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112 褒めてねぇからな?

 ソファに戻っていったレオさんを目で追いかける。ソファに腰を下ろし、気怠そうに背もたれに寄り掛かったレオさんは俺を目で捉えながら無になってる。その圧倒的無が存在してる目は、ネロを見てるみたいだね。自分の強引過ぎた行動を反省して無になったのかもしれませんね。


 レオさんが静かになってしまったから、食べるのを中断していたパウンドケーキに手を伸ばして食べるのを再開した。それにしても、このパウンドケーキはめっちゃ美味しい。お酒の風味もそうなんだけど、ドライフルーツの甘酸っぱさと合わさるとヤバい。止まらない美味しさ。


「レオさんが無理遣り好きってのは理解した。」


「ほぅ。」


「だって、ねぇ。さっきの無理遣り感、相当手慣れてるじゃん。」


 黙ってぼんやりと俺を見続けるレオさんにポツリと漏らしてみる。レオさんがスッと目を細めて、ぼんやりが終了してしまった。もしかすると演技だったのかもしれない。一応ね、そう思った経緯をちゃんと説明もしとく事にする。


「琥珀。酔ってるのか?」


 なのに、酔ってるのかって言われてしまった。酔ってる訳ないでしょ、ん~、酔ってるのかな。酔った経験なんてなかったから分からないや。確かにちょっとフワフワした気分かもしれない。これって酔ってるのかな、イヤ、酔ってはない気がする。ただ、ちょっと気分が良くなってるだけかな。


「ん~、どうだろ。気分はいい気がするけど、お酒を飲んだ事がないから分かりません。」


「マジか。こんなんで酔うのかよ。」


「酔ってないよ。気分がいいだけ。」


 酔ってるって断言されちゃうと酔ってはない気がしてくるんだよね。ちょっと楽しい感じかな、いい気分ってヤツですよ。レオさんを見上げてニコっとしてみたら、お茶を飲んでいたレオさんが片眉を上げた。


「そうだな。気分がいいだけだな。そうかそうか。」


 そんな懐疑的な視線と棒読みの言葉を投げ掛けられても違いますよ。酔ってはないんですよ。ちゃんと会話もできてるし、酔ってる要素はないじゃん。パウンドケーキを一口齧って思い出した。レオさんに言いたい事があったんだ。


「そうだ。レオさん。」


「なんだ?」


 パウンドケーキを一旦お皿に戻して、少しだけ怒ってるんです風に低い声を出してみた。疲れたような声で疑問を返してきたをレオさんを睨んでしまう。俺の睨みを受け流したレオさんはぼんやりとした表情で、先を促すように首を傾げた。


 ちゃんと思い出して良かった。これだけは返しとかなきゃだからね。立ち上がってテーブルに向かい、本の山の中からレオさんの本を見付け出す。上に積み上がった本を少し押すようにして本を引っ張り出したら上の本が崩れてしまった。


 まぁいいか。多少足元がふらつきながらローテーブルに戻る途中で、レオさんが俺を支えてくれる。レオさんは音も気配もなく近くに歩み寄って抱き留めてくれたらしい。レオさんを見上げると、困ったような心配そうな深い緑の瞳が見返してきた。落ち着いた色の猫目がめっちゃ綺麗。


 ローテーブルの前まで連れきてくれたレオさんは、俺を置いてテーブルに向かっていく。レオさんを眺めていると、崩れた本の山を戻してソファに戻ってきた。床に座り込んで、ローテーブルの上に身を乗り出しながらレオさんに向かって本を突き付けてみる。


「ネロにエッチな本を渡したでしょ。」


「ネロに渡したんじゃねぇよ。お前に渡したの。それに、エッチって内容でもないだろ。ちゃんと服を着てるんだから。」


 猛抗議をしてみると、レオさんは少し驚いた顔になった。本を受け取ったレオさんはそのまま本を開いて読み始める。ちらっと俺に視線を向けたレオさんは困った感じで言い返してきた。でもね、服を着てるから平気だろって、全然平気じゃないでしょ。服を着てるけど、エッチぃ演出の為の小道具じゃん。エッチな内容であってるから。


