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118 別に許可は取らなくていい

 どんな筋トレなのかな、腕立てかな腹筋かなって思いを巡らせてワクワクとネロを見つめる。ネロはクスっと笑って俺の髪を掻き上げてくれた。


「先に屈伸の運動を少し。その後で最初に俺がやった体幹の基礎をやってみるか?」


 屈伸っていうと、なんだろ。体幹の基礎っていうのはプランクだよねフロントブリッジのやつ。笑顔で頷いてやる気を見せてみる。俺の頭を撫でてくれたネロが指導を始めた。屈伸運動って、つまりはスクワットらしい。ネロ曰く、筋肉が連動して色々な筋肉を使う運動なんだって。知らなかった。


 教えられた通りのスクワットをしてみたけど、マジでキツイ。これはキツイんですけど。膝が足先より出ないようになんてできないよ。しかも、太腿を床と水平になるまで下ろすとか、マジでヤバい。脚がプルプルする。何とかネロに支えられつつ、フォームを直されつつ、10回やってもう無理。


 ぱたっとラグに寝転がってネロを見上げてしまう。ネロは優しい笑顔で俺の隣に座り込んで俺の髪を撫でてくれた。もう終わるかって聞かれたけど、首を振る。まだ終わらないよ、でもね、少し休憩が欲しいんですよ。ネロは寝転がった俺が回復するまで待ってくれるみたいだ。


 髪を撫でながら優しく見下ろしてくれるネロはさっきまでハードな運動してたんだよ。全然そうは見えない。反対に俺の方がハードな運動で倒れてるみたいじゃん。少しコロコロとして、やりますよって体を起こす。ネロは隣に座って俺を見てくれるらしい。


 ネロがやったみたいに、うつ伏せになって前腕と両肘を床につけて、つま先立ちになり体を浮かせてみた。ネロのを見てたら凄く楽々やってたんだよ。その後の筋トレが凄くきつそうだったんだよな。って思ってたのに。超キツイよ。体を持ち上げた時点で既にキツイ。15秒くらいで体が落ちてきて床についちゃった。


 見上げると少し考えこんだネロが、もう一度、と指示を出してきた。ネロの言葉通りに体を浮かせてると、大きな手のひらでお腹を支えられる。なんだ、っと思ってる間に、背中を少し押されるように伸ばされて、腰も少し下に押されてフォームの修正をしてくれた。


「この姿勢で。」


 ネロがお腹から手を離すと、自分の力では支えきれずにパタンと体が落ちてしまった。折角フォームを修正してくれたのに、1秒すらも持たなかった。


「これってこんなにきついの?」


「琥珀は筋肉が少ない。筋肉に掛かる負荷が少し過剰に感じる、かもしれない。30秒程は耐える事が望ましいが、できるか?それを10回繰り返す。休みながらでもいい。」


 ネロの説明に頷いてもう一度、体を持ち上げる。きつくて腰が上がってしまうとネロがお腹を支えて腰を下方に修正してくれる。お腹の支えがなくなってしまって、パタンと落ちるのを繰り返す。四回目でネロが手を出さずに俺を眺めてきた。ぷるぷるする体を何とか支えて頭の中で30カウントをしてから体を落とす。


 できたよってネロを見上げたら、ネロが頷いてくれた。一応、一回はできたってのが嬉しくて、にこっと笑ったらネロがよくやったって感じで頭を撫でてくれる。もう一度体を浮かせてカウントを始めるけど、腕もお腹もプルプルしてくる。なんとか30カウントしたとこでギブだ。


「今日はもう無理。ぷるぷるする。」


 柔軟運動ストレッチはゆっくりやってたからなのか、集中してなかったからなのか、あんまり汗ばむって感じじゃなかった。でも、これは全身の筋肉を使うからか汗が滲んでくる。今日の俺は頑張った。どこまでやったか覚えてなくて同じストレッチを何回もした気もするけど頑張った。


