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47 必要なら用意する

 目を開けると天井の隙間から微かに見える空はもう夕暮れになっていた。夕方のお昼寝は気持ちいいけど、寝起きが最悪なんだよね。少し体が痛くなってしまった。立ち上がってん~っと伸びをした後で、体を伸ばしてストレッチをしてみる。


 俺が起きたのに気付いたネロが書類を片付け始めるのを見て、食事の時間か、と判断する。食事に向かう為にマントを羽織ったトコロで、一緒に来るか?とネロが問い掛けてきた。


 質問の意図が分からなくて首を傾げてしまう。一緒にってどういう事だろ。今日は家で食べるつもりだったのかな。ん~、そう言えばそういう話してた気もするね。


「食事の注文に行ってくるの?」


 確認で聞いてみると、ネロが頷いてくれた。じゃあ待ってる、と返してマントを外す。家を出ていくネロを見送って、寝ている間に落ちてしまっていた本を拾い上げる。待ってる間にちょっとだけ読もうかなっとペラペラとページを捲ってみた。


 地理の本はまだ読破してないけど、こう、文字だけで説明されてもね。入った知識が段々と頭から抜けていく感じがあるんだよな。少しでも興味があるトコロは覚えてられるんだけどね。明日からは違う本を読もうかな。また、違う地域の情報が知りたかったら戻ってこればいいし。


 そう思いながらも、寝室に他の本を取りに行くのが面倒臭くて、ぱらぱらと流し読みをしてしまった。少しして、流れ込んできた風の動きを受けて、顔を上げるとネロが帰ってきていた。おかえり、と声を掛けてからも本に目を通し続けてしまう。


 この本は中断しようと思ってたんだよ。でもね、流し読みをしてると、つい土地の説明の範囲外で雑学的な注釈に目が吸い寄せられてしまう。雑学っぽい方が興味をそそられる内容なんだもん。


 どこどこの土地の何々という魚はとても美味であるとか。なんとか山の山頂には、そこの場所でしか確認できていない一年に一度しか咲かない貴重な高山植物が分布しているとか。中の大陸と北の大陸の間にある謎の海域では、幽霊船が出現する為に謎の事故が頻発しているとか。


 イシュケにも項目があった。ルブルムという非常に珍しい果実があり、1つ食すと10年寿命が延びるという噂らしい。一度味わったけど、あの味は強烈だった。思い返しても口の中が甘くなってくる。


 食事お持ちしました~、と元気な声が聞こえて、俺の読書は中断された。ネロが入り口を開けると、ぴょんっとユリアさんが飛び込んできた。俺と目が合って、琥珀さん、こんばんわ。にっこり笑顔のユリアさんが挨拶をしてくれる。挨拶を返すと更に可愛い笑顔を返してくれた。元気な可愛い笑顔に心が癒される。


 大きなバスケットを床に置いて、夕食をテーブルの上に手際良く並べてくれるユリアさんの後姿をぼんやりと眺める。ユリアさん越しにネロが椅子に座るのが見えた。なんか、表情が無表情というより、ちょっとだけ機嫌が悪そうに眉が少しだけ寄ってる感じがしないでもない。


 食事を並べ終わったユリアさんは、終わったら持ってきて下さいね、とネロに伝えている。俺の方に向き直って、にっこり笑顔で手を振ってくれるユリアさんはマジ可愛い。俺も笑顔で手を振って、帰っていくユリアさんを見送る。ネロがお茶を用意してくれる間にテーブルに移動して、席に着いた。


 今日の食事は、スパイスの香りが美味しそうな、お肉と野菜を串に刺して焼いた串焼き、いつもより大きめにカットしたざくっと野菜のグリーンサラダと黄色いポタージュスープ、トルティーヤのような円形の薄いパン、それと俺用の黄色いフルーツのタルトが一人前。


 串焼きの肉は白身でスパイスがふんだんに塗されている物、赤身で塩と少しだけスパイス、ピンク色で塩だけと三種類もあってどれも美味しそうだ。いただきます、と手を合わせる。ネロも静かに祈りを捧げて、食事の始まりだ。


