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21 イケメンの無駄使い

 食事場に到着すると、鯖虎のシリアさんが何やら泡立つ液体の入ったコップを片手に、向かいのガタイのいいおっさんと談笑していた。シリアさんの相手をしている人をよく見ると、一番最初に俺を運んでくれた顎鬚のおっさんだった。


 俺に気が付いた顎鬚の鯖虎おっさんはにやりと笑って会釈してくれた。シリアさんも俺に気が付いて、片手を挙げて挨拶してくれる。二人は知り合いだったんだね。凄く仲良さそうだ。


「もう大丈夫なの?あの時のネロの慌てようは凄かった。あんなの初めて見たよ。」


 あはは、と結構豪快に笑っているシリアさんに、もう大丈夫です、と返事をして、向かいに座る顎鬚の鯖虎おっさんをちらっと見てしまう。俺の視線を受けた鯖虎おっさんはまたにやっと笑顔を返してくれた。


「あぁ、兄のヤミ。もう既に1回会ってるんだよね?」


 俺の視線で分かってくれたのか、シリアさんが紹介してくれた。ペコっと頭を下げる俺に、ヤミさんも会釈で答えてくれる。ヤミさんは無口な人なのかもしれない。そして、成る程。兄妹か、確かに眼の色と毛色が一緒だ。


 見た目では全く判別できなかったけど、言われてみれば兄弟に見えない事もない。でも、ヤミさんはガトって言われなければ熊か虎の亜人なのかなって思う程ごついし、シリアさんは正統派美人さんだから言われなかったら分からなかっただろうな。


 熊か虎って言っちゃったけど、ヤミさんも見た目は渋くてカッコいいオジサンなんだよな。シリアさんと歳がめっちゃ離れてそうにも見える。親子って言っても何となく通じる感じもする、くらい離れてそう、かな。


「ヤミ、族長の護衛は。」


「今はマヌがやってるよ。飯食ってから少し見に行ってくる。」


「分かった。シリアに付き合って飲むなよ。」


「了解。」


 定時連絡のようなものを交わしているのを見るとヤミさんも族長の護衛なのか。ついでにマヌさんとやらも護衛ですね。空いている席を案内して座らせてくれたネロが、今回は何が食べたい?と聞いてくれた。


 お任せで!と答えてみた俺に頷いたネロが歩き出す後ろ姿に、量は少なめで、と付け加えておく。振り向いて視線を合わせたネロが頷いてくれた。調理場に向かうネロを目で追いかける。調理場に入って見えなくなったネロから空に視線を移して、ぼんやりと見上げてしまった。


 もう空はほぼ暗くなりかけていて、この食事場の上には誰かが発動した〈照明〉の光の玉が明るい光を放って食事場を照らしている。俺の発動するのよりもずっと高い位置に、俺のよりかなり明るい光量の光の玉が浮いている。


 丁度この食事場をすっぽりと覆ってしまう程の範囲を明るく照らしている〈照明〉は、その名の通り正しく照明って感じで、夜のお洒落なオープンテラスのレストランで食事を待ってる気分になってくる。魔法は便利だな、早く使い熟してみたいなぁ。


 ぼんやりと考えながら〈照明〉の光の玉を見上げていると、お茶を持ったネロが戻ってきた。ネロが差し出してくれるお茶をありがとう、と受け取って、息を吹きかけて冷まそうとして気付いた。このお茶は熱過ぎない、でも、冷たくもなくて俺が飲むとしたら丁度適温だ。少し疑問に思ってネロを見上げてしまう。


「普通の温度だと熱そうに飲んでいた。少し低めの温度にしておいた。」


 俺の視線を受けてさらっと俺用にお茶を用意したって言えるネロさん、マジイケメン。無表情なのにさらっと紳士。さらっと相手に合わせたお茶を用意できるなんて、優し過ぎる。その上この美貌でしょ、これは女の子が放っておかないでしょう。放っておく訳がない。これが本当のイケメンってヤツなんですね。


「ネロさんはモテそうですね。羨ましい。」


「何を言っているんだ。」


 心の声の一部が口から漏れていたらしい。俺の言葉に驚いたのか、少し動揺した様子のネロを眺める。動揺してても、真顔のポーカーフェイスは崩さないんですね。成る程。


「だって、こんなイケメンで紳士で強いとか、非の打ちどころがないじゃん。おまけに優しくて性格もいいとか、もうヤバいでしょ。」


「族長の護衛になってからは女はいない。モテもしない。」


「えー、勿体無い。イケメンの無駄使い。」


 クスっと笑う声が聞こえて横に視線を移した。シリアさんがこちらを見て心底楽しそうな笑顔を浮かべている。その向かいではヤミさんが困った顔をしていた。


「ネロが動揺する姿なんて珍しいモノを見た。いいモノを見させて貰ったお返しに情報を上げるよ。ネロは他の地の出身だけど、モテ過ぎて女に嫌気が差して族長の護衛になったって話だよ。ガトの女共から多種族のお嬢さん、果ては人族まで。多少は手を出して遊んでたって話は聞いたけどね。」


「シリア、そこまでにしておけ。飲み過ぎだ。」


 シリアさんは少しお酒が進んでいるのか、饒舌に話し始めてしまった。ふむふむっと相槌を打って聞く俺に気を良くしたのかシリアさんは楽しそうに話している。途中でヤミさんが口を挟んできたけど、シリアさんがジロっと睨んだら黙ってしまった。妹さんの圧勝である。お兄ちゃんの負けって所だね。


