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196 そうなった、気がする

「琥珀?」


 ネロの手慣れた感じのキスからの抱っこについて考えていたら、甘い声で呼ばれてはっとなる。視線の先で、金色の猫目が淡く光っているのが見えた。予行演習で興奮するんじゃない、困ってしまうではないか。


 あ、でも、集中して光っているのかな。どっちかは分からないけど、見ていると怪しい気分になりそうだから塞いでおこう。心の指示のままに、手を伸ばしてネロの目を両手で塞いでみた。


「なんで塞ぐの?」


 クスッと笑って、甘い声で囁いてくるネロの唇が凄く色っぽく見えてしまう。目を塞いでいるから、唇が強調されているのかもしれない。ちょっとだけ恥ずかしくなって、ネロに抱き着いちゃった。


 ネロの目を塞いだのに唇もダメで、目の置き所がなくて、ドキドキになりそうだったんだもん。ネロが背中に腕を回して、ぎゅっと抱き返してくれた。ネロの腕の圧を感じながらネロが落ち着くのを待つ事にする。


「小道具の効果はいか程でしたか?上手く演技はできてた?」


 少し待って、ネロの肩に頭を置いたまま呟いてみた。ネロは背中に回した片腕はぎゅっとしながら、優しく髪を撫でてくれている。ネロが落ち着くのを待つ、というより、俺が落ち着くのを待っていてくれたのかもしれない。ネロの手が優しくてホンワカ気分になる。


「合格。」


 沈黙を続けていたネロだったけど、ちょっとの時間を置いて、低く呟いて合格をくれた。任務が完了した事が分かって、体を離してみる。ネロは優しく微笑んでいて、もう目は光ってなかった。興奮状態は落ち着いてくれたらしい。


「レオさんを思い出して興奮しちゃったの?」


「そうかもしれない。」


 お膝抱っこで目が光るに至った経緯の確認を取ってみた。ネロは少し考えて、曖昧だけど、一応は肯定の意っぽいものを示してくれた。さっきの目の輝きは興奮の方で正しかったのか。成る程。


「レオさんに上手く言えそう?」


「練習が必要。」


 次に、予行演習の成果を聞いてみたら、ネロは目を細めて考え込んじゃった。そして、淡々と、まだ無理、的な返しをしてきた。練習か。ストイックなネロの発言が微笑ましい。完璧な状態でレオさんと向き合いたいって姿勢のネロには好感が持てる。こんな風に頑張るネロを知ったら、レオさんは嬉しいだろうな。


「じゃあ、もっと練習して、完璧に仕上げないとだね。」


「また相手になってくれるか?」


 ニコっとして練習あるのみですよ、って応援をしてみると、ネロが嬉しそうに目を輝かせた。そして、俺を練習相手として要請してくる。そうだよね、こんな練習の相手は家族の俺意外には務まらない。


「うん、いいよ。でもね、普通にレオさんとすればいいのに。」


 快諾はしたけど、レオさんと直接練習したらいい気もしてきた。レオさんで練習しつつ、イチャイチャすれば技術も向上、二人の仲も深まる。スキンシップも沢山できるし、なにより、練習なのに本番じゃん。希望を叶えつつ練習もできる、素晴らしい案な気がするんだよ。


「心の準備がいる。」


「そんなもんなの?」


「そうだ。」


 ネロは困っちゃったらしく、目を伏せて答えてくれた。ん~、心の準備か。俺にはまだ分からない恋心の何かなのだろうか。首を傾げて聞き返すと、目を上げたネロが真っ直ぐな視線で、強く断定で言い切ってきた。


 ネロはレオさんに対して、大胆で色気のある大人な行動をしていた事もあるのに。こんなお膝抱っこで心の準備が必要になっちゃうのか。恋する大人はの心は中々複雑なんですね。


「下りてもいいの?」


「もう少しこのままで。」


 練習も終わったし、もういいかなって聞いてみると、ネロは切なさを込めた甘い声で引き留めてきた。ギュッと抱き寄せてくるネロの仕草は、離したくないって感じだ。ネロの背中をポンポンしてみる。


