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104 それは遠慮したい

 外に出ると相変わらずの一面の霧、雨じゃないだけいいのかな。でも、見通しが悪いのは変わらないか。俺を待っていたネロの横に辿り着いたら、ネロが俺に合わせて歩き始めた。ちょっと早歩きくらいで進む俺の横を同じくらいのスピードのネロが追従してくる。


「ネロはなんで俺の体が硬いって分かったの?」


「琥珀の身体を解した時に確認した。」


「え?マッサージで体の硬さが分かるの?」


 すっごく気になった質問を投げかけてみた。ちらっと俺を見たネロはさらっと答えてくれる。そんな特技を持ってるのか、はたまた冗談なのか、判別がつかない。ネロをじっと見つめて疑問だからね。そんな短い返答じゃ全く理解できてないよってアピールしてみる。


「背中の筋肉を触った。後は抱きかかえた時に腕と足の筋肉も確認している。」


 冗談とかじゃなくてマジの答えだったらしい。そんなちょっと触っただけで筋肉や体の硬さが分かるネロは凄いと思う。凄腕のトレーナーになれる気がする。


「マッサージをしてなかったら筋トレだった?」


「少し体幹を確認してから考えていた、多分。」


 そして、ばれてなければストレッチからのスタートではなく、筋トレからのスタートになっていたかもしれない。っと思ってしまったけど、どっちにしても何かは測定されていたらしい。ってか、体幹って言葉しか知らないけど何だろう。


「体幹って何を確認するの?」


「琥珀がどの筋肉を使えるかを見る。主に胴体の弱い筋肉と発達している筋肉の確認。」


「ネロってプロの人みたいだね。」


「『ぷろ』?」


 疑問を投げかけて、直ぐに返ってきたネロの説明は非常に本格的。それに対して思わず感想を漏らしたら、ネロの聞いた事がない単語だったらしい。


 プロの人ってか、プロで間違いないか。現職の戦闘職っぽい護衛さんだからね。体の鍛え方くらいお手の物なのかもしれない。ネロの指導通りにやったら俺も少しは強化される、っていう期待が膨らんでく。


「えっと、マジなその筋の人って意味。俺も鍛えたら少しは大丈夫になるのかな。」


「大丈夫、と言えるかは分からない。」


 ネロの疑問に答えつつ、思わず続けて呟いてしまった。そして、俺の言葉に反応したネロの意見は凄く誠実なモノだ。


 ええ、全くその通りです。飾った言葉を使わずに、ありのままの見解を示してくれるネロは凄く好感が持てますね。


 そうだよね、分かる訳がない。というか、自分の事を知っている俺からすると、多分無理だ、という結論しか導き出せない。


「ネロのその正直なトコが凄く好きです。そうだよね。分らないよね。」


「言える事は、鍛えるという行為に意味がある。」


 しみじみとネロの誠実さが嬉しい事を伝えてみる。そして返ってきたネロの言葉に少し違和感を感じた。あれ、いきなり脳筋的な発言になった気がする。


 鍛える行為に意味がある。まぁ、間違ってはない。でも、なんか、このセリフを言ったネロの話し方と表情が凄く脳筋っぽかったの気のせいだろうか。


「俺がムキムキになったら嬉しい?」


「どうだろう。」


「どうなの。」


 脳筋か、っと考えながらニコっとして質問をしてみる。ネロが困惑の顔で首を傾げてしまった。ハッキリと返してくれないネロに、追い打ちをかけて教えてってニッコリしてみる。


「琥珀は今のままの方がいい気もする。」


 ネロは俺をじっと見つめて言葉を選んでいたのか、最終的には目を逸らして静かに返してくれた。脳筋っぽい意見のネロだから、俺をムキムキにしよう計画なのかと思ったら違った。でも、そう言われちゃうと、逆に俺もマッチョになりたくなってくる。


「えー。俺もネロやレオさんみたいにムキムキのバキバキになりたい。」


「そうか。」


「なれるかな。」


 テンションを少し上げた俺が目を輝かせて理想の体型を話す横で、ネロは静かに相槌を打ってくれた。相槌じゃなくて答えが欲しい、俺はそうなれるの?って疑問をストレートにぶつけたら、ネロは考え込んでしまった。


