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107 真顔で冗談は良くない

 『珠玉の業物2』は大型の武器や重量級の武器しか載っていないみたいだ。1ページずつ俺に合わせてゆっくりと捲ってくれるネロに顔を向けてみた。俺の視線を受けて、ネロも顔を上げて、どうした?って感じで首を傾げて疑問を投げ掛けてくる。


「ネロのペースで読んでいいよ。俺は流し読みする。気になるトコは、ネロが夜出かけた時の一人の時間で読むから平気だよ。」


 俺の事は気にしないでって伝えてみると、頷いたネロのページを捲るペースが速くなった。速くなるってレベルじゃない。速読の速さでペラペラとページを捲っていく。流し読みをするとか不可能な速さですよ。


 驚きを込めて、もう一度ネロに顔を向けてみた。ページを捲る音は聞こえる中で、文字を追ってるのかネロの目は動いてる。って事は、ちゃんと読んでるって事だよね。


 これは揶揄われている可能性もあるのかもしれない。でも、ネロの本気の読書はこうなのかもしれない。分からない。


 そして、ちゃんと読んでいるとすれば、読むスピードがメチャクチャ速い。ネロの横顔を見つめている時間が長かったからか、ネロの顔がこちらに向けられた。ページを捲る指は止まってしまっている。


 一旦読書を中断してくれたのであれば、好都合ですね。ネロの膝に手を伸ばして本を欲しいって意思表示をしてみた。ネロが本を持ち上げてくれたから、床に座り込んで、ソファに置いてって座面をぽんぽんとしてみる。


 ネロが本を俺の前に置いて、見易いように本の配置を調整してくれた。本の片側を立てて腕で抱える。ネロが面白そうに目を細めたから、俺が何をするのか楽しんでるっぽい。ネロに本の中が見えないようにして、ぺらぺらとページを捲る。


「問一、ページ13の上から4つ目の武器は何でしょう。」


「アルブム・アウストリサイズ。サイズ系に属する大型の鎌。攻撃力強化が組み込まれた刃部分は角度が調節できるようになっており、刃の部分を柄に対して垂直にする事により、限定的ではあるが槍のように使用する事も可能となっている。欠点としては変形機構を持つ為、他の大型武器と比べると強度が圧倒的に弱い。遊びの武器、もしくは使い捨ての武器というところ。」


「遊びか使い捨てって、このゼロの沢山並んだ高価そうな武器を?」


「使い捨てにしかならない。」


 イキナリ出題したにも拘らず、ネロは一切の動揺もなくスラスラと答えてくれた、そして、正解だ。っていうか、こんな高価そうな武器を遊びや使い捨てにする道楽持ちの人なんて存在するのかよ。恐ろしい世界だな。


 驚きと冗談だよねって感情を込めてネロをじっと見てみる。ネロは楽しそうに目を細めてるけど、至って真面目な顔付きである。いや、ネロは真顔で冗談をいう事もあるから分からない。


「まぁいい、正解でした。問二、ページ24の下から2つ目の武器は何でしょう。」


「ウェリデ・ヴィーザルアクス。大型の片刃の戦斧。頑丈な作りと片刃で扱い易い。後は、紋様で相手を短時間沈黙させる効果がつけられていた、かな。余り得意ではない武器だから流し読みした。」


 気を取り直して第二問目を出題してみる。少し考え込んだような間があってからネロが答えてくれる。流し読みしたって言ってるけど、武器の名前と効果はあってる。


「成る程、正解。問三、ページ85の一番上の武器は何でしょう。」


「そこはまだ読んでない。」


 続く第三問目はまだ読んでないページだったらしい。多分だけど、ホントのホントでさっきの速読で読んでたらしい。ネロが凄すぎる事がまた判明してしまった。綺麗でかっこよくて、偉くて、強い。更には、速読までできる超人だったでゴザル。


「さっきのペースでホントに頭に入ってるんだ。凄いね。」


「琥珀と共に読んでいた方が楽しい、かな。」


 本気でネロの性能が凄過ぎて目を輝かせてしまった。対するネロは静かな表情を崩さない。静かな表情のネロの言葉には疑問しか浮かばない。なんで楽しいんだろ。気になる。


「俺とだと楽しいの?」


「琥珀の反応が新鮮で。」


 冷静なネロの反応で少しだけ理解できた。成る程、武器を見て一喜一憂する俺か。確かに傍目で見てると楽しいかもしれない。というか、ちょっとウザいくらいのテンションになってないだろうか心配だ。


