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111 お前一体俺を何だと

 並んで歩きながら、ちらっとレオさんの尻尾を見ると静電気っぽくない。しゅっと手を滑らせて真空状態のペタンコになったネロの尻尾よりも細くて長く見える。


 揺れるレオさんの尻尾を見ながら歩いていたら、レオさんが少し後ろに下がってしまった。顔を上げてレオさんを見ると、レオさんがニヤっと含みのある笑みを浮かべた。


「なんで下がったの。」


「琥珀がイヤらしい目で俺の下半身を見てたから。」


 揶揄われてる感じがひしひしと伝わりながらも、冷静に聞いてみる。そしたら、やっぱり軽口で揶揄われた。言葉選びが凄く、レオさんっぽいよね。


「言い方に語弊がある。」


「語弊はないよ。ケツを見られながら歩いてたら恥ずかしいだろ。」


 冷静に返す俺に対して、レオさんも淡々と言い返してきた。でもね、色々と突っ込みたいところはあるけどね。一番気になったのは恥ずかしいって単語だよ。


「レオさんにも恥じらいってあるんだね。」


「お前は俺を何だと思ってるんだよ。」


 驚きを表現しつつも淡々と感想を述べてみる。レオさん的にはその言葉は不満だったらしく、静かに言い返してきた。


「ん?レオさんはレオさんだよ。レオさん以外の何者でもないんだよ。」


 こういう時はちょっとだけ揚げ足取りをしてみましょう。にっこりとレオさんに現実を突きつけてあげる。レオさんが驚いた顔になって止まってしまった。


 どうやら、遣り込める事に成功したようである。冗談や揶揄いを言ってくるレオさんには時々反撃をしようと思うんだ。俺だって偶には噛み付く事もあるんだよ。ふふん、となってレオさんを置いて歩き続ける。


 立ち直ったらしいレオさんが追いついて並んできた。ちらっとレオさんを見上げると、民家の灯りを受けて、興味深そうに見下ろしてる顔が見えた。なんでそんな表情なんだ。


「それに、俺が見てたのはお尻じゃなくて尻尾だから。さっき、ネロの尻尾が静電気みたいにぼわってなってたの。で、なんでって聞いたら、ぴったりした〈シール〉だと毛の間に空気が入って膨らむって言ってたんだよ。」


「ほぉ?」


「レオさんの尻尾は膨らまないなって思って見てただけ。」


 一応、誤解は解いておくか。尻尾を見ていた事実と、何で尻尾を見ていたかを説明してみる。レオさんは興味なさそうに相槌を打ってきたから、レオさんの尻尾は細いままですねって感想も付け加えてみた。


「へぇ、成る程ね。俺のは大きな〈シール〉だから、空気が入り込まないんじゃね?」


「あ~、そっか。そうだね。レオさん頭いい。」


 レオさんが返してくれた推測を聞いて、成る程っと納得してしまう。確かに、ネロがぴったり〈シール〉だと空気が入るって言ってた。思わず呟いてしまった、レオさんへの賛辞にレオさんが苦笑してしまった。


「要するに、ネロの尻もイヤらしい目で見て歩いた訳だな。」


「違うよ。純粋な好奇心。」


「ほぉ。」


「レオさん。尻尾はね不思議がいっぱいなんだよ?尻尾を持っている人には分らない事もあるんだよ。」


 しみじみと、ネロのお尻も見てたんだねって呟くレオさんを軽く睨んでしまう。そんな目で見る訳ないでしょ。お尻より尻尾なんだよ。熱く語ってみると、レオさんがじっと見つめてきた。


 民家の灯りに照らされたレオさんの視線は非常に冷めている。あれ、情熱が伝わってないみたいだ。おかしいな。レオさんも尻尾の良さが分かってない系の人なのかな。


 まさかとは思うけど、レオさんはネロと同じ考えの持ち主だったりしないよね。ルナールの狐尻尾とガトの猫尻尾が同じなんて事は思ってないよね。まぁ、そんな事がある訳がない。狐尻尾と猫尻尾は全然違うし、ねぇ、そうだよね。


「レオさんはネロみたいに、ルナールのお姉さんとガトの男の人の尻尾が同じ。だなんて、そんな事は言わないよね。ね?」


「一緒じゃねぇのか?ほぼ一緒。」


 恐る恐る、そんな事はない筈って思いながらも質問をしてみた。冷めた目のレオさんだから、もしかするとって思ったよ。でも、返ってきた言葉を聞いてショックを受けてしまった。やっぱりか。レオさんもネロと同じだった。


「レオさんまで。そんな事を言うのか。」


 一緒な訳ないじゃん。失望と落胆と悲しさを込めた溜息交じりに呟いて前を向く。なんで、尻尾を持っている人達は尻尾の良さが分かんないのか。俺には分らない。


「因みに、何がどう違うっていうんだ?」


 レオさんもネロと同じ考えだったって悲しさから、黙々と歩いているとレオさんが静かに問い掛けてきた。レオさんに目を向けると、ホントに不思議そうな顔をしている。


 レオさんは、尻尾の何たるかがまだ分かってないらしい。それでは人生の楽しさが半減してしまうんですよ。自身が尻尾を持っているというのに、なんという勿体なさ。


 レオさんにはまだ分からない世界だったかもしれない。ここはちゃんと丁寧に教えてあげた方がいいと思うんだ。そうすればレオさんにも分かる筈だからね。俺の手腕にかかっている訳ですよ。ちょっと、盛り上がってまいりましたね。