 ネロは凄く長く考え込んでしまっている。そんなに悩む程に、俺は筋肉がつかなそうなのか。まぁ、力の値が1だからね。ネロには打ち明けてあるし、そうだよね。考えても結論の出なさそうな未来の筋肉の話は諦めて、俺の現筋肉を聞いてみようかな。


「俺の背中の筋肉はどうだった?」


「無かった。」


「無いって事ないでしょ。」


「そうだな。余り無かった。」


 ネロの腕を引いて考えを中断して貰ってから、質問を投げかけてみる。今回は即答で答えが出た、けど、筋肉が無い訳ないじゃん。ムッとして突っ込んでみると、視線を戻したネロが言い直してくれた。でも、結局のところ無いという結論だった。


 確かに、筋肉は少ないよ。ネロとかレオさんみたいな、ガトの人達の凄い筋肉と比べたら、無いに等しいよ。ガトの、特にこの村の人達がムキムキなだけだよね。例えばだけど職人の、華奢なニル君とかはどうだろう。


「じゃあ、ニル君と比べてどうかな。」


「ニルの背中は触った事がない。」


 ネロはニル君の筋肉は把握してないらしい。ニル君は護衛さんじゃないし、仕方がないのかもしれない。ちょっと残念な気分になってしまう。


 ニル君の方が少し背が高いとはいえ、ニル君と俺なら体格もほぼ同じ感じだ。細さも似ている気がするから、筋肉量はきっとそう大差ない気がするんだよな。どうだろう。凄く気になってきた。


「あ、そうか。じゃぁ、今度、ニル君を触ってみたらいいと思うんだ。」


 名案を思い付いて披露をしてみたら、前方に視線を向けていたネロがゆっくりと俺に視線を合わせてきた。ネロを見上げて、ニッコリと笑顔を贈ってみる。


 そして名案を口に出してから気が付いてしまった。ネロとニル君は結構お似合いな気がする。気がするというか、実際に、前に見つめ合ってた時はお似合いだった。


 非常に麗しいビジュアルだった記憶がある。背景に花が描かれててもおかしくない程の美形二人の見つめ合う光景だった。


 ニル君は華奢だし、顔も結構な女顔でしかも超綺麗。万人が振り返る程の美貌でヤバいんですよ。ホントにホントの超美人さんなんだよ。


 ネロも綺麗だけど、ニル君の綺麗さは違う方向の綺麗さなんだよね。それでいて、ニル君は細工士としては十指に入る程の腕を持つ最高な職人さんらしい。凄過ぎる。


 ニル君を思い出してニコニコになってしまった。何かを考えているのか、じっと俺を眺めていたネロだったけど、諦めたように前を向いてしまった。どうやら、冗談だと思われたらしく返事をしてくれなかった。ちょっと悲しい。


 食事場に到着してネロが調理場にバスケットを返しに行く後姿を見送る。直ぐに調理場から出てきたネロを後ろに歩き始めると、ネロは追いついて隣に並んでくれた。市場までの道順はこの前覚えたから、もうネロに先行して貰わなくても大丈夫。


「何か欲しい本があるのか?」


「えっとね、経済とか知りたいかも。物価とか、お金の価値的なのが知りたい。」


「成る程。」


「何の本がいいのかな?そういう系が纏められてるのってあると思う?」


「そうだな。」


 隣をゆったりと歩くネロに質問されて、そう言えば何が欲しいか伝えてなかったと気付いた。ネロならどんな本を選べばいいか分かるかなっと反対に質問してみる。


 相槌を打ったネロは真剣に考え込んでしまった。どんな本がいいのかを考えてくれるらしい。考えるネロを横目に市場までゆったりと散歩を楽しむ。


「各国の貨幣の価値を知りたいのであれば、各国の合成品、特産品などの購入価格や、素材の売却価格が纏められている本が分かり易く、対比も容易。物品購入の価格を判断する上での目安にはなる。一冊では世界中の情報を把握する事は難しいが、必要であれば各大陸の本を一冊ずつ購入すれば良い。」


