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18 冗談、だよな?

 見上げた先でネロと視線が合った。驚いた顔を崩さず固まったままのネロに首を傾げてみる。ネロは固まったままで動かない。


「おはよう。」


 声を掛けてから、立ち竦んだままで動く気配のないネロを置いて池で顔を洗ってしまう事にした。顔をマントで適当に拭いて、両手で水を掬って神樹と呼ばれた古木の根に掛ける。顔を軽く振って髪についた水気を飛ばしてネロの所へ戻った。


 ネロはまだ呆然と立ち尽くしたままで、表情も固まったままだ。いや、ネロはカッコいいんだから、もっときりっとしようよ、心の中で呟いてしまう。でも、どんな顔をしててもやっぱり綺麗とか美男はいいねぇ、としみじみ思ってしまう。


 そう、改めて落ち着いて観察してみたけど、ネロは驚いて口を半開きでも、目を瞠っててもヤバい程の美形なんだよ。それに猫耳が付いてるとかヤバいよね。もうね、完全に美猫なんだよ。美しい猫と書いて美猫。黒くてカッコいくて綺麗な猫。ヤバい。


「昨日はごめん。俺は実は貧弱なんだよ。だから、強い力を出されると直ぐダウンしちゃうんだよ。マジ気を付けて。」


 びしっとネロに向かって指を突き出してみた。呆然としていたネロは、のろのろとこちらに顔を向けてくる。驚いた顔がだんだんと無表情に変わっていく過程が見てて面白い。


「すまない。」


 一言だけ発したネロはその後、無言で俺を見つめてきた。間が、持たない。それ以外に言いたい事があるから待ってたんじゃないのか?全く表情のない真顔で見てくるネロからは、何も情報が読み取れない。


「で、用事でもあったのかな。わざわざここに来てくれたって事は何かあるの?。」


「あ、食事を用意したいのだが、」


「おぉ、まじで??嬉しい。ありがとう。」


 ネロが話している最中だったけど、余りの喜びに会話を遮って抱き着いてしまった。いや、マジでもう、ご飯とか無理って思ってたからテンションが上がってしまった。俺が抱き着いたら、ネロがびくり、固まってしまった感じがある。


 テンションが上がったからって、知らない人に抱き着くのは駄目だった。急いで体を離して、今日はあのガタイのいいおっさんはいないんだね。と話題を変えるように話し掛けてみた。まぁ、話題を変えると言うか、あの鯖虎さんがいなければ村に移動できなさそうかなって疑問もあったし。


「琥珀は軽いと聞いた。俺が運ぶ。心配であればヤミを連れてくる。」


 俺の疑問に答えて、ネロが覇気もなくぼそぼそと喋っている。後ろに倒した耳と、だらんと垂れた尻尾、明らかに、見た目で気落ちしてる感じがする見た目だ。猫の感情表現がバリバリ出てるよね。心配になって、下から顔を覗いてみると、金色の瞳が不安そうに揺らいでいた。もしかして、俺を害したと思って気にしてるのかな?


「俺、HP1だから、直ぐ死ぬんだよね。まぁ直ぐ復活するけど。」


 安心させるように明るく話し掛けてみた。俺の話を聞いたネロが目を見開いて俺を見つめてくる。真意を探るネロの目を真っ直ぐに見つめ返してみる。


「冗談、だよな?」


「冗談に聞こえるかもだけど、事実。昨日俺は死んだの。で、ここで復活。呪いみたいなもんだから、気にしないでいいよ。」


 また驚いた顔になったネロが言葉もなく俺を凝視してくる。そりゃ、まぁ。驚くよね。俺も他人がこんな話してたら驚く自信がある。


「信じられないかもだけど、ホントの事なんだよね、これが。因みに、俺は召喚されてここに来たらしいから、厳密にいうと人族でもないんだよね。他の世界の日本人ってヤツ。ホント困った話だよね。」