 ネロの腕が少しだけ緩んでくれたから、少しだけ体を離してネロを覗き込んでみた。ネロの言葉や仕草、態度の全てが離れるのはイヤって表現している気がする。だから、淋しがり屋の俺と同じ心理が働いているのかなって思っちゃう。


「ネロは淋しがり屋さんなの?」


「そうなった、気がする。」


 ネロの髪を撫でながら、優しく聞いてみる。至近距離で見える金色の瞳が少しだけ揺らいで、伏せられてしまった。そして、返ってきたネロの答えは肯定の意だ。ネロが超可愛い。恋するネロになってる。普段の大人で冷静なネロがいなくなっちゃった。レオさんに対するネロは可愛いんだよ。ヤバい。


「成る程ね。確かに、レオさんのあの勢いだと、離れた時に淋しく感じちゃうよね。分かる気がする。」


 なった気がする、って事は、昔は違ったって事ですよね。まぁ、レオさんと付き合ってたらそうなってもおかしくはない。だって、レオさんはいつもくっついてくるし、構ってくれる。いなくなると超淋しく感じちゃうよね。


「こうやって触れ合ってると淋しくなくなる?」


「それも、そうなった気がする。触れ合うと癒される。」


 更には触れ合う事すらも、レオさんに改造されていたらしい。ネロはレオさんを好き過ぎる事が判明した瞬間である。まぁ、判明したっていうか、知ってましたけどね。ネロの中のレオさんの比重がどれだけ大きいかが判明したって意味では正しいでしょう。


「ネロはレオさんに魔改造されてしまったんだね。まぁ、レオさんはチャラさ全開の触れ合い系の人だから、ある意味、納得です。」


 レオさんによってネロが変えられちゃったのは、大いに分かりますよ。ニコニコで納得していたら、ネロが嫌そうに眉を寄せてしまった。なんでそんな顔になったの。レオさんの愛によって変わったんだから恥ずかしくないよ。ニコっとしてみたけど、ネロの表情は晴れない。


 あ、でも、触れ合う事で癒されるなら、ネロはレオさんに触りたい、もしくは、触られたかった筈。それなのに、レオさんは俺を構ってくれていた。ネロ以上に触れ合ってくれていたと言っても過言ではない。


 レオさんが俺を構ってくれていたのは心配だったからなんだよ。気を遣ってくれて、俺込みのネロを好きって言葉を実践してくれたんだと思う。本来はネロが受けるべきだったレオさんの触れ合いを、俺が取っちゃってたんだ。


「レオさんは俺を構ってばっかりで、ネロは淋しかったよね。ごめんなさい。やっぱ俺がいない方が二人で仲良くできる、かな。そんな気がする。」


「見ていると、自分がしている気分になる。」


 思い至った事実に気が付いて慌てて謝ると、ネロがクスッと笑ってくれた。嫌そうに顰められていた眉は解除してくれて、楽しそうな笑顔になってる。そして、良く分からない返しをしてきた。


 ん~、している気分ってなんだ。されている気分じゃないのか。レオさんが俺を抱き締めたり、抱っこしたりしているのを見て、ネロはしている、気分になってる。うん、全く分からない。分からないなりに推理をしてみよう。


 ネロは超頭が良くて観察する能力も凄い、更には回転も凄い。見ている光景から変な変換が行われているのかもしれない。俺とレオさんのじゃれ合いを見て、俺=レオさんで、レオさん=ネロに変換される。


 結果、ネロがレオさんを抱き締めたり、抱っこをしたりって感じに思っちゃうって事かな。多分、言葉を正しく捉えるとそういう事だよね。やっぱりネロは凄い。俺には想像もつかない理論展開だった。って事は、ネロ的には辛くないって事で正しいのだろうか。


「俺とレオさんが触れ合っていても嫌な気分にならない?」


「少し嫉妬する。それが楽しい。」


 ネロを嫌な気分にさせているなら、レオさんからは少し距離を置いて接した方がいい。覚悟をして聞いてみると、返ってきたネロの言葉でちょっとだけびっくりしちゃった。嫉妬して、楽しいって凄いね。でも、ネロは嬉しそうに言ってるからホントに楽しいんだと思う。


