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14 良かったですね

 まぁ、待ってろって言われたなら待つしかできないよな。果樹の下に座ってのんびりと待つ事にした。あ、スツィ、ガト族について注意点はない?ただ待っているだけなのも暇なので軽く予習する事にする。俺はこの世界の事を何も知らないし。


(ガト族については先程説明した通りです。尚、居住する地域によって、特徴や文化に多少の差異はあるようです。それぞれの地域に居住する集団が1つの集落を作り、そこを治める長によって統治されているようです。警戒心は非常に強い。独特の宗教観を持ち、人族との関わりを嫌う傾向にあるようです。知能は比較的高く、運動能力は人族を遥かに凌駕する。大部分のガト族がイシュケ王国に居住しているが、少数は世界中に点在もしている。イシュケ王国に居住する者だけでなく世界中のガト族は居住する各国には属さず、一人の王とでも呼ぶべき存在の元で、ガトとしての社会を形成しています。)


 成る程、要するに警戒心が強くて、人を避ける猫ですね。でもって、世界中の猫ちゃんの頂点にいるのも猫ちゃんで、他人には屈さないよ、って事かな?でも、マジで猫耳はいいよな。男の猫耳ですら、なんかこう、もふもふしたくなるっての?


 あのピンとした耳を裏返して、耳の内側に生えてる毛をわさわさしたいって感じ、分かるかな。テンション上がるわ~。あのお兄さん、猫耳を触らせてくれないかな~。少女の猫耳を触らせてって言ったら犯罪になりそうだからな。この際、お兄さんのでもいいや、百歩譲ってな。


(・・・ガト族は耳、尻尾などを過度に触られる事を嫌います。親しい者に対しては親密の情を示す意味で触れ合う事はあるようです。部外者の琥珀様には無理だと思われます。)


 え、今スツィさんドン引きしてる?いや、冗談だよ?冗談。分かってるよ。嫌だな、あはは。俺が言ってるのは猫、動物の猫の話だからね。あのお兄さんの猫耳とかはあくまで比喩的な表現というか、そんな感じだからね。引かないで、お願い。


 スツィにガト族の情報を聞きながら時間を潰していると、視界に映る森の上部から三人の人影が広場の端っこに下り立つのが見えた。さっき会話をした黒髪の青年と共に、黒猫より背の低い灰髪の青年と、黒猫とは左程背の高さは変わらないけど細身のこげ茶色の髪の青年が、こちらの方に歩み寄ってきた。


 灰髪の青年は線が細くて中性的な美しさで、こげ茶色の髪の青年は怖そうな雰囲気で鋭い目付きだけどこちらもイケメンである。因みに、灰髪の青年はタレ耳である。ちょっと分厚くて触り心地の良さそうないい猫耳である。灰色の少し長めの髪の間からぴょこっと飛び出てるタレ耳は非常に可愛い。


 少しだけでも触らせて欲しい。などと、考えている事は顔に出さずに軽く会釈をして立ち上がる。雰囲気的には一触即発のような緊迫感はない、とは思う。でも、かなり緊張した面持ちで近付いてくる新顔の二人と、対照的に全くの無表情の黒猫。


「待たせてすまない。果実で空腹感は凌げただろうか?」


 黒髪の青年が先程のように低く静かな声で語り掛けてきた。物静かで淡々とした口調だけど、やっぱり敵意は感じられない気がする。


「さっきの猿、カイムって呼んでたよね。カイムに貰った実を頂きました。美味しかった。ありがとう。」


 黒猫は小さく頷いて、後ろのこげ茶猫に目線で指示を出した。こげ茶猫が果樹の一本に近付いていくのを目で追いかけていると、果樹から果実をもいで持ってきた籠に入れていく姿が見える。こげ茶猫に指示した後で、こちらに向き直った黒猫に視線を戻す。


「人の子よ、我らの村へ案内する。来る気はあるか?」


「ありがたい言葉感謝します。ですが、あなた達のように森の中の獣道を通って行く事は不可能なのですが、どうしましょう?」


「・・・獣道、成る程。」


 俺の言葉に戸惑ったような反応を見せた黒猫は隣に並ぶ灰猫と視線を合わせて、考え込んだように言葉を止めてしまった。灰猫は黒猫と視線を合わせた後でこちらを見る。灰猫と目が合ったから、首を傾げて疑問を伝えてみたけど何の反応もしてくれなかった。


「では明日、迎えに行く。どこに滞在している?」


「一応、池の中の神殿にお邪魔させて貰ってます。」


「っ何!」


 明らかに驚愕したように眼を見開いて、尻尾の毛を逆立てた黒猫と灰猫、ついでに籠を落としたらしいこげ茶猫。どこに驚く要素があるのだと戸惑う俺。みんなの間を沈黙が流れていく。


「・・・分かった。では明日の朝、神殿にて待っていてくれ。それと、よければ貰ってくれ。」


 黒猫が俺の後ろの方に顎をクイッとした。振り返ると、俺の斜め後ろに移動していたこげ茶猫が籠を差し出していた。籠を覗き込んでみたら、中には葉っぱのお皿に乗っていた以上の果実の山が入っている。


「ありがとう。」


 受け取ろうとして思い出してしまった。俺、力が1でした。こんな量の果実は多分持っていけない。


「・・・ですが、ちょっと重いみたいなので、帰り道も遠いし気持ちだけ貰います。ありがとう。あ、1つだけ貰っていきますね。では、また明日。」


 そう誤魔化して、籠の中から赤い果実を1つを掴むとお辞儀をして来た道を帰る事にする。広場から畦道に出ると森の木々の間から、カイムと呼ばれた子猿が飛び出してきた。案内するように少し前を跳ねて歩いていく仔猿の後をついていく。


 先導してくれるカイムのふわふわとした赤茶色の毛が、柔らかそうに風に靡いている。神殿前の開けた場所に辿り着くと、黄色い実を1つ俺に押し付けたカイムは、直ぐに森の中に消えていってしまった。


「案内ありがとね。」


 もう聞こえるか分からないけど、一言だけ声を掛けてから神殿の正面側に歩みを進める。古木の根の橋を渡り、神殿に到着した途端に気が抜けたのか疲れがどっと出てきてしまった。


「人いたよ。意思の疎通のできる人。スツィさんもありがたいけど、やっぱ眼を見て話せる相手がいるっていいね。」


(良かったですね。)


「スツィ、ありがとう。何も分からない俺を導いてくれて。」


(はい。)


 帰り際に貰った赤い果実と、カイムに貰った黄色い果実。夕飯と朝飯にするか、と決めて神殿の中に滑り込む。実際、何日が経過したのかもう覚えてないけど、ここにきてずっと居住しているこの神殿は実家のように安心する気がしてくる。あれだけ外に出たかったのに、安心する場所って不思議だよな。

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