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15 ヨロシクオネガイシマス

 神殿でぐっすり眠った翌朝、外に出て顔を洗い両手で水を掬って古木にかける。昨日の残りの黄色い果実を齧っていると正面の森から黒い人影が飛び出てきた。昨日の黒猫さんだ。片手を挙げてこっちだよと合図してから黄色い果実を慌てて食べきる。


 皮も食べれて種もない、拳より少し小さ目のプラムみたいな果物で、強い甘味とそれによく合うほど良い酸味がとても美味しい。ご馳走様、っと手を合わせてから、慌てて根っこの橋を渡る。黒猫は興味深そうに根っこの橋を眺めていた。


 黒猫は腕を組んで俺を待っていたけど、俺が近づくと後ろに指示のような合図を送った。音もなく昨日会った灰猫と、こちらは新顔のガタイのいい青い目の短髪の灰猫が大きな籠のような物を抱えて滑り出てくる。


 あ、よく見ると青目の灰猫じゃなくて、尻尾を見ると鯖虎だ。更によく見ると、髪も濃淡が混じり合った灰色だった。可愛いのぉ。いや見た目ガタイのいいおっさんなんだけどね、もっふりとした尻尾は可愛いのだ。黒猫は無表情に、灰猫は不安そうに、鯖虎はにやりと笑ってこちらを見ている。


「早くに迎えに来てしまったようですまない。準備は整っているか?」


「大丈夫です。」


「では、少し窮屈かもしれないが、この籠の中に入って貰えないだろうか?村まで案内する。」


「籠ですか。俺、ひ弱なんでできるだけ丁寧に運んで貰えますかね?天地無用、壊れ物ありで。」


「『テンチムヨウ』とはよく分からないが、できるだけ丁重に運ぶ事を約束する。」


「ヨロシクオネガイシマス。」


 小石に躓いても死ぬ俺だけどこれなら流石に大丈夫だよな。一抹の不安を抱えながらも籠に入り、マントで籠のささくれさえもシャットアウトして、体を固くして待機する。座面が広くて開口部が円錐上の、籠の上部を斜めに切り取ってある、みたいな乗り易くて座りやすい形だから、人を運ぶ専用の籠なんだろうね。


 鯖虎が俺の乗った籠を両手で包むように抱え上げると、振動も音もなくフワッと宙に浮かぶ感じがした。後ろに流れる風を感じて籠の隙間から外を覗いてみる。少しの振動は感じていたけど、森の枝の間を音もなく駆け抜けている最中だった。


 空中を移動してるって事に余り驚いてない自分に驚いてしまう。何事にも動じない心を手に入れてしまっているのだろうか。まぁ、この移動方法にも少しテンション上がってるけど、それより猫耳なんだよ。猫の亜人って可愛いよね、猫っていいよね。


 横を見ると黒猫と灰猫が同じように枝の間を跳ぶように移動している。上を見上げると、視界に入る鯖虎のおっさんの髭と微かに見える猫耳。猫耳を見つめている俺の視線を感じたのか、鯖虎がちらりと視線を落としてにやりと笑った。


 猫耳を触ってみたいと言う誘惑に負けて手を伸ばしそうになる自分を抑えながら、これはおっさんの猫耳だと自分に言い聞かせて暫し空中散歩を楽しむ事にした。移動は終始、安全運転だったらしく、何の事故も起こらなかった。


 もちろん死ぬ事もなかった。到着してから籠から出て鯖虎のおっさんにお礼の言葉を伝える。鯖虎のおっさんは無言で頷いて、にやりと笑って去っていった。無口な人なのかもしれない。


 ガト族の村は規模は分からないけど、カラフルなテントが立ち並ぶ集落だった。ガト族の特徴なのか、この集落だけなのかは分からないけどみんな見目がいい。要するに美人さんと可愛い子供しかいない。


 でも、それより重要な事がある。周りにいる子達みんな猫耳ですから。小さい子供から奥さん、お姉さんまで、とんがり耳もタレ耳も、短毛も長毛も、猫耳は正義だね。しっぽもふさふさやもふもふや細めなのとか、短い子や長い子、いろんな子がいるけど全部可愛い。


 顔は普通に人なのに、猫目と猫耳と尻尾が付いてるだけでもう猫。こんな楽園があるなんて異世界に来て良かったと思う一瞬だよね。いやぁ、天国ってあるんだね。まじで神様っているんだね。こんな苦労をしている俺も報われるんだね。


(神はいません。)


 不意に響いてきたスツィの声。いつもの冷静な声とは違う、少しだけ泣きそうな苦悩を押し殺す声色に戸惑ってしまう。スツィ、どうした?