 コロッと転がって仰向けになってネロを見上げる。俺を覗き込んでいる金色の瞳が優しく細められた。もう動けないんですって両手を差し出すと、ネロが当たり前のように抱き上げてくれて〈浄化〉をしてくれる。


 冷たい水が気持ちいい。結構長めの水の感触を楽しんで、水がなくなったら〈乾燥〉もしてくれた。更にはネロが抱っこでソファまで運んでくれた。至れり尽くせりで楽ちんだ。


 ラグを片付けて寝室に入っていったネロを眺めていたら直ぐに戻ってきた。隣に腰を下ろし、優しく俺の髪を掻き上げてくれるネロは全然消耗してないようにみえる。俺より全然ハードな運動をしていたにも拘らず、だ。


「ネロが凄すぎて見入っちゃって自分のをどこまでやったか分からなくなった。」


「そうだな。止まっていた。」


 ネロは凄いなって呟いてしまうと、ネロが嬉しそうに目を細めて頷いてくれた。そうなんだよね、ネロが余りに凄過ぎて止まっちゃったんだよ。あんなハードな筋トレをさらっとやってたネロはホントに凄い。


「ネロのやってたのは全部きつそうなのに。涼しい顔をしてやってるんだもん、凄過ぎ。」


「きついのはきつかった。」


「そうなの?」


「最近はサボっていた。相当きつかった。」


 羨望の眼差しで見つめて話が弾んでしまう。ネロは微笑んではいるけどちょっと困った感じで答えてくれる。どう見ても平然としてたじゃん。聞き返してみると、頷いてきつかったと繰り返してきた。


「全然そうは見えなかったよ。平気な顔してた。汗一つかかずにさらっとやってた。」


「いや、汗もかいたしきつかった。」


「ネロが汗をかく事なんてあるの?」


 キツイとはいっても汗もかかず疲れた様子も見せないネロが不思議だ。でも、汗はかいてたらしい。ネロが汗をかくなんて想像できなくて、思わず聞き返してしまった。


 そんな風に返されるとは思ってなかったらしく、ネロが少しだけ目を丸くした。ちょっとだけ驚いたらしい。そのネロの表情が面白くて、クスっとなってしまう。ネロも柔らかな笑顔を浮かべてくれた。


「ネロみたいな体まではいかなくていいけど、もう少し筋肉が欲しい。最後にやったのはぷるぷるして大変だった。」


「琥珀は腹筋も他の筋肉も少し少な目。今の状態では少し大変かもしれない。」


「筋肉がついたらもう少し長くできるようになるかな。」


「そうだな。多分。」


 ちゃんと筋肉が付いて成長できるかなって問いかけてみる。ネロは正直に今のままでは難しいって言ってくれた。正直な意見にちょっと安心しちゃう。継続すればきっと少しは成長するよね。


 でも、今は運動後のお休みタイムですよ、動きたくない。ソファでぐでーっとしていたら、ネロが立ち上がってしまった。ネロの動きを目で追うと、ネロが見下ろしてくる。何か言いたいのかなって首を傾げると、ネロが優しく目を細めた。


「さて、揉み解すか。運ぶぞ。」


 言葉には出してない俺の疑問には答えてくれたけど、俺の返事は待ってくれないらしい。ネロに軽々と抱き上げられてしまう。横抱きにされた状態でネロを見上げている間に、寝室に連行されてしまった。ベッドに俺を置いたネロが投げ出された俺の服を畳んで端に置いてくれた。


 その間にコロっと転がってうつ伏せになり、枕を抱き込む。脚からのスタートらしい。スクワットで少しだけ酷使したからかな。片脚ずつ持ち上げて気持ちいいくらいで止めてくれる。そして軽くゆすってまた少し持ち上げてキープ。マッサージではなくかなり気持ちいいストレッチって感じだ。


