、いつもは温かく感じるのに今日はひんやりしていて気持ちがいい。目を閉じてネロの手の冷たさを楽しむ。


「熱があるのか。少し待っていろ。」


 冷たい手が離れる事が不満で、目を開けてネロを睨んでしまう。凄く真剣なネロの瞳が見つめ返してきて少し驚いてしまった。顔もなんか怒っているような、初めて見る表情だ。


 ネロの表情が少し怖くて怯んでしまうと、表情を和らげたネロが額に手を置いてくれた。そのままでいてくれるネロの存在に安心して、またウトウトとしてくる。


 そのまま寝入ってしまったらしい俺は息苦しさで覚醒してしまった。何故かブランケットで体をぐるぐる巻きにされて、更に重く感じる程にブランケットが沢山被せられていた。なんでこんな状況になってるんだ、暑くて重いわ。


 なんとかブランケットの中から抜け出して、フラフラしながらリビングに移動してみる。書類に目を通していたネロが顔を上げて俺に目を向けてくれた。


 無表情の中にも少しほっとした感情が見える気がする。ネロが広げていた書類を片付けていく。お茶を用意してくれるネロを目で追い掛けながら椅子に腰を下ろした。


 ぼんやりしたままの俺の前にお茶を置いてくれたネロが、その横に薬らしき紙の包みも置いてくれた。足早に寝室に移動したネロは直ぐ戻ってきて、ブランケットを俺に巻き付けてくれる。更に肩からもう一枚を掛けてくれた。ネロに巻かれるままにぼーっとしていたけど、途中ではっとなった。


「こんなぐるぐる巻きじゃお茶も飲めないし。暑い。」


「琥珀は熱がある。暖かくしておけ、と族長からの指示だ。我慢しろ。」


「ブランケット一枚で大丈夫だから。ありがと。」


 文句を言ってしまうと、ネロは心配そうな口調で取り合ってくれない。強硬姿勢のネロに諦めて、せめてブランケットは1枚だけにして貰った。


 ぐるぐるに巻かれたブランケットの隙間から、何とか手を出してお茶を飲ませて貰う。薬を口に含んだけど、めっちゃ苦くて顔を顰めてしまった。慌ててお茶で流し込んで、安堵の溜息を吐き出してしまう。


「アルさんが、って言ってた?」


「族長に見て貰った。薬を飲んで安静にしていれば大丈夫、との事。すまない。」


 薬を飲んで少し落ち着いた感じがしたら、さっきのネロの言葉の中の単語にひっかかって聞いてしまった。どうやら、アルさんが俺の症状を見てくれたらしい。今度お礼を言いに行かなきゃだ。


「なんで謝るの。ただの風邪でしょ?」


「風邪ではない。呪い、のようなモノだ。」


「え゛。の、呪い?」


 疑問を浮かべて質問口調で話し掛けると、渋い顔で頷いたネロが直後に辛そうな顔をしてしまった。呪いって何、なんでそんな事になったんだ。呪いはもう十分なんだよ。


「誰に呪われたの。」


「の、ようなものであって、厳密には呪いではない、多分。」


「うん、で?」


「琥珀の言っていた『赤い子』達に気に入られた。」


「赤い子?俺そんな子達と知り合いだったっけ。赤い毛の子ってアルさんなら知ってるけど。この村に他に赤い毛の子なんていないよね。」


「昨日の。」


「昨日ってなんだ。誰かと知り合う事なんてあったっけ。」


「武器を見ていた時に言っただろう。」


「あ゛。もしかして『赤い子』達って。武器の事?あの綺麗な薙刀と大太刀?」


 ぼーっとするせいか察しが悪くなっていたらしい。漸く気が付いた俺に、渋い顔でネロが頷いてくれた。まじか、武器に気に入られる事なんてあるんだ。


(御座います。極稀に数百年の時が経過した『物』には作り手の技術や、持ち主の想い、周りの作用や環境、様々な要因によって、意識のようなものが生じる場合が御座います。厳密には生物とは違う存在となりますが、生物に似た疑似的な魂を形成した『物』は、意思を持ちそれ自身で行動を選択したり、想いを伝える事があるようです。又、性能が既存の状態に比べて段違いに上昇し、『物』の性能に付随する特殊効果が追加される事もあるようです。)


 まじか。それって、俺がイメージする付喪神っぽいんですけど。あの薙刀も大太刀も綺麗で惹き付けられる感じがあったのは事実だ。魂があるって言われたら、何となく納得してしまう感じがしないでもないね。


「それって、俺はどうなるの?呪い殺されるって事なのかな。」


「殺される事はない、多分。族長はの判断では、あの武器は琥珀を守る、と。解放してやれ、と。」


「解放ってどういう事?」


「〈封印〉の入れ物から出せ、と。」


「ほぅ。」


 ぐーっとお腹が鳴った。真面目な話をしてるのに節操がないな、俺の腹の虫。お腹の音を聞いたネロは、引き締めていた表情を和らげて立ち上がった。話は食事の後、と小さく呟いたネロは外に出て行ってしまった。