 結構進んだ所でネロの考えが纏まったのか、ネロのおススメの本を教えてくれた。けど、数冊買っちゃえばいいよって軽く言われてる気がする。


 ネロの言う通り、価格が書かれてる本なら確かに対比もし易いし、実際の金額も把握できる。でもね、なんか大掛かりになってないかな。もうちょっと楽に経済を知りたいんだけどな。


「一冊じゃ無理なのか。」


「必要な物は購入すれば良い。」


「それ、俺の借金になることをネロは忘れてる。」


 事も無げに買っちゃえばいいじゃん的な発言をするネロの口調は軽い。じと目で俺の意見を言わせて貰う。俺の視線と言葉を受けて、ネロは戸惑ったように視線を泳がせて止まってしまった。


 あぁ、やっぱり出世払いの事を忘れてたんだ。そんな感じはしてたんだよ。少し落胆をしながら、立ち止まってしまったネロを置いて歩き続ける。直ぐに立ち直ったのか、ネロが俺に追いついて覗き込んできた。


「そうだったな。だが、既に高価なモノを購入済み。今更少し増えても余り変わりはない。」


「やっぱり、あの本はめっちゃ高かったんだ。」


「う。」


「そうだね。今更遠慮しても仕方ないよね。ここにいる間はネロに甘えるって決めたからもういい。ありがと、ネロ。」


 追いついたネロが少し焦った様子で弁明してきた。焦るネロに流し目でぼそっと呟いてみる。ちょっとの間、ネロの自爆した様子を楽しませてもらった。その後で、にっこり笑顔でお礼を伝える。


 ネロは目を細めて俺の謝意の言葉を受けた後、前方に顔を向けてしまったのを機に、俺も前に視線を向けた。


 そっか、経済の本とかはないのか。でも、ネロの言う通り色々な価格の乗っている本なら大体の目安にはなるよね。ネロの武器の本と合わせて見ればお金の価値も分かる気がする。


「各大陸の本って三冊買えばいいのかな。」


「大まかには三冊で済む。」


「大まかじゃないと?」


 ネロが言ってた各大陸のって言葉が気になった。本によると、この国の大陸は3つだ。って事は三冊って事かな。前を向きながら聞いてみると、直ぐに答えが返ってきた。ただ、含みがあるね。大まかってどういう事だ。


「各国毎に詳細な情報が載っている本がある。取り寄せになるが。」


「それだと何冊くらいになるか分かる?」


「国によっては十数冊の規模になる。総合すると結構な冊数。」


「そうなんだ。その詳細なのって誰が読むの。取り寄せるんでしょ?」


「学者や大規模な店の経営陣、多分。」


 学者さんの読むような本なのか、高そうだし、俺が知っても使えない情報だよね。そんな詳細じゃなくていい。大陸毎の大まかな情報で十分だ。


 でも、金額が気になる。ネロには、今更増えたトコロでって言われちゃったよ。でも、借金は少ない方が、気分的に心が休まるのも事実な訳で。


「って事は、詳細なのを揃えるとなると金額がヤバい事になりそう。大陸の三冊にしたとしても高い?」


「大まかにしか記されていない。そこまで高価という程ではない、多分。」


「断定じゃないのか。」


「自分で買う事はない、従って確認もしていない。だが、買えない金額ではない。」


「ネロは、でしょ。」


 買えない金額じゃないってのは、ネロの話であって俺のじゃないじゃん。拗ねた口調で文句を言ってしまった。フッと口元を緩ませたネロが俺の頭をぽんと撫でてくる。


「俺の財布は琥珀が握っている。問題無い。」


 俺と目を合わせて断定するように、欲しいモノは遠慮するな的な事を言ってくれるネロに首を傾げてしまった。財布を俺が握るってどういう意味だ。意味合いは分かるけど意図が分からない。


「甘える、のだろう?」


 疑問いっぱいでじっと見つめていたら、ネロは嬉しそうに目を細めた。そして、優しい声で続けてくれる。そのネロの話し方と雰囲気に思わずフフッとなってしまった。


 甘えるのを受諾してくれた上に、ネロのお財布の紐も俺に委ねてくれてるのか。冗談って分かってるけど、俺が恐縮してるのを和ませてくれる作戦らしい。ちょっとだけネロの冗談に乗ってみようかな。