 脚のストレッチが終わった後は本格的にマッサージを開始してくれた。ネロはうつ伏せになった俺の首や背中、腰、太腿、脚と念入りにマッサージしてくれる。温かくて大きな手が優しく揉んでくれるのは凄く気持ちいい。運動後の疲れがなくなってく感じがする。


 余りの気持ち良さにうとうとしてしまったトコロで、ネロが離れていくのが分かって目を覚ました。もう出て行ってしまったネロを追いかけてリビングに移動すると、ネロはお茶を用意していてくれていた。ホントに至れり尽くせりである。凄く消耗したけど、今日の運動は筋トレって感じで楽しかった。


 ソファに座ってネロの淹れてくれた美味しいお茶をまったりと楽しませて貰う。お茶の合間に、横に座ったネロの腹筋を触ってみた。バキバキだ。すご。欲求には逆らえず、ネロの服を捲って直に見てみる。


 うん、綺麗に割れてるね。お手本のようないい筋肉が目の前にある。苦笑したネロに気が付いて、顔をお腹からネロに向ける。困った顔だけど笑顔のネロだ。目を合わせてる隙に、ネロは上着を戻してしまった。


「ごめん。許可なく捲ってた。あと、許可なく触ってた。」


「許可は取らなくていい。」


 欲求に逆らえず勝手にお腹を触った挙句に服まで捲ってたよ。ネロに謝ると、ネロが俺の髪を撫でながら苦笑しつつも許可はいらないって言ってくれた。苦笑はしてるけど、金色の瞳から放たれる眼差しは柔らかくて優しい。


「え、捲り放題なの?腹筋見放題でいいの?そして、筋肉とか触りたい放題なのか。ヤバいね。」


 でもね、その言い方だと、いつでも服を捲っていいって事だよ。捲られまくる可能性もあるけど、いいのか。軽口で応戦してみたけど、ネロは苦笑しつつも頷いてくれた。まじか、いつでも筋肉を見ていいとか、ネロは太っ腹だな。


「あんな凄い筋トレを熟せるなんて、どんな筋肉をしてるのかなって気になっちゃった。」


「前に見てただろ?」


 一応、後出しにはなるけど、言い訳っぽく付け足してみた。ネロが不思議そうに聞き返してきたけどね、違うんだよ。確かに、前にネロの服を捲った事はある。でも、あれはネロの大怪我が気になったんですよ。そして、大怪我がなくなった不思議が気になり過ぎて、筋肉なんて気にしてる余裕はなかったんだよ。


「前は傷を見てたの。後は、傷がなくなったのがスゴイなって。だから、筋肉は見てなかったの。」


「成る程。」


 当時は違う目線で見てたんです。って力説をしてみたら、ネロは納得してくれたらしい。優しく目を細めて頷いてくれるネロは超優しい雰囲気が満載だ。勿論微笑みも健在で、ホンワカ気分になる。


「今日みたいな筋トレを毎日してたの?」


 家で運動をしていた、という割に俺が来てからはやってなかった。もう何日になるのか覚えてないけど、結構な日数をネロと過ごしているのに。本来なら毎日の日課だったのかな。疑問をそのまま口に出すと、ネロは俺の髪を優しく撫で始めた。


「毎日ではないが、時々やっていた。もう少し長く。」


「少し?」


 少しの間を置いて、ネロが静かに答えてくれる。ネロの言う今回の少しのニュアンスはホントに少しなのだろうか。首を傾げてしまう俺の髪を優しく掻き上げてくれて、ネロが困った顔をしてしまった。


 分かってますよ、ネロの少しが少しじゃない事くらい。あんな筋トレを長時間続けてたら、そりゃ凄い筋肉になるし強くもなって当然だろうな。ネロの強さの秘訣が見えた気がした。


 世間話はここくらいでいいでしょう。筋肉を触る許可はなくていい。しかも、見放題。これは堪能させて貰うしかないでしょう。お茶を一口飲んで、ネロの胸筋を触ってみる。ネロは確実に着痩せするタイプですね。細く見えるのに胸にもしっかりと筋肉がついてる。