「ルナールのお姉さんは、ふぁさってしてて、ふさっとしつつも、しゅっとなってるんだよ。で、ガトの人のは色々だけど、フサフサとかぽわぽわとかモフモフとかで、しゅっとしてるのは稀なんだよ。レオさんみたいにしゅっとしてるのは、しゅっとしてるだけなんだよ。全然違うの。分かる?」


 懇切丁寧に、そしてテンションが上がってしまって熱く、ルナール尻尾とガト尻尾の違いについてレクチャーをしてみる。レオさんは俺をじっと見つめながら静かに聞いてくれていた。


 説明を終えても、レオさんは無言でじっと見つめてくる。俺も情熱とテンションが覚めてない状態で見つめ続ける。


「あ~、ごめん。俺には良く分らなかった。取り敢えず、全く違うっていう情熱は伝わった。」


「いつか、レオさんにも分かる日が来るよ。」


 レオさんが顔を前に向けて、困ったような口調で感想を漏らした。どうやら、完璧には伝わらなかったらしい。でも、情熱が伝わったならいつかは分かる日が来る筈。


 俺に視線を戻して頷いてくれたレオさんは、まだネロよりは見込みがありそうだ。ネロみたいに、尻尾に全く興味がなくてどうでもいいって感じではない。情熱だけでも分かってくれて良かった。いつか尻尾の良さに気が付くといいね。


「レオさん。尻尾の良さが分からないとね。」


「うん。」


 ニコっとレオさんを見上げて話しかけると、レオさんが目を細めた。コクっと喉ぼとけが動くのも見えた。どうやら、今から重要な話をしますよって事は伝わったらしい。


「人生の四割は損をするんだよ。」


「そんなに重いウェイトを占めてるの?尻尾が?」


 それくらい重要な項目なんだよってレオさんに教えてあげると、レオさんが驚いたように目を丸くした。無言でじっと見つめてくるレオさんに大きく頷いてみる。困惑した感じのレオさんが、恐る恐る、って感じで聞き返してきた。


 レオさんは俺の真意を探るようにじっと見つめてくる。レオさんは真剣に俺の話を受け止めてくれてるらしい。確実にネロよりも見込みがある事が判明した瞬間である。


「そうなんだよ、凄く重要なんですよ。で、猫耳に関しても、知らないと四割は損をするんだよ。って事はね、耳も尻尾も興味のないレオさんは人生の八割も損をしてるんだよ。悲しくない?」


 見込みのあるレオさんには、残りの重要な項目についてもちゃんと教えてあげる事にする。レオさんは絶句したように、俺をじっと見つめてきた。まだ俺の真意を探っているみたいだね。でもね、真意しか話してないんだよ。


「琥珀の頭の中はどうなってるんだ?」


「俺も猫耳と尻尾が欲しいってので占められてる。」


「琥珀に猫耳と尻尾。確かに可愛いかもしれない。うん。少し良さが分かってきた。」


 少しして、レオさんが絞り出すように質問をしてきた。そうだね、そこ気になりますよね。いいでしょう、答えてあげましょう。俺の願望を切々と語ってみる。そしたら、冷めた態度だったレオさんのテンションがいきなり上がった。


 ニッコリ笑顔になってくれたレオさんは分かってくれたらしい。レオさんのテンション爆上げで俺もテンションが上がってしまう。分かってくれて嬉しい。


 この村の良さも、今のレオさんなら違う目で見れる筈。最近は雨だから人通りは少なくて寂しいけどね。普通に、右を見ても、左を見ても、前を見ても、どこにも可愛い猫耳と綺麗な尻尾に溢れてるんだよ。


「でしょ。俺に尻尾とか猫耳とかはどうでもいいんだよ。この村の中は綺麗な尻尾と可愛い猫耳の宝庫なんだから楽しもうよ。ね。人生損しちゃうよ?折角綺麗な尻尾が沢山あるのに。猫耳も可愛いのに。」


「ぁ、ぅん。そうだね。」


 レオさんが俺の気持ちを共有できた事実が嬉しい。この村の中でも楽しめるんだからねって強調しつつ熱く語って更に思いの共有を図ってみた。でも、レオさんのテンションが急激に冷めてしまった感がある。何故だ、悲しい。