「俺が欲しいモノを全部買ってくれるのか。そんなに甘えていいの?」


「勿論だ。」


 じゃあ、欲しいモノはなんでも買っちゃうよ。俺は我儘だしヤバいよ。ニコっと笑顔で疑問を投げ掛けてみると、ネロが即答で受け入れてくれた。そのネロの至極当然でしょって言わんばかりの反応に、暫し唖然としてしまう。そして、小さく溜息を吐いてしまった。


「ネロは面倒見が良すぎ。いつか詐欺に合わないように気を付けてね。」


 余りのネロの無防備さが心配になる。心からの忠告をしてみると、ネロが戸惑った表情になってしまった。


 きっと、ネロは高給取りなんだと思う。族長の護衛さん達を束ねる偉い人だもん、きっとそう。だから、あんまりお金に執着してないんだろうな。


 ネロにお金を返せる日は来るのかな。少し絶望的な気分になりながら歩いていたら本屋さんに到着した。入り口を開けてくれたネロにお礼の言葉を伝えて、先に中に入らせて貰う。


 中に入って本を探す前にネロに視線を向けてみた。ネロは俺を見る事もなく、俺を置いて、一人でさっさと奥の方へ歩いて行ってしまう。ネロも何か本を探してるのかもしれない。じゃあ、俺も一人で本を探すか。


 各国の色々な価格の本ってのは、どんなタイトルなんだろう。本棚に並ぶ本は系統毎に分けられてるから、タイトルを見ていけば見付かる筈だよね。


 入り口から入って左の壁側から探していく事にした。途中で見つけた『東の大陸のおススメ料理集』という本を手に取ってみる。


 なんで人ってのは、探し物中に他の誘惑に興味を引かれてしまうんだろう。少しだけ、自身の移り気な心を叱咤しながらも、誘惑に従って本を手にペラペラとページを捲って流し読みをしてみる。


 おぉ、美味そう。アイラさんから借りたお料理の本の落書きっぽいのとは違って、この本の挿絵は精密過ぎて味が分かるくらいに美味そう。本をじっくり読みたい誘惑を振り払って本を棚に戻す。壁側の本棚には目当ての本はなさそうだった。


 次は向かい合う様に立つ次の本棚だ。本棚に並ぶ本の背表紙を指で辿っていく。『魅惑のファッション‐東の大陸編』と言う本に気を取られて、引き抜いてみた。


 ぺらぺらとページを捲ってみると、タイトル通りの魅惑のファッションだ。浴衣の他に、チャイナ服というかアオザイというか体にピッタリとした服、作務衣のように上下の分かれてる服が描かれている。


 女の子の服が多くて、どれも可愛い。色とりどりの服が詳細な挿絵と共に簡単な服の説明とアピールポイント的なのも書かれている。


 また、なんとか誘惑を振り切って、後ろの本棚に回り込む。本棚から少し離れてもう何も触らない、ってのを念頭に、本のタイトルだけを辿っていた先で見つけてしまった。


 ヤバいタイトルだ。『世界の未確認生物-私は見た』ですよ、超ヤバい。何これ、超気になる。この世界にもオカルト的なのあるのかな。このオカルト本っぽいの、超読んでみたい。絶対面白いって俺の勘が告げている。


 手を伸ばしかけて、なんとか踏み止まった。俺が探してるのはこれじゃない。もう絶対に誘惑には負けない、俺には目的があるんだ。


 本のタイトルを確認しながら横移動をしていると、ポフッと人の腕にぶつかってしまった。ごめんなさい、っと謝りながら顔を向けると、ネロが進行方向で待っていたらしい。


 数冊の分厚い重そうな本を片手に乗せたネロが、俺を支えるというか抱えるように背中に腕を回してくれている。


「探してるけど見付からない。」


「もう見付けた。これだけでいいのか?」


 ネロの抱えている本の一番上は武器の本っぽい。ネロはまた武器の本を買うつもりなんですね、お好きですね。思わず心の中で呟いてしまいながらも、ネロにまだ探し途中の旨を伝えてみる。結果、ネロの返事によってもう本は見付かっていた事実が判明してしまった。ちょっとだけ驚いてしまう。


