660円の悲劇
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僕は仕事に向かうため道路を車で走っていた。始業の時間は8時30分。今の時刻は7時52分。今、この場所から僕の職場まで後30分位の距離だ。
しかし、たまに通勤路が異常に混むことがある。その時は、職場にたどり着くまで、45分位かかってしまう。
そうなれば僕は遅刻する事になる。
そのため、僕は高速道路に乗ろうかどうか、迷っていた。
正直な所、距離的には高速道路に乗らなくても良いような距離だ。しかし、通り道の途中にある高速道路を使えば、20分位あれば職場まで行けるのだ。つまり、絶対に遅刻はしない。しかし、代償として660円かかる。
高速道路に乗らなかった場合、道が空いていていれば、問題なく仕事に間に合う。しかし、運が悪ければ、遅刻となってしまい減給となってしまう。しかも、それだけではない。
周りの人から『あいつ、遅刻したやつだ』と冷たい目で見られてしまう。
今の時刻で、高速道路に乗らず職場へ行くのは、お金と名誉を同時に失う可能性があり、とてもリスキーだ。
さらに今日は、密かに心引かれている事務員のエリちゃんと同じシフトなのだ。彼女にダメな人と思われるのはちょっと……。
僕は迷った。ハンドルをにぎり、アクセルを踏みながらどうするべきか必死に考えた。
高速道路の案内標識が見えた。もう、結論を出さなければ。
僕は指示器をつけると、ハンドルを右にきった。
目前に高速道路入り口が見える。
僕は高速道路を使って職場に行くことを決めた。
やはり、遅刻は良くないと思うのだ。660円稼ぐのだって簡単ではない。だけど、それを惜しんで遅刻をしては失うものが多すぎる。
「料金は660円です」
僕は、無機質な言葉に従って、お金を精算機へと入れた。
時刻は8時5分。いつもより、高速道路が空いていて、快適にここまで来ることができた。
職場までは後5分位で到着できる。
どうやら遅刻はまぬがれそうだ。
「おはようございます」
時刻は8時12分。僕は元気よく挨拶をして、職場へ入った。
すると、皆が驚いた顔で僕を見てきた。
少し、声を張り上げすぎたかな、と僕が思っていると、なんと、エリちゃんが僕の方にすたすたとやって来た。
「田中さん、おはようございます」
「あ、さ、酒巻さんおはようございます……」
まさかのエリちゃんから挨拶をしてもらえた。
高速道路も空いてたし朝からラッキーだ。僕のテンションは朝から昇り傾向だ。
そんなノリノリな僕に、エリちゃんから告げられた。
「田中さんって、今日は遅番の日ですよね? こんなに早く来て、どうかされたんですか?」
彼女に言われて僕は気がついた。そうだ、今日は遅番だった。つまり、11時に職場へ入る日だったんだ。
先程までの気分の高陽から一転。僕は顔に笑顔を張り付けたまま、その場で立ち尽くしてしまった……。
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