190 何が欲しかったの?
家に到着しても、家の中まで抱っこの状態だった。家に入って、レオさんがそっと下ろしてくれて、〈シール〉を解除してくれる。跪いたレオさんが俺のサンダルを脱がせてくれるみたいだから、お任せしてみる。レオさんの肩に手を置いて、ぼんやりしている間に、ネロがベッドを片付けてくれている。
ネロの詠唱の声を聞きながら、ぼんやりとレオさんの猫耳を眺める。顔を上げたレオさんがニコっとしてくれた。完了したらしい。レオさんは自分の〈シール〉を解除しながら靴を脱いでテーブルに向かって行った。
レオさんにくっついて移動すると、レオさんが頭を撫でてくれる。テーブルを動かすレオさんを手伝って、俺も椅子を運ぶ事にする。俺の椅子は誕生日席のままにしておこう。ネロの隣だと近過ぎだからね。
あ、いい事を考えちゃった。ネロとレオさんを隣同士にすればいいじゃん。で、椅子をくっつけたらラブラブじゃん。思いついた妙案に、にこにこと笑顔になりながら椅子を抱えて移動を開始する事にした。
「あのな、流石に俺とネロ並んだら狭いから。俺達は体がでかいの。ちっちゃくて可愛いお前とは違うんだよ。」
椅子を抱えて少し動いたら、レオさんに止められてしまった。椅子を一旦床に下ろしてちょっと考えてみる。まぁ、確かに二人が並んだら狭そうではある。でもね、狭いからこそいい事もあるじゃん。
「でもね、隣同士だと、ラブラブであーんとかできるよ?」
「それは恥ずかしいだろ。」
にこにこしながら、狭いからこその利点を推してみる。レオさんは驚いた顔をして一瞬止まった後で、顔を逸らしてしまった。そして、ボソッと呟く声が聞こえる。今、恥ずかしいって聞こえた気がする。
「恥ずかしくないでしょ。俺とはしてたじゃん。めっちゃ楽しそうだった記憶があるんですけど。」
「お前からのは餌付けなんだろ?俺のはお返しだよ。」
何が恥ずかしいって言うんだ。レオさんを見上げて意見をしていると、レオさんの視線が戻ってきた。そして、レオさんは嬉しそうな笑顔で反論をしてくる。
「ん~、同じでしょ。ネロにあーんして貰って、お返しをすればいいじゃん。」
「それは、なんというか。恥ずかしい。」
俺からが餌付けって言うなら、ネロは何なの。ネロのは恥ずかしいって事は何かが違うんでしょ。何が違うの。レオさんを見つめて聞いてみたら、レオさんがまた顔を逸らして、小さな声で呟いてくる。
めっちゃ恥じらってる。レオさんが恥じらってますよ。この横顔の表情、少し倒された猫耳、伏せられた目。めっちゃ可愛く見えてくる。これは、キュンってくるヤツだ。
そして、理解しました。恋人へのあーんは恥ずかしいって事ですよね。子供へのあーんとは違って当然でした。理解はしたけど、意識しなかったら恥ずかしくない気がする。
「恥ずかしくないよ、俺にするのと一緒だって思ったら全然恥ずかしくない。」
優しい声で言い聞かせ風に言ってみたけど、照れたレオさんの視線は戻ってこない。返事もしてくれない。そっか、一緒には思えないか。ネロには恥じらっちゃうレオさんは可愛いですね。
レオさんと椅子の配置で協議している間にも、ネロは黙々と食事を並べていってくれている。結局、レオさんの抵抗にあって、椅子の移動はできなかった。だから、ネロと俺とレオさんでコの字型で席に着く事になっちゃった。
ネロに対しては恥じらいが満載になっちゃうレオさんは可愛いと思う。でも、恥ずかしがらなくてもいいのに、とも思っちゃう。普段通りのレオさんを出しちゃえばいいのに。と、思ってしまう今日この頃ですよ。
今日の朝ご飯も美味しそう。スクランブルエッグとソーセージ、小さなグラタンの小皿とグリーンサラダがワンプレートの上に綺麗に盛り付けられている。ポタージュスープの小さな器とマフィンの小皿も横に置かれていて、豪華な朝ご飯って感じだ。
ネロとレオさんの朝ご飯はサンドイッチだ。大量のサンドイッチが大皿に盛りつけられている。二人で仲良くシェアして食べるらしい。お肉と生野菜、卵とベーコン、二種類だけっぽいけど美味しそう。