「やっぱり、ネロは変態だね。可愛い変態。俺と一緒だった。」


「可愛いか?」


 フフッと笑っちゃって、可愛い変態仲間として迎え入れてあげましょう。ネロは不思議そうに聞き返してきたけど、どう見ても可愛いで正解でしょ。満面の笑みで大きく頷いたら、ネロが苦笑しちゃった。


「普段のネロとは全然違うのが可愛く見える。」


「そうか。」


 普段はクールで冷静で完璧なネロの隠された一面。しかも、その一面は家族である俺と、恋人であるレオさんしか見られない可愛い一面なんだよ。最高ではないか。ニコニコの俺に対して、ネロは優しい瞳ではあるけど冷静に相槌を打ってくれた。


「ネロはレオさんにもうちょっとだけ素直になって、その可愛さを見せた方がいいと思うの。多分ね、ネロが完璧過ぎてレオさんがちょっとだけ不安になってる気がするんだよ。」


「完璧か?」


 一応ね、レオさんがいない今、忠告というかレオさんへの援護をしちゃおうかな。慎重に言葉を出してみると、疑問を浮かべた声が返ってきた。疑問に思うまでもなく、あなた程完璧って言葉が似合う人を見た事がないからね。心の中で突っ込んじゃったよ。


 ネロはレオさんの気持ちが知りたいから。で、レオさんはネロに追いつきたい、並びたいって意識から。それぞれの思いの方向性は違うけど、ネロもレオさんも張り合う事が多いんだよね。しかも、なんでそんなとこで張り合ったって思っちゃう時もあるし。


 ネロの気持ちはまぁ、止められないかなって思っちゃうんだよ。ただ、レオさんに関してはちょっと同情的になっちゃう。相手が完璧なネロだもん。そりゃ、張り合って追いつきたいって気持ちになっちゃうよね。


 レオさん的には心配というか、不安になって、張り合っちゃうんだろうなって思うと、援護したくなっちゃう。でも、完璧なネロが選んだ相手がレオさんなんだから、気後れする必要はないと思うんだよな。


「ネロは完璧だと思う。頭が良くて、強くて、魔法も凄くて、声が綺麗で、顔も良くて、背も高くて、筋肉も凄い。あとは、優しくて、紳士的で、面倒見が良くて、器用に何でもできる。あ~、あとね、お茶を淹れるのが完璧で、いい香りがして、ちょっと心配症で、勘も鋭いらしい。どう?完璧でしょ?」


 ネロの完璧さ加減を羅列してみた。いいトコロはもっと沢山あるけど、思いついたままをつらつらと並べてみる。ネロは少しだけ呆気に取られた感じで聞いていたけど、どや顔で確認してみると、ちょっと微笑んでくれた。


「そんな風に見えているのか?」


 そして、少しだけ不安そうに聞き返してくる。大きく頷いて、そうなんですよって意思表示をしてみると、ネロは嬉しそうに目を細めてくれた。


「レオは?」


「レオさんか。ん~、そうだな。ちょっとだらしなくて、エロくて、かなり変態で、ちょっと爛れた生活をしてる人。でも、何気に優しくて、気配りができて、頭が良いっぽくて、物知りで、凄く話が上手くて、かなり器用で、勘が鋭くて、心配性だけど時々カッコいい事をする、エロい人。」


 ついでのようにレオさんの事を聞かれて、こっちも印象をそのままを羅列してみた。ネロはクスッと笑ってくれた。あ、ネロの前で恋人の悪口っぽく言っちゃったかも。平気かな。


「そうだな、概ね合っている。」


 ヤバいかなってハラハラしていたら、ネロが太鼓判を押してくれた。心配していたレオさんの評価は概ね正解らしい。良かった、一安心。


「レオと俺、どちらがいい?」


「ネロまでそんな事を言うの?」


「気になる。」


 楽しそうに目を細めていたネロが唐突に選択を突き付けてきた。拗ねた口調でネロを窘めてみたけど、ネロはあくまで答えを欲しがる姿勢を崩さない。また変なトコロで張り合いだしたネロに困っちゃう。レオさん関連でのネロは子供っぽくなっちゃうんだよな。