 でも、テンションが上がっちゃうのは仕方ない事なんです。この本は凄いんだよ。本の外見からして、もう豪華その物だし。だって、スゴク上質な革張りだよ。金属で補強されてるんだよ。金属部分にはスゴク手の込んだ意匠の細工が施されてるんだよ。


 中に記載されてる武器もヤバいんだもん。この前の武器の本より本格的で精密な挿絵だし。情報量も半端ない。追加効果とか性能とかも段違いなんだよ。


 そして、一番ヤバいのは、記載されてる武器の金額。ヤバいって分かる0の数。見てて楽しいのはその通りなんですよ。高価な武器って事は凄い武器って事なんだもん。


「俺と一緒に読んでると遅くない?後、俺のテンションはヤバくない?煩くないでしょうか。スゴク心配になってきちゃいました。」


「流し読みで内容は確認できる。後は、琥珀の反応を楽しむ。」


 一応、俺は読むの遅いよってのと、煩かったらごめんねってのを確認してみる。目を細めたネロは楽しそうに、揶揄う感じで軽く答えてくれた。返ってきたネロの反応は俺の悪い想像を否定している。ネロはホントにそれが楽しいっぽい。冗談っぽいノリのネロも親しみやすくていいですね。


「じゃあ、一緒に読も。気になる武器とか教えて。あと、解説とかをしてくれてもいいのだよ。」


 一緒に読もうかってにっこり笑顔で見上げる。ふわっと嬉しそうに微笑んだネロが本を持ち上げて膝の上に置いてくれた。俺もネロの隣に座り直して、ネロの広げる本のページを覗き込む。そして、唐突に鳴るお腹。あぁ、さっきクッキーを貰ったから、夜まで持つと思ったのにダメだった。


「お昼をあんまり食べてなかったからお腹が空いてきちゃった。アルさんの所でクッキー貰ったのにダメだった。」


「一旦切り上げて早めの夕食にするか。」


 本に手を置いた状態で覗き込んでくるネロに、エヘっと照れ笑いをしつつ言い訳をしてみる。ネロは頬を緩めて優しく頷いてくれた。そして、読書の時間は一時中断、と本を閉じてローテーブルに戻してしまう。


「ネロはお腹空いてる?」


「ああ。少し気疲れで消耗した。」


「成る程~。じゃぁ、早めの夕ご飯の後はちょっとだけゆっくりしようか。夜はいつもの時間くらいなんでしょ?」


「そうだな。」


 夕ご飯にはまだ少し早い時間で、ネロはどうだろうって思っちゃった。聞いてみると、ネロもお腹が空いてるらしくて良かった。早い時間のご飯なら、食後の時間がゆったりまったりできる筈。ネロの仕事の時間までは余裕があるだろうから、ちょっと嬉しいかもしれない。


 マントを羽織って〈シール〉をして貰って外に出る。外は霧が更に濃くなっていた。さっきは少し霞んでたけど見えていた族長のテントの入り口は、今は濃い霧で隠されて見えない。


 まだ、茜の差す時間にもなってない早い時間だけど、辺りは既に薄暗くなっている。一歩出たところで、余りの視界の悪さに周りを見渡していたら、ネロが隣に立って背中に手を添えてくれた。


「霧が一段と濃くなったね。何も見えなくなってる。」


「そうだな。」


 ネロを見上げて、霧が凄いって感想を漏らしてみた。ネロは静かに相槌を打ちながら俺の背中をそっと押して歩き始める。ネロに促されて歩みを進めながらも、周りを見渡していて気が付いた。


 そういえば、レオさんの家に泊まらせて貰った時は超寒かった。実は外は凄く寒いのかもしれない。さっきはヒンヤリと気持ちよく感じたけど、どうなんだろう。


 あと、アルさんに〈シール〉をして貰った時は寒くなかったのに解除されたらメッチャ寒かった。って事は、〈シール〉は寒さを防ぐ効果があるのかな。


「これ、〈シール〉をしてなかったら相当寒いのかな?」


「気温は低い。寒く感じる、多分。」


「成る程。やっぱ〈シール〉は寒さを防ぐ効果、っていうか保温効果とかがあるって事なのかな。」


「密封して中の気圧を一定に保つ。生体が内部に存在していると、生体自身の発熱により〈シール〉内の温度が一定まで上昇した後に保たれる。保温と言われると、そうとも言える。」


