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197 なんだそれ

 入り口を開けたら、レオさんが滑り込んできた。俺が開けるとは思ってなかったらしく、レオさんが驚いた顔をしている。そして、緑の瞳がキラッキラに煌めいて、めっちゃ嬉しそうな笑顔に変わっていった。


「おかえりなさい。お仕事、お疲れ様でした。」


 にこっと笑顔でお出迎えの言葉を掛けてみた。レオさんは嬉しさを余す事なく伝えるテンションで抱き締めてきて、頬と首筋に大量のキスを振らせてくる。このテンションはヤバい。


 一週間、子供に会えなかった父親かなって程の、熱烈な様子で再開を喜ぶレオさんに若干引いてしまった。でもね、レオさんの嬉しい気持ちが伝わってきて、拒否する事もできないのが困っちゃう。ただ、レオさんはしっとり濡れているんです。濡れていて冷たいんですよ。


「レオさん、冷たい。離れて。」


 レオさんの頭を両手で押さえて顔だけ距離を取ってみた。背中を抱き留められているから、それ以上は離れられないんです。拒否の言葉で離れる事を促してみたんだけど、レオさんは目尻を下げたでれでれな顔で見つめてくる。


 でれでれのにこにこ笑顔のレオさんには、さっきの護衛の時のきりっとした面影は一切ない。オンオフの切り替えがヤバいって思っちゃう。腕を突っ張って離れようとしても、レオさんの腕はびくともしない。


「ん~、そうだな。琥珀からお帰りのキスをしてくれたら離れてやる。どうする?」


 レオさんは少しの間、楽しそうに俺を眺めていたけど、交換条件を出してきた。拒否は諦めて、大人しく背伸びしてレオさんの頬にキスをしてみる。キスをした途端に、レオさんは10倍以上のキスを頬と首筋に返してくれた。


 さっきの軽く触れるようなキスじゃない。全てのキスが優しくて丁寧で、雑でワイルドなレオさんっぽくない。ゆっくりと時間を掛けてキスをして、そして、漸く解放してくれた。


 ふらふらとネロの元に戻ると、ネロが〈乾燥〉をしてくれる。フワッと柔らかくて暖かい風が包み込んで、目を閉じちゃった。直ぐに風が止んで目を開けると、優しいネロの微笑みが迎えてくれて癒される。


 直後にネロがまた詠唱を始めて、振り返ると、靴を脱いでる途中のレオさんの周りを暴風が吹き荒れていた。片足を上げた不安定な体勢なのに、暴風の中でも全く体がぐらつかないのがスゴイ。


 さっきの、照れる。を聞いちゃった後のこの暴風。ヤバいですね、ネロは照れてるんだよね。普通に乾かしてあげればいいのに、暴風とか。ネロは可愛い。可愛過ぎる。ニコニコでネロの頭を撫でていたら、レオさんに抱き上げられてしまった。


 そして、ソファに座ったレオさんの膝の上に、普通にナチュラルに置かれている。今回のお膝抱っこは、座椅子型、ってトコだ。背中にレオさんがいて、後ろから抱き締められる形。レオさんの表情は全く見えない。でも、レオさんの太腿の横でパタパタと嬉しそうな尻尾が上機嫌を伝えている。


 レオさんがギュッと抱き締めて後頭部に顔を埋めてきた。いや、拘束してきたと言った方が妥当だろうか。ネロに顔を向けてみる。ネロは何の感情も浮かばない完全な真顔で俺達を眺めていた。


「一つ言いたい。」


「ん?どうしたの。琥珀の我儘なら何でも聞いてあげる、言ってみなさい。」


 ネロとの触れ合い中に、流れるような動作で捕獲、拘束してきたレオさんに一言物申す事にする。できるだけ静かに冷静に言葉を出してみたら、レオさんのウキウキとした嬉しそうな声が耳元で聞こえてきた。そして、首に降り注ぐキスの群れ。さっきの丁寧なキスとは違う軽くて優しいキスだ。


 一ヶ月間、子供に口を聞いて貰えなかったお父さんかなってテンションなんですけど。にっこにこな笑顔が目の前に見えるような錯覚すら覚えてしまう。なんでこんなテンションになってるんだ。ネロより親モード感が強いレオさんに困惑してしまう。