「ネロもレオさんもいい所があり過ぎて甲乙つけがたい。因みに、これはレオさんにも言ったからね。」


「レオにも聞かれた?」


 溜息交じりに、レオさんに答えたのと同じ事をネロにも答えてみると、ネロは不思議そうに聞き返してきた。確かに、あの時はネロはいなかった。ネロを待つ間の、レオさんと二人きりでの会話だった気もする。


「恋人とか夫婦って長くいると似てくるっていうけど。二人は似過ぎ。ほんとにそっくりだからね。」


「成る程。」


 答える代わりに、二人がそっくりだって言っておく。正反対な二人なのに、本質の意味ではそっくりだと思うんだもん。ネロは少し考えた様子の後で、納得してくれたっぽい。


「張り合ったって、二人のいい所は全く違うんだからね。選びようがないんです。」


「分かった。」


 最終結論、二人の長所はそれぞれ違う。だから、どっちがいいなんて答えられないんですよ。ニコっとして結論を言い渡すと、ネロは少しだけ淋しそうな顔になって、納得してくれた。そんな顔をしちゃダメ、ってネロの前髪を撫でてみる。ネロは嬉しそうに笑って、お返しみたいに俺の髪も撫でてくれた。


「じゃあ、下りていい?」


「もう少し、駄目か?」


 話は終わり、って事で、再度、予行演習の終了を伝えてみた。ネロは俺の背中に回している腕に少しだけ力を込めて、可愛く顔を傾けた。嫌だって意思表示は分かったし、言葉も甘える感じで嫌だって気持ちを押し出してきてる。


 ってか、ネロの猫耳の見せ方があざとい。傾いた頭の猫耳の角度が超可愛い。猫耳をそんな風に小道具として使うとか。あざと過ぎる。これもレオさんから学んだ知恵なのか。レオさんは碌な事をしないですね。でも、可愛いネロが見られて満足です。


「もう少しだけね。ネロはレオさんと一緒に過ごすようになってから、超可愛くなったね。」


「嫌か?」


 結局猫耳と可愛いネロには勝てませんよね。ネロの拒否の姿勢に折れて、もう少しこのままで過ごす事になった。恋人モードのネロは可愛いですねって感想を漏らしたら、ネロはクスッと笑って聞き返してきた。全然嫌じゃないし、こんなネロの一面が見られて満足に決まってます。


「超いいと思う。あんなに冷静でクールなネロが、こんなに甘えん坊だったんだってギャップがヤバい。そして、何故かレオさんにはツンツンしてるのが可愛い。途中デレまくってたのに、ツンツンに戻っちゃったね。」


「仕事が再開したからな。」


 こんなに可愛いネロを嫌と思う訳がない。ニコニコで話してみると、ネロは嬉しそうに微笑んで俺の頬を撫でながら聞いてくれる。そして、表情をすっと引き締めたネロが口を開いた。冷静で理知的な眼差しの真顔。柔らかな雰囲気から一転、引き締まった緊張感のある雰囲気に変わってしまった。


「そんなもんなの?」


「そうだ。」


 仕事とプライベートの顔はやっぱり違うんだ。出会った当初のネロとも違う表情だから、そういう事なんだね。ネロのこの表情は始めてみた。レオさんはこんなネロも、いつものネロも全部知ってるんだろうなって思うと、ちょっとだけ羨ましくなっちゃう。


「ヤバい。そのきりっとした顔はレオさんと同じくらいカッコいい。仕事用の顔なのかな。」


「きりっとしているのか?」


 仕事用のネロの表情はカッコ良くてヤバい。レオさんの仕事モードのカッコ良さに並ぶくらいカッコいい。ちょっとだけテンションが上がった勢いで言葉を漏らしちゃった。ネロは困惑した感じで聞き返してきたけど、表情はキリっとしたままだ。


「うん、普段は綺麗だけど今はカッコいい。あと、さっきの虫を攻撃する前。あの顔は怖かったけどカッコ良かった。」


 ネロの表情について語っている途中で、虫のモンスターに向けたネロの鋭い視線を思い出しちゃった。そして、ネロが苦無を投げつけてあっさりと虫を倒しちゃった事を思い出して、更にテンションが上がってしまう。


