2 次の人生はありません
『・・・の神殿・・・祭壇に細工を・・・・・何れ来る・・・・残す・・・・・・守り・・多数のモンスター・・・・・唯一の存在・・・・』
「まじか、盲点だった。確かにRPGとかによくある展開じゃん。くそ。しょっぱな餓死とか、マジ笑える。生き返らなかったらマジで終わってた。」
走り書きされた文字の内、判明できたのは一部分のみ。書き記す時に乱してしまったのか、文字が掠れて風化したのかは分からないが走り書きの大部分は判明できなかった。でも、判明した内容から伝わるのは祭壇に細工がされてて、恐らく守るモンスターが居るって事だ。
要するに、この場所にモンスターがいないなら細工の先にモンスターがいる空間がある筈。しかも多数のモンスターが入るくらいの大きさの空間な筈だよね。って事は、外に通じる通路的なダンジョンの可能性が高いって事だよね。ひとまず一歩前進だ。益々ゲームっぽい展開じゃん。コレゲームなの?俺、知らない内にVRとかでリアルな体験版みたいなのやらされてるの?
(『げーむ』でも『ぶいあーるのたいけんばん』でも御座いません。)
あ、そうですか。そうそう、そういうのになりきる的なのだよね。分かってます。メタ発言回避しろって事だよね、了解。しかし、リアル過ぎる体感だよな。死ぬ時の状況がもろリアルに反映とか、一体どういうシステムだよ。そんなトコ凝らなくても良くないか?全くユーザーに優しくない仕様過ぎるだろ。まぁ、いい。取り敢えず展開が進んでるからそっちに進むか。
「それにしても祭壇に細工なんてあったのかよ、調べ捲ったと思うんだけど。」
一人の世界なのにやっぱり思ってる事って口に出ちゃうよね。悪態をつきながら祭壇の裏に回り痕跡を探す。暫く注意深く探していると、埃と瓦礫が堆積した床の上に微かな窪みと埃で隠されたスイッチを見つけた。って、マジであるじゃん。
俺、なんで気が付かなかったのかな。注意力が散漫過ぎて困ってしまう。まぁ、意識して探さないと分からなかったかもだけどさ。それでも死ぬ前に気が付いておこうよ。あ、でも、死ぬのは確定で走り書きを読まないと進まない展開ってのも良くある気もするよね。そういう演出って正直面倒臭いよね。
ともかく、また進展した展開に少しワクワクしながらスイッチを操作する。朽ちた神殿とは思えない程静かに床がスライドして階段が姿を現した。おお、やっぱりなんか展開が進んだ感あるよね。少し楽しみ、な感じがしないでもない。ここまで意味も分からなくて進んでるんだから、折角なら楽しみたい気分になってきちゃう。
慎重に階段を下りていくと広めの通路のような真っ暗な空間が広がっているらしく、前はほぼ見通せない。でも、階段上部から漏れる光で見える範囲の中で判断できる事は、道は真っ直ぐ続いているようだった。
光の届く範囲の外側は漆黒の闇が広がっていて、心なしか獣の息遣いが聞こえるような気もする。モンスターが多い、そんな言葉も書いてあったな、詰んだか。そう心で呟きながら、それでもこの道しか外に通じてないと心を決めて、暗闇に一歩足を踏み出した俺はもう一段下がっている事に気付かず転倒してしまった。
(死んでしまうとは情けない。)
そんな声と共に眼を開けると、其処は石壁の朽ちかけた神殿のような建物の中だった。混乱する俺の目前には石壁と同じく朽ちかけた躯が一つ。何やら走り書きをその指先の床に記して朽ち果てたらしい。
「さらにデジャブ・・・。ってか死んでも復活とかマジでゲームかよ。」
(『げーむ』ではありません。デスボーナス:スキル〈ステータス可視化〉 獲得しますか?)