「超恥ずかしかったんだから。レオさんにはデリカシーってモノがないんですか。服を着てるって、アレは着てるって言わないと思うんです。」


「琥珀が好きな特集だったから。」


 レオさんの言い方にむっとして、語調を強めて更に不服の申し立てを続けてみる。レオさんは俺と目を合わせてちょっとだけ悲しそうに眉を寄せてしまった。スッと目を逸らしてしまったレオさんが悲しそうに呟く声が聞こえた。シュンとしてしまったレオさんの様子を見て、少し怒りが収まってきた。


 そう、確かにニュクトっ子の種族名が判明したのは嬉しかった。そうか、そうだよね。俺の為に用意してくれたんだよね。レオさんの気遣いの産物でもあったのを忘れてた。


「あぁ、そうだよね。ありがと。でも、ネロも中を見たって言ってたんだよ、恥ずかしかった。」


 ちょっと冷静になって、レオさんが俺の為に用意してくれた本へのお礼を伝える。でもね、超恥ずかしかったんだから、ネロは普通にこの本読んだんだからね。内容を知ってるんだからねって付け加えてみた。


「ほぉ。誰でも見るんだから恥ずかしがる事はないって。で、ネロはどの子が好みだったんだ?」


 レオさんは気にする事はないって言いながらも、ネロの好みの子が気になる様子だ。ネロの好みの子を聞いてどうするつもりなんだよって思ってしまう。でも、俺も聞いた質問だったのを思い出した。レオさんから本を受け取って、ペラペラとページを捲ってネロの選んだ浴衣を着た子を見つけ出す。


「好みの子はいないって。ただ、この服は好きって言ってたよ。」


 ネロは好みの服しか教えてくれなかったけどね、ってレオさんに本を提示してみた。本を覗き込んだレオさんの目が細められた。何かに気が付いた様子だ。レオさんは無言でじっくりと挿絵を眺め始める。少しして、レオさんの口の端が上がった。


「へぇ。成る程ね。」


「何が成る程なの?」


 顔を上げたレオさんは、感嘆の声なのか、納得の声なのか分からない感じで呟いた。どういう意味なのか気になってレオさんに聞いてみる。レオさんの目元には楽しそうな笑みが少し零れている。超含みのある笑みですね。確実に何かが分かったって感じじゃん。


「琥珀はこの色に見覚えはない?」


 いきなり色の話をされて、レオさんの差し出す本の挿絵を確認してみる。ちらっと見た感じでは、前に見た通りのこげ茶色の髪に空色の綺麗な瞳のお姉さんだ。全然知らない色の組み合わせだと思う。敢えて言えばだけど、目の色が違えばレオさんっぽい気がしないでもない。


「こんな色は知らない。こげ茶に空色でしょ?緑の目だったらレオさんにちょっと近い感じがするかな。レオさんの方がもうちょっと濃いけど。」


「違うよ。服の話をしてるんでしょ。」


「服?」


 首を振って知らない事を伝えると、レオさんが少し呆れた感じで見るトコロが違うって訂正してきた。色って言われたら人物の色かと思うじゃん。不満に思いながらも、挿絵のお姉さんの服を確認してみた。


 褪せた感じの明るいこげ茶色の浴衣に、赤の強い茶色の帯。渋い色合いの着合わせだとは思います。レオさんに視線を移す。目が合ったレオさんが頷いてくれた。って、全然分からないんですけど。知らない色の組み合わせだよ。


