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45 えっ、そんなきっぱりと?

 食事場に向かう道すがら、ぽつりぽつりとソラスの事について話してくれるネロに、うんうんと相槌を打ちながらゆっくり歩く。信頼しているようなソラスの瞳と同じように、ネロもソラスの事を信頼しているのが伝わってくる。


 食事場はいつもより少し遅めの時間だからか、食事をしている人の数は少なかった。席に座ると俺の前にお茶を置いたネロが直ぐに注文に行ってくれる。ネロの淹れてくれたお茶を飲みながら、まったりと待たせて貰う。


「一緒にいいかしら?」


 背後から掛かった声に振り返ってみる。ふわっと綺麗なクリーム色の髪が揺れて、優しい笑顔が見えた。さっき別れたばかりのアイラさんの登場に少しだけ驚いてしまう。どうぞどうぞ、と頷くと、アイラさんがにっこり笑顔で斜め向かいに腰を下ろした。


 アイラさんの目的はどう考えてもネロだよね。ってか、しっかり話をしてきたんじゃなかったのか?アイラさんが追いかけてくるくらいだし、ネロの事だから全く話をしなかったっていう可能性しかないよね。


 調理場に行っていたネロが戻ってきた。俺と目を合わせた後で、アイラさんに視線を移したネロが少しだけ不快そうに眉を寄せたのが見えた。ネロはそこね、とアイラさんの横を指差してみたのに、ピクリと片眉を上げたネロは真顔に戻って俺の方に歩いてくる。


 俺の隣に腰を下ろしたネロに、アイラさんの隣に座りなよ、と小声で囁いてみた。俺の言葉を黙殺したネロは、アイラさんを一瞥して、声を掛ける事もなく席を立ってしまう。


 何故立ち上がったのかが分からず、ネロの行動を目で追いかけてしまった。調理場に何事かを伝えているネロの姿が見える。視線をアイラさんに移すと、アイラさんは困ったような笑顔を浮かべていた。


「えっと、ネロと二人でご飯を食べます、よね。俺は席を外した方がいいですよね。」


 ネロは、多分だけど、出前を頼んでくれた筈。俺は二人の会話の邪魔っぽいからな。状況を理解して立ち上がった俺を待っていたのか、ネロがスタスタと歩いていってしまう。あれ、ネロまで帰るのか?俺だけ家に帰って出前で食事、ネロはアイラさんと食事をするのかと思ってた。


「アイラさん、ちょっと待ってて下さいね。ネロを呼んできますから。」


 取り敢えず、ネロの考えてる事が分からないけど、アイラさんにはネロが戻るのを約束してみた。俺の言葉を受けて頷いてくれたアイラさんを置いて、ネロを追いかける。俺の早足に気が付いたのか、ネロは立ち止まって俺を待ってくれた。俺が追いついたトコロで、ネロはまた歩き始めてしまう。


「ネロ。アイラさんがあそこで待ってるから。俺は一人で帰れるから、アイラさんのとこに行っていいよ。」


 俺の斜め前を、俺が無理にならない速度で器用に歩いていくネロを追いかけながら、アイラさんの事を伝える。ネロは返事を返してくれないし、振り返る事もない。


「ネロ、ちょっと待って。アイラさんを待たせてるから、行ってきてね。一緒に食事をしてきなよ。」


 全く反応をしてくれないネロに追いつこうと、小走りになって話し掛けてみた。ネロは立ち止まって待ってくれる。俺が追いつくと、無言のネロはゆっくりと歩き出してしまった。


「アイラと食事を共にするつもりはない。」


 隣を歩きながらじっとネロを見上げて返事を待ってみる。ちらっと視線を俺に向けたネロがぼそっと呟く声が聞こえた。相変わらずの無表情で何を考えているのかが読み取れない。でも、不快に感じてるのは分かった。


「もしかして、アイラさんと二人になるのはヤだった?元カノって言ってたし、積もる話もあるのかなって。気を利かせたつもりだったんだけど、駄目だった?」


「前にも言った筈。アイラと交流はない。話す事もない。」


「俺が学び舎に行ってみたいって言ったから、久しぶりに会えたんでしょ。アイラさんはネロと話したそうだったし、少しくらい話し相手になってあげてもいいのかなって思った。ネロもずっと俺の子守を務めるのも大変かなって。」