「良かった。レオさんが分かってくれてほっとした。」


 でも、少しだけ通じ合えたモノがあった気がする。ニコっとしてみたら、レオさんもニコッと返してくれた。やっぱり通じ合えたモノがあるね、確信できた。


「琥珀は可愛いだけだと思ったら、結構、患ってるのな。」


「ん?」


「そこも込みでいいけどな。」


 じっと見つめてくるレオさんの瞳が光を放ってるのに気を取られて、レオさんの低く呟いた言葉を聞き逃してしまった。聞き返してみると、ニッコリ笑顔のレオさんが、そこもいいって太鼓判を押してくれた。何の話をしてるんだ、気になる。


「どういう事?」


「いや、こっちの話。」

 

 更に聞き返してみたけど、ニコニコのレオさんは答えてくれる気はないらしい。ん~、尻尾と耳を愛でる事もいい事だって認めてくれたのかもしれない。そういう事にしておこう。キリがいいから、耳と尻尾の話題はここまでにしておこうかな。


 深追いし過ぎると嫌われちゃうかもしれないからね、じわじわと良さに気付いていって貰えればいいんだよ。ね。ニコっとしてみたら、レオさんが戸惑った顔になってしてしまった。今回は通じ合えなかった、悲しい。


 まぁいいや、気になってたクロエさんの事でも聞いてみようかな。少しだけ聞いてもいい話題か迷ってしまう。でも、レオさん自身も何となくだけど、色んな人としてそうな浮気性っぽい。だから、気にならないかもしれない。


「そういえば、クロエさん。だったよね、あの綺麗な女の人。」


「うん。」


 少しだけ迷った末に、クロエさんの名前を出してみる。レオさんの反応次第では話を続けるのは止めようと思ったけど、レオさんが普通に相槌を打ってくれた。


「ネロを紹介してって言ってたけど、レオさんとアレな関係じゃないの?」


「まぁ、アレな関係ではある。でも、しょうがない。この村に限らず、ネロはモテる。男がいようが、旦那がいようが、抗えない程の惹きつける力ってヤツがあるからね。俺は職場が同じでしょ。紹介しろって言われたのも数えきれないよ。しかも、最中に言ってくる奴までいた事もあるんだぞ。」


 全然平気そうかなっと、凄く気になっていた事を聞いてみた。レオさんから返ってきた話を聞いて驚いてしまう。


 ネロがモテるのは何となく分かってた。でも、そこまでとは知らなかった。そして、レオさんの交友関係はチャラ過ぎな感じかな。数えきれないって、どういう事なんだ。


「うぁ、マジですか。」


「ああ。マジな話ですよ。」


 ちょっとは冗談込みかなって思って呟いてしまったら、レオさんが大きく頷いて真剣な目をしながら肯定してくる。マジな話だったのか、そうか。


 って事はですよ。俺はマズくないか。ネロは最近俺にかかりっきりじゃん。ネロの自由時間の殆どが俺の面倒を見る事で費やされている気がする。


「俺はネロの恋路の邪魔をしてないかな?」


「ん~。邪魔というか。なんと言えばいいか。」


 不安になってレオさんを見つめて聞いてみる。レオさんは困ったように歯切れ悪く返してくれた。その反応で分かりますよ。やっぱりそうですよね。あんな綺麗で、カッコ良くて、しかも強くて地位もある人が恋人の一人や二人、いてもおかしくないですよね。


 女の子に追いかけられる煩わしさから逃げてるって情報は知ってるよ。でも、それは一応って感じの上辺だけの情報ですよね。あんな超絶的な人に恋人がいない訳がないよね。


 ネロ本人から人付き合いは面倒って聞いたよ。でもね、恋人とかはまた別な話だと思うんだ。全然、影すら気付いてないけど、いない訳ないよね。


 あんな非の打ち所がない程に完璧な人だからね。まぁ、非の打ち所がないってのは言い過ぎか。ちょっと抜けたトコロもある完璧な人くらいにしておこう。どっちにしても、俺のせいで家に呼べないって事は変わらないか。


 そうだよね、俺は邪魔してるじゃん。ネロは優しいから、そんな事を気取らせない感じで接してくれてたって気付いてしまった。


「やっぱり邪魔してるよね。俺がいたら呼べないもん。」


「気になるヤツがいるなら、相手の家に行くんじゃね?」


 小さく溜息交じりに自分の邪魔さ加減を愚痴ってしまう。レオさんが気にするなって感じで、他の可能性を示唆してくれた。成る程ね、そういう方法もあるのか。ちょっとだけ安心できた。


「そっか。相手も一人暮らしならそうだよね。成る程。」


 安堵しつつ、レオさんにニコっと笑顔でそうかもしれないねって納得してみる。ちょっとだけ、ネロなりに楽しんでる可能性がある事が分かった事で気が楽になった。


「まぁ、ネロの家にいられないっていうなら、俺の家に来たらいいじゃん。歓迎するよ。」


「遠慮します。」


「なんでよ。」


 胸を撫で下ろした瞬間に、レオさんが楽しそうに提案してくれた。でもね、キッパリと断りをいれておきますよ。すかさずレオさんが不満の一言を漏らした。なんでって聞かれるまでもなく分かるでしょ。