 説明が終わってネロに笑顔を作ってみたけど、やっぱり黙ったままのネロが俺を見つめてくる。驚き過ぎて言葉も出てこないっぽい。


「マジで、信じられないよね。今でも夢の中だったらって思ってるし。」


 安心させようと話し出した真実に、言葉が止まらなくなってしまった。俺が他人からこんな話を聞いても頭おかしいんじゃない?としか思えない真実。顔を合わせて、目を見て話せる相手がいるってだけで言葉って止まらなくなるんだね。ちょっと感情的になってるのが自分でも分かった。


「琥珀、すまない。できるだけ丁重に扱うと約束する。」


 落ち着いた静かな低い声での謝罪が聞こえたと思ったら、直後に優しく抱き締められていた。ふわりと俺の周囲に微かに漂う、爽やかで微かに甘めの香り。やだ何このイケメン、俺が女だったら即落ちじゃね。少女漫画的展開ですかね。


 ネロに抱き締められて一瞬そう思ってしまったけど、ネロの服の胸元が濡れてるのを見て自分が涙を流していたことに気付いた。慌てて飛びのいて池に向かう。顔を洗い直して、もう一度マントで顔を拭いて、ネロの元に戻った。


「ごめんなさい、服が汚れちゃったね。」


「琥珀、今話した内容は全て他では話すな。此処のガトは大丈夫だが、他ではそうはいかない。捉えられて研究される可能性もあるし、闇取引で奴隷にされる可能性もある。もっと他の厳しい可能性もある。一応念には念を入れて此処のガトにも漏らすな。族長に話をしたいなら連れて行く。俺が話してもよいが自分で話した方がいいだろう。自分で自分を守る術を身につけろ。」


 ネロの服を汚しちゃった事を謝罪する。俺の謝罪を首を振って止めたネロが、屈んで俺の目を見ながらゆっくりと、かみ砕いて諭すように語り掛けてきた。余りに真剣なネロの剣幕に素直にうんうん、と頷いてしまう事しかできない。


 俺を心配そうに見つめるネロにニコッと笑顔を贈ってみる。ネロは俺が理解したと納得してくれたのか、池の対岸に置いてある籠を指差した。


「どうする?腹は減っているか?」


 少し優しい口調で問いかけてきたネロの声に俺のお腹が答えてくれる。ぐーっとなる腹の音にふっと頬を緩めたネロが、では行こう、と崩れかけの橋を一気にジャンプして渡ってしまった。おー、すげぇ。


 感心しながら根っこの橋を渡ってネロの傍らの籠の中に収まらせて貰う。もちろんマントで完全防備だ。オッケーと頷く俺を見て、ネロがそっと籠を抱え上げた。いや、あの鯖虎おっさんのガタイだったら分かるけど、ネロは細いのにめっちゃ力あるじゃん。羨まし過ぎる。


 ぼんやりと籠の外を流れる景色を眺めた後で、上を見上げた。ネロの猫耳めっちゃいい、肉厚でモフっと黒い毛並みがいい感じだ。耳の内側の毛がまたいいんだよ。無言で真剣に耳を見ている事に気付いたのか、ちらりと俺に眼を向けたネロに、にこっと笑顔を贈っておく。ネロは俺の笑顔に何の反応もなく前を向いてしまった。


 あ、あの鯖虎おっさんと何か違うと思ったら、髭がない。顎鬚がまた猫っぽくてよかったのにな。あの鯖虎おっさんは猫耳を触らせてくれないかな。ついでに顎鬚も触ってみたい。撫でたらゴロゴロ言ってくれないかな。あ~目の前にあるのに届かない。悔しいのぉ。


 いろいろ思い悩んでいる間にガトの村に到着していた。静かに下ろされた籠から出ようとすると、ネロが手を差し出してくれた。ありがとう、とネロの手を掴んで立ち上がる。ん~っと伸びをして、周りを見渡すと相変わらずの猫耳天国だった。


 でも視界に入ってくるのは、女の人と子供さんしかいないんだよね。で、女の人の殆どはネロに熱い視線を送っている、ような気がする。うん、まぁ、こんだけ綺麗な人ならモテますよね。