 背中を触ってみる、これも筋肉で覆われてる。太腿は、勿論筋肉だった。前に屈み込んで脹脛を触ってみる、やっぱり筋肉で全然ふにふにじゃない。なんか、筋肉でゲシュタルト崩壊を起こしそうな感じになってくる。


 距離を取って肘掛けを背中にしてネロを横から眺めてみる。横から見るネロは姿勢が凄く良くて、すらっとしたいい体をしてるのが良く分かる。ネロの服のせいなのか、着痩せして見えるのは事実だけど、それでも細マッチョって感じだ。


 俺の行動を一切止める事なく、楽しそうに俺を観察していたらしいネロと目が合った。ネロは嬉しそうに目を細めてくれる。こんなに穏やかで優しいネロなのに、一皮剥いたらスゴイ体なんですよ。ヤバいよね。


 ボディビルダーのような作った筋肉ではなく、実践向きの滑らかな筋肉。どっちも凄い筋肉には変わりないだろうけど、ネロの体は凄く綺麗な筋肉な気がする。でも、レオさんの肉付きとちょっと違ったなって印象はある。


「どれだけ鍛錬してその体になったの?」


「どれくらいだろう。長い間な事は確か。」


「そっか。俺もネロと同じくらい鍛えたらそうなるかな。」


 ネロの筋肉を一通り堪能した後で、ネロに質問をしてみた。考えるまでもなく、ネロが直ぐに答えてくれる。成る程ね、そんな分からない程に長い期間を鍛錬に費やしてその体が作られたんだね。じゃあ、俺も同じ期間頑張れば同じようになるかなっと言葉に出してみる。


 ネロは困った顔をして黙り込んでしまった。うん、分かってるんだよ。それは無理だって分かってる。でもね、ネロの見解が気になるんです。お茶を飲んで暫し待ってみる。ネロはなんて答えてくれるんだろってニコニコしながら待っていたのに、ネロの視線は俺から外されてしまった。


 そっか、答えたくないのか。でもね、そんな態度を取られたら絶対に答えて欲しくなっちゃうじゃん。じーっと見つめていると、ちらっとこちらに視線を飛ばしてきたネロは直ぐに目を逸らしてしまった。お茶をローテーブルに置いて、寝転がってネロの太腿に頭を乗せて見上げる。


 勝手に膝枕をするという暴挙に出ると、ネロが逸らしていた目を俺に戻してくれた。勝手に膝枕をしたのに、拒否されるどころか嬉しそうに目を細めて優しく髪を撫でてくれるネロは優しいですね。口元に笑みを浮かべて優しい眼差しのネロには癒される気がする。でもね、俺は答えが知りたいんですよ。


「俺も同じくらい鍛えたらなれる?」


「琥珀には、少し難しいかもしれない。」


 俺を見下ろしながら髪を優しく撫でてくれるネロに、ニッコリともう一度同じ事を聞いてみる。困ったように眉を寄せて、それでも言葉を選んで答えてくれたネロに頷く。ごめんね、なんか俺のドSスイッチが入ってしまったらしいんだよ。困らせてるのは分かったけど、絶対にネロに言わせたくなっちゃったんですよ。


「分かってる。意地悪してみた。」


 心の中では謝ったけど、言葉では全く悪びれずにニコっとしちゃった。見上げた先の金色の瞳の中の瞳孔が動揺したように少し広がった。あ、怒らせちゃったかもしれない。と思っている間に、直ぐにシュッと細い猫目に戻ってしまう。俺の懸念は外れていたらしく、ネロは怒る事もなく凄く嬉しそうな笑顔になってくれた。


