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26.ただいまの、その次

 ジーンは、命に別状はなかった。


 彼女のファーメリーも、辛うじて生き永らえた。


 ミーシャも含め、大怪我を負った三名はダイア村へ戻り、療養をとることになった。


 担架に乗せられて病院に運ばれる直前、ジーンは僕に向かって、声を掛けてきた。


「僕のやってきたことは、決して許されない禁忌の所業だ。それでも、まだ許される道があるのなら、償いたい」


「大丈夫さ。いくらでもやり直せるよ。今はまず、怪我を治さなくちゃ」


 僕の返事に、ジーンの表情に微かな笑顔が戻った。


「もし、僕の罪が許されて、胸を張って前へ進めるようになったら、――また、会ってくれるかな」


「もちろん。待ってるよ」


 僕はジーンと固く握手を交わし、別れと再会を約束した。


 * * *


 ダイア村で諸々の手続きや書類の整理を終えて、僕たちはクラブ村へと帰ってきた。


「あ、旗です」


 村の門前で、コールが屋根を指さした。


 戦闘体型を解いたコールは、服こそ見窄みすぼらしい姿に戻ったが、髪は美しい銀色を維持していた。爽やかな風に、綺麗に靡なびいている。


 記憶を取り戻したコールは、妖精の姿も思い出し、掌に乗るくらいの大きさに戻った。羽が片方なくてうまく飛べないから、今は僕の肩にちょこんと座っている。


 僕も空を見上げて、笑った。


「コールが、道に迷わずに村まで来れるように、僕が立てたんだ」


「あれ、コール、森の中で見たです。たかーいところに、おっきな旗があって、びっくりしたです。それで、見つめてたら、足を滑らせて転んだです」


「え……」


 まさか、それで気を失って、そのまま記憶喪失になったんじゃ……?


 僕は脂汗を流した。


 側で、ソフィアとギルバートが呆れたように、馬鹿にしたように、にやにや笑っている。


 自業自得だと、茶化そうとタイミングを見計らっているようだ。


「でも、目が覚めたらディースたんに会えたです! すごいです!」


 コールはそんなことには気付いていない様子で、僕に尊敬の眼差しを向けてくる。


「そ、そうだな。すごいな。ははは……」


 こんな旗立てなきゃ、コールは何もしなくても村にやってきたのかもしれない。


 そう思うと、自分が恨めしかった。


 でも、それだけじゃ、僕はこんなにも成長できなかった。


 いろんな人にも会えなかったし、ジーンだって助けられなかった。


 だから、これでいいんだと思った。


 門をくぐり、ギフトの事務所の入り口に立った姉さんが振り返り、笑う。


「ひとまず、私たちクラブ村のギフトのお仕事は、これにて完了です。お疲れさまでした、ディース。よく頑張りましたね」


 僕は笑い返した。


「僕、ギフトの仕事をやってみて、思ったんだ」


「そうね、私もそう思います」


「僕の言いたいことが何となく理解できるのは分かるけどさ、ちゃんと最後まで言わせてよ、頼むから」


「あら、ごめんなさい。またいつもの癖で」


 姉さんは口を手で押さえて、恥ずかしそうに頬を染める。


 姉さんは姉さんなりに、この早とちりの癖を直そうとは思っているらしい。


 少しずつ、前へ進もうとしているのだ。


 でも、治るのは、きっとまだまだ先だろうな。


「それで、何を思ったのかしら?」


「僕、ファーメリーがいないって聞いたとき、これからは全部、何もかも一人でやっていかなきゃいけないって思った。でも、結局、僕が一人でできることなんてたかが知れてて、いろんな人に助けてもらわなきゃ、何もできないんだなって実感した。それは僕だけじゃなくって、たとえば、ジーンやミーシャさんや、それに姉さんだって同じだと思うんだ。だから、僕はこれからは、いろんな人を助けていけるように、少しずつでも頑張っていきたい」


 人は、一人では生きていけない。


 無理をして、孤独に苛まれれば、ジョーカーに裏を掻かれる。身を滅ぼすことになりかねない。


 これからも、一人で無理をしている人がいれば、助けたい。


 今まで助けてもらった恩を、返して行きたい。


「良かった」


 それを聞いた、姉さんは優しく微笑んだ。


「私も、似たようなこと、考えてた」


 姉さんの返事は、ただの早とちりじゃなかった。


 そのことが、とても嬉しかったらしい。


 僕も、嬉しかった。


「なら、これからも頑張らないとね。ギフトのお手伝いもしてもらいますけど、当面は――」


 姉さんの視線が、僕の隣に移る。


 僕も隣を見た。


 すぐ隣で、僕を見つめ返して笑っている、女の子。


「当面は、その子の面倒を見るので精一杯かもしれないわね」


 僕はコールの頭をそっと撫でた。


 右側の額の上部には、僕があげた、羽の形の髪飾りが光っている。


 十年にわたる、ファーメリーを待ち続けた苦悩の日々は、ただの災難じゃなかった。


 長い時間をかけて、僕が成長するチャンスを与えてくれた、ファーメリーからのプレゼントだったんだと、今は思う。


 嬉しそうに笑顔を向けてくるコールに笑みを返しながら、僕は考えていた。




 この「妖精からの(ファーメリーズ)贈り物(・ギフト)」に対して、何をどうやって返していこうかと。



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