「成る程?琥珀は怯えたと思っていた。」


 ネロはちょっとだけ困惑した感じで、当時の俺を怯えた、と表現してくる。まぁね、デカい虫にビビったのは確かです。でも、ネロの表情にはちょっとしか怯えてないんです。虫にもちょっとしか怯えてないんです。ネロの腕の中で安心安全って分かってたから平気だったんです。


「えっとね、鍛錬場の時の怖い顔の10倍くらい怖い顔だった。でも、10倍くらいカッコ良かった。」


「そんな顔をしていたか?」


「してた。でも、あのモンスタースゴク大きかった。怖いね。あんな子もいるんだね。」


 鋭い目付きのネロはどんな感じだったかを説明してあげると、ネロは楽しそうに目を細めた後で、静かに聞き返してきた。そうなんですよって強い口調で肯定して、あんな大きな虫もいるんだねって感想も付け加えてみた。


 ネロが戦う姿はカッコ良かったけど、それと同時に、明らかに獰猛なモンスターは怖かった。それを投擲一本で振り向く事もなく倒しちゃうネロはヤバい。ネロがめっちゃ強いって事を目で見て確認できちゃった感がある。


「森全体に及んでいた神樹の加護が少し薄れている。この土地は色々な意味で良い土地。だから、加護の薄れた今、モンスターや魔物が活性化する。」


「あ、そうか。俺のせいだった。あれが雨になったら出てくる魔物なのかな。」


 ネロが淡々と説明をしてくれて理解できた。精霊王である神樹の力が弱まった結果、加護が薄れちゃったらしい。俺のせいで色々と厄介な事になっていると改めて気付いて、しょんぼりしちゃう。途端に、ネロが心配そうに眉を寄せてしまったのが見えた。


「ただの弱いモンスター。それに、琥珀のせいではない。族長も言っていただろ?精霊は自分の意思で行動する。」


「でも、俺がいなければそうならなかったんだよね。」


 疑問に答えた後で、ネロは慰めの言葉を続けてくれた。アルさんの言葉を思い出してみても、確かにそう言っていた。でもね、俺が元凶なのは変わらないんだよ。しょんぼりと愚痴を続ける間、ネロは心配そうな顔で髪を優しく撫でてくれる。


「その時は胡蝶とも白雪とも出会えなかった。」


「そっか、そうだよね。」


 静かに冷静に、ネロが呟いた言葉が心に刺さる。確かに、あの子達と出会う事がなかったら、今の状況にはなってない。でも、あの子達と出会えなかったとしたら、レオさんともネロともこんなに仲良くなってなかったかもしれない。


 全てが必然の中の歯車な気がしてきちゃった。俺はみんなに助けられるだけで何も返せない。それなのに、自分がみんなの歯車を回しちゃっている感覚。あの子達に助けられて、神樹や樹の子供達に助けられて、ネロにもレオさんにも助けられている。アルさんにも助けられている。それなのに、俺はみんなに何も返せない。


「俺はいてもいいのかな。」


「いて欲しい。少なくとも、俺にとって、琥珀はかけがえのない存在。」


 弱気になって小さく呟いたら、ネロがギュッと抱き締めてくれた。耳元で囁く声は低くて優しい響きで安心する。ネロは絶対に受け入れてくれるって分かってる。でも、こうやって言葉で肯定してくれるのが嬉しい。


 ネロに抱き着きながら小さく溜息を吐いてしまうと、ネロが更に力を込めて抱き締めてくれた。圧を感じる程に強い力で抱き締めてくれるのが嬉しい。優しくそっと包まれる感じで抱き締められるのもいいけど、こうやってネロの力を感じるとほっとする。


 ネロがいてくれて良かった。こうやって、俺を繋ぎ留めてくれる感じで抱き締めてくれるネロの存在が嬉しい。ネロの力を感じながら、ネロの首の後ろに回した左手で、右手の人差し指に嵌まった指輪を撫でてみる。蝶と雪の結晶の形を指でなぞりながら思う。この子達と出会った事は否定したくない。


 でも、その結果、森の加護が無くなって強い子達が出てきちゃった。モンスターも魔物も活性化しているっぽい。森全体に影響が及んでいる証拠だ。ネロが俺のせいじゃないって慰めてくれても、俺が元凶なのは確かなんだよ。俺は何ができるんだろう。何かをしたいのに、俺には何の力もない。