「分かんない。俺の知ってる色なの?」


「お前な、鏡を見た事はないのか?」


 全然分からないです、って白旗を掲げてみたら、レオさんがちょっと苦笑しながらヒントらしきものをくれた。鏡って事は、自分って事だよね。もう一度本に目を落としてみる。


 少し眺めて、成る程っとなってしまった。そりゃ気が付かないよ。だって、こんな綺麗なお姉さんに着られている服の色が似ているなんて思わないじゃん。


「あぁ。俺の前の色に似てるかもしれないね。そっか、ネロは俺に気を使って選んでくれたのか。全然気が付かなかった。確かにちょっと似てる気がしてきた。道理で地味な色合いって思った訳だよ。」


「ネロがそんな気を使うか?それに地味には見えない。凄い色気を引き出してる色の組み合わせだ。」


 レオさんに納得できましたって大きく頷いてみた。俺が理解した事が分かって、レオさんが目を細めて頷いてくれる。でも、地味な色合いって言ったら不満そうな顔になってしまった。そして、俺が話し終わった途端に、レオさんはそんな事はないって訂正してくる。


 まぁね、レオさんの言う通り、このお姉さんには凄い似合ってる色の着合わせだと思う。色気を引き出すっていう意味合いでは、魅力的な色の合わせかもしれない。ネロはこの色の組み合わせが凄い気に入ったって事なんだよね。と、いう事はですよ。色が変わる前の俺の色が気に入ってたって事になるのかな。


「色気を引き出してるのには完全同意する。このお姉さんにはよく似合ってるよね。でも、気を使ってくれてる訳じゃないとすると、ネロは今の俺の色があんまり好きじゃないって事かな。」


「違うだろ、なんでそうなるんだよ。そうだな、ちょっと待って。」


 更に納得したけど、ちょっと悲しくなってしょぼんとなってしまう。レオさんは困った顔で、違うって言ってくれたよ。でも、そうとしか思えないじゃん。レオさんは何かを探しているのか、本をぱらぱらと捲り始めた。レオさんを視界で捉えながら、小さく溜息を吐いてしまう。


 そうだよね。ネロは俺とずっと顔を合わせているから、色の違いが凄い目に付く筈。俺からすると、髪がちらちらと目に入る程度で自分の色なんて全然気にならない。でも、ネロは俺をずっと見てるんだよね。色が変わる前も、変わった後も。


 本を捲っていたレオさんは目当てのページが見付かったらしい。見開きのページを俺に突き付けてきた。目の前に差し出された挿絵は何というかメチャクチャ過激なんですけど。それを恥ずかしげもなく、俺の眼前に突き付けるレオさんの精神は凄い。


 描かれてるお姉さんの凄い色気と、色々と透けてる浴衣の表現に、目の置きどころがなくなってしまう。視線を彷徨わせた挙句、本を持つレオさんの手を押し返してしまった。なんでこんなエロエロなのを見せてきたの。レオさんの嫌がらせにも思える行動にむっとして睨んでしまった。


「違うって、色。色を見ろ。」


「色?」


 再度、挿絵を突き出してくるレオさんの言葉に従って、本を受け取って絵を眺めてみる。真っ白な髪から飛び出る、大きなふさっとした狐耳は凄く綺麗。同色のふっさりしゅっとした狐尻尾が凄く艶めかしく蠱惑的に描かれている。


 潤んだような濃いピンク色の瞳が真っ直ぐにこちらを見据えている。少し厚めの艶のある真っ赤な唇の片側が皮肉な笑みを浮かべるように上がっている。


 豊満な胸とか、細い腹部とか、肉付きがいいけど長くて綺麗な足とかに、濡れた浴衣が張り付いている。繊細で詳細で凄く緻密な表現で、浴衣の透け感を描いていて、他の挿絵より更に過激に見える。そもそも、この絵師は何故にこんなに凄い画法でこんな挿絵を描いたのだろうか。


 一応細部まで確認して顔を上げる。冷静に見下ろしているレオさんと目が合って、首を傾げてしまった。恥ずかしさを抑え込んでちゃんと確認した結果、何の成果もなかった件について。