「メッチャ早い。いつの間に探してたの。」


「店に入って直ぐ探しに。」


「あ~、成る程。自分の本を探しに行ったのかと思ってた。」


「先程の本はいいのか?」


 先程、の心当たりが多くて首を傾げてしまった。俺の通ってきた本棚の前に移動したネロが『世界の未確認生物-私は見た』を手に取る。慌てて首を振ってそれはいらないって意思表示をすると、頷いたネロが本棚に戻してくれた。


 他には?と再度聞かれて首を振る。会計に向かうネロの後ろ姿をぼんやりと眺める。奥の方で店員さんに対応して貰ってるネロはにこりともしない。ここでも真顔で無表情なんだ。


 支払いが終わり紙袋を手にしたネロがこちらに向いた。真顔だったネロは、俺と目が合って微かに頬を緩めてくれた。優しい微笑みだ。


 狭い本棚の間で待つのもあれだから、先に外に移動しておこう。動きだした俺に追いついたネロが隣に並んでくる。本棚の間は狭いのに隣に並んだから、距離がメッチャ近いんですけど。


「ネロは何の本を買ったの?」


「武器と、料理と服の本。」


 外に出ても俺の隣をゆったりと歩いて、満足そうなネロに話しかけてみた。俺の必要な三冊以外にネロも数冊本を選んでたらしいのが見えたからね。


「料理と服の本って、ネロが?ネロは料理するの?肉を焼くだけって言ってなかった?」


「料理はしない。肉を焼く事はできる。」


 ネロの答えてくれた、買った本は武器ってところは納得だ。でも、その後の二冊が意外過ぎて驚いてしまった。ネロは頬を緩めて、俺の認識通り、料理はしないと断言している。


「成る程、って事はレシピとかじゃなくて、美味しそうな料理が載ってた系か。服もあんま興味なさそうだと思ってた。ネロの服は全部同じ形だし。」


「この服は収納に優れている。」


 ネロが今着ている服を示して収納の話をし出した。収納がいっぱいって、居住空間以外でもおススメポイントになる事ってあるんだね。知らなかった。


「収納って何の収納だろ。ポケットが沢山ついてるの?」


「武器や薬などを収納する。外からは余り目立たない。」


 成る程~、その見た目ぴったりな上着にはそんな機能がついてたんだ。ポケットが沢山とか。しかも、そのポケットの中に武器が入ってるとか。全然分からなかった。


 まぁ、ズボンの方はゆったり系だから隠しポケットが沢山あっても不思議ではなさそうだけど。ってか、武器や薬を入れとくって、要するにお仕事に最適って事なんだね、理解した。


「そうだったんだ。ある意味、仕事着みたいなものか。」


「そうだな。」


「そっか。性能重視ですね。」


「性能以外はいらない。」


 凄い、性能以外はいらないと言い切ったネロはカッコいい。けど、ネロは見目が恐ろしい程綺麗だし、スタイルが抜群に良い。背が高くて細マッチョで足が長いから、服を変えたらもっとカッコ良くなりそうな気がするんだよ。どうだろう。


「どうだろ、ネロはカッコいいから、もっとお洒落なのを着たらヤバいかもね。」


「やばい?」


「うん。ヤバい。女の人が更に寄ってくる。」


「それは遠慮したい。」


 うぁ、即答したよ。女の子が寄ってくるなら、嫌だって言い切ってしまうネロは凄い。モテ度が半端ない程高いのでしょう。いいな、モテる男はそんな感じにサラっと言えちゃうんだね。羨ましさを前面に押し出しながら、小さな溜息と共にネロを羨望の眼差しで見上げてしまう。


「琥珀もいい服を着たら凄い事になる、多分。」


「ん?」


「女も男も惹き寄せる。」


 俺にちらっと視線を投げかけて、意味深に口元を緩ませたネロがこそっと囁いた。ネロの言ってる凄いってなんだと首を傾げてしまう。ネロは俺の疑問に答えたのか、自信満々な感じで断言してきた。