 ぐるぐる巻きのブランケットの中に腕を戻して、顔をテーブルに付けてみる。顔がひんやりして気持ちいい。自分の体温がブランケットで増幅された為か、体がぽかぽかして眠くなってきた。


 いい匂いがして、目を開けるとソファに横になっていた。顔を動かすと、ユリアさんの後姿が見える。配膳が終わったらしいユリアさんが振り返った。俺と目が合って、ユリアさんがにっこりと笑い掛けてくれる。


 俺も笑顔で手を振ろうと思ったけど、ブランケットが邪魔で手が出せなかった。悪戦苦闘をする俺を置いて、ユリアさんはネロに終わったらよろしくです、と手早く出て行ってしまった。


 さっきより絡まってしまったブランケットのせいで、手が出せないどころか起き上がれない。芋虫状態の俺の傍にネロが近付いてきた。ひょいっと俺を抱き上げたネロがソファに座って、俺を自分の膝の上に置いた。


 絡まったブランケットをネロがゆっくり丁寧に剥いてくれて、やっと自由の身になれた。ありがと、と膝の上で振り返ってみる。ネロは柔らかな表情で頷いてくれた。


 ネロの膝の上から下りた瞬間に、フラッと体が揺れてしまった。スッと腕を伸ばして支えてくれた大きな手は、服越しなのに冷たくてひんやりと感じる。


「ネロは今日、体温低くない?手が冷たい。外は寒かったの?」


「琥珀の体温が高いだけ。食べるぞ。」


「なんか、めっちゃお腹が空いてる。昨日は夜にケーキ食べたのにね。」


「もう夜だからな。」


「えっ?夜なの?」


 何気なく言った言葉に対して返ってきたネロの返事を聞いて驚いてしまった。冗談でも言っているのかと思ってしまう。疑問が口から飛び出ると、ネロが真顔で頷いてきた。ネロの表情で冗談ではない事は分かった。


「俺、朝ご飯も昼ご飯も食べてないよ?」


「そうだな。」


「ネロは食べた?」


「食べてない。」


「なんで食べないの。」


 淡々と答えてくるネロに疑問が尽きない。ネロって見てた感じ、一切の物事に動じる事もなく、全ての物事への興味の欠片すらなさそうには見えていた。でも、食事すらも興味がない人だったのか。


「腹が減ってなかった。」


「いつもはあんなに沢山食べるのに?」


「食べる時は食べる。食べなくても問題無い。」


「どんな体してるの。」


 ふらふらする体を支えて貰いながら移動して、椅子に腰を下ろした。座った後も滑り落ちそうになる俺の傍で、離れずに観察していたらしいネロが俺を抱き上げた。


 俺を持ち上げたネロは椅子に座った自分の膝の上に俺をそっと座らせてくれた。横向きにネロの膝の上に置かれて、抱き込むように回されたネロの腕が俺の背中を支えてくれる。


「ちょ、流石にこれは恥ずかしいから。俺は自分で座れる。」


「食べる間だけだ。我慢しろ。」


「う。」


 今日のご飯はスープだけみたいだ。細かく刻まれた野菜入ってる、見るからに優しくて食べ易そうな半透明なスープだ。テーブルの上に置かれているのは俺の分だけなんですけど。ぽつんと置かれているスープの器とスプーンを眺めてしまう。


 食事を始めない俺に焦れたのか、ネロが器を持ち上げた。スープの器を手渡されて、しょうがないからネロの膝の上で食べる事になった。非常に食べにくい。そもそも俺を膝の上に置いた状態は重くないのかな。


「ネロの分は?」


「腹が減ってない。」


「一人で食べると寂しいから、一緒に食べようよ。はい、あーん。」


 目の前の少し大き目の器から、木のスプーンでスープを掬ってネロの口に運んでみた。俺だけ恥ずかしい思いをするのはごめんだ。ネロも巻き込んでやる。


 意気込んで、スープを口元に運ぶ俺を見ていたネロは諦めたのか、小さく溜息を吐いて口を開けてくれた。ネロの口の中でちらっと覗く舌と綺麗に並んだ歯の中に尖がった犬歯が見える。


 ネロの口の中にスプーンを入れて傾ける。音もなく咀嚼するネロの口元を見ながら、美味しい?と聞いてみた。頷いてくれたネロに満足して自分もスープを味わってみる。見た目通りの塩味であっさりして野菜の風味が美味しい、でも少しだけしょっぱく感じるかな。


 自分が食べる合間に途中何回かネロにも食べさせたけど、思いの外、器の中身は多かった。もう食べられない、と手が止まってしまう。もういいのか?と耳元でネロの声が聞こえた。


 なんか、さっきよりぼーっとなってきていて、頷いたのが伝わったかどうか分からない。ネロのひんやりした体温が気持ち良くて、凭れ掛かったままでまたウトウトとしてくる。

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