頭に響いてくるかのような『声』に即問い返す。
「効果とマイナス要素は?」
(スキル〈ステータス可視化〉:自分自身の能力を開示して視認する事が可能になる。マイナス要素はなし。スキルのランクアップに伴い他者やモンスターなどの能力も可視化できるようになる。また、より詳しい情報が閲覧可能になる。ランクアップにはデスボーナスが必要である。尚、デスボーナスでのランクアップはランダムであるため再度獲得できるかは死亡後にしか判明しない。)
「獲得する。」
ずいぶんと丁寧に説明してくれるようになったものだ、と感心しながら即答すると、また淡い青い光に包まれた。
「可視化ってどうやればいいん?」
(ステータスを確認したいと思えば確認できます。)
スキルを獲得したら即使ってみたくなるよね。直ぐに『声』に使い方を聞くと、端的に答えてくれた。でも、端的過ぎて分かんねぇって言ってんだろ。さっきの丁寧さはどこ行った。
「だからどうやるんだよ、その方法を教えてくれって言ってるの。」
(はー。まず、眼を瞑り頭の中で確認したい項目を思い浮かべます。目の前に表示されるように願った後、眼を開けると其処に表示されている筈です。眼を瞑る、頭に思い浮かべる、願うなどは省略可能です。)
今、溜息つかなかったか?こいつ。しかも省略可能な項目をぶち込んでくるとか舐めてるのか。面倒臭さ満載の『声』に教えて貰った通りの工程を踏んで、眼を開けると自分のステータスがそこにあった。目の前の空間に硝子板でもあるかのように半透明の板がある。その淡く光る薄い板の上に俺のステータスが書き込まれている。
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一神 琥珀
HP:1/1 MP:1/1 DC:2/∞
力:1 体力:1 素早さ:1 知力:1
器用:1 精神力:10 魅力:10
オートスキル:翻訳R.1
スキル:ステータス可視化R.1
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「ってか、まじゲームじゃん。それよりHP1って何それ怖い。力1で武器なしとかどうやって魔物たくさんの通路突破するん。素早さも1だし。そして微妙に高い精神力と魅力・・・そもそも、魔物に遭遇する以前の問題で、死んだのですが。まじでクソゲーじゃん!!」
(あなたの頭でも理解できるようにもう一度いいますが、『げーむ』ではありません。現実です。目の前を見てください。現実逃避は止めましょう。)
ちょいちょいディスって来るな、この『声』。それよりこんな現実離れした異世界のような所で生きていくなら普通最強とまではいかないけど、チョイ強くらいの能力じゃない?普通。本とか、漫画とか、ゲームとか、全部そうだったよ!!もういい、死んだら次の人生を楽しもう。謳歌してやろう。こんなクソゲーな世界なんてくそくらえだ!!そう決意する。
(デスカウントが∞な為、死亡しても復活します。次の人生はありません。)
『声』が容赦なく追い打ちをかけてくる。ってか、∞って、死亡しても復活って、死ねないってことかよ!少し呆然としてしまう。
(死ねます。復活の回数が∞デス。死のデスと掛けてみました。少し和んでくれましたか?)
死ねるのに終われない人生とか、呪いかよ。ってかこいつ、馬鹿にしているのか。少しの怒りを覚えてしまった俺に対して取り繕うように『声』が話を続ける。
(気分を損ねてしまったようで申し訳ありません。呪いではなくある意味祝福のようなものだと思われます。この世界に於いてデスカウントが∞な生物は他に存在しておりません。例外は存在していますが、通常はデスカウント1/1が標準です。特別な存在なのです、あなたは。)
そんな特別いらないし、だったらステータスもチート級にしてよ。と心の中で泣き言を愚痴る。でもまぁ、そう悲観しててもどうにもならないと気分を変えた俺は、どうせならまだ見ぬこの世界をできるだけ堪能してやろうと心に誓ったのでした。そもそもこの世界で眼を覚ましてから数日で2回も死を迎えているのに混乱もせず、この変な『声』も受け入れている時点で案外平気なのかもしれないと思い込むしかできないよね。