 余りに自信たっぷりなネロの話し方に一瞬思考が止まってしまう。言葉が頭の中を素通りしていく感覚を味わって、少しして意味を理解できた。


「えぇぇ。それはないでしょ。」


「そうか?」


「うん。ないと思う。」


 ネロの言っている事が理解できて、慌てて否定する。俺の否定でネロが不思議そうに聞き返してきたから、大きく頷いて俺の意見が正しいと肯定しておく。


 俺の溜息を聞いて、ネロがフォローしてくれたっぽい。最大限のお世辞を返してくれたネロは大人であった。内容は大げさだったけど、気遣いに感謝だ。


「ネロの買った料理の本、後で見せて。」


 話題を変えようと、お料理の本が気になるんですって訴えてみた。ネロは嬉しそうに目を細めて頷いてくれる。そして、料理の話題で思い出してしまった。


「ねぇ、ネロ。お客さん用のカップが1つ欲しかったのを忘れてた。」


「客用?」


「レオさんが来てくれた時にね、ネロのカップを使って貰うのはあれだから、俺のカップを二人で使ってたの。レオさんはまた家に寄ってくれるかもだし、ちゃんと一人分ずつあった方がいい気がするんだよ。」


 お客さん用のカップが欲しかったんですって要望を伝えてみた。ネロが立ち止まって俺を凝視してくる。俺も立ち止まって、ちゃんとカップがもう1つ欲しい理由を説明してみた。


 ネロは黙って静かに聞いている。視線は俺に固定して、じっと見つめていて何かの感情が浮かんでる気がする。いつもの無感情で興味ないって表情ではない。立ち止まって俺を見続けるネロにどうしていいか分からず、視線を合わせ続けたけど、ネロは全く動かない。


「ネロ?」


 少し様子を見ていたけど、動かないネロに困って声を掛けてみた。名前を呼んだら、ネロが少し目を細めた。そして、俺から視線を外して、一瞬だけ上を見上げたネロが前を向いて歩き出した。無言で歩き続けるネロを見上げながら隣を進む。


 家に到着して、本の入った袋をテーブルの上に置いたネロが俺の〈シール〉を解除をしてくれた。ありがとって笑顔でお礼を伝えると、ネロが頭を撫でて頷いてくれる。その後で、ネロは自分の〈シール〉を解除せずに、外に出ていこうとする。


「また出かけるの?買い物の後は俺の柔軟運動ストレッチじゃなかったの?」


「少しだけ待っていろ。暇であれば、今買った本を読んでいればいい。カップを買ってくる。」


「カップ?」


「客用と言っていた。」


「あぁ、また今度でいいよ。今日は忘れてたし、今度市場に行った時にで大丈夫。」


「問題無い。直ぐ戻る。」


 外に出る直前のネロに声を掛けてみたら、どうやらさっきの話のカップを今買ってきてくれるとの事だ。ネロはフットワークが軽いらしい。希望は直ぐに叶えられた。


 サッサと出て行ってしまったネロを見送って、マントを外して椅子の背もたれに掛ける。待っている間に本の確認をしようと決めて、テーブルの上に置かれた袋から本を出す事にした。


 一番上は分厚くてメチャクチャ重い武器の本『珠玉の業物1』。ぱらぱらっと流し読みをしてみる。どうやら、スゴイ武器の本のようだ。流し見だけでもスゴイって分かるんだよ。ヤバいな。


 この前の武器の本に記載されていたモノより、武器の価格のゼロの数が5個くらい多い。武器の性能も段違いっぽい。武器自体に特殊効果や特性を織り込んだ上に、紋様で更に効果を上乗せしている物もある。要するに、超絶高価な武器の本。


 重い本を何とか持ち上げて、慎重にテーブルに置いて次の本を取り出してみる。この本もさっきの本と同じでめっちゃ重い。高価な武器の本『珠玉の業物2』、さっきの本の同系列だね。


 さっきの武器の本の上に積み上げて、次の本を見る。これも同じシリーズの武器の本、『珠玉の業物3』、だと?ネロは一体どれだけ、武器にこだわりがあるんだ。


 まあいい。次は、『名店の取り扱い品紹介‐中の大陸編』。お、これだね。紙袋の中から続いて出てくるのは『名店の取り扱い品紹介‐北の大陸編』と『名店の取り扱い品紹介‐東の大陸編』。