「琥珀に対して子守と思った事はない。大変でもない。」


「でも、今日は、さっきアイラさんに待っててって言っちゃった。ごめん。」


「分かった。」


 会話は終わってしまった。ネロは無言で俺を家まで送り届けてくれた。俺が家に入ったのを確認して、家には入らずネロはアイラさんの所に向かってくれるっぽい。ネロが立ち去った直ぐ後で、食事をお持ちしました~、と元気な声が聞こえてきた。


 入り口を開けると、アイラさんを小さくして、元気にして、可愛くしたようなユリアさんが大きなバスケットを持って立っていた。こんにちは、と笑顔で挨拶してくれるユリアさんに、入って貰ってテーブルに料理をセッティングして貰う。


 今日の昼食はパスタらしい。大皿に大きなミートボールがたくさん入ったトマトソースのスパゲティと、鮭にもみえる薄ピンク色の魚のホワイトソースの少し太めの平麺の二種類。それにたっぷりのグリーンサラダと、一人分のデザートの焼きプリン。


 並べ終わったユリアさんは少し困ったような顔をして俺に向き合った。確かにね、大皿に乗ってるパスタの量は俺一人じゃ到底食べきれない量だよね。困って当然だし、どうしていいか分かんないよね。


「えっとぉ、ネロさんに食事が終わったら返しにくるように伝えて下さい。」


「はい。あ、ユリアさんはアイラさんの妹さんなんですよね?」


「はい。」


 困った顔のままでネロへの伝言を伝えてくるユリアさんに、笑顔で了承しておく。ついでに、一人の部屋の寂しさを紛らわせるようと、少しだけ共通の話題を口に出してみた。にっこり笑顔のユリアさんが頷いてくれる。


「ネロとアイラさんて昔、」


「ネロさんのおかげで、姉がまたこの村に帰ってきてくれて嬉しく思ってます。」


 俺の言葉の最後までを聞かずに、ユリアさんが先を繋いで話してくれた。学び舎の隣の席の子の話は正しかったって事だよね。アイラさんはネロを追いかけてこの村に戻ってきたんだ。そして、あんなに意味ありげな態度なんだから、やっぱり話くらいしてあげた方がいい気がするんだよね。完全無視はいけないと思う。


「今も仲いいのかな?」


「えっと、姉はお慕いしてると思います。まぁ、見てれば分かりますよね。」


 テレっと頬を染めて笑顔になったユリアさんは凄く可愛い。アイラさんの話をしていた筈なのに、まるでユリアさんが恋をしている女の子って感じで思わず見入ってしまった。


 ユリアさんに見惚れていたら、ユリアさんの視線が俺の背後に向けられた。ユリアさんの視線を追って振り返ってみる。ネロが靴を脱いでいる姿が目に映った。ネロが帰ってきたのを機に、ユリアさんはネロに終わったら持ってきて下さいね、と伝えて、俺に向かって可愛く手を振って出て行ってしまった。


「アイラさん、と話はできた?ごめん、気を使い過ぎたかも。」


「問題無い。迷惑だと伝えてきた。」


「えっ、そんなきっぱりと?」


「食べよう。」


 淡々と言い切ったネロに驚いた俺の言葉に反応する事もなく、ネロは椅子に座ってしまう。祈りを始めてしまったネロに合わせて、俺も渋々と席に着く。祈りの終わったネロは俺を見ている。いただきます、と手を合わせると、大皿に盛られたパスタを少量、小皿に取り分けて手渡してくれた。


 最初に渡されたのはミートボールのトマトソースのスパゲティだ。味付けは、少し酸味がありながらもミートボールの肉の旨みなのかコクがあって美味い。口の端にソースがついてしまうが、それもまたよし。


 もぐもぐと口を動かしながらネロに視線を向けてみる。トマトソースなのにも関わらず、ネロの口の端にはソースの欠片すらついていない。どうやって食べたらそんな綺麗に食べられるんだよ。器用に食べるな~、感心してしまった。


 俺に見られていると気付いたネロは、もう一皿の方が欲しいと思ったのか取り分けてくれた。お礼の言葉を伝えながら受け取って、まずは具の魚を食べてみる。ホワイトソースだと思っていたら、チーズソースだった。鮭みたいだけど淡泊な味の魚に濃厚なチーズソースが絡みついて、いいお味である。


 パスタを食べている合間に、ネロがサラダも取り分けてくれた。取り分けてくれたパスタ二種を食べ切ったところで、また、ネロが少量のパスタを小皿に盛り付けて渡してくれた。