 始めはやっぱりスープからにしようかな。かぼちゃのポタージュに似たような色に見えたけど、甘味は余りない。薄目の塩味とゴボウのような香りと風味に、ベーコンの風味もある。不思議な味だけど、とても美味しい。ポタージュスープを味わっている間に、ネロが俺の食べる分を用意してくれた。


 トルティーヤの上にサラダの野菜を置いて、串焼きの肉と野菜を置き、串焼きに添えられていたソースを乗せてくるっと包んでいる。ネロの綺麗な指先が、今包んだ美味しそうな料理をお皿に置いて渡してくれた。受け取って齧り付くと肉汁と香ばしく焼き上げた野菜、生の瑞々しい野菜の味が合わさってヤバい。更には小麦のふんわりとした香りがしてめっちゃ美味い。


 俺が味わってる間にもネロは自分の分を作っては食べ、作っては食べ、俺が食べ終わったのを確認して俺の分を作って渡してくれる。流れるような動作で、俺が満腹でもういい、というまでエンドレスで作り続けるこの感じは、わんこそばみたいだね。


 満腹の幸福感を噛みしめながら、椅子の背もたれに寄りかかってお茶を飲む。お茶をまったり飲みながらネロの食事を見守る。俺の前にスッと差し出されたデザートのタルトだったけど、今は別腹にも入らなそうだ。


「デザートは後で食べてもいいかな。今はお腹いっぱいで入らなそう。」


 お腹に手を置いて聞いてみると、頷いたネロが食事を止めてタルトのお皿に手をかざし、詠唱を始めた。ネロの低い声と共に、タルトのお皿の周りに透明な風の膜が張られていく。時々ゆらゆらと揺れる透明な膜に指を近付けてみた。指が風の抵抗で押し返される。


「前にも見た事あったけど、これも魔法なの?」


「〈シール〉という魔法。」


 〈シール〉か、スツィさん教えて。


(魔法〈シール〉:風属性の魔法。サポート魔法の一種。攻撃力なし。風を操り、対象の周囲を密封して気体、液体などの流通を妨げ、振動なども緩和する。時間と共に効果が薄れていく。重ね掛けをする事で時間の延長が可能。即時の解除方法は、〈シール〉保持者が対象に触れて所定の動作を行う、もしくは文言を口にする。応用として、ランクを上げる事により、一部を解除、再密封などをできる事もある。尚、ランクの高い〈シール〉を解除する場合は、同ランク以上の保持者を必要とする。消費MPは15。単純なMP消費型魔法のため魔法使用によるマイナス補正はなし。ランクアップで密封できる範囲が広がり効果時間が伸びる。又、中の気圧の調整、風の層の厚みの調整などもできるようになる。ランクアップにはデスボーナスが必要である。尚、デスボーナスでのランクアップはランダムであるため再度獲得できるかは死亡後にしか判明しない。)


 へー、凄いな。これも生活必需品系の魔法か。


(気密性を上げる事で食物の腐敗を抑止したり、不純物の混入を防ぐようです。限定的な使い方としては、貴重な書物や絵画の保存、搬入などにも用いられる事もあるようです。)


「ネロって武闘派だと思ったら、魔法も沢山使えるよね。スゴイ。」


「昔は一人で旅する事もあった。必要なものは会得した。」


「魔法ってどうやって覚えるの?」


「簡単な魔法はスクロールで売っている。」


「難しいのは?」


「師のもとで習得する事になる。」


「ほうほう。」


 スツィ、俺もスクロールを買って魔法を覚えれば、DBデスボーナスじゃなくても覚えられるって事になるよね。だったら、簡単な魔法系は敢えてDBデスボーナスで覚えなくてもいいって事になるかな。


(琥珀様の場合、知力が、・・・ちょっと特殊になりますので。スクロールから習得する事が限りなく不可能に近いと思われます。)


 今、何か言い淀んだよね。ええ、知力1ですが。それがどう関係あるの。


(知力が1ですと、理解はできると思いますが、会得には至らないものと思われます。)


 魔法って覚えるのに知力が必要になってくるの?


