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38 問題無い

 夢を見る。実家で欠伸をかみ殺しながらダイニングに入る寝起きの俺を、俯瞰視点で眺めている。平日の朝、父と姉はスーツに着替えて仕事の支度はばっちりだ。母の作る和食の朝御飯、お味噌汁とご飯に焼き魚と卵焼き、海苔とお浸しがちょっと、あとは場違いなヨーグルト、蜂蜜たっぷり乗せ。


 新聞を広げて読んでいた父が顔を上げて、おはよう、と声を掛けてくる。姉もにこっと笑っておはよう、って。台所から母がお茶の乗ったお盆を持って出てくる。おはよう、サッサとご飯を食べて着替えちゃいなさい。遅れるわよ、って。


 一緒に起きてきた雪丸は俺の足元に纏わりつきながらゴロゴロと喉を鳴らして、頭を膝に擦り付けてくる。雪丸を抱っこして椅子に座り、膝の上に乗せる。当たり前だった日常。懐かしい光景。制服に着替えた俺を追い越して玄関から出て行く姉。姉ちゃん待ってと服に手を伸ばす。




 誰かが身じろぎして俺の傍から離れる気配に、思わずその人の服を掴んでしまった。完全に寝惚けていた俺はネロが起き上がった気配で、無意識に彼の服の端っこを捕まえたらしい。そのまま安心してまた眠りに落ちてしまった。


 意識が覚醒して目を開けると、視線の先で金色の瞳が俺を見守っていた。俺が起きた時にはリビングで武器の手入れをしている事が多いネロが隣で寝ている事に、寝起きの頭ながらびっくりしてしまう。


「おはよ、今日は遅くまで寝てるんだね。仕事が遅くまでかかったの?」


「琥珀が服を掴んでいる。離れられないからそのままいた。」


 働かない頭ながらもネロに話し掛けてみた。ネロの言葉を聞いて理解して、ブランケットを捲ってみると、成る程、確かに俺の手はネロの服を掴んでる。ネロがこの場に留まっていたのは、どうやら完全に俺のせいだったらしい。ごめん、寝惚けてた、と慌てて手を離す。


「問題無い。先に起きていてる。もう少し寝ていろ。」


 そう言って起き上がったネロは寝室を出ていった。目は覚めている筈なのに頭はまだはっきりと覚醒していないらしい。寝惚けたままの状態でぼんやりと天井を見上げる。


 夢の内容は余り覚えていないけど、懐かしさだけは覚えている。ネロの服を掴んでいた左手を上に突き出して手のひらを広げてみた。夢の中でも誰かの服を掴もうとした気がしたのに、思い出せない。


 はーっと息を吐き出して勢いよく起き上がる。リビングに出るとネロが武器を広げていた。俺のせいで武器の手入れをする時間がずれ込んでしまったらしい。


 ちらっと俺に視線を向けたけど、直ぐに武器に視線を戻してしまったネロの横を通って流しに直行する。顔を洗って口を漱いでから、ネロの向かいに座って武器の手入れをみさせて貰う事にした。



 ネロの使う武器は短刀と苦無と弓らしい。全てっぽいが付くけどね。特に短刀と苦無はイメージにある日本の武器によく似てる気がする。


 本物を見た事はないけど、ゲームの中とかではよく見た形の小さな鍔のない短い刀と、シンプルな真っ直ぐの手裏剣のような形をしている投擲武器だ。弓は和弓のような形だけど、俺の知ってる和弓よりかなり小型だ。


 短刀は3本ある。柄は黒い糸と銀糸が編み込まれている物が1本と黒い木で出来ている物が2本で鞘は全て皮製に見える。刀身の部分にはそれぞれ違う紋様が刻まれているみたいで、微妙に3本とも模様が違う。3本共、とても綺麗で、新品同様に見える程に、傷や歪みなどはない感じがする。


 弓は黒く艶めく塗料が塗られた木製の物で外側に紋様が細かく彫り込んである。緩く弧を描いた成りの上部と下部は、弧とは反対に少し反るように真っ直ぐに伸びていて、黒灰色の糸が巻き付けられている。成りの真ん中よりやや下の握りの部分には黒い革が巻かれている。弦は半透明で素材は良く判らないけどぴんと張りつめている。


 矢は矢じりの部分が黒い金属で矢羽はこげ茶色の鳥の羽根だ。胴体に当たる矢柄の部分は多分木製で、何か紋様が彫り込んである。苦無は真っ黒な金属でできていて装飾も紋様もないのが半分くらいと、黒銀色の金属に紋様を彫り込んであるのが半分くらい。



 ネロの使う武器は全体的に小ぶりで、紋様で強化している感じっぽい。あと見た目での感じでは、全体的に黒い色で纏めてあるみたいだな。机の上に並べてある武器は、ほぼ新品同様に見える程に綺麗で、紋様が装飾のように見える事も相まって本当に美しい。


 ネロが手入れする様子は凄く丁寧で、大切な物を扱うように慎重に丁重に作業を進めている。興味深くふむふむ、と頷きながら武器を眺め続ける俺の前で、ネロは淡々と武器の手入れを進めていく。


 皮の鞘から抜き出した短刀を布で丁寧に拭いて、反りを確かめるように目の高さで確認をする。油を塗って綺麗に拭きとる。短刀3本を丁寧だけど素早く終わらせて、次は苦無に取り掛かった。


 短刀と同じように1本ずつ拭いて、油を塗って拭き取っていく。紋様の確認も同時にしているのか、ネロが真剣な表情で苦無を確認している。手入れを終わらせた苦無は収納できる布に1本ずつ収めて、纏めてズボンの中に入れてしまった。


 弓も布で汚れを落として、紋様を確認した後で弦の張り具合を確かめている。矢は矢柄の反りを確認して、矢羽の状態を見ているようだ。問題ない事が確認できたのか、弓と矢を纏めて部屋の角に置いてある箪笥、というか武器の保管庫の中に収納して戻ってきた。


 最後に短刀を再度確認しながら皮の鞘に収めて柄が黒糸と銀糸の短刀を腰に、残りの2本はズボンの内側に仕舞っている。そのだぼっとしたズボンの中に、苦無と短刀が入ってるなんて全然気付かなかった。


 初めてじっくりと堪能できた、ネロの武器の手入れの作業は実に楽しかった。ほうっと小さく息を吐いて椅子の背もたれに寄り掛かった俺に視線を向けたネロは不思議そうに片眉を上げている。でも、特に何も言わずに無言のままのネロにニコっとしてみた。


「って、そろそろご飯を食べて学び舎に行かなきゃ。」


 ネロの武器の手入れをじっくり見ていた事で、結構時間が経過していた事に気が付いてしまった。急いで立ち上がって、マントを取りに寝室へ駆け込んだ。


 マントを羽織って居間に戻ると、ネロは俺が放置していたらしい本をソファのから拾ってくれて、外に出て行くところだった。待って待って、と急いで後を追いかける。ネロに追いついて、並んで食事場までゆっくりとした散歩だ。

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