「成る程ね。」


 質問をしたら直ぐにレスポンスが返ってくるネロの高性能さが凄い。ネロは先生にもなれる気がする。〈シール〉はある程度の寒さを防ぐんだろうなとは思ってた。密封空間だから自分の発熱で暖かさが保たれてたんだね。成る程~、凄いな。


「家の中はどうなの?レオさんの家は温度が弄れないって言っててメッチャ寒かったけど、ネロの家は暖かいじゃん。」


「家は確かに温度を弄っている。琥珀が一番心地良い温度を保っている。」


「それも魔法?」


「そうだな、魔法に近い。」


 じゃぁ、家はどうだって聞いてみると、家も温度を設定してくれたらしい。ってか、魔法に近いってなんだ。魔法に近いも遠いもないだろ、魔法は魔法じゃないのかな。


「魔法に近いってどういう意味なの?永続する魔法とかなの?」


「永続はしない。ニルが刻んだ紋様が付与されているアイテムを使っている。長時間、効果が持続する。」


「え?アイテムで温度を上げてるの?それは魔法なの?」


「温度や他の設定をする為に自分の魔力を使う。」


 思ったままに質問を重ねると、ネロは返答を直ぐに返してくれる。魔法に近いっていうかアイテムじゃん。アイテムと魔法は違うじゃん。って思っちゃったけど、アイテムを使う為には自分の魔力を使うらしい。


 だから、魔法に近い、なのか。へぇ、なんか凄いな。それにしても、魔力を使うだけで効果を発揮できるアイテムを作るニル君はヤバい。しかも、エアコン的なモノって事でしょ。ヤバ過ぎる。


「そうなんだ、ニル君は凄いね。」


「俺は褒めないのか?」


 思わずニル君への賛辞の言葉が口から出てしまった。それに対してなのか、ネロがぼそっと呟くのが聞こえた。ネロっぽくない台詞に驚いて立ち止まってしまう。


 俺と歩みを揃えて立ち止まったネロを見上げると、真顔のネロが俺を見下ろしている。じっと見つめると、目を逸らしたネロが前を向いてしまった。


 冗談を言うようになったのはいいけど、真顔だとちょっと分かり辛いかな。でも、ニル君だけじゃなくて、勿論ネロも偉い。ニル君だけを褒めるのはダメだったね。


 ネロの肩に手を置いて背伸びをしてみる。ネロが屈んでくれたから、目を合わせて頭を撫でてあげる。ネロは嬉しそうに目を細めてくれた。満足してくれたっぽい。歩き出した俺の横で、ネロの尻尾が楽しそうに揺れてる。上機嫌なネロの尻尾を見ながらの散歩だ。


「ネロには最近ずっと凄いしか言ってなかったから、今回は止めちゃった。でも、ネロも凄い。普通に凄い。めっちゃ凄いよ。」


「分かっている。」


 ホントはネロも凄いって思ってるからねってのを前面に押し出して精一杯褒めてみる。ネロが楽しそうに、ちょっとだけ揶揄う口調で答えてくれた。ネロの口調が聞き慣れない感じで、尻尾を見ていた視線をネロの顔に移してみる。優しく笑っているネロがいて、少し見惚れてしまった。


「笑顔の練習の効果が出てきたの?」


「まだ練習はしていない。」


 余りにも自然に嬉しそうに笑っているネロの笑顔は凄く綺麗。こっそり笑顔の練習をしてたのかと思っちゃうくらいの綺麗で優しい笑顔になってるよ。でも、まだ練習はしてないらしい。無意識な笑顔なんだね。


「そっか。練習あるのみだね。レオさんが自然に歩けるようになるのと、ネロが自然に笑顔になるの。どっちが早いかな?」


「レオの方が早そう。」


「勝負の前から負け宣言なのか。そっか~、ネロは負けちゃうんだね。」


「勝ち負けなのか?」


「ん~。競争した方が成長しそうじゃない?」


「そうだな。」


 ネロは勝負事には興味ないらしい。でも、ちょっと苦笑した感じで相槌を打ってくれてる。レオさんもゆっくり歩きはキツイっていってたから、ネロといい勝負だと思うんですよ。ネロの笑顔を見てる限りでは、普通に笑えてるしネロの方が一歩先を行ってそうな気もするんだよ。