「色だよ。服の色。さっきからその話をしてただろ?」


「あ、そっか。余りにもアレな絵を見せつけてきたから頭から抜けてた。」


 俺の考えが読めたのか、改めて、服の色をちゃんと見ろっとレオさんが指示を出してきた。そうでしたね、服の色の話をしてたんだった。凄く衝撃的な挿絵だったから、抜けちゃってたんだよ。


 えへっと誤魔化し笑いをしつつ、改めてもう一回挿絵を確認してみる。艶のあるスケスケな白に近いクリーム色の浴衣に、光沢のある紺色の帯を締めたルナールのお姉さんの姿絵が見開きで描かれている。


 成る程ね。今の俺の色に近い気がする。髪の白金プラチナブロンド色と瞳の紺色な感じがしないでもない。レオさんに視線を向けて、理解できましたっと大きく頷いて、ぱたんと本を閉じる。


 レオさんに本を手渡すと、受け取ったレオさんがニヤっとイヤらしく笑った。その笑顔にむっと眉を寄せてしまったら、レオさんは本を引き取りつつ頭を撫でてくれる。


「お前はこんなので赤くなるとか可愛いな。」


「しょうがないじゃん。耐性がないんだもん。それに、こんなのっていうけど。この中じゃかなりアレじゃん。スケスケだったよ。」


「そうかそうか。じゃあ、もっと過激なのを持ってきてやるな。耐性つけろ。」


「いい。いらないです。」


 軽口で俺を揶揄ってくるレオさんからプイっと顔を逸らしてしまった。あんまり見た事ないヤツだし仕方ないじゃん。拗ねた口調で言い返すと、レオさんが更に揶揄ってくる。ホントに持ってきそうなレオさんには、全力で拒否をしておいた。


 楽しそうに笑いを噛み殺すレオさんに視線を戻して睨んでしまう。レオさんはホントに楽しそうな笑顔を浮かべていた。あの挿絵をこんなのって言っちゃうレオさんは凄いですね。


「でだ、ネロにあの服を見せて、これはどう?って聞いてみたら分かるだろ。」


「そんなのできる訳ないじゃん。あんなエロいページを開いて、これはどう?ってヤバいでしょ。それに、そんな事したら強制してるみたいじゃん。今の色は好きじゃないの?って言ってるようにしか思えないでしょ。却下。」


 真面目な顔になったレオさんが口を開いたと思ったら、とんでもない提案をしてきた。勿論、そんな事はできません、って全力で拒否ですよ。レオさんはホントに突飛な思考回路を持ってるから困る。


 そんな事をしたら、ネロは優しいからこれも好きって言ってくれるに決まってる。絶対無理。目を逸らしたままでお茶を飲む。気まずくなって、食べ途中のパウンドケーキを一口齧って心を落ち着けてみた。


 口に広がる甘酸っぱさといい香りで頬が緩んで、気分も落ち着いた。レオさんに視線を戻すと、目が合ったレオさんは優しく微笑んでいる。その優しい笑顔と、時々出る意地悪笑顔のギャップが凄いレオさんっぽいなって思ってしまった。


「因みに、俺はさっきのも今のも両方好きだった。」


「レオさんはえっちぃのは何でも好きでしょ。」


「強ち間違いではない。」


 優しい笑顔で俺を慰める為か、レオさんが両方好きだったよって言ってくれる。慰めてくれてるって分かってるけど、つい拗ねた口調の憎まれ口で言い返してしまった。レオさんはどや顔でニコッと笑って、間違いではない、と言い切ってきた。もしかすると、慰めとかじゃなく本心で言ってたのかもしれない。