「煩い、今は琥珀さんと話してるの。ネロの強さが部族で一二を争う腕だった事も族長の護衛になった1つの理由だけど、メインの理由は女から逃げてきたってトコみたいだよ。こちらに移り住んでからも他の地のお嬢さん方からこの地の奥さんまでモテモテだよな。羨ましい限りだよ、ホントに。確かにイケメンの無駄使いかもしれん。よく言った。ネロよ、特定を選ばなくてもいいから早く子を成せよ。お前の能力は先に繋がなくてはならないぞ。」


「シリア、あんまり深入りするんじゃない。ネロにも色々あるんだよ。」


 うんうん、と相槌を打って聞いていたら、シリアさんは結構ノッてきてしまったらしい。後半で何故か、若いのに近所のおせっかいなおばさんみたいな事を言い出してしまったシリアさんをヤミさんが慌てて止めている。視線をネロに戻したら、うんざりした顔のネロが見えた。


「なんか、ごめんなさい。」


 責任を感じて謝ってしまった俺に気にするな、と小さく呟いたネロがちょうど運ばれてきた食事に視線を向けてしまった。昼間は肉魚尽くしだったけど、夕ご飯は野菜が多めで嬉しい。グリーンサラダ、肉団子が入った澄んだスープ、鶏肉っぽいソテーと温野菜、果物が綺麗に切って盛り付けられた小鉢、と全部美味しそう。


 猫っぽい亜人さんだから昼間みたいなのが普通で普段から肉、魚系が多いのかと思ったけど野菜もしっかり食べるみたいだ。日本人の俺としてはお米が食べたいとこだけど、文句は言わない。こんなにちゃんとした食事が食べられるって事がもう贅沢な事だからね。


「あっ、昼間の子供達に貰った果実と花冠はどうなったんだろ。」


「果実はここ。花冠は返しておいた。」


「まじか、ありがと。果実も夕食で用意してくれたんだ。嬉しい。」


 折角貰ったのに放置とか悪い事しちゃった感じがあるし、今食べられるなら嬉しい。いただきます、と手を合わせて、ネロの祈りが終わるのを待って食事を始める。どれを食べてもホントに美味しい、うまうまと食べ進める。


 因みに、俺はこの量でお腹いっぱいになった。ネロは同じ料理だけど、俺の3倍くらいの量をペロリと完食していた。ネロはかなり沢山食べる人らしい。体が大きいからかな。子供達のくれた果実は甘くてちょっと酸味が合って美味しかった。ご馳走様です。


 お酒を飲んでるシリアさんは食事はゆっくりみたいで、ヤミさんも付き合ってゆっくりと食べている。後に来た俺達の方が先に食事を終わらせてしまった。シリアさんとヤミさんにまたねって挨拶して、ネロの家に移動する。食事場の明かりの範囲から1歩外に足を踏み出すと、思ったより暗かった。


 空を見上げると綺麗な星空が広がっていて、綺麗で不思議な色合いの紺色の月も少し欠けているけど夜空に浮かんでいる。ネロの家に到着してソファに座り込むとネロがお茶を用意してくれた。ネロが淹れてくれた、適温のお茶をソファに座ってゆっくり楽しませて貰う。暫し、まったりとした時間が流れていく。


「今夜、俺は族長の護衛でいない。家を自由に使うといい。問題があれば族長の所まで来い。道は分かるな?」


「道って、ここを出て直ぐだよね。徹夜で護衛なの?」


「そうだ。」


「ネロは昼間寝てないよね?仮眠とかしなくて平気だった?俺に付き合って訓練してくれてごめん。先に言ってくれたら訓練また今度でお願いしたのに。それか時間を短くするかとか色々手はあったのに。」


「二日なら寝なくても全く問題無い。」


「二日?昨日も護衛だったの?」


「昨晩は突然消えた琥珀を探して森中を駆け巡っていた。」


 何で二日間も徹夜なのかを聞いていて、新事実に驚いてしまった。ネロは俺を探して走り回ってくれてたのか。だからこその、あそこで俺が見付かって呆然としていたって事なのか。きっと俺が見付かってほっとしたのと、疲れで固まっちゃってたんだろうな。悪い事をしてしまった。


「え゛、マジか。それは申し訳ない事をしました。」


「いや、俺の不注意が招いた事だ。こちらこそすまない。」


 慌てて謝ってみたものの、ネロも謝り返してくる。俺の謝罪を受け取ってくれる気はなさそうだ。ちゃんと説明してなかった俺が悪い訳で、ネロは事故みたいなものだったと思うんだよ。それに、走り回って探してくれてたんだったら、ネロが謝る必要はどこにもないのに。


「てか、マジで二日間寝てないの?護衛変わって貰った方が良くない?ってかホント言ってよ、俺だけ昼間寝ちゃって悪かったです。ベッドも占領しちゃったし。」


「五日くらいまでなら睡眠を取らずとも何も問題無い。気を使うな。」


 せめて、ベッドを占領しちゃった事を謝ろうとしたけど、ネロの言葉を聞いてびっくりしてしまった。ガト族すげぇな。五日間不眠不休でも問題ないとか。ぱねぇ。


(通常のガト族の持久力は人族より多少優れている程度です。この個体が異常だと思われます。)


 ネロ限定で凄いだったか。成る程、よく分かります。イケメンで、イケボで、高身長に細マッチョ、優しくて性格もいい、速くて強くて持久力もあるなんて、天は二物どころか全部与えてるじゃん。ないない尽くしの俺とせめて足して2で割ろうよ。黙り込んでしまった俺の頭にネロが手をぽんと置いてくれた。


「では、行ってくる。問題があれば来い。」


 頭に手を置かれて見上げたら、一瞬心配そうな顔をしたネロが直ぐに真顔に戻って、短い言葉を残して出て行ってしまった。

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