いただきます、と手を合わせると、二人も祈りを始めた。二人が顔を上げた所で食事の開始だ。今日は二人の観察から始めようかな。いつもは見守られからのスタートだから、お返しに見守りからのスタートですよ。と思ったら、二人も食べずに俺を眺め出した。
「なんでこっちを見るの。食べていいよ。」
「お前こそなんで見てるんだよ。さっさと食べ始めろ。」
優しい微笑みの二人は食べ始める気配がない。ストレートに食事のスタートを促してみたら、ネロは不思議そうな顔をしちゃて、レオさんは言い返してくる。レオさんは言葉がきつくて怖いですね。目付きも鋭くて怖いですね。そして、ネロは優しくて和みますね。
「いつもは見守ってくれるから、今日は観察の日にしたの。」
「へ~、成る程ね。じゃあ、食うわ。」
二人の対比を分析しつつ、見守りでスタートの日なんですって言い切ってみる。レオさんは直ぐに納得して前を向いてくれた。ネロもコクっと頷いて前を向いてくれる。
二人はお互いに見つめ合った後で、同時にサンドイッチに手を伸ばして食べ始めた。二人の息はぴったりで、1つ目を食べ始めるのも食べ終わるのもほぼ同時。ってか、食べるの早。
「二人は食べるのが早いね。」
思わず感想を漏らしてしまったら、二人が同時に顔を向けてきた。ネロは優しく微笑んでいて、レオさんも同じくらい優しい顔をしてる。優しい眼差しの深い緑の瞳がいいですな。凄く落ち着く色。
「まぁ、仕事柄、早食いにはなってるかもしれない。」
レオさんが穏やかな口調で答えてくれた。ネロは言葉を挟まずに微笑んでるから、レオさんに同意って事なんだと思う。仕事柄、って言われると納得の理由だった。護衛さんだもん、急がないといけない時もあるよね。
「成る程。護衛さんは大変なんだね。俺はゆっくり過ぎかな?」
でもね、二人の食事のスピードが早過ぎるから、自分の食事の速度が遅い事が心配になってきちゃった。二人はいつも俺の食事が終わるのを見守って待っていてくれる感があるもん。
「ゆっくりではある。でも、琥珀の食事する姿をまったりと眺める時間が落ち着くんだよ。俺達はまったりできるから、そのままでいいんじゃね?」
「そっか。」
レオさんはのんびりとした口調で優しく答えてくれる。今度のネロはうんうん、と頷いているから、確実にレオさんと同意見らしい。二人は優しいな。笑顔で相槌を打つと、レオさんがニコっとしてくれた。
では、俺も食事を始めようかな。目の前の食事に目を落として、ポタージュスープからに決めた。器を引き寄せて、木のスプーンでちょっとかき混ぜて、口に含んでみる。甘くて美味しい。塩味と甘みのバランスが絶妙な美味しいスープだ。
「ネロは甘いのが苦手でしょ?食事の甘いっぽいのもダメなのかな。」
「食事の?」
顔を上げてネロを見つめると、ネロが俺を見てくれた。ネロは甘いのが苦手って知ってるけど、食事の甘いのはどうなんだって気になっちゃったんだもん。聞きたくなっちゃったんです。ネロは不思議そうな顔で聞き返してくる。
「このスープみたいなの。」
「一口くれるか?」
このスープはどう?って、説明を付け足してみると、ネロが味見を要求してきた。ネロの望みに応えて、身を乗り出したネロの口元にスープを運んでみた。元の位置に戻っていくネロをじーっと見つめて様子を窺ってみる。味を分析しているらしく、ネロは考え込んでいる。
「甘めだが、他の食事と合わせてなら食べる。」
「じゃぁ、スイーツの甘いのが苦手なだけか。」
ネロが分析した結果、これはイケる味らしい。前に甘みの強いカレーも食べてた。って事は、食事で甘い系はある程度までは許容範囲って事だ。成る程、っと頷きながら独り言っぽく意見を言ってみた。
食事の甘いのはネロと美味しさを共有できるって分かってちょっと嬉しい。俺の好みの味とネロの好みの味は真逆だからちょっと悲しかったんだもん。
「かもしれない。」
ネロは少し考えた後で、静かに同意ともとれる返しをしてくれた。納得できたトコロで、マフィンをちぎって口に運んでみる。バターの香りと優しい甘さがとっても美味しい。モグモグと口を動かしながら顔を上げると、ネロはまだ俺に目を向けていた。
