36 何これ、めっちゃ美味い
食事場までの道をゆっくり歩く。ネロの家から食事場までは俺の速度で15分くらいの道のりだ。そう考えると、この村全体では結構な面積なのかもしれない。まだ行ってない場所もあるし、結構広そうだ。
外周の森の内側をぐるっと回るとしたら、どれくらいになるんだろ。ネロの家は族長のテントの入り口のすぐ脇にあるからほぼ村の中心に位置している。食事場の奥には広い広場があって、広場に沿って歩いて行くと20分ほどで学び舎だ。
「ネロは明日の午後は暇?」
「用事は入ってない。」
「じゃぁ、この村で俺がまだ行ってないとこに行ってみたい。」
「分かった。」
あとどれくらいここにいるのか分からないけど、自分が生活する場所の確認くらいはしておきたいよね。少なくとも、学び舎で学ぶ事がある間はお世話になる訳だし。毎回ネロについてきて貰う訳にもいかない。ネロは仕事もあるからね、毎日日曜日の俺とは違うのだよ。少しずつ日が暮れてきた空を見上げてのんびりと進む。
食事場に到着して手頃な席に腰を下ろした。今日のメニューはいつものようにネロにお任せでお願いする。ほぼ何を食べても美味しいし、ネロのチョイスは中々に俺の心を抉ってくる。
要するに、ネロは俺の好みを把握していると感じる程に、用意してくれる料理は殆ど口に合うし美味い。ここの料理が美味しいってのもあるけど、この前の魚料理みたいに受け付けないモノも出てきそうなのに、ほぼほぼ出てこない。
味見してどうしても駄目なのはネロの好物みたいだから、俺の為に用意してる訳ではなさそう。ということは、ネロにお任せしておけば間違いはない。
ネロの用意してくれた温めのお茶と共にテーブルに並ぶお料理の数々。今日は骨付き肉のソテーとポタージュスープ、白パンと、白パンと同じ感触の黒パン、グリーンサラダとデザートのフルーツのタルトだ。いつもより品数は少ないけど、骨付き肉のソテーの量が半端ない。そして珍しくデザートを注文してくれたらしい、俺の分だけだけど。
手を合わせていただきますっと声を出すと、近くの席からパチンという可愛い音と共に・・・まっしゅという声が聞こえてきた。顔を向けると、天使の姿が見える。ふわふわくるくるの金髪から覗くタレ耳、青くてくりくりの瞳、昨日の朝に会った子だ。
隣にはなんかゴツイ雉虎のオジサンが子供の食べる様子を見守っていた。渋い感じのイケメンではあるけど、鋭い視線と険しい顔つきから凄く雰囲気が怖い。あのセクシーな金髪奥さんの旦那さんかな?子供ちゃんは奥さんに似て良かったな。
ぺこり、と頭を下げると一瞬ネロに視線を向けた雉虎さんは俺に向き直って、にこりと笑顔を返してくれた。笑顔になったら怖い雰囲気がなくなって優しそうになった。
セクシー奥さんはこのギャップにやられたんだろな。心の中で判断を下して食事に向き合った。ネロは既に祈りを終えたらしく食べ始めていた。俺も大皿からソテーしたお肉を小皿に運んでナイフで切り分けて口に運んでみた。
「何これ、めっちゃ美味い。」
心の声が口から零れてしまった。今まで食べていたお肉も柔らかいし美味しかった。でも、香辛料の香りが強くて肉の野性味溢れる味が少しした。今食べたお肉は、シンプルな塩味だけ。それなのに、めっちゃ美味しい。生臭さが一切なくてお肉自体の味が相当美味しいって事なんだと思う。
「男共が狩りから戻って、新鮮な肉が入った。」
俺をちらっと見たネロが食事を中断して答えてくれた。更に視線を一瞬だけ、天使な子猫ちゃんの隣のゴツイ雉虎さんに向けたネロが俺に視線を戻した。意味深なネロの視線の示した先に目を向けてみる。ネロの声が耳に入ったのか、雉虎さんが笑顔で会釈してくれた。
隣の天使な子猫ちゃんもお父さんの真似なのか、ぺこりとしてくれる。ホント、可愛い。天使な子猫ちゃんに頬を緩めながら、俺もお辞儀を返してみた。子猫ちゃんが満面の笑みという言葉が似合う程の可愛い笑顔を返してくれる。久しぶりにお父さんに会えてご機嫌なんだろうな。
余りに美味しくて、いつも食べている以上のお肉をお腹に詰め込んだ気がする。ご馳走様っと手を合わせて、残っているデザートに視線を落としてしまった。甘いものは別腹って言うけど、流石にもう入らないや。
ネロに伝えて謝ると、食事場にケーキのお皿を持って行ってしまった。初めてデザートまでつけてくれたのに勿体無いなかったな。そう思っていると、ネロがでかい体に似合わない小さな可愛いバスケットを持って戻ってきた。
まさかのテイクアウトをしてくれたらしい。膨れたお腹が苦しいけど、後で食べられるデザートは素直に嬉しい。笑顔でお礼を伝えると、ネロが頷いてくれた。満腹感を感じながら帰り道はいつもよりゆっくりのんびり歩かせて貰う。
家に着いてお茶を淹れて貰い、ソファでゆっくりしていると隣に座っていたネロが立ち上がった。仕事の時間か、そう分かった瞬間にネロのズボンを掴んでしまう。自分の行動に驚きつつも、直ぐに手を離して、いってらっしゃい、と手を振ってみた。
俺をじっと見つめてきたネロが無言でふいっと外に出て行ってしまった。寂しさの虫はもういなくなったと思ってたけど、人の温もりが恋しくてやっぱり甘えてしまうみたいだ。しっかりしろ、琥珀。顔を叩かないまでも気合いを入れ直す。
ソファでアイラさんに借りている本を読む事にした。腹這いになってコロコロと転がりながら、モーティナの地理について書かれているらしい本を流し読みしていく。
スツィにはイシュケ王国が中の大陸の中央部にあるとは聞いていたけど、文字だけの情報では実際にイメージする事が難しい。絵で地図が描かれていればもっと詳細に解ると思うんだけどな。
ぺらぺらと本のページを捲ってみたけど、地図どころか挿絵の類は一切見付からない。文字だけで地理を説明している本らしい。これは時間が掛かりそうだと、気合いを入れて改めて本の1ページ目を開いた。