「レオさんはいつも半裸なんだもん。」


「男同士なんだから問題ないだろ。」 


 そうだね、確かに男同士なら半裸でも問題ないよ。それは正しいよ。でも、それはオブラートに包んでた理由だよ。本質はそこじゃないんだよ。まぁ、レオさんはコレ系に関しては凹まなそうだからね。言葉を選んで婉曲的に言うのは止めた。びしっと言っておこう。


「レオさんは女の人でも関係なく裸でしょ。それに、レオさんの方が女の子関係が派手なんだから、邪魔になるじゃん。ネロへの邪魔の比にならない程の邪魔になるのが確定だから嫌なんです。」


「それなら切るからいいだろ?全員切る。」


 びしっと、ネロよりレオさんの方が交友関係が派手でしょって伝えてみる。少しの間を置いて、レオさんが真面目さしか感じられない口調で断言をし出した。


 この男はイキナリ何を言いだしたんだ。レオさんをじっと見つめてしまう。光に照らされたレオさんの瞳は真剣な光を帯びている気がする。真剣な顔をすると、スゴクカッコいいですね。


「レオさん。」


 立ち止まって、レオさんに向き合って真っ直ぐにレオさんの瞳を見つめる。こくっと、レオさんの喉ぼとけが動いた。じっと見つめ返してくる緑の瞳が自ら光を放ってるように見える。


「レオさんから女の人を取ったら何が残るの。」


 少し黙って見つめ合った後で、そっと目を逸らして呟いてみた。言いたい事は言えた。前を向いて歩き始めた俺の横に並んだレオさんが覗き込んでくる。


「琥珀。お前は一体俺を何だと。」


「ん?レオさんはレオさんでしょ。」


 レオさんから顔を逸らしても、回り込んで目を合わせて抗議してきたレオさんに顔を向ける。ニッコリ笑顔で答えてあげると、レオさんが体勢を戻してくれた。


 ちらっとレオさんを見上げると、ぼんやりと前を向いてしまっている。冗談や軽口を変な感じで言うから、反撃に合うんだよ。


 まぁ、レオさんから女の人を取ったら発言は、少し言い過ぎた感はある。ちょっとだけ謝っておこう。レオさんを見上げると、レオさんが顔を俺に向けてくれた。


「えっと。残るモノはあった。」


「成る程。」


「それでは問題です。レオさんの奥底に少しだけ残されていたモノは何でしょう。」


 俺を見てくれたレオさんに謝ろうと思ったのに、俺は素直じゃないらしい。それでも、俺の出題にレオさんは付き合って考えてくれている。


「琥珀への想い。」


「残念、近いですが不正解です。正解は、優しさでした。」


 少しの間考えていたレオさんが、分かったって感じでニコっと答えてくれた。でもね、俺への想いってなんだよ、突っ込みかけたけど抑えた。そして、ちゃんと正解を教えてあげて、ニコっとしてみる。レオさんが目を細めて頷いてくれた。


 やっぱり、優しさは正解だった。レオさんは基本チャラいってのは確定路線だ。女の子を家に引き入れる時にはいつも言ってる台詞なんだろうな。他の子を全員切るって言い切っちゃうんだもん、モテ男のいう事は違いますな。


 でもね、俺がネロの邪魔してるかもって落ち込んだから、レオさんが気遣ってくれたって分かる。レオさんが冗談で和ませてくれる作戦だったのに、キツク返してしまった。反省してます。


「きつく言ってごめんなさい。」


 顔を逸らして小さく呟いたら、レオさんがクスっと笑ってくれた。レオさんを見上げると、優しく光る緑の目が見える。穏やかな優しくて綺麗な緑の光だ。


 前を向くともう家だ。話しながらだとめっちゃ早い感じがする。入り口を開けてレオさんに先に入って貰って、俺も後を追って入る。


 既に〈シール〉を解除していたレオさんが、待ち構えていたように俺の〈シール〉も解除してくれた。靴を脱いで、勝手知ったる我が家って感じでレオさんが家に上がってくれる。


 ローテーブルにバスケットを置こうとして、積み上がった本に戸惑っているレオさんの姿にちょっとクスッとなってしまった。そうでした、大量の本が置きっぱなしだったね。


「さっきまで本を読んでたから、そっちにおきっぱだった。どうしよっか。今日はテーブルにする?」


「そうだな~。ソファの方がまったりできそうじゃね?」


「だよね、じゃあちょっとソファで寛いでて。ささっと移動させちゃうから。」


 重いから一度に全部は無理だ。武器の本を一冊抱えてテーブルに運ぶ横で、本を全部纏めて持ち上げたレオさんがテーブルに運んでくれた。その武器の本、一冊で10㌔くらいあるってネロが言ってたよ。それが二冊+他にも分厚い本だよ。


 ネロといい、レオさんといい、その細い腕でなんでそんな力があるんだよ。あ、筋肉があるからだよね。これが種族差って奴なのか。


 本を置いてくれたレオさんの二の腕を掴んでみる。細く見えたけど、普通にがっしりはしてた。全然細くないじゃん。掴んだ部分をやわやわと揉んでみる。硬くてやわやわってできない。全く指が沈み込まない。筋肉が硬過ぎる。