これはお食事に付随するマフィン。って事は、これも食事の甘さ、だよね。にこっと笑顔でネロを見つめると、ネロが戸惑った顔になってしまった。なんでそんな顔になっちゃったんでしょうね。更に、にっこり笑顔を顔に張り付けて、マフィンを小さくちぎってネロに差し出してみる。
「これは大丈夫なやつだった。全然甘くないよ?食事と一緒なら大丈夫な甘さだよ。」
「お前は何気にドSだよな。」
ニコニコで、さぁ食べてみようね、とネロにマフィンを差し出していたら、レオさんのボソっと呟く声が聞こえた。う、確かにそうかもしれない。今、俺はネロを困らせるのをちょっとだけ楽しんでしまった感がある。これはイケない。
レオさんにちらっと目を向けて、ネロに差し出したマフィンはそのまま自分の口に放り込む。これで証拠隠滅が完了しました。俺がドSな証拠はどこにもない。そして、冗談にしてしまえばおっけーでしょう。
「そんな事はないですよ、やだなぁ。冗談だったもん。ね、ネロ。冗談なんだよ?」
早口で冗談だよ、って言い切って、テーブルの上に目を向ける。さて、食事に集中しましょうか。朝からグラタンがあるとかいいね。豪華な感じがする。手が込んでいて、美味しそう。
木の小さなスプーンを差し入れると、香ばしいチーズが割れてふわっと蒸気が漏れて出てきた。ホワイトソースとチーズの濃厚そうな感じがメッチャ美味しそう。バターと香辛料の香りも食欲を刺激してくる。
具は鶏肉と玉ねぎっぽい。少しだけ息を吹きかけて冷まして、口に入れてみる。胡椒が効いていて、少しだけピリッとしてる。甘めのホワイトソースは優しいミルクの味なのにピリッと刺激があるのがかなりいい。
もう一度スープを飲んで、今度はサラダを食べてみる。ハーブソルトで和えられたシャキシャキ野菜は、爽やかな美味しさだ。野菜の甘みと仄かな青臭さも絶妙で口の中がさっぱりした。
お次はソーセージを頂こう。ナイフで切らずに、フォークに刺してそのまま齧ってみる。普通のソーセージじゃなかった。ほんのり柑橘の香りがして、スパイスかハーブのいい香りもする。あんまり脂っぽくないソーセージで滅茶苦茶美味しい。
「このソーセージ。超美味しい。一口食べてみる?」
やっぱり、美味しい味はお裾分けしたくなっちゃう。顔を上げて、二人を交互に見て聞いてみたら、二人は優しく頷いてくれる。まずはレオさんにフォークに刺したソーセージを渡してみた。手渡そうと思ったんだけど、レオさんは顔を寄せて直接齧ってきた。
モグモグと口を動かすレオさんに続いて、レオさんが齧ったのとは違うソーセージをフォークに刺してネロに差し出してみる。ネロもそのまま直接口で迎えてくれて、俺を見つめながら味わっている。
レオさんの豪快な食べ方に対して、ネロの食べ方の上品な事。レオさんは美味しそうにモグモグしてて、ネロは真顔に近い感じで静かに口を動かしてる。レオさんとネロを交互に眺めながら、どうかなってワクワクと待ってみる。
「確かにさっぱりしてて美味い。ひと手間加えてる感じがいい。」
「美味い、香りがいい。」
「でしょ。これは大当たりですね。美味し過ぎる。」
レオさんが嬉しそうに味の感想を言ってくれて、ネロも目を細めて同意してくれる。二人の反応に満足して食事に戻る事にした。スクランブルエッグはクリーミーで間違いなく美味しい。結論、今日の食事も全部美味しい。
ゆっくりとプレートの料理を味わって完食。そして、スープも美味しく食べ切った。最後は残っているマフィンをゆっくりと楽しむだけだ。甘さは控えめだけど、朝からデザートって感じが嬉しい。
マフィンを食べ始めたら、ネロがお茶を用意してすっと置いてくれた。もうね、ネロはある意味、執事っぽい。かゆい所に手が届く感じがスゴイ。行動に合わせて、直ぐに何かを用意してくれるのがヤバい。
「ありがと、お礼にマフィンはいかがでしょうか。」
「マジで、お前はドSだよな。」