「神樹の加護は直ぐに元に戻る。今日も樹の精霊は増えていた。琥珀の想いが樹の精霊を癒す。」


「うん、この前より数が増えてたから、ほっとした。俺が会いに行ったら、あの子達は元気になってくれるのかな。」


 ネロの声が優しく響いている。慰めてくれる優しい言葉だ。ギュっと抱き締めて慰めてくれるネロに感謝だ。ネロの言葉通り、会いに行く事で樹の子供達も神樹も癒されてくれるかな。俺に唯一できる事はそれだけなのかな。


「琥珀が悲しむと精霊も悲しむ。」


「そうだよね、あの子達が頑張ってくれたから胡蝶と白雪は旅立てたんだよね。」


 更に続けたネロの言葉が心に響く。ネロの首に回した腕を離すと、ネロも腕を緩めてくれた。ネロの言う通りだ。もう起こってしまった事を悲しんでいたら、樹の子供達も悲しんじゃう。


 あの子達は俺の気持ちに呼応して思いを伝えてくれてた。元気がない状態でも、俺の想いに答えて返事をしてくれた。あの子達が力を沢山使って、数を減らしても、胡蝶と白雪を送ってくれた事は否定しちゃ駄目だ。悲しんでは駄目、だよね。


「気落ちするより感謝を伝えた方がいい。」


「うん。ネロ、ありがとね。」


 全く以て、ネロの言う通りだ。悲しむより感謝を伝えるべき。優しく見守ってくれるネロのおかげで気分が落ち着いてきた。ホントにネロといると安心する。アルさんともレオさんとも違う、包み込んでくれる安心感が心地いい。もう一度、ネロにギュッと抱き着いて離れると、ネロが首を可愛く傾けた。その耳の角度が可愛いんです。


「下りる時間です。」


「駄目だ。」


 ネロの猫耳に和みながら、もう終わりって伝えてみた。優しい微笑みで、駄目、と言いながらもネロは腕を解放してくれた。下りる前に、ネロの首に腕を絡めて頬にお礼のキスをする。顔を離してニコっとしてから下りる事にした。


 ネロの膝から下りる直前で、ネロが背中に片腕を回して抱き留めてきた。疑問に思う前に、ネロは顔を寄せて俺の首筋に唇をつけて離れた。


「お返し。」


 低く呟いたネロはニコっといい笑顔だ。そして、もう一度ギュッと力強く抱き締めて腕を離してくれた。超イケメンなネロだった。ヤバかった。チャラい行動すらも、チャラくなくてスマートとか、ネロは凄いな。


 俺に対してのネロは流れるように物事をこなす、超イケメンで紳士でカッコいいネロなんだよ。それなのに、レオさんに相対したネロは途端にツンツンして、冷たく突き放しちゃう。なんでそんな態度なんだろう。


「ネロはやる事がスマートでカッコいいのに、なんでレオさんにはクールでツンツンなの。」


「照れる。」


 ちょっとだけ責める口調で言ってみると、ネロがふいっと顔を逸らして一言ぽつりと呟いた。そっぽを向いてしまったネロを、膝の上に乗った状態でぽかんと眺めちゃう。


 今、照れるって言ったよね。照れる、だよね。ヤバい、照れてるんだ。レオさんは恥ずかしくて素直になれない。ネロは照れてツンツンしちゃう。言葉の破壊力がヤバい。このカップルは何なの、超可愛いんですけど。


「ネロは可愛いね。レオさんに対してもっと素直になれるといいね。」


 ネロの頭を撫でて、優しく言葉を掛けてあげる。ネロは顔を逸らしたままでコクって頷いてくれたから、ネロの膝から下りてネロの隣に座り直す。


 そして、冷えてしまったお茶を飲みながらネロに目を向けてみた。ネロは背もたれに寄り掛かって、ぼーっと空中を見ている。ちょっと恥ずかしかったらしい。メッチャ可愛いんですけど。