 視線を合わせたままで、一応、抗議みたいな感じで俺の髪を指に絡めるてくる。でも、その指は優しくて、くすぐったいだけだ。ちょっとだけ目を細めてしまったら、ネロの瞳がぱっと輝いた気がした。一瞬光が反射したっぽいね。


 髪を弄ぶので抗議は終了したらしく、その後は優しく髪を梳いてくれる。穏やかな微笑みのネロは凄く優しい。俺を見つめてくる金色の瞳からは慈愛と言っていい程の優しさしか感じない。普段のネロの瞳にはない感情な気がする。


 きっと同情されてるんだろうな、とは思う。俺の力の値が1って事をネロは知ってる。力が1では強くなれないって、ネロの経験から分かるんだろうな。俺の知らない、ガトの村の外の世界の事をネロは知ってるからね。俺が外に出た後は過酷だって分かってるからこそ、今この時間だけは優しい空間を作ってくれてるんだと思う。


 遠くない未来の事を考えてしまって溜息を吐いてしまった。途端に、ネロが心配そうな顔になっちゃった。手を伸ばしてネロの髪も撫でてあげる。心配ないよってニコっとしたら、ネロの表情が少しだけ和らいでくれた。


「あ、この服。凄く動き易かった。ありがと。」


「問題無い。」


 まだ来ない未来は今は忘れよう。気持ちを切り替えたくて、ネロが用意してくれた服の感想とお礼を伝えてみた。いつも通りの返答が返ってきたけど、ネロの口調も表情もいつもとは違って優しい。


「汗も良く吸ってくれるし、ストレッチ素材が凄い。こんな生地もあるんだね。」


「無属性と水属性の効果が付与されていて伸縮性に富んだ生地、らしい。最高の腕を持った裁縫士の作だから、品質も問題無い、筈。琥珀が気に入って良かった。」


 ストレッチ素材とかあるんだね、って感激はネロにも伝わってくれたっぽい。ってか、ネロ的にも少しテンションが上がってる気がする。ちょっとだけ珍しい、かな。ネロの説明によると、最高の腕の裁縫士さんによる、凄い効果のついた服だったみたいだ。


「って事は、」


「琥珀。価格の事は気にするな。俺の服を買うついでに用意したモノ。」


 最後まで言わせて貰えなかった、悲しい。でも、お高かったんでしょ、って意味を込めてじっとネロを見つめてみる。ネロは困ったように眉を少し寄せた後で、片手で俺の目を塞いできた。ふわっとネロのいい香りに包まれて落ち着く。


 でもね、なんで塞いだのって思っちゃう。ネロの手を両手で掴んで、そろそろと持ち上げてみた。ネロは直ぐに手を離してくれる。俺を見下ろしてる金色の瞳は優しい光を放っていて和んでしまう。


「見られるとやだった?」


「そんな事はない。ただ。」


 俺が見つめたのがダメだったのかな。嫌がる行為をしちゃったのなら謝ろうと、確認を取ってみた。ネロは直ぐに否定してくれたけど、ちょっと言い淀んだ感じもある。俺が不安な顔になってしまったからか、ネロは優しく髪を撫でてくれた。


「ただ?」


「琥珀の瞳に魅入られる。」


「見入られる?」


 要するに、理由があって目を塞がれたってのが分かって、先を促してみた。ネロは少し困った感じで微笑んだ後で、俺の髪に指を通しながらポツリと答えてくれる。見入られるってなんでだ。思わず聞き返してしまった。ネロは静かに頷いて、その後は言葉は続けずに、俺の髪を優しく撫で続ける。


「どして?」


 もう一度聞いてみたけど、ネロが困った感じで微笑んでしまった。あらら、答えてくれないパターンか。なんでだろ。疑問が尽きないけど、まぁいいか。何れ教えてくれるかもしれないし、気長に待とうかな。


 しかし、ネロはホントに穏やかで優しいな。俺が何をしても包み込んでくれる優しさがある気がする。そして、凄く気を使ってくれてる。この膝枕も俺が運動後にダウンしたから休ませてくれたんだろうな。