 一冊だけでもかなり分厚い本で、それが三冊。この前買って貰った探訪記より分厚い。そして、触った感じで伝わってくる、上質そうな紙と豪華な意匠の装丁。これはホントにそこまで高価じゃないのかな。怖くなってくる。


 俺の買って貰った本も高そうなんだけど。それ以前に、ネロが今回買った武器の本が相当ヤバそう。記載されてる武器の価格も恐ろしい程に高価だったけど、本自体も相当高価だと思われる。


 凄く綺麗な革表紙で、端っこが金属で補強された頑丈な造りの装丁なんだよ。あの武器の本三冊で一体全体幾らになるんだろ。考えるだけでも怖い程に高そうな本だよな。


 で、残りが、『東の大陸のおススメ料理集』と『魅惑のファッション‐東の大陸編』。う~ん、確かにネロの言ってた通り料理と服の本で間違いない。


 本を眺めて考え込んでしまう。これは、俺がチラ見していたのを見られていたのか、偶然なのか。って、考えるまでもなく分かるだろ。


 偶然で二冊も被る訳がない。俺が手に取って中を見てたから、欲しいと思って買ってくれたっぽい。っとすると、ネロが欲しくて買った本じゃないって事になる。


 二冊を並べて眺めて考え込んでいると、後ろで風が動いた気がした。振り返ると、丁度ネロが〈シール〉を解除してるところだった。手には小さな紙袋を持っている。


 俺の近くに移動してきたネロは紙袋の中身を取り出して、テーブルの上に並べて置いてくれた。シンプルな無地の白に濃い青色の線が一本通っている綺麗なカップが1つと、深緑色の無地のカップが1つ。


「おかえり、ネロ。カップ可愛い、ありがと。そして、聞きたい事があるのですが。」


 ネロを見上げて、お客様用カップを買ってきてくれたお礼を伝える。そして、少しだけ睨むように目に力を込めて、静かに質問したい旨を伝えてみた。


 ネロは俺の態度に対して何か思う事があったらしい。一瞬眉をぴくっと反応させたけど、真顔で首を傾げてきた。そんな顔をしたって、ネロが何の本を買ったかは分かってるんだからね。自分の本って名目で、俺の本を買ったんでしょ。


「この二冊は俺は別にいらなかったから。ちょっと気になって、ぱらぱら見てただけなの。」


「それは俺が気になって買った本。気になるのであれば共に読めばいい。琥珀の好みも把握できる。」


「ということは、俺が見てたから買った訳じゃないって事なの?」


「服の本を琥珀が手に取っているのは見た。琥珀は東の大陸の服を気にしていた。だから買った。料理の本は俺の独断。」


「まじか、疑ってごめんなさい。ありがと、ネロ。後で一緒に読も。」


 ネロは俺が欲しいのをなんでも買ってくれそうな太っ腹な感じがある。だから、少しだけ口調を強めて非難するように言っちゃった。でも、ネロは優しく俺の言葉を肯定しつつも、自分の欲しかった本ってのを強調する姿勢を崩さない。マジで大人な対応。


 ネロの話を聞いてて理解できた。ネロは俺が東の大陸に興味深々なのを分かってくれてるらしい。だから、この本達を買ってくれたっぽい。ネロの気遣いが嬉しくて感謝を伝えると、ネロが嬉しそうに目を細めて頷いてくれた。


 話は終り?って首を傾げるネロに頷くと、頭を撫でてくれた。屈んで俺の目を覗き込んできたネロは俺と目を合わせて、満足そうに目を細める。


 ネロが上機嫌って感じが伝わってくる。意識すると笑顔は無理って言ってたのに、超綺麗な笑顔なんだもん。目も優しいし、雰囲気も優しい。俺もつられて笑顔になっちゃう癒さされる感じ。


