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22 お答え致しかねます

 返事を返す暇も与えてくれずに出て行ってしまったネロの揺らした入り口の布を眺める。ってか本当に二日間も寝てなくて、大丈夫なモノなのかな?めっちゃ心配なんだけど。


(持久力の値が高い者にとっては問題ないモノと思われます。)


 持久力ってステータスになかったけど、隠しステータスみたいなモノなのかな。


(はい。)


 ・・・今、はいって言った?隠しステータスがあるって事?


(はい、御座います。)


 あるの?〈ステータス可視化〉でも見られない項目があるって事で正しいの?


(正確には〈ステータス可視化〉のランクが上がると閲覧可能になる項目が増えます。)


 成る程。ってか、説明を貰わなかったら分からなかったよ。そんな事。


(聞かれませんでしたので。)


 俺が疑問に思った事しか答えてくれない訳?


(はい。)


 先回りして、情報くれるとかできないの?少しイラッとして口調が荒くなってしまった。頭の中でだけどね。


(できません。)


 ・・・スツィ。融通が利かないね。頑固だし。


(申し訳御座いません。)


 もういいよ。要するにそういう存在って事な訳ね。それにしては時々俺を諫めたり忠告してくれる時もあるのはどういう事なんだろ。少し疑問に思ってしまう、けど今は渋々でも納得するしかないのかな。


 スツィって一体どういう存在なんだろう。まぁ、聞いたところで答えてくれない気がする。取り敢えずは、初めて知る隠しステータスの存在に思いを馳せた上で改めて聞く事にする。隠しステータスって沢山あるの?


(沢山の定義が曖昧ですが、複数御座います。)


 何があるのか教えて。


(お答え致しかねます。)


 教えられないって事?


(はい。限定した事柄についてはお答えする事が可能です。)


 あー、成る程ね。だからさっき持久力ってワードに対して答えてくれたって事か。了解。じゃぁ、隠しに運の項目はあったりする?


(はい。御座います。)


 俺の運と持久力の値を教えて。


(お答え致しかねます。)


 くっ、ダメか。答えられないって事は、俺の〈ステータス可視化〉のランクが低いから、確認できない項目って事でまだ教えられないんだよね、多分。正確な数値については自分で確認するしかないって事かな。


(はい。)


 了解、了解。分かりました。スツィって有能なのか無能なのか分からなくなるよね。いや、間違いなく有能だし、今の俺には蜘蛛の糸みたいな存在って分かってるけどさ。


(蜘蛛の糸:スパイダーウェブ。主に蜘蛛系のモンスターがドロップする細くて丈夫な糸。装飾品や装備品の素材になる。装備品の修復にも使われる。比喩としての蜘蛛の糸がよく分からないのですが、気分を害したのであれば、申し訳御座いません。)


 あ、そっか。蜘蛛の糸って通じないか。異世界あるある?なのか。蜘蛛の糸とは何かをスツィに説明してみた。スツィに聞く事があっても、俺からスツィの知らない事を教えるのってかなり新鮮な体験な気がする。


(理解しました。蜘蛛の糸とは一筋の光明という意味ですね。)


 そういう事。一筋の光明の方が言い方がかっこいいな。それを貰おう。スツィにはやっぱり敵わないと思わされる俺がいました、っと。ネロに用意して貰ったお茶を飲み終えた俺は伸びをして、流しで顔を洗い口を漱ぐ。


 寝室に移動してふかふかのベッドでゴロゴロとしていると全く動けなかったとはいえ、激しい訓練の疲れが響いて来たのか瞼が落ちてきた。今点いてる〈照明〉は俺でも消せるかな。頭で思い浮かべると〈照明〉が消えて部屋が暗くなってくれる。おぉ、消せたね。暗闇で目を閉じると直ぐに眠りに落ちてしまった。



 明るさを目蓋が感知して、目が開いてしまう。しぱしぱと開け閉めする視線の先で、天井に設置された透明な窓のような部分から見える外はもう明るくなっていた。リビングに移動すると、もうネロは帰ってきていた。


 何か書類のような物を読んでいたネロは、俺がリビングに出ると顔を上げてくれた。おはよう、と挨拶をして、頷いてくれたネロにペコっと頭を下げる。流しに移動して顔を洗って口を漱いでさっぱりとしてみた。


 ネロは書類を読むのを中断して、書類を近くの棚の引き出しに手早く片付け始めた。そして、俺と入れ替わるように流しにやってきたネロはお茶の用意をしてくれる。俺には少し温かいお茶、自分のは湯気が出る程熱そうなお茶を持ったネロに促されて、ソファに腰を下ろす。ネロが隣に座ってカップを手渡してくれた。


「帰って来たなら起こしてくれれば良かったのに。起きてベッドを返したのに。」


「気持ち良さそうに寝ていたからそのままにした。眠気はない。問題無い。」


 ネロの淹れてくれた美味しいお茶を楽しみながら、他愛のない会話も楽しむ。まだ眠くてしぱしぱする目と欠伸をかみ殺す俺に、もう少し寝てても大丈夫だぞ、と声を掛けてくれるネロを見て思う。


 二日以上寝てないのに全然平気そう。こんなに寝たのにまだ眠い俺ってなんなんだ。持久力ってそんな凄いステータスなのかよ。羨ましい。でも、眠くなくてもネロもちゃんと寝た方がいい気がする。眠くないからといって寝なくていい訳じゃないだろうし。身体を休めて欲しいよね。