「何。そのイヤらしい手つきは。」


「イヤらしくない。レオさん、力を入れてみて。」


 レオさんの筋肉を確認していたら、レオさんが軽口で疑問を伝えてきた。レオさんをちらっと見て、腕に視線を戻す。普通でこの硬さって事は力を入れたらどうなるんだよ。真剣な顔で反論しつつ、腕に力を入れて貰う。


 ギュッと筋肉が締まって、少し太くなった気がする。両手で力を入れて握ってみたけど、全く指が食い込まない。さっきも硬くて食い込まなかったけどね。


「凄い筋肉。俺もこんな体になれるかな?」


「琥珀が?」


 マジで凄い筋肉だなっと、言葉がぽろっと零れてしまう。傍にいたレオさんには勿論、聞こえてたみたいで聞き返されてしまった。


 そりゃそうですよね、聞き返しちゃいますよね。俺は貧弱な体をしてるからね。でもね、今や、俺は鍛え始めてるんですよ。ニコっとレオさんを見つめると、レオさんが戸惑った顔になってしまった。


「うん。レオさんやネロみたいに、ムキムキのバキバキ。そんな俺はどうでしょう。」


「あ、えっと、ん~。そうだな~。今の方がいいんじゃないか?」


「レオさんもそんな事を言うんだ。」


 俺も筋肉ムキムキになるんだって、言ってみると、レオさんの戸惑いが困惑へと変化してしまった。下を向いて俯いて泣き真似をしてみる。


 下を向いたままで、慌てたように揺れるレオさんの尻尾をじっと見ていたら、顎クイをされてしまった。困惑が消えた緑の瞳にじっと射竦められてしまう。


 泣き真似はばれてしまっていたらしい。えへっ、と誤魔化し笑いをしてみる。俺の顎から手を離してくれたレオさんが、ぷいっと顔を逸らしてしまった。レオさんにじゃれ付くのはここまでにしておきましょう。


「本の移動ありがとね。重かったでしょ。」


「ん~、それほどでも。」


「でも、ネロの本なんて一冊で両手剣と同じ重さって言ってたよ。重くなかった?」


「重くはない。」


 本を運んでくれたお礼を伝えると、レオさんはニコっとしてくれた。やんわりと否定してくるけど、本一冊でも重量結構あるんだよ。驚いてしまったら、屈んだレオさんが目を合わせて笑顔で重くないって断言した。


「は~。凄いな。いいな。」


 マジですか。アレが重くない体っていいな。ぼやきながら、ネロが用意してくれていたお茶セットをローテーブルに運ぶ。カップ2つにお水を入れて、ローテーブルに戻ってレオさんに手渡してみた。


「今日はカップは2つか?」


「あ、うん。ネロにお客様用のが欲しいって言ったら、俺のも新しいのを買ってくれた。」


「へぇ。」


 カップを受け取ったレオさんが疑問の表情で俺をちらっと見た。ニッコリ笑顔で答えると、レオさんは微妙な笑顔で気の抜けた言葉を返してくれた。


「だから、分け合わなくてもたっぷり飲めるよ。良かったね。」


 レオさんが詠唱を始める横で、ニコっと笑顔で今日は沢山飲めるねって言ってみる。詠唱を続けながら、レオさんの眉がぴくっとなったのが見えた。何かに反応したっぽいけど、なんだろう。


 ローテーブルを挟んで向かい側の床に座って、ローテーブルに頬杖を突きながらレオさんの魔法を眺める。カップの中のお水がお湯に変わってるらしく、湯気が立ってきた。


 お茶っぱの瓶の蓋を開けて、ティーストレーナーを用意する。慎重に木の匙でお茶を掬い、ティーストレーナーに詰め込む。また少し零しちゃったけど問題ない。問題ないよね、ってレオさんを見上げてみる。レオさんは無言で俺を見守っている。


 カップを2つ、自分の前に移動して、茶葉を沈める。少し置いてからもう1つに沈める。引き出して沈めるを何回か繰り返す。ここだ、というタイミングで緑のカップをレオさんに差し出した。


 自信作ですよ、どうぞっと笑顔を浮かべると、レオさんは苦笑しながらカップを受け取って一口飲んでくれた。眉一つ動かさずに飲んでる。全く顔を顰めてない。


 これは成功で確定でしょう。俺だって美味しいお茶くらい淹れられるんですよ。自分のお茶に息を吹きかけて冷まして、口に含む。美味しいお茶って舌が認識してた筈なのに、違う衝撃で顔を顰めてしまう。苦くて渋い。香りが何もない。普通に不味い。


 なんでなんだよ、ネロと同じ淹れ方だったじゃん。レオさんに顔を向けると、ふふんっと、満足気な顔をしている。そして、無言のままで俺のカップを奪ったレオさんは流しに向い、中身を捨てて水を入れて戻ってきた。


