01.決意
武田政宗が探偵事務所を開設して2年が経とうとしていた。
脱サラをしてまで探偵という職業に就いた政宗ではあったが、理想と現実は大きくかけ離れたものであった。
政宗の元に依頼が来る調査内容は、夫婦の浮気調査や婚約相手の素性調査など地道なものばかりであったからだ。
どうやらもっと大きな事件の調査依頼を受けて活躍できるものだと思っていたようだ。
テレビドラマやアニメの見過ぎである。
それでも政宗は、理想と現実のギャップに苦しみながらも顧客から来る依頼を淡々とこなし、探偵としてはそれなりに経験は積んできたつもりである。
自分もいつかは大きな事件を調査して解決してみたい。
政宗は、理想を常に追いかけていた。
そんな中、政宗が何気無く眺めていたテレビの番組で未解決事件の「墨山事件」について取り上げられていた。
司会者
「この墨山事件ですが、40年以上経った現在でも解決に繋がる情報が全く見つかりません。」
コメンテーター
「いやはや、全く不思議な話ですな。あれだけの人間が一瞬にして失踪しておきながら手かがりになる情報が無いとは。神隠しというものは本当にあるのかも知れませんな。」
・墨山事件
政宗が生まれる数十年前に発生した事件である。
場所は黒亀県にある墨山と呼ばれる山岳地帯。
この場所で、他県から修学旅行に訪れていた高校生や引率の教諭ら300名が一日にして忽然として姿を消した。
数日後に警察や自衛隊による捜索活動が連日に渡って行われたが、いずれも手がかりとなる一切の情報が掴めないまま捜索は打ち切りとなる。
その後、警察は墨山事件として捜査本部を設置。
捜査は継続されたが、有力な情報が得られずにそのまま時効を迎えてしまう。
テレビを見ていた政宗はふと考えた。
この未解決事件を自身の手で解決すれば、政宗は世間から凄腕の探偵として認められる事は間違い無いだろう。
さらに、あの難事件を解決したという事でタケマサ探偵事務所は一躍有名な存在に。
その日を境に事務所には大きな依頼が次々と来るようになるであろう。
世間を騒がせようとする悪党の犯行を未然に防いだり、指名手配逃亡犯の追跡を行ったり警察も顔負けの依頼を任されたり。
ここまで来れば最早探偵では無いとは思うが、マンガやドラマのような出来事がもしかすると本当にあるかも知れない。
政宗
「俺がその先駆けになってやろうじゃねぇか。俺の探偵としての凄さを世間に見せつけてやる!」
政宗は野心に燃えた表情であった。