 自分で取り分けられるから、食べててと言おうと思ったけど、ネロの食事のペースは落ちていない。自分のペースの中に自然に組み込んで取り分けてくれてるっぽい。実にスマートである。


 ネロの取り分けてくれた味の違う二種類のパスタとサラダは食べ応えがあった。最初は美味しくてパスタに集中してたけど、後半はお腹が一杯になってきてネロの食事する姿を眺めながらゆっくり食べ進める。もういいのか、と聞いてくれたネロに頷く。


 食事を一旦中断したネロが茶の用意をしてくれた。ありがとう、と受け取ってちびちび飲んでいる間に、残されていた大量のパスタはどんどんネロの中に消えていった。惚れ惚れする程の食べっぷりである。


 テーブルの上に残されている焼きプリンの存在感が凄い。焼きプリンに手を伸ばしてみると、ネロが俺の前に焼きプリンのお皿を置いてくれた。スプーンをそっと焼きプリンの中に差し込んでみる。表面の焼き目の部分はカリっとしていて、中は程よくとろっとしている。一掬いを口に入れると、卵と蜂蜜の優しい甘さが口いっぱいに広がった。甘さ控えめで美味しい。


「ちょっとだけ、味見する?」


 ネロをちらっと見ると、いらない、と首を横に振られてしまった。そっか、と少しずつ大事にちびちびと楽しませて貰う事にする。食事を終えたネロはお茶を飲みながらのんびりと見守ってくれる。


「ネロはアイラさんと二人にはなりたくないって事だよね?」


「アイラに限らず、だな。」


「成る程。了解。気を回し過ぎるのは止める。ごめん。」


「問題無い。食べ終わったのなら行くか。」


 焼きプリンを食べ終わって、お茶を飲みながらまったりしている俺をそのままにして、ネロがてきぱきと片付けを始めた。いつも通りに魔法で食器を綺麗にしたネロは、適当に食器を重ねてバスケットに詰め込んでいく。食器を片付け終えたネロが視線を俺に向けた。


 ネロの視線を受けて出掛ける準備を整える。先に外に出るように促してくるネロに頷いて、外に出て待つ事にした。直ぐに出てきたネロが先導した先は族長のテントだった。族長の所で待っていてくれと、言い残したネロは、俺を族長のテントの前に残して立ち去ってしまった。


 失礼します、と声を掛けて中に入らせて貰う。テントの内部では、レオさんが入り口で待機していた。アルさんのトコに行っていいですか?と声を掛けてみると、レオさんが頷いてくれた。


 レオさんにペコリとお辞儀をして、アルさんの部屋に向かわせて貰う事にする。失礼します、とアルさんの居室の前でも声を掛けて返事を待ってみた。どうぞ、の声で中に入らせて貰う。部屋の中で、アルさんは青い如雨露を持って待っていてくれた。


「こんにちは、琥珀さん。神樹様に時々会いに行ってくれるって聞いたから、この水差しを預かって貰ってもいいかしら。もう、ずっと仕舞われっぱなしだったから、琥珀さんが持っていてくれたら喜ぶと思うのよ。神樹様もこの水差しも。」


 挨拶もそこそこにアルさんが話を切り出してきた。アルさんが差し出している如雨露を受け取ってみたものの、少し困ってしまう。


「こんにちは、アルさん。でも、これは凄く貴重な物って聞いたから壊しちゃうかもだし、預かるのはちょっと怖いかもです。神樹に会いに行く度に借りにくるのは迷惑でしょうか?」


「琥珀さんが来てくれるのは全然迷惑じゃないわ。嬉しいくらいよ。」


 にっこり笑顔で答えてくれたアルさんに、じゃあ、と言葉を繋ごうとしたけど遮られてしまった。


「でも、それとは別に預かっていて欲しいの。琥珀さんに使って貰ったから、この子は少し元気になった気がするもの。」


「えっと、壊しちゃっても文句を言わないで下さいね。」


「そんな簡単に壊れないわよ。私なんて何回も落としたり、放り投げたりしたのよ。それでも壊れないくらい結構頑丈な子なの。」


 にこやかに話すアルさんの言ってる内容は中々に乱暴だった。お転婆だったのかもしれない。確かに、子供時代のアルさんは、パッと見では元気そうな子だった。俊敏だったし、可愛らしかった。