「俺はもう起きたから、寝てきなよ。俺は適当にぶらぶらっとこの村の中を見させて貰うから。」


「問題無い。」


「じゃぁ、ちょっとアルさんと話をさせて欲しい。で、ネロはその間寝て欲しい。」


「分かった。ついてこい。その前に食事をするか?」


「いや、いい。先に寝て欲しい。」


 俺がいると寝てくれない気がするネロを寝かす為の口実にアルさんを使わせて貰う事にする。アルさんの言ってた心配性って意味が今漸く分かった。困った子ってのも、確かにそうだ。直ぐに俺を案内してくれるネロに連れられて族長のテントに移動する。


 入り口には前に会った事のある灰猫が待機していた。今警備している人らしい。ネロを見て疑問の表情を浮かべた灰猫だったけど、後ろについてきた俺に視線を移して納得したのか通してくれた。アルさんの居室に移動すると、半身を起こしてベッドに小さな机を設置して、書き物をしているアルさんがいた。


 ちらりとこちらを見たアルさんが、俺と目が合って嬉しそうに微笑んで挨拶してくれた。俺もにっこり笑顔で挨拶を返す。やっぱりアルさんてほんわかしてて穏やかで、和みますね。書き物をしていた筆を止めて、紙の束を机の端にまとめて置いたアルさんが、にこにこと笑みを浮かべて俺に向かい合ってくれた。


「琥珀さん、よくいらっしゃいました。」


「何か仕事中でしたか?中断させてしまってごめんなさい。また出直しますか?」


「大丈夫よ。もう歳なのに皆、私に仕事押し付けるのよ。困った子達でしょ?」


「族長以外にこなせない仕事だ。仕方がない。」


「頑張れば皆にもできるわよ。」


「できない。常人なら10倍の労力がかかる。」


「困った子ね。」


 軽い口調のアルさんにネロが淡々と受け答えていく。二人の会話はアルさんの小さな溜息で終了してしまった。


「あ、アルさん、ネロが寝てくれないんだ。だから、アルさんとお話してる間にネロには寝て欲しいんだけど、ダメかな?」


「ネロ。琥珀さんの手を煩わせているの?」


 ジロリとネロを一瞥したアルさんが、少し低めの迫力ある声でネロを威嚇するように言葉を出した。その声に背筋がゾクリとしてしまう。


「そういう訳ではない。今、睡眠は不要だからそう伝えた。」


「寝なさい。直ぐに。あ、あと琥珀さんに飲み物をお持ちして。」


 アルさんはかっこいいな。凄く、上に立つモノの迫力的なのが伝わってくる感じだ。ネロに対してはとても冷たく言い放ち、俺にはごめんなさいね、と優しく語り掛けてくれる。


「行きなさい。」


 少しの間黙り込んでその場から動かないネロには視線も向けず、アルさんが冷たく言い放った。この感じ、アルさんは相当飴と鞭の使い分けが上手い人なのかもしれない。俺はメンタル強い方だと思うけど、アルさんにこの口調で命令されたら結構心にくる感じがする。


 いや、新たな扉が開くかもしれない。女王様的な意味で。もう少しアルさんが若かったら、この美貌で罵ってくれる姿は中々に萌えるものがあったかもしれない。優しい雰囲気に、ほんわか美人が淡々とした目でこちらを見ながら超冷たく接してくるの想像して下さい。優しいお姉さんが冷たい目をして淡々と蔑んでくる姿を想像して下さい。どうでしょうか!


(自重して下さい。)


 心の中の脱線をスツィが止めてくれた。ありがとう、スツィ。かなり脱線するトコだった、イヤ脱線してたね。危なかった。


「琥珀さん、朝御飯は食べたのかしら?」


「あ、まだです。恥ずかしながら、さっき起きたばっかりです。」


「じゃぁ、一緒に頂きながらお話ししましょう。」


「ネロ、マヌに二人分の朝食の用意をお願いして。あと、ちゃんと寝なさい。分りましたね?」


 音もなく室内に戻ってきたネロが、お茶のカップを2つ置いて去ろうとしたところで、アルさんが声を掛けた。ネロに語り掛けたアルさんの声は、先程より幾分穏やかだ。無言で頷いたネロがこちらを一瞥してから静かに去っていった。


「本当に心配性で困った子でしょ?」


 ネロが去ったカーテンの向こうを見つめていると、アルさんが話し掛けてきた。苦笑交じりに独り言のように呟いたアルさんの言葉に、あはは、と否定とも同意とも取れない戸惑った笑いで返答してみる。


「そういえばアルさんは体調が悪いのですか?ずっとベッドにいるみたいだけど、もしそうだったら押しかけちゃってごめんなさい。」


「いえ、もう歳だからいつでも寝られるようにこんなトコに押し込められているのよ?それなのに仕事は休ませて貰えないんだから困ったものなのよ。」


「あ、じゃぁ眠くなったらいつでも言って下さい。俺は帰ります。」


「大丈夫よ。琥珀さんと過ごせてとても嬉しいの。」


 凄く嬉しそうな笑顔を浮かべているアルさんの言葉は本心からみたいだ。そんなアルさんに俺も笑顔で頷いて返す。

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