にっこり笑顔でお礼を言いながら、ネロに向かってマフィンを差し出してみる。ぼそっと呟かれたレオさんの声が聞こえてきた。ギクッと手を止めて、レオさんに目を向けちゃう。
レオさんはしれっとした態度で、爽やかな笑顔を浮かべていた。ちょっとだけキラキラに見えるエフェクトを背負っている錯覚が怖い。ほんっと、イケメンってイヤですね。そうやって爽やか好青年のフリができちゃうんだもん。
静かにマフィンをお皿に戻して、優雅にお茶を楽しむネロをイメージしてお茶を頂く。今日のお茶も美味しい。香りも、味も、苦みも、渋みも、甘みも完璧なお茶。そして、温度は最適を通り越して最高。一番美味しく感じる温度な気がする。冷えても美味しいお茶だけど、この温度が一番美味しく感じる。
「レオさんの方がドSだよね。」
優雅にお茶を楽しむ合間に、ネロに顔を向けて笑顔で同意を求めてみる。ネロは微妙な顔をしながらも頷いてくれた。笑顔をキープして俺も頷き返しておく。
うん、ネロは同意してくれた。微妙な顔をしてるのがちょっとだけ気にならなくもないけど。一応は同意をしてくれたって事は、レオさんのほうがドSで正しいって事だ。俺は平気な部類だった。
「俺は優しいだろ?S要素は限りなくない筈。時々興奮して出るくらい、だと思う。」
「へぇ。そう。」
レオさんが冷静な口調で言い返してきた。レオさんを流し目で見ながら笑顔を浮かべて相槌を打ってみる。レオさんの目がスッと細められた。なんというか、スゴク、かっこよく見える表情だ。大人の色気的なのが見え隠れしてる感じがする。
流し目で見てた筈なのに、ガン見しちゃった。俺の目がおかしいのか、レオさんが落ち着いためっちゃ色気のある大人に見えてくる。口角が上ったニヒルな感じがヤバい。レオさんはこんな大人な感じだったっけ。
レオさんと目を合わせて、レオさんの表情をじっくりと眺めていると、レオさんがゆっくりとネロに向き直った。レオさんの視線を追いかけて、俺もネロを見てみる。ネロはレオさんを見ていた。ただし、超冷めた目だ。めっちゃ冷ややかな目付きになってる。
「これはいかん。仕事に行けなくなりそうだ。なんというヤバさ。」
「仕事は仕事。」
二人の見つめ合いを横から観察していたら、レオさんが熱烈な口調でネロとの別れを惜しみだした。なんでイキナリそうなった。ネロの冷ややかな視線が何かしらの意味合いを持っていたのだろうか。そして、ネロよ、そんな冷たい口調で正論はレオさんが可哀想だから。
「く、そうだよな。くそ、行きたくねぇ。」
「レオさん、お仕事頑張ってきてね。あっ、レオさんがお仕事の間はネロを貰っちゃおうかな。」
マジモードで嘆いているレオさんはちょっと可愛い。ニッコリ笑顔でネロを貰う宣言をしてみたら、レオさんがゆっくりと目を合わせてきた。驚きの表情の中に悲しみの表情が見え隠れしてる。ネロが取られるって思って驚きと悲しみが押し寄せちゃったらしい。
そんな顔をしなくてもいいじゃん。普段のネロはレオさんのモノなんだから、少しくらい貰ってもいいでしょ。レオさんはケチですね。心の中で軽く文句を言っていたら、レオさんが読み取ってしまったらしい。レオさんの表情が変化して呆れた顔になってしまった。
ネロは幸せそうな顔をしている。どうやら、レオさんの想いが嬉しかった模様。視線は俺に向いてるけど、レオさんへの想いが抑えきれないってのは分かってるんですよ。ネロと目を合わせてニコっとしてみた。
ネロはスッと真顔になってレオさんに顔を向けてしまった。どうやら恥ずかしかったらしい。ネロもレオさんも、俺の前ではいちゃつくのを恥ずかしがる傾向にあるのを何とかしたい。二人の楽しそうな恋人の風景を眺める事で、俺も幸せになれるのに。
二人で見つめ合ってるから、邪魔をしないようにお茶を楽しむ事にしよう。お茶を一口飲んで、マフィンを一口食べる。優雅過ぎるひと時で、まったり感がいい。
そう言えば、お茶しか飲んだ事がないけど、コーヒーとかはないのかな。ネロは好きそうな気がしないでもない。後で調べてみようかな。コーヒーか。あるとすれば、中の大陸か、北の大陸の食料品のトコ辺りに載ってそうな情報だよね。流石に東の大陸にはない気がするかな。