 断りなしに膝枕をさせて貰ったけどネロは止めてこなかった。それに甘えてずっと寝転がってたんだけど、流石にそろそろ起きようかな。ずっと枕にさせて貰っていて、ネロも太腿が痛くなってそうだからね。


 起き上がってお茶に手を伸ばすと、すかさずネロが取って手渡してくれた。俺が運動疲れって良く分かってるらしい。流石にお茶くらい自分で取れるけどね。でも、心配してくれたネロに感謝してお茶を美味しく飲ませて貰います。程よく冷えてきたお茶が美味しい。


「てかね、この服はぴったりし過ぎてて、俺の薄い体の線が出て恥ずかしくないかな。ガトの人達って基本的にみんなムキムキじゃん。俺は貧弱で筋肉がない感じでしょ、恥ずかしい気がするんだけど。平気かな。」


 一服してから、ふと思い出したようにこの服はいい服なんだけどねって伝えてみる。ストレッチ素材のアンダーシャツみたいに超ぴったりなんだよ。要するに、筋肉も何もない体の線がそのまま見えてる感じですよ。


 ネロの大きな手が俺の胸に伸びて心臓のあたりを触った。そのまま少し動いて臍のあたりを軽く押される。背中を撫でるように触った後で、ネロが俺を見た。ネロの視線は凄くスゴク、とっても優しい。慈愛の上を行く優しさってあるんだね。


「確かに無い。」


「無くはない。少しはある。」


 その優しい瞳できつい言葉を断言してきたでゴザル。気を抜いてたからショックが数倍で襲い掛かってきちゃったよ。むっとしながら、言い返してみちゃった。


「そうだな。家の中で着る分には問題無い。俺は気にならない。」


「そうだけど。ネロが鍛錬場に行くようになったら、俺もそこの端っこで一人でやる可能性もあるじゃん。」


 筋肉も少しはある発言は確実にスルーされちゃった感があるね。まぁ、確かに家の中なら別に何も気にしないよ。でもね、鍛錬場でムキムキの人達に囲まれて、俺の貧弱な体が曝されるのは非常に嫌じゃん。もうちょっと筋肉があったら気にならないけど、今のままだとヤなの。強い口調で思いを伝えたら、ネロが少し考え込んでしまった。


「そうか。」


「その可能性に気付かなかったのか。」


 どうやらネロの中では、この服を外に着ていくってのは想定外だったらしい。ネロは俺の体に目を落として更に考え込んでしまった。考えて解決するモノなのだろうか。


「では、その上に薄いモノを羽織るか。」


「そうしてくれると嬉しいです。」


 って、直ぐ解決した。そうだね、普通に上に何か羽織ればいいじゃん。俺はなんでそんな事にも気が付かなかったのか。ネロはやっぱり凄いな。今気付いた事実は伏せてネロの話に乗っておこう。ニコっとして嬉しさを表現してみた。


「用意しておく。」 


「ありがと、ネロ。」


 ネロはあっさりと上に羽織るモノを用意する事を決めてくれた。フットワークも軽いし、決断も早い。これが護衛を纏めるトップの人の決断力なんだろうな。お礼を伝えると、ネロは嬉しそうに目を細めてくれた。


「じゃあ、そろそろ着替えようかな。」


「もう着替えてしまうのか?」


 汗も引いたし、まったりできたし。運動後の疲れも引いた気がする。そろそろ着替えましょうかね、って声に出してみた。直ぐにネロが残念そうな口調で引き留めてきたから、首を傾げてしまう。まだ運動着が必要な状況に置かれるって事ですかね。