「膝の上から下りたいです。」


「ん~、なんでそんな可愛くない事を言っちゃうのかな。琥珀のお願いでもそれは無理。他のお願いはあるか?言ってみろ。」


 レオさんの雰囲気に飲まれないように、極力冷静にお願いをしてみた。レオさんは俺の首にキスを続けながら、超楽しそうに拒否してくる。なんでも聞いてくれるって言ったのに聞いてくれなかったじゃん。


「では、体に回している腕を離してみて下さい。」


「しょうがないな、ちょっとだけだぞ?」


 若干むっとなりながら、レオさんの腕を離して貰う方向で話を進めてみる。ふっと笑ったらしいレオさんの熱い息が首に吹きかかった。ぞくっとする感覚を耐えていたら、レオさんが了承してくれた。


 レオさんが腕を開放してくれた瞬間に、跳び箱の要領でレオさんの膝から飛び下りる。脱出したらダッシュで距離を取ろうって思ったんだよ。床に足が付いたのは感じた。でも、片手を掴まれた感覚と、ふわっと足払いをされた感覚も、着地の瞬間、同時に訪れた。


 気が付いたら、胡坐をかいたレオさんの股の間にフワッとお尻から着地していた。今回は横向きでのお膝抱っこだ。くそぉ、いつもいつも変な体術を使いやがって。


 レオさんが俺の腰に腕を回して固定してくる間、無言でレオさんを睨んでみる。レオさんは爽やかな笑顔なんだけど、胡散臭く見えちゃうんです。レオさんの内面が爽やかとは正反対なのを俺は知ってるからね。


「琥珀のお願いを聞いてあげたんだから。俺からのお願いも聞いてくれる、よね。」


 爽やかなイケメンスマイルのレオさんが、ゆっくりと口を開いた。レオさんの口から零れ出る言葉は優しくて穏やかだ。でも、その口調とは裏腹に、光を増す緑の猫目が承認を強制してくる。


 レオさんの瞳が光り輝いて迫力を増してきた。でもね、俺は負けない。レオさんの目を両手で塞いで、助けを求めてネロに顔を向けてみた。ネロはぼんやりと俺達の遣り取りを眺めていたらしい。


 ネロとアイコンタクトを取って頷いてみると、ネロも頷き返してくれた。やった、今回のネロは味方だ。安堵の吐息を漏らした瞬間に、ネロが立ち上がった。そして、俺達から離れていってしまう。


 立ち去っていくネロの後ろ姿を眺めて呆然となっちゃった。ネロは味方じゃなかったらしい。頷いてくれたのに、助けてくれないどころか見捨ててどっかに行っちゃう。悲しい。


「琥珀。いい子だから、目隠しとかそういうのは止めようね。そういう趣向も中々楽しいんだけど、俺はしたい側なんだよ。」


 レオさんが優しく甘い声で囁いてくる。ネロの裏切りで呆然となった心に付け込んでくる優しい声。言葉の意味合いを考えずに、つい、レオさんに寄り掛かりそうになって思い出した。レオさんに拘束されてる最中だったじゃん。拒否の心が伝わったのか、レオさんの唇が楽しそうにニヤッとしたのが見える。


 レオさんは片腕を俺の腰に回したままで、もう片手でやんわりと俺の両手首を纏めて掴んできた。そして、レオさんの目を隠している俺の手を、ゆっくりと優しく引き剥がしていく。力一杯抵抗したけど、駄目だった。


 どんな力の使い方なのかは分からない。でも、優しく握られている俺の手首には、レオさんが物理的に排除してくる力が一切伝わってこない。それなのに、じりじりと引き剥がされていく。感じるのは、レオさんの熱い体温だけ。


 技術が凄い。レオさんは変な技術だけはメッチャ尖がってるんだよね。その技術を他の事に生かせばいいのにって思っちゃう。思考が脇道に逸れてる間も、じりじりと剥がされていた。


 覆いがなくなって解放された緑の瞳は光ったままで、迫力も健在。俺の両手首を掴んだ状態で、レオさんが顔を近付けてくる。そして、超至近距離でニッコリ笑顔になっちゃった。


 その笑顔はヤバい。優しく見えるのに、背筋がゾクゾクする程凄い迫力なんですけど。万事休す、終わった感が満載である。ってか、レオさんのテンションが高過ぎる。一体、どうしたっていうんだ。