「もし壊れたら、ネロの責任にすればいいのよ。ね。」


 そう言って俺の後ろにアルさんが視線を投げかけた。振り向くとネロが立っている。無表情の中にも少しうんざりとした雰囲気が読み取れるネロが、小さく溜息を吐き出している。


「話が終わったなら、行くか。」


 静かに呟いたネロはさっさと出て行ってしまった。ネロを追いかけながらアルさんに手を振って部屋を出る。レオさんにもお辞儀をして、外に出ると籠が用意されていた。慎重に潜り込んで、如雨露を膝の上に乗せる。


 俺が収まったのを確認したネロが籠を持ち上げてくれた。森の中を移動する間に如雨露の事を話してみる。預かる事になった、と。そうか、と端的な返事を返してくるネロに、うん、と返事をする。


 もし壊したらネロのせいにしていいって、と付け加えると、それでか、と納得してくれた。納得って事は、責任を負ってもいいって事なのか、この如雨露は絶対壊れない自信があるのか。


 考えている間に神殿前に到着していた。フワッと地面に籠が下ろされて、ネロが差し出してくれる手を掴んで立ち上がる。相変わらずいい天気で、池の水面が風で波打ってきらきらと輝いている。


「ちょっと行ってくるね。」


 頷いてくれたネロを置いて、根っこの橋を渡る。古木に近付いて幹に手を触れてみた。木漏れ日が心地良くて、神樹が歓迎してくれてる気がする。如雨露に水を汲んで木の幹と根っこに掛けて回る。


 薄緑色の光の玉がどこからともなく集まってきて、また俺を取り囲んできた。ふわふわと漂う光の玉達は、少しの間、俺に纏わりついていたけど少しして散っていってくれる。


 最後に古木の幹をぽんぽんと撫でて、さよならを告げる。根っこの橋を渡ってネロの所に向かう途中で、森の中から飛び出てきた赤茶色の小さな塊が、ネロの肩の上に飛び乗っていくのが見えた。カイムだ、と駆け寄る俺に向かって、ネロも歩み寄ってきてくれる。


 ネロの肩の上の可愛い仔猿は可愛く首を傾げて俺を見ている。ネロの肩の上からジャンプしたカイムが俺の足元に降り立った。地面に下りたカイムの前でしゃがもうとしたら、カイムは俺の肩の上にふわっと飛び乗ってきてくれた。


「この前は貴重な果実をありがとね。美味しかったし、アルさんも喜んでたよ。」


 言葉は通じないだろうけど、話し掛ける俺をじっと見つめていたカイムがコクリと頷いてくれた。何これ可愛い。言葉も通じてるっぽい。カイムの頭を撫でてみると、俺の頭も小さな手で撫でてくれた。


 カイム、と呼ぶ低い声に反応して、地面に飛び降りたカイムは、一気にネロの肩の上まで跳んでいった。ネロと目を合わせたカイムが少し動きを止める。その後で、一回俺を見たカイムは森の中に帰っていった。


「カイムにお礼を言えた。良かった。」


「カイムも琥珀に会いたかったようだな。」


 カイムが可愛すぎてニコニコになりながらネロに嬉しさを伝えたら、ネロも少しだけ頬を緩めて優しく微笑んでくれた。籠の中に潜り込んで膝の上に如雨露を置くと、ふわりと浮遊感を感じる。


「重くないの?」


「軽い。」


 事もなげに答えたネロが地面を蹴った。籠の外の景色がどんどん後ろに流れていく。視界に入る森の緑が凄く綺麗だ。景色を堪能しているともう村に到着していた。ネロの家の前で下ろされて、籠から出て伸びをする。


 家で少し待っていてくれ、と言葉を残したネロが走り去ってしまった。家の中に入って、テーブルの上に如雨露を置いておく。一応、念の為の〈根性〉を発動した後で、ソファで本を読みながら待つ事にした。


 程なくして帰ってきたネロに如雨露はどこに置こう、と聞いてみる。そこらへんに放っておけって言われてもね、いや、貴重な物ですから。なんとか説得して、武器の保管庫の片隅に置かせて貰える事になった。


 武器を端の方に寄せて場所を作って貰った時に改めて見たけど、収納してある短刀だけで20本くらいある。太刀や薙刀、大剣や槍、苦無や弓、他の武器を合わせると相当な数が保管庫に収納されてるじゃん。

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