 お湯を沸かして、ティーストレーナの中身を小皿の上に取り出す。言葉を紡ぐレオさんの声を聞きながら様子を窺ってみる。何の魔法なんだろう、という疑問は直ぐに解決した。


 小皿の上のお茶っぱの水分が抜けていった、と思ったら急に発火して消え去った。目の前で起こった小さな火柱が凄くてほぅっとなってしまった。


 レオさんが仕切り直しって感じで、瓶を開けてお茶の葉をティーストレーナーに詰めていく。カップに沈めて取り出すのを何回か繰り返した後で、レオさんに差し出されたカップを受け取って、息を吹きかけて飲んでみる。いい香りがして程よい渋みの美味しいお茶だ。


「分かった。ガトの人しか美味しく淹れられないお茶だ。」


「そんな茶はねぇよ。」


 成る程ね~、分かりますよ。ニッコリと俺の推理を披露してみると、レオさんに即否定されてしまった。


「じゃあ、あれだ。ティーストレーナーに入れる段階で零すと、ペナルティが発生してお茶が失敗するヤツでしょ。」


「そんなモノもない。単純に琥珀が下手なだけだ。」


 そうか、違うか。それなら、っと違う可能性を披露してみる。こっちも直ぐに否定された上に、俺が下手だからと断言をされてしまった。俯いて小さく溜息を吐いてしまう。


「下手って言った。悲しい。」


「琥珀、何度も同じ手は喰らわないぞ?」


 両手で顔を覆って小さく呟いてみる。俺の横に移動してしゃがみ込んだレオさんが片手で俺の両手首を掴んできた。熱いくらいのレオさんの手のひらがゆっくりと俺の手を上に運んでいく。


 レオさんは俺の両手を頭の上で固定して、もう片手で俺の顎を掴んで上を向かせてきた。涙目になってる俺と目が合ったレオさんは見て分かる程の動揺をしている。いや、これはですね。自分の不甲斐なさで落ち込んで涙目になってるんです。


「琥珀。大丈夫だからな。下手でも練習すれば上手くなるから。」


 至近距離で見つめ合うレオさんが慌てた感じで慰めの言葉を掛けてくれた。レオさんは優しいですね。ニコっと笑顔を浮かべてみると、レオさんが固まってしまった。瞬きすらしてない。


 深い緑の猫目が俺に固定されて、ピクリとも動かない。メッチャ綺麗な瞳に涙目の俺が映ってる。引き込まれる程の綺麗な深く澄んだ緑色だ。


「レオさん。」


 レオさんの迫力みたいなモノに引き込まれて、掠れた声になっちゃいながらも声を掛けてみた。レオさんがびくっと反応した。


 瞬きが復活して、真剣に見つめてくる瞳に惹き込まれてしまいそうになる。この深い緑の色が凄く綺麗なんだよ。でも、そうじゃなくてね、ずっと握ってる手を離して下さい。


「手が痛い。」


「あ、すまん。軽く握ったつもりだったけど、痛かったか。痕とか残ってないか?」


 掴まれてる手が痛いんですって短く伝えてみる。レオさんは慌てて手首から手を離してくれた。謝りながら俺の手首を確認してくれる。実際には全然痛くなかった。握られてる感覚もなかったんです。ただ、めっちゃ熱かった。


「不味いお茶になってごめん。」


「大丈夫だぞ、琥珀。眉一つ動かさずに全部飲むからな。不味くないぞ?」


 微妙な空気になってしまったのを謝りたい、ついでに、不味かったお茶も謝りたい。ってか、そっちメインで謝らなきゃだよね。実害があったのは不味いお茶だし。そう思ったのに、レオさんはどうやらお茶を飲んでくれるらしい、しかも不味くないって言ってくれてる。


「ホント?」


「ああ。ネロができたんだ。俺だってできる。」


 ホントに不味くないのかって目を輝かせちゃった。でも、どうやら違ったみたいだ。悲しい。ネロができたからレオさんもそうしてくれるだけなんだね。


 でも、優しさの方向性がちょっと違うかな。そして、飲み切るつもりだったから、俺のお茶だけを淹れ直したのか。


「ってか。ホントに飲んでくれるつもりだったから、俺のだけを淹れ直したの?」


「イヤ、自分のを淹れ直すのは普通に忘れてた。」


「じゃあ、レオさんのも淹れ直して。美味しいお茶でデザートを食べよ。」


 自分のお茶は淹れ忘れかよ。普通にそっちに驚いてしまうわ。そうと分かれば、ちゃんと美味しいお茶でデザートを楽しみたい。ニッコリ笑顔で強要してみる。


 レオさんは頷いてお茶を捨てに行ってくれた。水を入れて戻って来たレオさんはソファに腰を下ろして詠唱を始めた。レオさんが魔法を使ってると不思議な気持ちになる。レオさんが魔法を!って気分になっちゃう。


「レオさんは手首を掴んで顎クイするのが得意なの?超手慣れた感じだよね。さっきも気が付いたら手首を掴まれて両手を上げさせられてたし。」


「あぁ。よくヤルからかもな。」


 詠唱をするレオさんに凄く気になった質問を投げ掛けてみる。レオさんは俺を眺めながら詠唱を続けている。詠唱が終わってフッと笑った。どうしてなの、ってじっと見つめていたら、苦笑交じりに答えてくれた。


