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25 これが現実だよね

 ぼんやりと眼を覚ますと、ベッドの上だった。昨晩より落ち着く甘い香りが強い。ここは確実にネロのベッドだろう。この香りはネロの香りだから、残り香が強いって事はアルさんの言う通りにちゃんと横になって寝てくれたんだ。


 完全に覚醒するまでの少しの間、ぼんやりとした頭で考える。のそのそとベッドから起き上がり、脇に畳んで置かれていたブレザーはそのままでマントだけを羽織る。リビングに出ると、ネロは真剣な顔をして書類に眼を通していた。俺の気配に気が付いたのか、手に持った書類を置いたネロが心配そうに俺を見た。


「大丈夫か?」


 少しだけ心配そうな顔とは裏腹に、全く感情の籠らない低いネロの声が問い掛けてくる。


「また寝ちゃったみたいだね。ごめん。迷惑掛けっぱなしだ。」


「問題無い。」


「なんか仕事中だった?俺の事は気にせず続けて。」


「後で片付ける。」


 短い言葉で淡々と答えてくれるネロが立ち上がって俺の傍に近づいてきた。屈んで覗き込んでくるネロの瞳はやっぱり心配そうな感情が込められている気がする。でも、表情は全くの真顔だから普通に覗き込まれてるだけかもしれない。


「ごめん。あと、アルさんには全部話した。アルさんになら話していいと思ったから。」


「そうか。それがいいだろう。」


「アルさんは俺が月の神の化身じゃないって分かってくれてた。けど、そう思わせて欲しいらしい。」


「分かっている。」


「あと、アルさんは俺を受け入れてくれた。」


「そうか。」


 さっきのアルさんみたいに、ネロも頷きながら静かに聞いてくれた。ネロもアルさんみたいに月の神の化身とやらじゃなくても全く気にしてないって感じでほっとする。


 俺を受け入れてくれてるのは、族長としてのアルさんの予言に従っての事なのかもしれない。でも、俺自身に何の力も能力もなくても、ネロも受け入れてくれてるのが分かって凄く安心した。


「で、ここに滞在してこの世界の事を学べって。知識をつけろって。ネロはここの外の事を知ってるから教わったらいいって。」

「そうか。」 


 立ち止まって話していた俺の手を引いて、ソファまで誘導してくれたネロが俺を座らせてくれる。距離を取って隣に座ったネロが、俺の話をゆっくり聞いてくれるって感じで、俺と目を合わせながら足を組んだ。


「あ、アルさんは帰り際に調子悪くなったみたいだけど、大丈夫かな?」


「問題無い。最初に琥珀の事を報告して以降、一切睡眠を取ってなかっただけ。先程一寝入りして回復した。」


「アルさんも寝なくて大丈夫な人?ってかその日から寝てないって何で。」


「報告当日は会うのが楽しみ過ぎて寝れない、と。最初の面会当日はその後、琥珀が消えた事を気にかけて。その後は琥珀がこの村に留まっている事に興奮して、だと思われる。多分。族長は昔は十日以上眠らずとも大丈夫だったのに、と嘆いていた。何も問題無いだろう。」


 アルさんが言ってたのって本当なんだ。俺が逢いに来た事が嬉しいって言ってくれてた。俺がいなくなって寝れない程心配してくれて、俺がいるって事を喜んでくれてるって事だよね。俺と話しをしてる時のアルさんはホントに嬉しそうで、俺も嬉しい気持ちになった。


「アルさんにもめちゃくちゃ心配かけちゃったって事だよね。後で謝らなきゃ。」


「また顔を出すだけで喜ぶ。そうしてやってくれ。」


「今日、どっか泊まれるトコってあるのかな。このままずっとネロのベッドを占拠する訳にはいかないし。」


「不満なら他を紹介する。そうでないなら、ここで問題無い。」


 この村に滞在するにあたって、長期滞在になる可能性を踏まえて他の場所を紹介して貰おうと思ったら、ネロが少しだけ眉を寄せて不満の表情を出した。驚いた顔と少しだけ心配そうな顔以外に、ネロの表情の変化って余りなかったから少し驚いてしまった。


 あ、時々少しだけ笑顔も見せてたか。どっちにしても驚く顔が一番多い気がする。それ以外は無表情で何を考えてるか全く分からない人で、言葉も少ない。でも、優しさが伝わってくるっていう不思議な人だよな。


「当分の間、俺は夜間は族長の護衛。夜は琥珀がベッドを使用しても何も問題は無い。」


「そうなんだ。じゃぁ、言葉に甘えさせて貰います。」


 宜しくね、とお辞儀をしたら、手を伸ばしたネロが頭をポンポンと撫でてくれた。その後で立ち上がったネロはテーブルの上に広げていた書類を一纏めにして棚の中に収めていく。