「もういいよ。その本は今日回収していってね。ネロも要らないって言ってたから、この家には不要な本です。」


「そうか。悲しいな。」


 話は終り、本はちゃんと持って帰ってね、ってレオさんにちゃんと伝える。その言葉でレオさんがしょぼんとしてしまった。耳を少し伏せたしょんぼりの顔はなんか可愛く見える。猫がしょぼんってした顔と被って見えるからかな。


「レオさんのコレクションの一部になるから良かったじゃん。」


 元気づける為に、本は有効活用できるでしょって伝えてみた。俺をちらっと見たレオさんの耳が立ち上がってくれた。ちょっとは持ち直してくれたっぽい。しかし、猫耳は可愛いな。こんなにカッコいいお兄さんなのに可愛いとか、反則だよね。


 本を返すっていう肩の荷が下りたからか、一口齧ったパウンドケーキがめっちゃ美味い。お茶も一口っとカップを持って、コクっと飲んだらお茶がなくなってしまった。ちらっとレオさんに視線を送ってみると、レオさんが手を差し出してくれる。


 カップを渡すと、レオさんは自分のカップと合わせて水を入れてきてくれた。戻ってきたレオさんは詠唱を始める。お湯を沸かすレオさんを眺めて、美味しいお茶が早く飲みたいなって期待を胸に待ってみる。


 お茶を淹れてくれる筈のレオさんの手元を見ていたけど、レオさんは行動を開始しない。顔を上げて首を傾げてしまう。レオさんはニコっと笑顔で、お茶の葉っぱの瓶を指差してきた。


「俺が淹れていいの?めっちゃ不味くなるよ、平気?」


「練習するんだろ?」


「うん。ありがと。」


 レオさんの言いたい事が分かって、嬉しくなる。不味いお茶になるって分かってても練習に付き合ってくれるんだ。これは頑張らないとですね。ニコニコになってしまったら、レオさんも楽しそうに目を細めて笑顔になってくれた。


 レオさんはティーストレーナーの中の出がらしを処理して、俺がお茶を淹れる準備を整えてくれるみたいだ。茶葉の瓶の蓋を開けて、木の匙を摘まんでみる。木の匙で適量の茶葉を掬って顔を上げた。


 レオさんが差し出してくれたティーストレーナーにお茶っぱを慎重に詰め込んでいく。やっぱり零れちゃったけど、こんなもんでしょう。どう、ちゃんとできたよ、ってレオさんに顔を向けてみた。レオさんは無言で首を振っている。何かがダメだったらしい。


「茶葉の量が多い。」


「沢山入れた方がお茶が良く出そうじゃない?」


 ダメ出しをしてくるレオさんに言い返してみた。だって、お茶は濃い方が美味しいと思うんだもん。ネロのお茶も濃くていい風味だったもん。


「ああ、沢山入れると成分がよく出る。そうして苦くて渋いお茶になるんだよ。因みに、俺はこの説明をユリアにもした記憶がある。」


「え、ユリアさんと一緒?」


「褒めてねぇからな?」


「分かってるよ。煩いな。」


「ほぉ?琥珀よ。随分と口が悪くなったな。」


「違うの。今のは違う。口が滑ったの。本心じゃない。」


「成る程?」


 レオさんが教えてくれる説明に成る程ね~っとなりつつ、つい地が出てしまった。レオさんの目がスッと細められたのが見えて、慌てて言い繕ってみたけど駄目だった。レオさんの口元は笑ってるけど、目が笑ってない。ちょっと怖い、かな。こんな時はちょっとだけ甘えた感じで誤魔化したらいいと思うんだ、そうしよう。


「えっと、多かったお茶っぱどうしよう。」


 すっごく可愛い感じを心がけて、ニコっと笑顔を作りつつレオさんに困った感を伝えてみる。イキナリ豹変した俺に戸惑ったのか、レオさんの怖い視線が和らいでくれた。何とか誤魔化し成功かな。


 目を逸らしたレオさんは無言でティーストレーナーの茶葉をお皿に少し取り出している。レオさんが詠唱を始めた。一瞬でお皿の上にぼっと火が立ち上って、お茶の葉が燃え尽きてしまった。お茶のいい香りが漂ってくる。