「よくってどういう事?」


「だって、顔を覆っちゃうとか。ね。恥ずかしがる顔が見たいのに、ね。」


 よくやるってなんだ、疑問を浮かべて見つめてしまう。ニッコリ笑顔のレオさんが楽しそうな口調で付け加えてくれた。ね、ってなんだよ。ね、って。


 でも分かった、そういう事か。レオさんの言ってるシチュエーションが頭に浮かんでしまう。同時に、楽しんでるレオさんの顔も頭に浮かんでしまった。顔が赤くなって目を逸らしてしまう。


 レオさんが楽しそうに声を殺して笑う声が聞こえる。でも、聞こえないフリでバスケットを開けて中を覗いてみた。


 今日のデザート第二弾はパウンドケーキだ。美味しそう。厚切りで大き目のパウンドケーキが四切れずつ用意されていた。お皿を取り出してレオさんの前に置く。自分の前にも置いて、ミニバスケットを床に下ろして食べる準備は整った。


 レオさんを見上げて、食べよ。って目で訴えてみる。レオさんはパウンドケーキに目を向けた後で、視線を俺に戻して頷いてくれた。


 美味しそうだねってニコっとなっちゃうと、レオさんも嬉しそうな微笑みを浮かべてくれた。レオさんは俺が食べ始めるのを待ってくれてるみたいだ。それでは、遠慮なく頂いちゃいますよ。


 パウンドケーキを手掴みで一切れ持ってみる。厚切りのパウンドケーキを一口齧ると、甘いお酒の香りがほわっと口に広がった。お酒の香りのするドライフルーツが沢山散りばめられているらしい。大人な味のパウンドケーキだ。


 お酒の香りとドライフルーツの甘酸っぱさが半端なく美味しい。一口齧って、お茶を飲む。ほわっと広がる甘いお酒の香りとお茶のいい香りが混ざり合って至福のひと時。


 レオさんに顔を向けると、パウンドケーキを食べながら俺を眺めていた。美味しいねって、笑顔で首を傾げてみると、レオさんが目を細めた。


 レオさんも美味しそうに食べてる。多分、レオさん的にもお気に入りな味でしょう。こんな感じの大人なデザートって初めて食べるけど、美味しいな。お酒って美味しいんだね。


「これはお酒の味なのかな。いい香りで美味しいね。」


「あぁ。甘くて軽い酒だろうな。ユリアが好きそうなやつ。」


 ニコっと笑顔でお酒の味が美味しいって話してみる。レオさんも優しい笑顔で答えてくれた。ユリアさんとお酒って結びつかなかった。


「へぇ。ユリアさんはお酒を飲むんだ。知らなかった。」


「時々な。余り強いのを飲んでるのは見た事はないけどな。」


 レオさんとユリアさんは幼馴染って言ってたから、時々一緒に飲むのかもしれないね。お酒を飲んでる時も、レオさんはユリアさんに怒られてそうなイメージだ。


「成る程。そのお酒を使ってケーキを作ってくれたんだね。」


 美味しいお酒の味のパウンドケーキの謎が解決した。ちまちまとパウンドケーキを楽しむ。余りの美味しさと初めての風味から、黙々と食べ続けて一切れ目を完食していた。


 途中お茶を飲んで、もう一切れを持ったトコロで気が付いた。凄い静かなんだけど、どうした。お喋りなレオさんが黙っちゃったよ。何があったの。


 レオさんに顔を向けてみる。背もたれに寄りかかったレオさんがぼーっと俺を眺めている姿が見える。レオさんはお酒に酔ってしまったのかもしれない。


 お酒の香りが凄くするパウンドケーキだからね。レオさんはお酒が弱かったのか。レオさんの前のお皿を見ると後二切れ残ってる。二切れで酔っちゃったのか。


「レオさんはお酒に弱いの?」


「普通?」


 もう一度レオさんに顔を戻して、ちょっとだけ心配になって食べる合間に聞いてみる事にした。瞬きをしたレオさんはフッと口の端を上げて短く答えてくれた。あれ、酔ってる訳じゃないのかな。