「てか、護衛の仕事って警護だけじゃないんだね。書類整理?とかもやるの?」


「書類整理ではなく、報告書の確認と各集落への指示。族長の補佐で少しやる程度。それより、体調は大丈夫なのか?先程は目元が赤くなっていた。」


 テーブルの上を片付けたネロが戻ってきて隣に座りながら答えてくれた。心配そうな口調のネロに、大丈夫~、と力なく返事をしてソファにぐったりと凭れ掛かってしまう。アルさんもネロも優しく気遣ってくれて、この全く知らない異世界と言ってもいい世界で、緊張していた体と心が本当にぐにゃりと緩んでしまった。


 音もなく立ち上がったネロを視覚の端で捉えた瞬間に、ふわりと体が持ち上がった。爽やかで甘く落ち着く香りに包まれる感覚がする。横抱き、要するにお姫様だっこのままで、先程まで寝かされていた寝室に運ばれて、ベッドの上に静かに下ろされた。


 マントを丁寧に脱がせてくれたネロがブランケットを掛けてくれる。もう少し寝ていろ、と部屋を出て行くネロの姿を目で追う。フニャフニャと力が入らない体を起こそうとするけど、持ち上がらない。完全に気が抜けたっぽい。


 ネロだけじゃなくてアルさんにもちゃんと話ができたって事と、それをネロに報告できたって事。俺の境遇を分かった上で、二人共受け入れてくれた。マジで緊張っていうか張り詰めてたんだな。


 こんなに気が抜けるとは思わなかった。眠くはなかったけど大人しく眼を閉じる。少しして、気分が落ち着いてきた。起き上がって、気の緩みを叱咤すべく両手で顔を勢いよくパチンと叩いて、頬に両手が到達する直前で気が付く。あ、これダメなヤツだっ。



(死んでしまうとは情けない。)


 そんな声と共に眼を開けると、其処は石壁の朽ちかけた神殿のような建物の中だった。・・・優しい世界に浸っていたけど、これが現実だよね。まさかの自分への攻撃で死ぬとは、恐ろしい世界だな。


(デスボーナスの獲得 前回デスポイントを使用したためデスボーナスの内容が良質になっている可能性があります。デスボーナスの獲得:魔法〈根性〉 獲得しますか?)


 〈根性〉、ですか。良さそうな気配がめっちゃする。だってきっとアレだよね。俺のゲーム脳が確信に近い答えを導き出してる、気がしないでもない。


(魔法〈根性〉:心属性の魔法。サポート魔法の一種。攻撃力なし。己の精神に呼びかけ、如何なる攻撃も残りHP1で耐える。効果の持続時間は2時間。効果が発動すると持続状態が解除される。消費MPは0。精神力50以上で発動する事が可能となっている。連続使用し続けると精神に異常をきたし、様々な諸症状を引き起こす場合もある。ランクアップで効果の持続する時間が延長され、効果時間内の耐えうる回数が増える。又、効果発動の際の残りHPの残量が増える。ランクアップにはデスボーナスが必要である。尚、デスボーナスでのランクアップはランダムであるため再度獲得できるかは死亡後にしか判明しない。)


 やっぱりキタコレ。俺の為にあるような魔法じゃないか。確実に一回は死なない魔法、これは確実に使えるヤツだね。でも連続使用で精神異常って、どんな症状だろう。仮にその状態異常になったとして、死んだらリセットされるのかな?


(精神異常:精神に係わる状態異常の一種。凶暴化、狂気、幻覚、混乱、沈黙、忘却、攻撃力低下、防御力低下、回避率低下、魔法力低下、魔法耐性低下、各種ステータス低下など様々な種類があります。まだ解明されてない状態異常もある可能性があります。死亡後、復活時には全状態異常は解除されて完全回復の状態となります。)


 中々盛り沢山だな。精神異常、それ全部が一気になるって事ではないよね?なったとしても死んでリセットか。連続使用ってどれくらいの頻度だったらその精神異常にならずに大丈夫なの?