 レオさんの子猫状態も可愛かったけど、このネロもヤバい。ネロがそっぽを向いて照れる、とか、ヤバい。あのネロをレオさんに見せてあげたかった。きっと惚れ直すどころの話じゃないよね。


「ネロ、大丈夫だよ。沢山練習をすれば、いつかは照れずにレオさんに甘えられると思う。」


 ちょっとだけ脱力状態のネロを応援してみる。ストイックなネロに合わせて、練習という単語を混ぜてみた。ネロはゆっくりと目を合わせて、頷いてくれた。そして、優しくて穏やかな笑顔を見せてくれる。


「練習、付き合ってくれるのか?」


「勿論。ネロは熱心だから直ぐ上達する筈。大丈夫だよ。」


 ネロが探るような口調で問いかけてくる。レオさんとのラブラブに向けて、ネロがやる気になってくれて嬉しい。勿論、って答えながらニッコリすると、ネロも嬉しそうに目を細めてくれた。


「少し、不器用かもしれない。」


「対レオさんだと、ネロは確かに不器用になってる感があるよね。って事は、秘密の特訓あるのみ、かな。」


 困った感じで呟くネロの言葉にちょっとだけ納得して、特訓を提案しちゃった。だって、ネロを応援したいじゃん。ネロはレオさんに対してだけは不器用な感じになっちゃうんだもん。


 何でも卒なく熟すネロなのに、何故か好きな人に対してだけは不器用になっちゃうらしい。まぁ、そこが、レオさんだけは特別って感じがしていいトコロでもあるんだけどね。


「秘密か?」


「うん、秘密。」


 ネロが秘密という言葉に反応してきた件について。金色の瞳が興味津々って感じでキラキラしてる。悪戯っぽく、秘密ですよって返してみると、ネロも悪戯っぽく笑って頷いてくれた。ネロのノリがレオさんっぽくなってる。


 無表情な真顔しかしなかった頃のネロとは全然違う。家出の前、要するに、レオさんと一緒に過ごすようになる前のネロは、俺の前では微笑みと時々笑顔だけだった。


 今は、多くはないけど、時々こうやって色々な表情を見せてくれる。ネロをこんなに変える事ができたレオさんは凄い。レオさんだからできた事なんだろうな。


「レオにすぐ白状させられる?」


 ネロは悪戯っぽい顔をキープして、レオさんを話題に出してくる。そうだね、レオさんには確実に白状させられる未来しかない気がしてきた。でもね、ばれちゃっても、可愛く甘えるネロをレオさんに知られるだけだから、全然平気な気がする。


「それはありそうで怖い。なるべく頑張るけど、ばれても可愛いネロが明るみに出るだけ。ダメージは少ないから平気だと思うんだけど、どうだろう。」


 にっこり笑顔でばれても平気なんだよって言ってみたら、ネロが嫌そうに眉を寄せちゃった。成る程ね。レオさんにばれると恥ずかしいって事か。中々難しい問題だ。


 だってね、コソコソしてたら絶対レオさんに感知されちゃうもん。その結果、全てを洗いざらい話す事になっちゃう未来しか見えない。


「ん~。あ、でも、ばれたら、レオさん公認で練習ができる気がしてきた。レオさんの前でイチャイチャしたフリをすれば、レオさんが嫉妬でネロを奪いたくなる気がする。レオさんは恥ずかしがってるだけだから、きっとそうなる、と思う。」


「成る程、それはいい考えだ。」


 色々考えて、レオさんに白状させられた後の利点を説明してみたら、ネロが急に乗り気になっちゃった。しかも、目を輝かせて楽しそうな笑顔なんですけど。なんでいきなり乗ってきたの。さっきは嫌そうな顔をしてたじゃん。


 急に楽しそうになったネロに困惑してしまう。だってね、レオさんに見せつけたいって願望があるって事でしょ。ネロの性癖も倒錯し過ぎていて、良く分からない事になっている事実だけは分かった。でも、それでいいなら、それでいいか。一件落着。


「ネロ、いるか?」


 ソファでネロと並んでまったりと時を過ごしていたら、外からレオさんの声が聞こえた。ネロは動く気配も反応もせずに俺を眺めている。ネロは出迎える気はないらしい。って事で、俺がお出迎えをする事にしましょう。

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