13 私に対しては傍若無人でしたが
森の中の一本道をゆっくりと進んで行くと、小鳥や小型犬くらいのふさふさした鼠、イタチみたいな子とか小動物が次々と現れる。魅力の効果なのか纏わりつかれたり、すりすりされたりで、賑やかな道中になってきた。
そういえばこの世界に来る前、日本でも犬猫によく懐かれてたよなぁ。初めて見る子も寄ってきたり飛びついてきたり。実家の猫も家に帰れば俺の傍から離れなかったな。
そう遠くはない昔の事を思い出していた。小鳥が数羽肩に留まり、耳元でなにやら楽しそうに会話していて、足元には小動物がうろうろと楽しそうに走り回っている。結果、足元の小動物達に注意しながらゆっくり進むしかない訳になったのだ。
元々、動物と接する機会も多かったから、孤独から解放された今の状況が凄く嬉しい。途中1匹の仔猿のような生き物も現れ、俺たちの行進に加わった。猿といってもキツネザルのように少しマズルが長く突きでていて、長い尻尾がとても可愛い。
「君達ちょっと退いてよ。」
苦笑交じりに足元の動物達に文句を言っても言葉が通じる訳もなく、一時間程歩いて道は分岐に差し掛かった。足元をうろつく動物達はこっちだよというように、斜め右に延びる道に先導していく。まぁ、どっちに向かっても一緒だよな。正直、右も左も分からねぇし。そう判断して、動物達に従ってみる事にした。
程なくして、森の木々を開拓して作ったような広場に出た。広場には明らかに人工的に植えられたような果樹が数本生えていて、あの子猫が用意してくれたような黄色い果実と赤い果実が実っている。
ごくり、と唾をのみ込んで腹を撫でてみたけど、明らかに人工的に植えられているモノをもぎ取る訳にはいかない。誰か来ないかなぁ、と広場に腰を下ろして待つ事にした。もふもふ、ふわふわ、わさわさと小動物が戯れている傍でぼーっと空を見上げる。
甘い匂いがして眼をやると、仔猿が赤い果実を食べていた。あぁーあ、羨ましいなぁ。と仔猿の食事風景を眺めてしまう。俺の視線を受けた仔猿はもう1つ果実をもいで隣に下り立って、その果実を差し出してきた。
ありがとう、と受け取ったけど食べるべきかどうするか悩んで、結局食べずに膝の上に置いて時を過ごす。小動物たちは膝に置かれた果実に興味があるようで、膝の上に乗って匂いを嗅いできたけど、誰も手を出そうとはしなかった。
「そこで何をしている。何者だ。」
時間だけが過ぎていき、周りの動物達も少しずつ去っていった頃に、不意に掛けられた低い落ち着いた声で顔を上げる。振り向いた俺に向かって矢を番えた、恐らくガト族の男性の姿が目に映った。
状況的には緊迫しているにも関わらず、低く響くような静かで落ち着いた声は耳に優しく、スツィの声とは違う心地良さがある。恐ろしい程綺麗な外見をした猫耳と長い尻尾を持った背の高い、若い男性だ。
長身で整った容姿の男性は、漆黒の長い尻尾を警戒するように緩やかに揺らしながら、静かに俺を見据えていた。通った鼻筋、鋭い金色の猫眼、つややかな短髪に近い少し長めの黒髪にピンと立つ猫耳は、どう見てもさっきのガトの少女と同じ種族に見える。きっとガト族の男性で間違いないだろう。
何というか、滴るような色気があるのに無表情で恐ろしいほど綺麗な顔をしている。所謂細マッチョとでも言えばいいのか、俺より確実に頭2つ分近くは背が高くて、細身ながらもがっしりとした筋肉はついているようで、羨ましい限りの体格である。
黒いぴったりとした上衣にゆったりとした同色のズボンは漆黒の髪の男性に良く合っている。俺の傍で遊んでいた仔猿がその青年の傍に駆けて行き、その肩に飛び乗った。青年の表情は変わらずこちらを見据えているが、弓を下ろして仔猿の頭を一撫でするその仕草に愛情を感じる。
「通りすがりの旅人です。お腹が空いていたので、果実を分けて貰えないかと人を待っていました。」
俺にしては限りなく礼儀正しく、正確に現状を述べてみた。相手が武器を所持している状況では無謀な真似はできないし、何より第一印象は重要だからね。重要だからね。大事な事だから2回言ったよ。
(私に対しては傍若無人でしたが。)
スツィさん今はお口チャックで。引き攣ってはいたと思うけど、できるだけ笑みを浮かべて言葉を出す俺を静かに見据える無表情なガト族の青年。
「先程から観察していたが、カイムの差し出す果実も食さず待機しているのは確認できた。人の子よ、何故この土地にいる?どのようにしてこの土地に入った?」
仔猿はどうやらカイムという名前でこの青年のペットらしい。こっそりスパイさせてたのか、動物はそういう使い方もできる訳ですね。了解。
「人の子よ、其方の纏う外套は何処で入手した?」
さて、どうやって答えたもんかなぁ、頭を悩ませて口を閉ざしていると、青年が更に畳みかけて問いかけてきた。ちょっと待ってよ、今考えてるから。
「えっと、気が付いたら神殿にいて、この外套もそこで貰いました。」
考えるのを諦めて、正直に話す事にした。人間正直が一番だよね。
「で、神殿にお供えしてくれていた果実を気付かずに食べちゃったので、お詫びとお礼を伝えたいのですが、赤い毛の子いますか?」
「なっ。」
眼を見開き、整った顔を少し歪ませて驚愕の表情を浮かべる青年に首を傾げる。そんな驚く事なのかな、神殿に驚いたのか、外套に驚いたのか、赤い毛の子に驚いたのか、或いは全部に驚いたのか?あんなに無表情で淡々としてたのに驚く事だったのか。
「少し、ここで待っていて貰えるか?腹が減っているのならそこの果実を食しても構わない。」
そう言い残すとあの子猫のように俊敏な速度でしなやかに地面を蹴り跳び上がると、木々の隙間に滑り込んで姿を消してしまった。矢を射られなかったことに安堵しつつ、お言葉に甘えて先程仔猿から貰った果実を頬張りながら待つ事にする。
甘い果汁が口の中に溢れて、差し当たって選択肢を間違えなかった事に安堵した。あそこで矢を射られていたら確実に死んでるよね、折角出会えた会話できる相手が敵対するなんて考えたくもない。




