第零話 プロローグ
あれからもう随分と永いあいだここにいるような気がしている。
いまが一体いつなのか、もうわからない。
それほど時間が経ったのだ。あの時から。すべてを曖昧にさせるほどの永い、永い時が。
わからないことだらけだ。
私は誰なのか。
私の名前はなにか。
私を知っている人はいるのか。
そして、私は生きているのか。
ここに来る前に私は多くのものを失ったように思う。失ったものについて考えるたび奇妙で空虚な喪失感がどこかで渦を巻く。でも、それだけだ。この胸には悲しみも喜びも苦しさも、何もない。
ただ確かなことはひとりの少年がこの場にいたということだけだ。
わたしはもう彼の表情を思い出すことができない。
ただ、これだけはわかる。
彼は私を残して消えてしまったのだ。
ここには誰もいない。名も知らぬ何かが漂い、出口を求めてさまよっている。
もしも。…時折考えることがある。
もしも、誰かが来てくれたなら
そのこは私の終わりになってくれるだろうか。
次の私になってくれるだろうか。
いつかのわたしのように。
わたしはそのときをずっと待っている。時間の止まったこの場所で。
ずっとずっと待ち続けている。
***