「琥珀が出迎える。レオは家に入ったと同時に琥珀を抱き締め、嫌がる琥珀に口付けを降らす。嫌がる琥珀に口付けを強要する。お返しという名目で、嫌がる琥珀に更に口付けを降らす。長椅子に移動した後、レオが琥珀を無理遣り膝に乗せる。琥珀に望みを強要して言わせた後で、一度解放。その後で、琥珀を再度拘束し膝に乗せる。嫌がる琥珀の両手を掴んで無理遣り顔を覗き込む。以上。」


 ネロの淡々とした声が聞こえてきた。何かを読み上げているらしい。突然聞こえてきたネロの声に反応して、俺とレオさんの顔が同時にネロに向いた。ネロは棚の傍にいて、木箱から取り出したらしい紙に目を落としている。


 朗読が終わって、ネロが顔を上げてこっちに目を向けた。びっくりした俺と、ぽかんとした様子のレオさんの様子が面白かったらしい。ネロがクスっと笑ったのが見える。


 ネロの笑い声が聞こえたら、レオさんが俺の手首から手を離してくれた。レオさんのテンションは落ち着いてくれたらしく、目の光もなくなった。更には、変な迫力もなくなっている。


「なんだそれ。」


 ボソッと呟いたレオさんの声で、はっとなる。これは、あの、あれですよね。予言ですよね。ヤバい、めっちゃ中ってる。全部的中してた。レオさんのテンションは下がったけど、反対に俺のテンションが上がっちゃう。


「おお~、ネロ凄い。中ってる。完璧じゃん、100%の的中率。ネロ、その紙を見せて。確認を要求します。」


 片手を伸ばして、見せてって要求してみると、ネロは頷いて紙を片手に戻ってきた。そして、俺達の横に座って紙を渡してくれたから、ニッコリ笑顔で受け取る。紙を開くと、レオさんも横から覗き込んできた。


 紙に書かれた文字を読む前に、ネロの書いた字の綺麗さに目を奪われてしまう。本で読む文字とはちょっと違って見える。崩した文字なのかな。でも、流れるような字体が毛筆の行書体っぽくも見える。滑らかで綺麗な字だ。実にネロらしい、優美さを表したような綺麗な文字。


「レオさん、ネロの字は綺麗だね。ネロは書くのも上手いんだね。ネロはこんなトコも完璧とか凄くない?」


 余りに綺麗な文字に感動して、思わず、感想を口に出して同意を求めちゃった。レオさんも一緒に読んでるから、同じ感想を共有してくれる、と思ったのに、駄目だった。

 

「待て。まず聞きたい。それは何だ。」


 レオさんは答えずに、低い声で不満そうに聞き返してきた。テンションが駄々下がりになってる感がスゴイ。あんな爆上げなテンションのレオさんを一瞬で落ち着けてくれた。流石ネロですね。


 不満そうなレオさんは一旦放置して、改めて内容を確認してみる。読んでみると、確かにネロが読み上げた通りの事が書いてある。マジで予言が中ってる。しかも、全部的中してるとか、改めて考えてもヤバい。


 そして、ネロはやっぱり味方だった。疑ってごめんなさい。心の中で謝っておく。更には、助けてくれたネロにお礼の意味で、ニコっと笑顔を贈っちゃう。ネロも嬉しそうに目を細めてくれたから、以心伝心は完了。


「ネロの予言だけど?」


「予言?ネロはそんな事もできるのか?」


 内容の確認が済んで、レオさんの疑問にサラッと答えてみると、レオさんが目を細めた。その表情は何、と思ったけど、レオさんが納得した顔だったらしい。やっぱりネロならできるって思っちゃいますよね。実際、全部中ってたし。


「ただの勘。」


 そうなんですよ、って頷いていたら、ネロがレオさんに訂正した情報を伝えて、レオさんが眉を寄せちゃった。どうやら、適当な事を言ってるんじゃねぇって言いたいらしい。そんな顔をしたら怖いのに。


「そうだった。勘という名の予言だった。ネロが俺を観察してない証明の為に、レオさんが帰ってきてからの行動を勘で当てて貰ったの。で、証拠として紙に書いて貰ったんだった。ね、凄くない?全部当たってた。」


 レオさんが不満そうな顔をしてるから、ちゃんと教えてあげようかな。って事で、丁寧に経緯を説明してみた。レオさんは頷いてくれたから、一応は理解したみたいだけど、不満そうな顔をやめてくれない。ある意味、ネロがレオさんを良く分かってるって証拠なのに、なんでそんな不満なの。