(なんでもありません。神は存在していません。)


 次に聞こえてきたのはいつもの冷静な落ち着いたスツィの声だった。なんなんだ?と一瞬疑問に思ったけど浮かれていた俺は、何でもないと言うスツィの言葉をそのまま受け取る事にする。気分を変えて欲しくて、スツィ、ここは猫耳天国だぞっと心の中でスツィに感動を伝えてみた。


(・・・そうですね。)


 声からも伝わるくらいにドン引きの様子を見せるスツィに、猫耳の良さを滔々と語ってみた、勿論心の中で。ついでに肉球の何たるか、尻尾の良さも教えておく事にする。


(・・・理解しました。)


 さらにドン引きの様子を隠す事もないスツィがそっけなく答えてくる。右を見ても、左を見ても、前を見ても、尽きる事のない猫耳!尻尾!これは興奮するだろ。誰でも興奮する筈。ねぇねぇ、スツィさん。あそこのお姉さんに、お嬢さん耳を触っていいですか?ってイケボで囁いたら触らせてくれないかな?


(セクハラで捕まります。)


 じゃぁさ、俺がもし女の子だったら触れたかな?耳を少し、触らせてくれませんか?って上目使いでうるうるして言ったらどうだろう。


(50%の確率で失敗すると思われます。)


 マジか、性別が違うだけで確立が50%も増えるとか、羨まし過ぎる。眼を細めて、極力平静に振舞いながら周りを、ふむふむと見渡す俺の目の前を切れ長の黄金の瞳が塞いできた。


「ガトの村は珍しいか?」


 屈み込んで、俺を覗き込みながら発する低く響く声の主の黒猫に視線を向ける。


「うん。耳を、」


 勢いよく頷いた俺を見て、黒猫が疑問の表情を浮かべた。はっと気付いて何とか、発言を完了させずに寸止めする事ができた。


「耳?」


「あ、その耳飾りめっちゃ素敵ですね。ちょっと見てもいいですか?」


 咄嗟にその尖った耳の中程から下につけられている、右側3連、左側2連のリング状の銀色の耳飾りの話をしてみた。左側の下の耳飾りには緑色の宝石らしきものが光っている。何とか誤魔化せたかな?どきどきしながら耳飾りを見つめる。


「あぁ。」


 そう言って黒猫が顔を傾けて耳を差し出してくれた。ふぉぉぉ!!猫耳だよ、スツィ!!猫耳が目の前にある、これは視覚的にかなりくる。触っていいかな?ヤバい視覚効果ですよ、これはヤバい。


(琥珀様、鼻息が荒くなっております。お気を付け下さい。)


 そうだね、危ない所だった。スツィの声に少し冷静になって耳飾りを冷静に観察してみる。何かの模様、というか紋様が細かく彫られた銀色のリング状の耳飾りで、5つの耳飾り全てのデザインが少しずつ違う感じがする。


 そして、緑色の宝石は薄く光を放っているような気がする。光を反射しているだけなのかもしれないけど、引き込まれるような光に思わず左手を伸ばして手で触れようとしてしまった。黒猫は俺の行動を見越していたのか、頭をひょいと上げられ逃げられてしまう。名残惜しく猫耳、もとい耳飾りを見つめてしまった。


「ガト族の細工士が仕上げた品。気になるなら後で案内する。」


「ありがとうございます。」


 なんとか誤魔化せてる。やったね、スツィ。危ないところだった、ばれずに済んだみたいだね。


(・・・よろしゅう御座いましたね。)


 うんうん、と頷いて黒猫を見上げる。黒猫は俺をじっと観察していたらしく、俺が納得したと判断したのか視線を外して遠くを見てしまった。


「満足したのなら、族長の所へ案内したい。」


「あ、大丈夫です。お願いします。」


 あー、展開読めてきた!!あの赤い毛の猫娘は族長の娘だった!とかって展開でしょ?分かります、どれだけRPGをやってきたと思ってるんだよ!舐めるなよ?俺の知識‐主にゲーム関係。

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[一言] モフモフはウザイから此所まで
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