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23.記憶の覚醒

「えい、えい、えいっ!」


 だが、考えがまとまる前に、集中力が乱された。


 下の方から聞こえる声に、反応してしまう。


「ディースたんを離しなたい! えいっ!」


 それは、ジョーカーに殴りかかる、コールの声だった。


 何の計画性もなく、ただがむしゃらに腕を振り回して、ジョーカーをポカスカと殴っている。


[何だぁ、お前は! 邪魔するな!]


 だが、そんな攻撃で、ジョーカーにダメージは与えられない。


 神経を逆撫でしただけに終わった。


 コールは苛立ったジョーカーに殴りとばされ、地面に倒れる。


「や、やめろよ! お前の仲間だろうが!」


 僕は慌てて声を張り上げる。


 ジョーカーがジョーカーを攻撃するなんて。


 こいつらには仲間意識がないのか?


[仲間ぁ? しらねーよ、こんなトロくさい奴!]


 ジョーカーは怒鳴って吐き捨てた。


「い、今は記憶をなくしているらしいけど、この辺りを彷徨いていた、ジョーカーが操っていた子供なんだろう!?」


[ジョーカーの眷属に染まった奴が、記憶をなくすかよ! そんなヘマするドジ、同業にはいねーよ!]


 ジョーカーの言い草に、僕は動揺する。


 コールは、ジョーカーの仲間じゃないのか?


 僕の中で、何か錘のようなものが外れた感覚がした。


 一種の安堵感が、僕の身体の力を抜いていく。


 コールは、ジョーカーじゃなかった。


 その事実が、僕を重圧から解放してゆく。


「じゃ、じゃあ、この子は……?」


[知るか! どっかの頭のおかしなガキだろうが!]


 ジョーカーは、起きあがったばかりのコールに再び、拳をぶつけた。


「あうっ!」


 コールは、また地面に転がって倒れる。


「や、やめろ!」


 コールの悲鳴に、僕の思考は遮断される。


 どこの誰で、何者かなんて、もう関係ない。


 コールはコールだ!


「逃げろ、コール! このままだと殺されるぞ!」


 僕は必死で叫んだ。


 だが、コールはまた立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。


 打ちつけられた身体は痛いだろう。とても、怖いだろう。


 なのに、コールはジョーカーを睨みつけることをやめない。


「助けるです、ディースたん、助けるです!」


「やめろ、コール、やめろ!」


 僕の声は、コールに届かないのか。


 コールは強い決意を秘めた瞳を、普段以上に輝かせていた。


 涙で、濡れている。


「もう、探すの嫌です、ずっと一緒にいるです!」


 コールは叫びながら、涙を流す。


 そして、足を引きずりながら歩いてくる。


 その姿に、さらに苛立ちを覚えたジョーカーは、拳を降りあげる。


 今度食らったら、コールの身体が――。


「やっぱり、あの子……」


 ジョーカーの拳が降り下ろされる。


 しかし、その軌道が途中でそれた。


 ソフィアが飛び出してきて、剣ではじいたのだ。


[おっと、邪魔するなよファーメリー! このガキがどうなってもいいのか!]


 ジョーカーは僕を盾にとって、ソフィアの攻撃を制止させようとする。


 周囲の反応から、僕が人質として機能する事を察知したようだ。


 しかし、ソフィアは直接ジョーカーと対峙するつもりはないらしい。


 彼女はジョーカーを牽制しつつ、倒れそうになっていたコールを支えた。


「――思い出しなさい、あなたのするべきことを」


 そして、語りかける。


 コールの目が大きく見開いた。


「するべき、こと……?」


「本能のままに動いては駄目。大切なものを守りたいという気持ちを、そのために戦いたいという想いを、自分の力に変えるのよ」


「ちから。助けたい、守りたい。……ディースたん!!」


 コールの叫び。


 それが森の中に響く。


 コールが強烈な光を放ち、その中に包まれたのは、直後のことだった。


 ジョーカーが悲鳴を上げる。


 僕も眩しくて、目を閉じた。


「なっ、この光は……」


「まさか……!?」


 ミーシャと姉さんの声が聞こえた。


 ジョーカーの腕から力が抜け、僕は地面に落とされる。


 やがて瞼の向こうの光が収まり、僕はゆっくり、目を開いた。


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