「そう言えば、琥珀。」
「ん?」
コーヒーについて思考を飛ばしていたら、レオさんに声を掛けられた。顔を上げて疑問を返してみる。レオさんはネロとの見つめ合いを終わらせちゃてた。折角の恋人のひと時だったのに、勿体ない。
「昨日、本棚の本を見ながら何かを欲しそうにしてたよね。何が欲しかったの?」
「昨日?本棚、ん~、なんだっけ。」
唐突に聞かれても、分からないよ。俺は何を欲しがってたんだろ。記憶に御座いません。
「寝室から薄い本を持ってきて、本棚に入れた後で考え込んでただろ?で、ネロに恐怖してたでしょ。」
薄い本。なんか、表現方法が違う意味に聞こえる。でも、分厚くない本は薄い本で正解だよね。レオさんは正解。ってか、ネロに恐怖で思い出した。あれか、ブックエンドが欲しいって考えたら、ネロに即行で聞かれたヤツだ。
「で?何が欲しかったの。」
「ブックエンド。」
俺の表情から思い出したって判断したらしく、レオさんが間髪を容れずに聞いてくる。さらっと聞かれて、さらっと答えてしまった。レオさんが、成る程、って感じで頷いてくれる。
「ほぅ?成る程ね~。じゃあ、明日はデートしよ。明日は朝から仕事だから、昼からはフリーなんだよね。」
「レオさん、誘導尋問は良くないと思います。」
スゴク爽やかな笑顔を浮かべたレオさんが唐突にデートのお誘いをしてきた。デートって言うか、ブックエンドを買ってくれる的な流れですよね。これはイケない。レオさんに騙されてしまった。口車に乗ってしまった感がある。むっと睨んで、静かに文句を言っちゃいますよ。
「全く誘導尋問じゃねぇだろ。普通の会話だった。」
「お金がないんです。貧乏な子なんです。」
レオさんの言う通りです。普通の会話で適当に答えた結果でした。でも、買いに行くって流れじゃん。俺は貧乏なの。極貧なの。涙目でそんなものを買うお金はないんです。涙目風で訴えちゃう。
「成る程ね~。でも、俺は金持ちだから気にするな。」
レオさんが楽しそうに目を細めて、自分は金持ち宣言をしてきた。この感じがレオさんっぽくてクスッとなっちゃう。レオさんとお喋りをしてると、いつの間にかレオさんのペースに乗せられちゃって、それが楽しい。
「レオさんは面白い事を言うね。」
「面白い要素がどこにあったんだよ。ってかね、魔法のスクロールを買いに行くから付き合って。その駄賃にブックエンドくらい買ってやるよ。」
素直な感想を漏らしてみたら、レオさんが楽しそうに目を細めた。そして、デートに誘った理由を説明してくれる。普通に自分の用事に付き合って、的なノリだったらしい。魔法のスクロールを買うって、何の魔法を買うつもりなんだろ。気になる。
「何の魔法を買うの?」
「『浄化』と『乾燥』。」
普通に聞き返してみたら、聞き慣れた魔法の名前が返ってきた。レオさんは〈浄化〉と〈乾燥〉をホントに覚える気らしい。メッチャ行動が早い。スクロールを買うって事はスクロールで魔法を覚えるんだよね。是非、魔法を覚えるトコロを見学してみたいんですけど。
「魔法を覚えるんだ。凄いな、いいな~。覚えるトコを見たいな~、駄目かな?」
思わず超見たいって思いを伝えてしまった。ワクワクで目を輝かせちゃってる自覚はある。でも、仕方ないじゃん。魔法を覚える瞬間を見られる可能性があるんだもん。こんな機会はあんまりない、筈。だって、魔法だよ。しかも、スクロールから覚えるんだって。凄いな~、どんな感じなんだろう。
「うちでならいいよ。来る?」
レオさんは笑顔で即、快諾してくれた。やった。超嬉しい。楽しみ過ぎてワクワクが止まらない。ヤバいですよ。明日が楽しみでヤバい。早く明日になって欲しい。スクロールか。どんな感じなんだろう。
「うん、行く。レオさんが魔法を覚える瞬間に立ち会えるとか、超嬉しい。テンションが上がってきちゃった。楽しみ過ぎてヤバい。早く明日にならないかな。もう寝たら明日になるかな。」
