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まだ見ぬ予言書

 その後、ニーナは日記を綴るうちに自らの文字を生み出し、その文字を持って文章を綴るようになる。

 文章を書く事ができるようになったニーナがやりたがったのは、小説の執筆だ。以前読んだ、ギルベルトという作家が書いた小説。それが彼女に与えた影響は少なくなかったようで、ずっと物語を綴る事に憧れていたらしい。

 ニーナの小説は読んだ者の心を打ち、飛ぶように売れた。そして、これを切っ掛けに読書を楽しむ者が増え、己も小説を書いてみたいと憧れる者も増えていく。

 いつしか、新書店も古書店も関係無く、世間に出回る本の内訳に良書が増えていった。

 そして、良書が次々と持ち込まれ、次々と売られていく竜王の谷の古書店で、ニーナとドラゴン達は、いつも楽しく働いている。

 ……と、ギルベルトは新しく製作中の予言書に書き記した。

 今書き記した事は、ギルベルトが魔法で見た未来。まだ、実際にこうなると決まったわけではない。未来というものは、ちょっとした事で一気に様子を変えてしまうものなのだから。

 だからこれは、今の時点ではまったくの夢物語だ。

 だが、それで良いとギルベルトは思う。思ってから、作業机の上をちらと見た。

 ペンが転がり、大量の原稿用紙が積み上がっている。

 ギルベルトは、作家だ。作家が夢物語を記さなければ、誰が記すというのか。

 手塩にかけて育てたドラゴンと、人間の子。その子達が幸せに暮らす未来を夢見て、何が悪いというのか。

「まったく……我ながら無謀な事を始めたもんだと思ったが……どっこい、思わぬ良書だったねぇ」

 そう、独り呟いて。ギルベルトは予言書を閉じた。

 育て始めた仔ドラゴンや人間の子が思いもかけず愛しくなり、将来を案ずるようになってしまったために作り始めた、ある意味、未来の育児記録。今ではもう、十冊目だ。一冊目はアインスに預けたが、二冊目以降はまだギルベルトの手元にある。……さて、これを一体いつ、どのタイミングで渡してやろうか。

 考えながら、ギルベルトはニヤリと笑う。予言書の表紙を撫で、そして楽しそうに呟いた。

「この本の……あの子達の一生(ものがたり)は、一体どんな結末が待っているんだろうねぇ?」

 楽しみだ。楽しみで仕方が無い。

 そう呟きながらギルベルトは予言書を机の引き出しに仕舞い、部屋から出ていってしまう。

 その後ろ姿を見送ったのは、部屋中に所狭しと並び、積まれている、大量の本だった。



(了)

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