「嫌がる琥珀を連発してたのは、どういう料簡だ?」


 疑問に思っていたら、レオさんが低い声でネロに絡み始めた。めっちゃガラの悪いお兄さん風になってるんですけど、怖いですね。でも、不満そうな顔をしていた理由がやっと分かった。ネロの言葉のチョイスが問題だったんだね。


「見ての通り嫌がっていた。」


 ネロはネロで、ツーンとした態度でレオさんに受け答えている。ネロのこの態度が照れによるものだって事を知っている今、ネロが超可愛く見えちゃう。


「まぁまぁ。ネロの勘が凄いって証明されたんだからイイでしょ。レオさんも怒らないで、そんな顔したら怖い。」


 二人を仲裁してみたら、レオさんがネロへ向けていた視線を俺に移してきた。不満そうな顔が悲しそうな顔に変わっていく。なんでそんな悲しくなっちゃったの。ちらっとネロを見ると、フイっと顔を逸らされちゃった。関与しませんって意思表示らしい。


「マジで悲しい。琥珀は嫌がってたのか?」


「ん~、えっと。そんなには嫌がってない。大丈夫だよ?」


 レオさんは寂しそうに呟いて目を伏せてしまった。あぁ、そんな顔をしないで。悲しそうに俯くレオさんを慌てて宥める。レオさんの耳がぴくっと動いて俺に向いてくれた。でも、顔は俯いたままで目も伏せている。


「そんなにはって事は、少しは嫌だったんだろ?」


 悲しそうに呟くレオさんの言葉と一緒に、猫耳が伏せられていくのが見える。悲しさしか感じられないレオさんの表情と言葉に心を打たれちゃった。


「そんな事ない。嬉しかった。超嬉しかったから、ね。レオさんにギュってされてメッチャ嬉しかったし、キスも優しくて、レオさんの心が伝わった。だから、嫌じゃなかったんだよ。」


 レオさんの悲しさをなくして欲しくて、レオさんの手を握って一生懸命慰めてみた。レオさんの耳がソロソロっと立ち上がっていくのが見える。そして、レオさんは伏せていた目を上げて、俺と目を合わせてくれた。


 綺麗な緑の猫目が間近で不安そうに俺を見ている。安心して貰おうと、ニコっとしてみる。レオさんの目尻が少し下がって優しい顔になってくれた。


「じゃぁ、俺のお願いも聞いてくれる?」


「できる事ならいいよ?なぁに?」


 レオさんがちょっとだけ不安そうに、おずおずとお願いをしてきた。目付きの悪いお兄さんって事を忘れちゃう程、可愛いお願いだ。これはヤバい、ネロがメロメロになっちゃうのがホントに良く分かる。お願いの内容が分からないままだけど、可愛さに促されて承諾しちゃった。


 テンションが駄々下がりな上に、拗ねてしまった感のあるレオさんが可愛い。頭を撫でたくなる可愛さでヤバい。ネロはこんな子猫ちゃんなレオさんに翻弄されてる訳ですか。羨ましいですね。


「琥珀からぎゅってして、お仕事中カッコ良かったって。もう一回言って。」


 レオさんが目を伏せて、不安そうに話してくれた。ん、正直、レオさんのお願いは意味不明だ。でもね、猫耳をしょぼんと倒して、悲しそうに話すレオさんに絆されてしまう。体を起こして、レオさんの首に腕を回してギュっと抱き着いてみた。レオさんは俺を支える感じで、俺の背中に腕を回してそっと抱き返してくれる。


「お仕事中のレオさんはホントにカッコ良かった。」


 レオさんの肩に頭を乗せて、小さい声でこそっとレオさんの希望通りのセリフを囁いてみる。俺を抱き締めているレオさんの腕に力が込められた。レオさん曰く、完全に把握している力加減ってヤツ。レオさんの熱いくらいの体温と一緒に、レオさんの抱き締めてくれる圧を感じる。


「あ~、マジで最高。琥珀、うちの子になれよ。な、ネロより大切にするから、うちの子になっちゃおうよ。」


 俺の言葉が終わったのと同時に、レオさんが耳元で囁いてきた。どう聞いても、帰宅時のテンションに戻ってます。今理解した。レオさんはマジで親モードなのだ、と。お仕事中の子供の言葉が嬉しかったんだね。そんなに喜んでくれて嬉しいです。