 小さな火柱にテンションが上がって、目を輝かせてしまった自覚はある。じっとレオさんを見つめたら、目を合わせたレオさんが戸惑った感じで一瞬止まってしまった。その後で、ティーストレーナーの蓋を閉じて俺に渡してくれる。


「最初に湯気で蒸すように揺らしたら、短時間だけ湯に浸ける。すぐ上げて、もう一度浸す。それで終わり。」


「簡単じゃん。それであんなに綺麗な色が出るの?美味しいお茶になるの?」


「そう、簡単なの。やってみな、分かるから。」


 レオさんの助言通りに、湯気の上で茶葉を少し揺らしてお湯に浸ける。すぐ引き上げて、また浸ける。二人のカップを行ったり来たりで計4回。ティーストレーナーを小皿に戻してお茶のカップを覗いてみる。レオさんのは深緑だから分らないけど、俺のは白いカップだから良く分かる。


 綺麗ないい色のお茶だ。レオさんにニコっとしてカップを手渡してみた。受け取ったレオさんは香りを嗅いで、お茶を口に含んだ。一口飲んだレオさんが首を傾げている。


 味の感想を待って見つめていた俺と目を合わせたレオさんは無言で止まってしまった。どうしたんだろ、不味いのかな。言われた通りにやったのにダメだったのかな。


「不味い?」


「うん。不味い。なんでだろ。」


「正直過ぎて胸が痛い。」


「琥珀に言葉の遠慮は止めた。琥珀が正直になるなら、俺もぶっちゃけでいいだろ。」


「それはそれで悲しい。」


「そうかそうか、悪かったな。しかし、何がいかんのだろうな。」


 どうやら、レオさんもレオさんなりに猫を被っていたらしい。俺の化けの皮が剥がれた事で、レオさんも言葉を飾るのは止めるみたいだね。ちょっと悲しいね。でも、その方が楽と言えば楽かな。俺も猫を被らなくていいって事だからね。


 レオさんが考え込んでしまったトコロで自分のお茶を口に含んでみる。成る程、確かに不味い。何故か香りが全くなくてめっちゃ渋い。苦みも少しある。不味過ぎて顔を顰めてしまったら、レオさんにカップを奪われてしまった。レオさんを目で追いかけると、お茶は流しに捨てられてしまった。あ~、俺の苦心の賜物が捨てられちゃった。


 水を入れて戻ってきたレオさんがお湯を沸かし始めた。出がらしを燃やして、少量のお茶の葉をティーストレーナーに入れて蓋をした。さっき教えてくれた手順通りに、湯気で蒸らして2つのカップに二回ずつ、計四回沈めて取り出した。


 確認するように、レオさんがまず自分のお茶を飲んでいる。そして、俺のカップを差し出してくれたから、受け取って飲んでみた。めっちゃ美味しい。同じ手順だったのになんでなんだ。


「俺はお茶が淹れられない呪いをかけられてるのかもしれません。」


「そんなピンポイントな呪いなんてねぇよ。」


「でも、実際駄目だったじゃん。」


「まぁ、何だ。ユリアもすぐには上手くは淹れられなかったし、琥珀も何回かこなせばいけるって。な。多分大丈夫だから、気落ちするな。」


 最早きっと呪いな可能性もありますよね、って呟いて悲しさを表現してみた。レオさんは即行突っ込んでくる。むぅっとなりながら拗ねてしまったら、レオさんが覗き込んでくる。慰めの言葉をかけてくれるレオさんは優しいですね。


 まぁ、練習あるのみかな。食べかけのパウンドケーキをゆっくりと味わって、美味しいお茶は無理だったという過去を記憶から消し去る努力をしてみる事にした。レオさんも最後の一切れを大きくバクっと食べ切っている。

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