「じゃあ、勝った方には俺特性のお茶を贈呈しようかな。」


「それは是非勝たなければ、だな。」


 勝負というからには勝者には何かを上げないとね。ニコニコで嫌がらせにも思える提案をしてみた。ネロの唇が笑みの形を作った。そして、静かに嬉しそうに宣言をしてくる。


「えっ、ネロってマゾなの?」


「琥珀が与える苦痛なら積極的に受けたい、かも。」


 思わず質問にもならないような問いかけをしてしまった。そして、ネロの返しが驚きで立ち止まってネロを凝視してしまう。いつもは俺とぴったり合わせて止まるネロが、今回は数歩先で俺を見ないままで立ち止まった。


 今、ネロが言った事を頭の中で反芻してみる。やっぱり、冗談だよね。ネロでもそんな感じの冗談を言う事があるんだ。ふふっとなってネロの横に並ぶと、ネロは何事も無かったように歩き始めた。


「真顔で冗談は良くない。」


「そうか?」


 ネロを見上げて渾身のダメ出しをしてみる。ネロは優しい目で俺を見下ろして、楽しそうに相槌ともとれる返しをしてきた。真顔じゃないネロになってるね。


「そうなんですよ。さて、今日のご飯は何だろ。今日はネロとデザートを食べたいね。」


「そうだな。何か希望はあるか?」


「激甘なデザート。ネロにあーんってしてあげるね。俺からの苦痛がいいんでしょ?」


 ネロを見上げる。俺を見ているネロに悪戯っぽく笑いかけると、金色の瞳の中の瞳孔が一瞬丸くなった。直ぐに細くなっちゃったけど、驚いたらしい。前を向いてしまったネロから視線を外して、尻尾に目を向ける。


「そうだな。望むなら。」


 歩くのに合わせて尻尾がゆらゆら揺れるのを見ていたら、ネロがぼそっと呟いた。顔を上げると、ネロが優しく俺を見ていた。


「冗談だからね。今日もユリアさん特性のあの酸っぱいゼリーあるといいね。」


「俺のは無くていい。琥珀が食べる光景を眺めるだけで楽しめる。」


 マジで甘いモノでも食べてくれそうな感じがして、冗談だからって伝えておく。ネロの食べられるのもあったらいいねって付け加えたら、ネロは首を振って答えてくれる。ネロ的には別に食べなくてもいいんだ。見てるだけで楽しいってどういう事だろう。


「楽しいの?」


「琥珀は表情が良く変わる。美味いものは美味そうに。不味いモノは不味そうに。」


「そっか。ネロも前に甘いのを食べた時の顔は面白かった。」


「そうか。」


 話をしながらゆっくり歩いていたら到着した食事場。ネロが注文に行く間は恒例の風のテント見学だ。ゆらゆら小さく動く風の膜に沿って、付着して溜まった水分が流れ落ちていく。


 食事場に灯された〈照明〉の光を反射した水滴がキラキラして綺麗なんだよね。夜とか薄暗い時間はその反射する光が特に綺麗。風の膜は透明だから、水滴の煌めいてるのが宙に浮いてる感じがする。イルミネーション的な感じで綺麗に見える。


「琥珀、行くぞ。」


 揺らめく光の粒を眺めていると、戻ってきたネロが声を掛けてくれた。ネロに顔を向けずに、食事場の風のテントに目を向けたままで歩き始める。


 少し前を歩くネロの後ろを、横を見ながらゆっくりと進んでいく。食事場から少し離れたら、霧のせいで直ぐに見えなくなってしまった。今日の霧は濃すぎる。しょうがないから前を向いて歩く事にした。


「ネロはストレッチと合わせて筋トレはしないの?」


「琥珀はそんなに筋力が欲しいのか?」


「うん。」


「武器を扱う為か?」


 ネロの揺れる尻尾を見ながら、何となく聞いてみる。ネロが振り返って逆に質問を返してきた。それに肯定すると、更に質問を重ねられる。


 そうだよね。イキナリ筋トレをしたいって言ったら、目的はなんだって気になるよね。しかも、レオさんの家で武器を持たせて貰ったって話しちゃったし。さっきも武器を使ってみたいって話しちゃったし。


「ん~。それもあるけど、さっき読んでた武器の本。あの本ですらもめっちゃ重く感じるんだよ。せめて普通に生活してても問題ない筋力は必要だと思うんだ。」


「そうか。でも、あの本の重量は両手剣の平均くらいはある。琥珀が重く感じても不思議はない。」


 筋肉が欲しい理由をゆっくりと説明してみると、ネロは頷いてくれた。でも、あの本自体が重いから仕方ないって教えてくれる。両手剣の平均って、どれくらいなんだろ。


(モーティナに於いては、両手剣の平均重量は凡そ10㌔程と思われます。一般的な両手剣は例外はありますが、8㌔から13㌔の物が主流となっています。) 