 レオさんの首に絡めた腕を離してみる。レオさんは少しだけ腕を緩めてくれたから、顔を見られる距離は取れた。レオさんはもう不安な悲しい顔じゃなかった。でれでれに目尻をさげて、ニコニコの笑顔だ。明らかにさっきのテンションに戻ってるっぽい。


 もういい、暑苦しいから離して。レオさんの胸元を手で力一杯押してみる。離してって意思表示を伝えたのに、にこにこと超嬉しそうな笑顔のレオさんの抱き締めは全く緩まない。俺は全力の力を使っているのに、レオさんは平然としている。全く力を使ってないようにも見えるのが凄い。


「そこまでだ。」


 無言でレオさんと力比べをしていたら、ネロの静かな声が聞こえた。俺が力一杯だったのは分かっているらしく、レオさんが少しだけ腕を緩めてくれる。そして、俺が体勢を整えたら、レオさんはゆっくりと腕を離してくれた。


 レオさんの膝から下りて、足元の床に座って見上げると、レオさんは俺の髪を掻き上げて優しく見つめ返してきた。緑の猫目がキラキラしていてめっちゃ綺麗で、優しい眼差しで癒される。


「超テンションが高かったね。何かいい事でもあったの?」


「いい事しかなかっただろ。イヤ、いい事じゃない事もあったけど、いい事が上回った。」


 なんであんなにテンションが高かったのかが疑問で、素直に聞いてみたら、レオさんは嬉しそうに目を細めて答えてくれた。成る程ね、色々あった訳だ。でもね、それじゃ分からないから。レオさんにもっと詳しく教えてって目で訴えてみる。


「いい事じゃない方は族長が機嫌悪かった。少しな。」


 レオさんは優しく目を細めて話してくれたけど、その内容にびっくりしちゃった。だって、俺が会いに行った時は普通に普通の優しいアルさんだったもん。機嫌が悪い要素は最初だけで、それ以降は上機嫌でお話をしてくれたし。


 もしかして、あれはカラ元気だったのかな。怪我とかしちゃって、痛さを堪えていたのかもしれない。全然気が付かなかった。ネロは気が付いていたのかな。ネロに目を向けると、ネロは興味なしって感じでシレっとしてる。なんでそんな冷たい態度なの。


「アルさんは機嫌が悪かったの?実は怪我してたとかかな。大丈夫って言ってたから安心しちゃってた。」


 ネロは答えてくれなさそうだから、レオさんに聞いてみる。途端に、レオさんが面白そうな顔になっちゃった。なんでそんな表情なんだよ。心配なのに茶化さないでって思いから眉を寄せちゃうと、レオさんが俺の首の後ろに手を置いてきた。


 反射的に距離を取ろうとしたけど、レオさんの手がそれを許してくれない。そして、顔を寄せたレオさんは眉間にキスをして離れていった。眉を寄せるんじゃないって意味だよね。分かります。


「怪我は一切ない。多分だけど、今日から大っぴらに外で暴れられないから、機嫌が悪いんだと思う。」


 そして、レオさんはうんざりした感じを隠す事もない言動で、アルさんの怪我はないって教えてくれた。ほっとする情報は嬉しかったんだけど、レオさんが続けた冗談は、口調からして冗談に聞えないんですよ。


 なんでそんなに疲れた感じなのか。そして、うんざりは継続中なのはなんでなのか。眉を寄せようとしたトコロで、レオさんの顔が近付いてきたから眉を戻しておく。レオさんはクスっと笑って首の後ろの手を外してくれた。


「そんな事で機嫌が悪くなる訳ないでしょ。だって、アルさんだよ?」


「なる。」


 少し考えてみたけど、レオさんの冗談に反論してみる。即行でネロがボソッと呟いた声が聞こえた。ゆっくりとネロに顔を向けると、冗談の欠片すら見当たらない程の真顔なネロが見える。


 でもね、俺は知ってる。ネロは真顔で冗談を言える種類の人なんだって。ネロが真顔で冗談を言ってきたのを何度も見てるからね。ってか、流石に内容的に冗談にしか聞こえないし。