ニコニコで待ち遠しい気持ちを全開で言葉に出しちゃったら、レオさんが頬を緩ませてくれた。レオさんの眼差しが微笑ましいモノを見る目付きになってる。ネロと同じ、親の目線っぽい気しかしない。
ってか、普通に子供っぽい意見だった。喋りも子供になってた。俺の子供っぽさを許容してくれるレオさんに感謝だ。レオさんと話してると、ネロとは違う方向性で子供になってしまうんだよ。
「お前は可愛いな。」
嬉しそうに呟いたレオさんの声が聞こえた。その言葉を聞いて、満面の笑みでレオさんを見つめちゃう。レオさんが少しだけ戸惑った顔になったのが分かった。普段の俺なら、そのチャラさに反発している筈だから、そんな顔になっちゃったんでしょう。でもね、今の俺は違うんですよ。
「そう、可愛いんです。良かったね、可愛い子が家に遊びに来るよ?お茶も用意しなきゃね、後、カップも用意しなきゃだった。お客さん用のカップとお茶は必須なんだよ。」
レオさんの言葉を利用して、要望を伝えてみた。だってね、レオさんの家にはお茶がないんだもん。カップも1つなんだもん。レオさんの家はお客さんが沢山来るのに、レオさんは雑だからお客様用の用意が何もないんです。この機会に、女の子をちゃんともてなせる用意をした方がいいと思うんだ。
レオさんの表情から戸惑いが消えて、嬉しそうな笑顔になってくれた。うんうん、って頷いてくれたから、要望は通ったと考えてもいいのかな。レオさんの家でも美味しいお茶が飲めそうで良かったです。
「って事で、明日の昼から夕飯まで琥珀を貰う事になった。」
レオさんがネロに向かって、ふふんっと満足そうに報告をしている。ネロは真顔でレオさんをじっと見つめている。何の感情も浮かんでいない、気がする。でも、ネロの眉がぴくっと反応したのは見えた。ネロは不満っぽい。
ってか、ネロも一緒に行くのに、なんでレオさんは変な言い回しをしたんだろう。ネロとレオさんのデートって事なんだよね。そこに俺がくっついてくだけなんでしょ。二人の恋人関係が周囲にばれない為のカモフラージュ的な存在としての俺、じゃないのかな。
「ネロは一緒に行かないの?」
「行く。」
恐る恐る、ネロに確認を取ってみる。ネロはこっちに顔を向けてキラッキラな眩しい程の笑顔になってくれた。そして、嬉しそうに肯定してくれる。そうだよね、ネロも一緒で間違いなかった。レオさんとのデートにネロがいないなんておかしいもん。
ネロが嬉しそうな顔になった反面、レオさんが不満そうな顔になってしまった。なんでそんな顔になってるの。何が不満なんだろうか。ネロと二人の方が良かった的なヤツかな。
「待て、俺と琥珀のデートでしょ。デートってのは普通、二人っきりってのが定番なんだよ。ネロは家で留守番だろ。」
あれ、違った。俺とのデートだったんだ。レオさんは強めの口調で、ネロは待機というスタンスを崩さない。ってか、少しだけ理解できた。レオさん的には、ネロの連れ子の俺との親交を深めたいっていう目的なんだ。俺を込みでネロがいいって言ってくれたレオさんだ。きっとそうなんだと思う。
「許可できない。」
「お父様の許しが出なかったので行けなくなりました。ごめんなさい。」
ネロが鋭い視線をレオさんに向けた。そして、冷たく拒否を突き付けてる。ネロ的には恋人とはいえ、子供を他人に預けるのは心配ってトコなんだろう。まぁ、仕方ない。魔法を覚えるトコを見てみたかったけど、今回は諦めるしかない。レオさんにも適当に謝っておこう。
「お父様って誰だよ。ネロの許可は必要ない、お前が選べばいいだろ。大人しくついてこい、魔法を覚えるトコを見たいんだろ?」
レオさんが片眉を上げてネロを睨んでいる。その横顔はキリッとしてカッコいい。鋭い視線の緑の猫目がヤバい。そして、レオさんは俺に目を戻して、真剣な眼差しで心を揺さぶる誘いを続けてくる。
うぅ、魔法を覚えるトコロは確かに見たい。正直、行きたい気持ちが強い。でも、ネロが心配する気持ちも分かる。家出をしてネロをスゴク心配させちゃったのを理解してる。だから、できるだけネロの意向には沿いたいんです。