 えっと、10㌔のモノを振り回して戦うの?。マジで、どんな筋力をしてるの。ヤミさんは両手剣を使ってたよね。凄過ぎる。まぁ、ヤミさんはホントのホントに太マッチョだったから10㌔の物は軽く振り回せる力も全然あるのかな。


 それにしても、身近な重さで表されると更に凄さが分かってしまう気がしてくる。考え込んでいたら、ぽんぽんっと頭を撫でられて顔を上げる。ネロと目が合って、ネロが疑問の表情をしているのが目に入った。


「ヤミさんはあの本を振り回してるって考えたら凄いなって思って。」


「そうだな。金属で補強してあるから武器にもなる。」


「だよね、あの角で殴ったら殺傷能力が高いよね。って、違うから。」


「分かっている。」


 考えていた事をそのまま言葉に出したら、ネロが苦笑して更に俺の話を盛って返してくれた。そのネロの冗談に乗って返した後で、一応突っ込んでおく。ネロは楽しそうに目を細めて頷いてくれた。


「でも、それくらいは普通に持てるようになれたらいいな。振り回すとかじゃなくてね、持ち運びできるようになれたらいいかなって。」


「成る程。」


「ネロは重いからって学び舎で読む本も持たせてくれなかったじゃん?それくらいは自分で持ちたい。両手剣を振り回したいって言ってる訳じゃないんだよ。まぁ、できるならやってみたいけど、俺には無理って理解してるから。」


「そうか。」


 そうなんだよ。貧弱でも、生活に必要な筋肉は必要なんですよ。ネロは納得したのか、前を向いてしまった。また自然と視線がネロの尻尾に引き寄せられてしまう。


 観察してみると、風の膜の影響からか、尻尾の毛がぶわっと広がってる気がする。静電気が発生した時みたいになってる。いつもより膨れてボリュームアップしてるネロの尻尾が凄く可愛い。


「琥珀が足を延ばして前屈した時に足首を手で掴めるようになったら、筋力を増やす訓練を追加する。」


 尻尾の観察をしていたら、ネロが筋トレも視野に入れてるよって言ってくれた。ネロの言葉で顔を上げる。ネロは前を向いたままで、耳だけをこっちに向けていた。筋肉を増やすのって何するんだろ、超楽しみ。


「じゃあ、ストレッチを頑張る。ありがと、ネロ。」


「問題無い。」


「そういえば、実践の時にネロは両手武器をあんまり使わないの?」


「でかくて嵩張る。」


「それ基準?」


「身軽に動ける方が楽。」


「そうなんだ。使おうと思えば使えるの?」


「そうだな、使おうと思えば。」


 武器の保管庫には両手武器も結構入ってるのに、ネロがそれを持っているのを見た事がない。お手入れも基本的には片手の小さ目な武器が多い気がする。使わないのか聞いてみると、ネロらしい短い答えが返ってきた。そして、成る程なっと思ってしまった。


 まぁ、身軽な方がいいか。得意な戦闘スタイルに合わない武器種ってところなんだろうな。でも、使えない事もないんだね。確かに、薙刀を綺麗に使いこなしていたし、大太刀も凄くキレのある動きで扱っていた。


「軽い武器ばっかり使ってたら、重い武器を使う時に大変にならない?」


「動かし方にコツがある。」


「コツ?」


「筋力だけで武器を扱う事はない。武器を振るった時に重さが外に向かう力を利用する。攻撃に重さが乗る分、大型武器の一撃は強い。」


「成る程。」


「武器を扱っていると、なるべく筋力以外で補助する術が身について行く。」


「そうなんだ。」


 ぴくっと耳を動かしたネロが俺の背後に回る。もう、慣れました。ネロに抱き上げられながら思う。はい、今日も歩くの遅かったですね。


「いつも、ご迷惑をお掛けします。」


 一応、走るネロの腕の中で謝っておく。一分もかからずに家に到着してネロが帰宅直後のアレコレをしてくれて、ソファに座り込む。ネロがテーブルの上の本の山をローテーブルに移した段階でユリアさんの声が外から聞こえてきた。

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