「またまたぁ、ネロまでそんな事を言っちゃうんだ。でも、俺は騙されない。」


 ニコっと笑顔で、二人の冗談には乗らないからねって意思を伝えちゃう。そうしたら、ネロもレオさんも楽しそうに目を細めちゃった。どんな感情なの、超気になるんですけど。


「まぁ、族長の機嫌とかはどうでもいい。適当に抜け出して大暴れして、勝手に解消するだろうからね。それより本題のいい事。聞きたい?」


 二人の表情を見比べていたら、レオさんが苦笑交じりに話を本題に戻してきた。軽く流しちゃってるけど、アルさんのご機嫌も気にかけて欲しい。護衛対象を雑に扱うとか、レオさんはホント適当だから困っちゃう。でも、勝手に抜け出すアルさんはちょっと可愛い。


 勿論、レオさんのいい事も気になる。聞きたいって意思表示で大きく頷くと、レオさんが目尻を下げたのが見えた。そして、間髪を容れず、でれでれの顔で俺の髪を撫で始めた。メッチャ優しい指使いなんですけど。その愛おしいモノを見る眼差しは何なの。


 レオさんの行動が不審過ぎて、眉を寄せかけて、やめておく。そして、間近にある緑の猫目をじっと見つめて、口が開くのを待つ事にした。レオさんは無言で幸せそうに俺の髪を撫で続ける。


 少しの間待ってみたんだよ。でもね、レオさんの口が開かないから、焦れて早く話してって首を傾げちゃった。レオさんは嬉しそうにニコっとしてくれる。


「いい事はマジでやばかった。族長の機嫌の悪いのなんて無視できる程にヤバかった。もうね、仕事中、ずっとその言葉だけが頭の中を巡って。悶絶しそうな程嬉しかった。だって、琥珀が俺をカッコいいって。帰り際にニッコリ可愛い笑顔で、仕事中の俺がカッコいいって言ってくれたんだよ。しかもだよ、また後でねって、可愛く付け加えてくれるとか、幸せ過ぎて死ぬかと思った。」


 笑顔のレオさんが漸く口を開いてくれた。と思ったら、メッチャ嬉しそうにスラスラと淀みなく話していく。ハイテンションなレオさんの話を聞いていたら、だんだん心が冷めていった。いい事って、俺関連だったのか。しかも、帰り際の少しの声掛けだったらしい。


「へぇ。」


 どんないい事だったんだって、期待感が高まり過ぎていたらしく、つい、冷めた心の声がそのまま出ちゃった。間近にある緑の猫目が一瞬だけ丸くなったのが見える。


「その冷めた反応は何なの。ネロなら分かるよな。想像してみな、仕事中に琥珀が近寄ってきて、可愛く顔を寄せてくれるんだぞ?で、にっこり可愛く笑ってくれる。更には、仕事中のネロはカッコいい。って可愛く言ってくれるんだぞ?ヤバくないか?」


「そうだな。俺が言われた、と考えると仕事が手につかなくなる。完全に同意する。」


 えっとね、レオさんは何を言い出したの。ネロもなんで同意してるの。そんな力強く完全同意する事だったのか?二人は親ばか炸裂中なのだろうか。あのカッコいいレオさんはどこに行っちゃったの。クールなネロもどこに行っちゃったの。


 更に言わせて貰えば、仕事中に変な台詞を頭の中で巡らすんじゃない。仕事に集中しようよ。ネロも、仕事に手が付かなくなる、とか、冗談だよね。全く冗談に聞こえない程にキラキラのいい笑顔で言ってたけど、冗談であってるよね?


「しかも、帰って直ぐに出迎えてくれたのが琥珀だぞ。ヤバいだろ。可愛い笑顔でおかえりなさい、お疲れ様。だぞ?これはヤバい、幸せの極みだっての。な、ネロ。お前なら分かるだろ。」


「ああ、素直に羨ましい。」


 レオさんのテンションがヤバいです。レオさんの言葉は全く冗談に聞こえない上に、ネロも全く冗談に聞こえない。ネロはレオさんに乗っかって羨ましいとまで言い出した。二人が親ばかという事が判明した確定した瞬間である。


「更に嬉しい事に明日は琥珀とデート。今からもうヤバい。早く明日にならないかな。」


 レオさんは超嬉しそうにウキウキでネロに話し掛けてる。ネロとのデートが楽しみって感じにしか見えないのに、俺の名前を出してるトコロが違和感に感じちゃう。そして、二人の表情の差が顕著過ぎる。ネロは少し眉を寄せて不満そう。対するレオさんは目がキラキラして楽しそう。