(はい。厳密に言いますと、魔法一つ一つには開示はされていませんが、覚えるにあたっての必要知力というモノが要求されます。これは、世界の理の一つであり、知識としては世に知られてはいない事柄になります。僅かに、理論としては発動条件を満たしている筈なのに発現に至らない事象から、推論として理解をしている人もいるようですが。例外としましては、無属性の魔法の一部と心属性の魔法には必要知力は御座いません。)


 その説明だと〈照明〉は知力1でも使える魔法って事よね。で、MPが無理だから〈浄化〉はまだ使えない。でも、MPが足りても使えない可能性があるって事なのかな。


(使用不可能な魔法に関しては、会得する事自体ができません。従って既に会得している〈浄化〉に関しては、MPの上限が解放され次第、使用する事が可能です。)


 もし、DBデスボーナスで使えない魔法を獲得するとどうなるの?説明によると、MPの不足だけなら獲得できるみたいだけど。


(会得できないものを獲得した場合、獲得自体が不可という事でデスポイントとしてお貯めするか、次回ご使用になるかの選択になります。)


 成る程、今聞けて良かったかも。今は、現状の状態では覚えられない魔法もあるって事だよね。非常に罠だった。知らなかったら、超良さそうな魔法の時に糠喜びになっちゃうもんね。


 でもね、『今は』だから。その内、知力が100を超える事もあるかもしれないし、1000を超える事だってないとは言えないよね。何れはどんな魔法だって覚えられる可能性も捨てきれないんだからね、多分。


「琥珀は何か魔法を会得したいのか?必要なら用意する。」


「いや、大丈夫。俺は魔法を多分使えないから。えっと、気にしないで下さい。」


 黙り込んでスツィの説明を聞いていた俺を見ていたらしいネロは、俺が魔法を覚えたいと思ったらしい。スツィの説明を聞いて、魔法のなんたるかを理解した俺は、早口でネロに遠慮の言葉を伝えてみた。


 焦った俺の態度で、少し考え込んだ感じのネロが最終的には頷いてくれた。良かった。これでスクロールを用意して貰っても覚える事ができなかったら、おバカさんに見えてしまう筈。それだけは避けたい。


 大丈夫、と再度伝えてにっこり笑顔で誤魔化しておく。視線を合わせていたネロの瞳の瞳孔が少しだけブワッと広がった。金色の瞳だから、黒い瞳孔の動きが良く見える。なんか驚くような事でもあったのかな?と小首を傾げてしまった。何でもない、と首を振って答えたネロが夕食の片付けを始めてくれる。


「あ、ケーキのお皿どうしよ。急いで食べた方が良かったかな。」


「明日の朝で問題無い。」


「そっか、ありがと。気を付けて行ってきてね。」


 バスケットに食器を詰め終えたネロが、食器を返しに行く為に靴を履く姿を見て声を掛けてしまった。ネロの返答に頷いてホッとして、出ていくネロを見送る。さて、他の本に入れ替えようかなっと、ソファに放置していた本に向かった。


 寝室に積んである他の本と交換しようと思うけど、どれがいいかな。アイラさんから借りている本の種類は、今まで読んでいた地理の本ともう少し簡易的な地理の本、前に少しだけ読んだ歴史の本、偉人などを紹介する伝記っぽいの、各地の伝承や伝説、説話などを纏めた本、魔法に関する本、各地の生物について書かれている本、あとは何故か料理の本があった。


 何冊かぱらぱらと捲ってみたけど、どれも文字だけで挿絵の類は全くない。あ、最後の料理の本はレシピ本っぽくて挿絵は沢山あったし美味しそうだった。料理の挿絵は手書きのほんわかした感じで可愛らしい。


 どれにするかな~っと次に読む本で悩んでいると、後ろから覗き込まれた。うお、っと飛び退いたら帰ってきたネロと目が合った。心臓バクバクの俺に対して、ネロは静かに冷静で淡々としながら小首を傾げている。ホント、ネロは気配がないし音もない。イキナリの出現は心臓に悪い。


「地理だけだと頭に入ってかないから他の本にしようかな、と思って。何かおススメあるかな。この中で。」


「これはどうだ?」


 ネロが棚から一冊の本を取り出した。受け取って中をペラペラと捲ると、挿絵が豊富に書かれていてしかも全てが色付きで精密に描かれている、武器の本だった。


「これも面白そうだけど、この中からって言ったでしょ。」


「これはどうだ?」


 苦笑交じりに武器の本をネロに返すと、本を受け取ったネロが魔法の本を指差した。

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