(1つの精神異常のみが発動する場合もありますし、複数同時に発動場合もあります。発動する項目については完全にランダムとなっています。頻度は一概にどれくらいとは言えません。魔法〈根性〉を発動すると精神異常値が上がり、時間を追う毎に緩やかに低下していきます。精神異常値が一定量を超えると精神異常状態になります。1回目の使用で精神異常値が精神異常を発動するには至りません。精神力の値と、それに付随する各種能力に依存して精神異常値の増減が確定致します。)


 成る程ね、連発しなければ大丈夫そうだな。一回だけとはいえ、死なずに回避できるのはでかい。確か大丈夫だった気もするけど、精神力50か。ちょっと待ってね。



―――――――――――――――――――――

一神 琥珀 【使役士】

〖プラントイド〗

HP:1/1 MP:2/2 DC:15/∞ 

力:1 体力:1 素早さ:1 知力:1 

器用:1 精神力:60 魅力:190

オートスキル:翻訳R.1

スキル:ステータス可視化R.1

魔法:水属性〈浄化〉R.1

   光属性〈照明〉R.1

―――――――――――――――――――――



 精神力の値も問題ない、とくれば、獲得するしかないでしょ。


(了解しました。)


 スツィの言葉と共に淡い桜色の光に全身を包み込まれる。光が収まったのを確認してから、再度ステータスを確認してみる事にした。



―――――――――――――――――――――

一神 琥珀 【使役士】

〖プラントイド〗

HP:1/1 MP:2/2 DC:15/∞ 

力:1 体力:1 素早さ:1 知力:1 

器用:1 精神力:60 魅力:190

オートスキル:翻訳R.1

スキル:ステータス可視化R.1

魔法:水属性〈浄化〉R.1

   光属性〈照明〉R.1

   心属性〈根性〉R.1

―――――――――――――――――――――



 よしよし。ちゃんと覚えてる。効果時間は2時間か。一応、念の為使ってみようかな。死にそうな直前に発動するのもいいけど、使い勝手が気になる。きっとこれも念じればいいんだよね?


(はい。強く思う事で発動致します。)


 めっちゃ端的な説明だな。では根性、根性、ド根性。はぁー。


(〈ド根性〉ではありません。〈根性〉です。)


 気合いを入れて発動させる俺に突っ込みを入れてくるスツィ。分かってるよ、雰囲気だよ。スツィに答える俺の周りを、薄い光の膜のようなものが包み込んだ後で、俺の中に浸透するようにゆっくり消えていった。発動成功かな?多分大丈夫でしょ。少し気怠く感じながら魔法の効果を確信する。


 神殿から出ようとして気が付いた。俺、靴どこやった?まぁいいか。靴下を脱いでポケットに入れて、裸足で神殿の扉をすり抜けて外に出た。崩れた橋の向こう側、森の少し手前で紺色のマントを手にしたネロの姿が確認できる。


 迎えに来てくれてた、マジで嬉しい。神殿から出て知り合いの姿が見えた事に凄く安心してしまう。手を軽く挙げてネロに挨拶した後で神樹の傍に寄り、直ぐ傍の池で顔を洗い口を漱ぐ。両手で一掬いの水を樹の根元にかける。


 ぽんぽんと幹を軽く叩いて神樹に挨拶してから、根っこの橋を渡ってネロの傍に掛け寄った。草に躓いて転びそうになってしまった俺を、凄まじい速度で駆け寄ったネロがふわりと抱き留めてくれる。


 ありがとう、と体勢を立て直してネロを見ると、無表情の中に少しだけ感情が見える。不安そうに少しだけ揺らいだネロの瞳が俺を捉えていて心配させてしまったと分かった。


「すまない、琥珀。あの村で、しかも俺の家の中に侵入し、俺に気配すら察知させずに琥珀に危害を加える者がいるとは思わなかった。外部の者が侵入する事は限りなく少ないと思う。だが、万が一という事もある。村内の者の仕業とは思いたくはないが、可能性としてはこちらの方が高いだろう。どちらにしても、手を出した者は即刻見つけ出して処分する。許してくれ。」


 俺と視線を合わせて少ししたら、ネロの瞳に出ていた感情が消え去って、なんか物騒な事を言い出した。慌てて否定する。俺が気合いを入れる為に自分で頬を張ったのだ、と。無表情から、意味が解らないという顔、何をやっているのだお前はという呆れ顔、移り行くネロの顔を眺める。


「もし、琥珀がまた消えたら。翌日のこの時刻にここに迎えに来れば良いのか?」


 時間が止まったような感覚の中で、小さな溜息と共に低い声が囁いた。ネロさんにどじっ子認定された上に、また死ぬのを確定予測されてる。こわ。時刻か、どうだろう?復活の時間なんて決まってるのかな。


(復活の時間は死亡翌日の特定時間に設定されています。変更も可能です。)


 わーぉ。変更可能なのか。知らなかった。でもとりあえずそのままでいいや。ありがとう、スツィ。


「それでダイジョウブデス。ご迷惑をお掛けします。」


 溜息を吐きながらマントを手渡してくれたネロに、アリガトウと棒読みでお礼を言ってしまうのでした。

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