「なんで疑問形なの。」


「あんまり飲まないから分らん。弱くはないとは思う。」


「そうなんだ。爛れた生活をしてるから、お酒も嗜んでるのかと思ってた。」


 そうなんですか、お酒は嗜まないタイプの人なんだね。意外だな~、レオさんの生活スタイルならお酒くらい嗜んでそうなのに。ニッコリ笑顔で俺の考えを明かしてみた。


 ぼんやりしていたレオさんの表情が変化して、苦笑に変わった。いや、苦笑じゃない、意地悪な笑顔になったよ。ニヤってしてる、ちょっとだけイヤらしい笑顔ですよ。


「琥珀。お前は随分と口が悪くなったな。恥ずかしいと直ぐ顔が赤くなるのに、そうやって絡んでくるとどうなるか教えてやろうか?」


「あ、いえ。遠慮します。ごめんなさい。」


「イヤ、いい。俺の話を聞きたいんだろ?色々と興味津々なお年頃だからね。分かってるぞ。」


 マジで意地悪モードだった。慌ててちゃんと謝罪の言葉を口にしてみる。でも、身を乗り出したレオさんはニッコリと強引な態度は崩してくれない。これはマズいですね。


 レオさんは静かに大人しくお茶を楽しんでくれていたのに。俺の一言でレオさんのテンションが上がってしまったらしいですね。


 そして、レオさんが超楽しそうな笑みを浮かべているんですけど。意地悪な笑みで楽しそうとか、絶対、ドSな人だ。これはいけませんね。


「レオさん、マジごめん。許して。」


「ん。許す。」


「ほんと?ありがと。」


「許すけど、俺が話を勝手にするのは自由だよな。」


 それ以上はイヤって、もう一度謝ってみると、レオさんはニコっと笑顔で許してくれた。ホッと一安心した瞬間に、意地悪くニヤリと笑ったレオさんが追い打ちをかけるように、新たなる案を出してきた。


 それは酷いでしょ、勝手に話すなら俺は完全拒否の姿勢を貫きますよ。レオさんを睨んで首を振る。レオさんは楽しそうにニコニコしながら俺を眺めている。ドS感満載のこの感じが、レオさんには凄く似合ってるのはなんでだ。


 レオさんと目を合わせながら、パウンドケーキを置いて耳を塞いで首を振る。ゆらっと立ち上がったレオさんが俺の傍に移動してきた。


 耳を塞いだ状態でレオさんを目で追いかけてしまう。レオさんがゆっくりとローテーブルに腰かけた。そして、俺に向かって手を伸ばしてくる。


 何するんだろうと、レオさんを見つめてしまう。ニコニコのレオさんが俺の手首を両手で掴んだ。眉を寄せてフルフルと頭を振ってみたけど、レオさんがニコっとしてくる。そして、レオさんはゆっくりと俺の手を持ち上げていく。


 レオさん俺の手首を一括りにして片手で掴んで、頭の上で固定した。覗き込んできたレオさんに、首を振って嫌だって意思表示をしてみる。


 レオさんの瞳が輝いている錯覚に陥る。ギラギラとした迫力のある緑の瞳に一瞬釘付けになってしまった。その後で、目を伏せて嫌だって意思表示を貫いてみる。


 レオさんが俺の頬に手を添えてきた。優しく頬を撫でてくれるレオさんの手が熱い。そして、レオさんは頬に添えた手で俺の顔を固定して覗き込んでくる。さっきと変わらず、変な迫力の目力は健在だった。


「ギブ、ホントごめん。」


「いや。気にしなくていい。それより、大人のアレコレを色々と教えてあげるよ。一緒に楽しもうね。」


 かなり本気のレオさんに圧倒されながらも、ギブアップを宣言してみた。でも、レオさんは全く容赦がないらしい。


「ごめんなさい、レオさん。無理遣りは嫌。」


 くそぉ、起死回生の手段はないのか。頑張れ、俺。何かある筈。頭を回転させて思いついたのが泣き落とし。涙目で泣き声を出すと、レオさんの目の迫力がなくなった。


「お前な、それは反則だろ。」


「ん?」


 掴んでいた手を離してくれたレオさんが力なく呟く声が聞こえた。落胆した様子のレオさんに首を傾げて疑問を伝えてみる。レオさんは無言で頭を撫でてくれた。


 超優しい目になってるんだけど。さっきの迫力ある眼光を放っていた目と同じとは思えないよ。優しい眼差しのレオさんの瞳を見つめてしまう。


「昨日、俺のを一口やるって言っただろ。食えよ。」


 はーっと溜息を吐いたレオさんが自分のお皿からパウンドケーキを掴んで差し出してくる。何のつもりだ。一瞬警戒したけど、昨日のパイの耳を食べちゃった時の続きだと理解した。


「俺のもまだ残ってるからいい。今度、凄くちっちゃくて一口で終わっちゃうのを貰うね。」


 でも、今日のは量が多いし、俺のもまだ残ってるからいらない。その代りに、今度宜しくねってニッコリ笑って断ってみた。レオさんは目を細めて、一応納得してくれたっぽい。


 俺の斜め前に座ったままで、手に持っていたパウンドケーキをバクバクと食べてしまった。三口でなくなったパウンドケーキに驚いてしまう。口でか。食べるの早。だからなくなるのが早いんだね。


「レオさん、ごめんなさい。俺はホントは口が悪いんだ。精一杯猫を被ってたけど、ばれちゃった。」


「分かってたよ。もう、それでいいよ。それが琥珀のいい所だ。」


「で、多分だけど、究極に空気が読めないかもしれない。」


「まぁ、空気は読めてる。時々、アホなだけだ。」


「アホって言われた。悲しい。」


 顔を覆って泣き真似をしてみたら、頭をポフポフ撫でたレオさんが離れて行った。

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