「ネロ、昨日も思ったけどここって女の人の村なの?ネロ達男の人は護衛さん?」


「男共は今狩りに出ている。残っている男は琥珀の予想通り護衛。食事はこっちだ。」


「はーい。」


 ネロについていくとオープンテラスのカフェのような食事の場所に到着した。白い布でパラソルのように日陰を作った下にテーブルと椅子が設置されている、ソコソコ大きな広場だ。すぐ傍のカーテンの開け放たれたテントで調理をしているらしい。スパイスのいい匂いがする。


「なにか食べたい物はあるのか?果実が好みなら少し待ってて貰えれば直ぐ新鮮な物を取ってくるように伝える。」


「お肉かお魚が食いたいです。」


 促されるままにパラソルの下の椅子に腰を下ろすと、給仕のようにネロが問い掛けてきた。俺の勢いに全く動じる事もなく冷静に、分かったと答えたネロが調理用テントの中に向かって指示をしている。


 食事の支度が整うまで少しかかると思うから、ネロから視線を移して外を走り回る子供達の猫耳を眺める事にした。子供達の猫耳の方がぽてっとしてて、頭に対して少し大きく、ちょっと分厚く見えて触り心地が良さそうだなぁ。


 いかん、変質者の発想だ。これは危険だ。子供の猫耳に見惚れていた自分に気が付いて、自分を叱咤し前を向き直る。丁度、お茶を運んで来てくれたネロにお礼を言って受け取り、両手で抱える。熱々のお茶から湯気が立ち上っている。


 お茶に息を吹きかけて冷ます俺の前で、ネロは冷ます事もなく平然と熱々のお茶を飲んでいる。お茶を飲み込んだ時にネロの喉ぼとけがコクリと動いて、何とも言えぬ色気を醸している気がする。


 ってか、猫なのに猫舌じゃないのか。いいよなぁ。息を吹きかけて冷ましつつ、ちびちびと飲む俺にネロの視線が注がれているのが分かった。


「琥珀は婚約をしているのか?」


 目を合わせて首を傾げる俺に、ネロが口を開いた。思いもよらない質問をするネロに驚いて口に含んでいたお茶を吹き出しそうになってしまった。何とかお茶を飲み込んで、ネロを軽く睨んでしまう。


「っしてないよ!」


「琥珀が左手につけているのは人族の婚約の誓いの証ではないのか?」


「確かに婚約指輪だけど俺はフリーなの!深い事情があるの!」


「そうか。」


「そうなんです。」


 そんな意味のない会話を繰り広げていると届くお肉達。待ち望んだお食事TIMEの幕開けだぁ。鳥の唐揚げのような骨付きの揚げ物、肉野菜炒め、ビーフシチューに見える汁物、何かの肉の香草焼き、野菜と肉の串焼きに魚の蒸し物、焼き魚、テーブルの上は俺の希望通りの肉魚尽くしで埋められていく。ネロさんマジ有能。秘書に欲しい。執事に欲しい。では。


「いただきます!」


「ガトの習慣。月への感謝。食べよう。」


 手を合わせる俺の前で、ネロは目の前で両手を組んで眼を閉じて少し頭を下げ静かに祈り始めた。目を開けたネロが不思議そうな顔をする俺を見て、簡潔に説明をしてくれる。


 食事の時間の始まりだ。手を伸ばして小皿に盛り付けつつ、思う存分食事を楽しませて貰う。どれを食べても美味い。味は見た目より少し薄味だったけど、どれも美味い。塩分控えめな分、色々なスパイスの香りが香ばしい。


 最初こそテンション高めに黙々と食べ進めたけど、この量は多過ぎた。でも、残すのは作った人に失礼すぎるから頑張る!ちびちび食べ進める俺の目の前でその細い体のどこに入るんだという勢いで、ネロが食べ進めていく。


「琥珀はもういいのか?」


 食べるペースが極端に落ちた俺に気付いたのか、顔を上げたネロが問い掛けてくれた。気遣わし気に問われて、コクコク頷いてお茶を飲む。最終的にはネロが残りを全部片付けてくれて俺の久しぶりの食事は終わったのだ。満腹で満足、めっちゃ美味しかった。ご馳走様。

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