「ん?なんで?」


「いや、なんでもない。」


 運動第二弾とか今の俺には無理だよ。若干の警戒を表情に出しつつ、ネロを見つめてしまう。ネロは気まずそうに目を逸らしてしまった。なんでもないなら良かった。


 ストイックなネロだから、ほんわか優しい笑顔で癒してくれた後は、さぁ続きを。って言い出しそうだったからね。早く着替えてその言葉は封印させて貰おう。


「じゃあ、着替えてくるね。着替え終わったら、この服を〈浄化〉して貰えるかな。」


「分かった。」


「じゃあ、ちょっと待っててね。」


 寝室に移動して、ネロが丁寧に畳んでくれていた服に着替える。汗は引いてたと思ってたんだけど、上着には汗が染み込んでしっとりしてるし、ズボンもしっとりしてる。着替え終わって、湿った運動着を持ってリビングに戻った。


 ソファでぼんやりと俺を眺めていたネロに、しっとりと湿った服を手渡してみる。服を受け取ったネロは手に持った状態で言葉を紡いでいく。水滴がどこからともなく発生して、ネロの手の運動着を中心に小さな球体を形作っていく。


 水の中で揺らめく服を見ていると、直ぐに水球は霧散してしまった。ネロの別の旋律に合わせて服がパタパタと風に煽られて終わり。お洗濯終了後の運動着はネロが綺麗に畳んでくれる。そして、畳み終わった服を片手に、ネロが寝室に行ってしまった。ソファに座って待っていると、直ぐ戻ってきたネロは俺の隣に腰を下ろした。


「ありがと。すっごく気になってたんだけど。」


「ん?」


 戻ってきたネロにメチャクチャ気になってた事を聞こうと思うんだ。身を乗り出して、ネロの太腿に片手を突いてネロの正面から覗き込んでみる。ネロが楽しそうに目を細めて見返してきた。ネロは俺の髪を優しく掻き上げて、先を促すように首を傾げてくれる。って事は、聞いていいよね。超気になってたんだよ。


「ネロは魔法をばんばん使ってるけど、MP切れになったりしないの?」


「なる時もある。」


「マジで、なるの?でも、いつも何かしてって言ったらしてくれるじゃん。ネロのMPは無尽蔵にあるのかと思った。」


 俺の質問には短い言葉でさらっと答えてくれたネロだけどね。それにしては魔法を使いまくってる気がするんだ。ネロのMPの総量が多いって事なのかな、でも、MP切れになる時もあるのか。MP切れのネロなんか見た事ないよ、いつも魔法を多用してるじゃん。ホントなのかな。


 少し疑問の表情を浮かべてしまうと、ネロは楽しそうに見つめてくる。不意に頭を傾けたネロが右耳を俺の目の前に差し出してきた。目の前にあるモフモフな猫耳に目が輝いてしまう。手を伸ばして、触ろうとした瞬間に耳は遠ざかってしまった。


 ネロの楽し気に細められた金色の目が耳の代わりに俺の目前にある。ちょっと悪戯っぽい輝きを放ってる気もするんだけど、めっちゃ楽しそうじゃん。ちょっとだけ見せてくれただけのサービスだったのか。くそぉ、手を出さなきゃもっと見られたかもしれないのに。勿体無い事をしてしまった。


 目の前で手の届きそうだった猫耳が遠ざかってしまった悲しさが後を引いてしまう。のろのろとネロの猫耳に視線を向けて悲しい顔をしてしまった。苦笑したネロが上げられた俺の手を握ってそっと下ろしてくれた。そして、ネロは俺の頬に手を添えたてくる。優しく顔の向きが修正されて、視線を耳から目に合わせられてしまった。


「サービスで耳を触らせてくれるのかと思った。めっちゃいい猫耳だったのに、目の前で逃げられちゃった。悲しい。」


「違う。耳飾りを見せた。最初に琥珀が耳飾りを見たいと言った意味を今理解した。」


 しょんぼりと呟く俺の言葉で苦笑したネロが俺の過去の恥ずかしい記憶を蘇らせてしまった。そうなんですよ、ばれてしまってはもう隠す必要もない。そもそも、ネロは俺が耳と尻尾が大好きって知ってるからね、今更取り繕っても仕方ない。