 ネロが詠唱を始める。優しい微笑みを浮かべての詠唱する姿が超綺麗。買ってきたばかりのカップに〈浄化〉と〈乾燥〉を手早く済ませて、ネロはカップを手に戸棚に移動していく。ネロの後ろで尻尾が嬉しそうに揺れてる。


「では、始めるか。」


 楽しそうなネロをちらちらと視界で捉えつつも、立ったまま本をペラペラ流し読みしてしまう。俺の傍に音もなく戻ってきたネロが運動の開始を宣言してきた。


「えっ、もう?ちょっと休憩とかなし?」


「では、休憩してからにするか。」


 流石にお出かけ後だからちょっと休憩したいかな、ってニッコリやんわり伝えてみた。あっさりと同意してくれたネロに手を引かれて、本から離されてしまう。


 ソファに連れてこられて、腰を下ろすと、ネロは満足そうに頭を撫でてくれた。お茶を用意するネロを観察していたら、今買ってきてくれたばっかりの白に青いラインの入ったカップを取り出している。


 ネロは楽しそうに微笑みを浮かべながら、尻尾も揺らしながらお茶を淹れてる。でも、そのカップはどう見ても新顔の子だよね。


「お客様用のカップじゃなかったの?」


「客用は緑の。」


 ネロがお茶を運んできて手渡してくれた。お客さん用のカップを俺が使っていいのかなって聞いてしまう。ネロがあっさりと答えてくれて判明した。もう1つの緑色のカップだけがお客さん用らしい。


「俺のカップは2つになったの?」


「今まで使っていたカップは族長に借りていた物。後で返しておく。」


 俺だけ豪華に2つを気分によって使い分けていいのか。って思ったけど違ってた。ってか、今まで使ってたカップはアルさんのだったのかよ。借り物だったのか。知らなかった。


「あのカップはアルさんのだったの?知らなかった。でも、なんで俺のカップまで買ってきてくれたの。お客さん用だけで良くなかった?」


「琥珀は客用を所望した。即ち、琥珀はもう客ではなく、正式にこの家の者。だから、琥珀のカップを用意した。」


「あぁ、そうだった。俺もお客さんだったのを忘れてたよ。居心地良過ぎて、きれいさっぱり忘れてた。」


「もう琥珀はこの家の者、客ではない。」


 ネロの理論展開は少し強引なところはあるけど、それが凄く嬉しい。この家の子ってネロが認めてくれて、もうお客さんじゃないから俺用のカップを用意してくれたって事実がもう嬉しい。


「ありがと。」


 笑顔でお礼を言うと、ネロも嬉しそうな笑顔を浮かべてくれた。改めて俺のカップでお茶を飲んでみる。驚くほど美味しいお茶で幸せな気分が加速する。ネロも隣で嬉しそうにお茶を楽しんでいる。


「あ、お湯だけ沸かして貰って、俺が淹れても良かったね。渋くて苦いお茶。」


「そうだな。」


 そういえばって思い出して、冗談を言ってみる。ネロは優しく微笑んで相槌を打ってくれる。新しい自分のカップが嬉し過ぎて、カップを眺めていた視線を上げてネロを見る。


 アルさんみたいなフワッとした柔らかくて優しく笑うネロの笑顔の不意打ちで、釘付けになってしまった。目が合ったネロは直ぐに真顔に戻ってしまって、残念。


「あぁ、凄くいい笑顔だったのに。もう一回やって。」


「こうか?」


 思わず、心の声が口からも飛び出てしまった。ネロは一応って感じでトライをしてくれた。引き攣る様な怖い笑顔になってしまったネロは、頑張ったけどちょっと違う笑顔だったね。でも、よく頑張りました。ネロの頭をポフッと撫でてあげる。


「練習あるのみですね。ってか、今のいい笑顔は無意識に笑ってたの?」


「無意識、多分。意識すると固まる。」


「そうなんだ。でも、今の笑顔はヤバいから気を付けた方がいいかも。」


「やばい?」


「うん。道行く人みんなを魅了する笑顔。」


「それは困る。」


 全然困った顔をしていないネロの言葉にふふっとなってしまった。俺につられたのか、ネロも目を細めて少しだけ微笑んでくれる。自然な微かな笑み、スゴク綺麗だけど、これも無意識なのか。

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