 それにしても、レオさんのテンションがヤバい。子供とのお出かけはそんなに嬉しい事なのかな。しかも、俺はネロの連れ子という立場だ。まぁ、親交を深めるって意味もあるし、俺も楽しみなんだけどね。更には、魔法を覚える瞬間も見られる事が確定してるし、超楽しみ。


 レオさんの言動を見ていると、俺の事を本当に可愛がってくれてるって分かる。まるで自分の子供のように接してくれる時すらある。ネロと同じく、レオさんも俺を受け入れてくれてるって事実が嬉しい。


「それは阻止したかった。」


「お前は取引に負けたんだ、残念だったな。」


 あらら、ネロのテンションが下がっちゃった。仲間外れにされてる気分になっちゃったのかもしれない。レオさんはそんなネロに発破をかける為なのか、楽しそうにネロを煽ってる。素直にネロを慰めてあげればいいのに、なんでそうやって可愛くない態度になってしまうのか。


「そっか、凄いね。良かったね。」


 ネロがちょっとだけ悲しそうで、俺も悲しい。レオさんのテンション爆上げの理由が分かったけど、どう反応していいか分からない。変に反応するとレオさんに絡まれそう。って事で、ここは静かに感想を述べるにとどめておこう。


「どうした、琥珀。棒読みになってるぞ?あ、何か欲しいものはない?初デートだし、記念になるモノがいいよね。オネダリしてみなさい。」


「何もいらない。」


 レオさんは俺を覗き込んで心配そうな顔になっちゃった。更には、オネダリしろって強制してくる。強引な物言いと、何かを買ってくれそうな気配がイヤで、ぷいっとそっぽを向いてボソッと呟いてしまう。何かを買って欲しくてお出掛けする訳じゃない。ただ、レオさんの魔法を覚えるのが見たいだけだもん。


「そんな事を言うなよ、なんかあるだろ?明日のデートで何でも買ってやる。琥珀ちゃん、いい子だからこっち向いて、欲しいモノを言ってみなさいって。」


 レオさんは焦った感じで尚も言い募ってくるけど、そっぽを向き続けちゃう。何でも買ってくれるって、一年間、子供に見向きもされなかった父親的かよって思っちゃう。


 やっぱりレオさんはパパさん的な思考になってるっぽい。明日のデートも、ネロの子供っていうより、自分の子供とのデート的なイメージなのかもしれない。


「いらないってば。お金がないの。」


「俺はある。幾らでもある、琥珀の欲しいモノくらいなんでも買えるんだよ。いいから言ってみろ。」


 むすっとしながらいらないって繰り返してるのに、レオさんはしつこい。しかもお金は幾らでもあって、何でも買える発言まで飛び出した。そんな事を言われたら、レオさんに反発したくなっちゃう。


 反発の心を伝える為に、レオさんへの嫌がらせをしてみよう。絶対にドン引きな、レオさんのテンションを一気に下げる嫌がらせに決めた。っという事で、レオさんに顔を向けてニマっとしちゃう。


「ネロ、市場で一番高い物を教えて。」


「最高級の宝石とニルが手掛けた紋が施された装備品。恐らく首か腕の装備、もしくは指。」


 レオさんが一瞬怯んだのが見えて、すかさずネロに一番高価な品物を聞いてみた。ネロなら知ってるかな、って思ったら、案の定、直ぐにレスポンスが返ってきた。


 淀みなく答えてくれるネロはお店の店員さんになれそう。ただ、惜しい事に、愛想がないんだよね。ニッコリ笑顔で説明してくれたら、売り上げナンバーワンを独走できそうなのに。ホント、惜しいですね。


 その点、レオさんだと相当ヤバそう。恐ろしい程の口の上手さと、知らなければ爽やかなイケメン風の笑顔。そして、親しみ易い雰囲気と優しい緑の瞳。確実に営業トップをひた走るイメージしか湧かない。


 でも、惜しい事に、お客さんに手を出しそうなイメージが付きまとっちゃう。ホント、レオさんはイヤらしいんだから。ジト目でレオさんを見てしまうと、レオさんが超嬉しそうに目を輝かせたのが見えた。


 なんでそんな嬉しそうな顔になった。困惑しながらネロを見ると、ネロは苦笑をしている。どうやら、俺が思考の脇道に入った事は二人にばれちゃったみたいだ。

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