「あぅ、ばれてしまったか。あの時は超焦ったんだよ。猫耳を見てました、とか言えないじゃん。ほぼ初対面の名前も知らない人に耳を見せて下さいとか、変態極まりないよね。うん。」


 開き直った俺の言葉で更に苦笑したネロが頭を撫でてくれた。ネロが見せてくれたのは猫耳ではなく、耳飾りだったらしい。耳飾りってどういう意味だ。もう一度顔を上に向けてネロの耳を見てみる。ネロの右耳には3連の、左耳には2連のリング状のピアスが付けられている。このピアスを見せたかったって事だよね。


「耳飾りってどういう事?」


「MP自動回復の効果が付与された耳飾り。琥珀の要求する魔法くらいなら少し待てば発動可能な分は回復する。」


「マジで、超いいアイテムじゃん。良く分からないけど、いいアイテムな気がする。MP回復でしょ、ヤバいじゃん。」


 ネロのピアスはMP自動回復の効果がついてた。コレは凄いですよね。普通に考えて凄い気がする。でもどうだろう、この世界では普通なのかな。一般的なアイテムな可能性もあるよね。どうなんだろう。でも、MP自動回復とかテンション上がるアイテムですよ。そんな装備もあるんだね。


「そうだな、少し高価。」


「そのリングのピアスは全部同じ効果なの?」


「MP自動回復が付与されているのは左右1つずつ。」


 やっぱ高価だったか。そりゃそうだ、安い訳ないよね。だって、MP自動回復だよ、普通にテンション上がるやつじゃん。最初に見せてきた右耳のピアスには宝石は付いてない。って事は、リング状のピアスにその効果が付いてるのかなっと当たりを付けてみた。


 ネロはピアスを5つ付けてるからバリバリMPを回復させてる系なのかと思ったら違ったらしい。でも、左右に1つずつ高価なピアスを装備してるのは確定っと。


「成る程、それでどれくらいずつ回復するの?」


「耳飾り2つで5分毎に最大の2%。」


 効果はいかほどでしょうと続けた質問に、ネロはサラッと答えてくれた。5分で2%って凄いじゃん。〈浄化〉の消費MPって5だったよね。ネロのMPの絶対量がどんな物かは知らないけど、確かに俺の要求する〈浄化〉とかなら直ぐに回復しそう。


 スツィ曰く、MPは自然に回復するとは言ってたけど、身を以て知った事によると、MPが回復するまでのスパンは非常に長い。って事は、短時間で少量ずつでも回復できるそのピアスは凄いって事だよね。


「すご。良く分らないけど。凄いよね。多分凄い気がしてきた。」


「そうだな。魔法職の者達は喉から手が出る程に欲するモノ、多分。」


 やっぱ凄いよね。魔法職、か。ん~、魔法職ね、ネロがそういう言葉を使うって事は魔法メインの人達がいるって事なのか。成る程ね。ってか、ネロは物理は万能な感じがするんだけど、魔法も万能そうだよね。普段の魔法は流れるように優雅で自然だけど、戦闘ではどうなんだろうな。MP回復のピアスを持ってるくらいだから魔法もばんばん使うのかもしれない。


「ネロは普段は魔法を沢山使ってくれるじゃん。でも、戦闘って物理系っぽいイメージなんだけど。戦闘の時は魔法も良く使うの?」


「戦闘用の魔法は使わない。好みじゃない。」


「そなんだ。使おうと思えば使える?」


「使おうと思えば。でも、近接物理の方が速いし強い。」


「成る程。」


 ネロはどちらかというと脳筋よりだったらしい。この前に脳筋ポイかなって感じたのはちょっと正しかった。でも、まぁ、ネロの近接物理が強そうなのは目で見て分かってるからな。納得してしまう事実ではある。

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