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21.黒幕のジョーカー

「なっ……!」


 そいつは、僕の首を引っ掴んだ。


 白い顔、赤い鼻、赤い口。星や水玉に囲まれた、細い嫌らしい目。


 道化を思わせるその姿と対峙したのは、二度目だった。


「ディースたん!」


 コールが悲鳴を上げる。僕は首根っこと背中を捕まれて、宙に浮いていた。


 ジーンの首元から、身体を突き破ったかのように飛び出してきたそいつは、僕を見てにんまり笑う。


 手下のように、板にははまっていなかった。


 より、人間の道化に近い姿をしているが、ひょろひょろして、細長い。その姿のおぞましさは、それが人外のもであることを、強烈に印象付けている。


[嬉しいなぁ。お友達になってくれるなんて、嬉しいなぁ!]


「くっ、ジョーカー、か……?」


「そうさ。ボクはジョーカー。手下とは、またひと味違ってハンサムだろ? うふふ]


 別に対して変わらない。


 化け物であることに、変わりなんかない。


 だが、確かに手下に比べて、すさまじいプレッシャーを放っていた。


 ぜんぜん対等に感じない。


 僕は獅子に掴まれた猫も同然だった。


「お前、ジーンをどうしたんだ! ジーンの身体を、乗っ取ったのか!?」


 それでも、恐怖を押さえつけ、ジョーカーに怒鳴りつける。


 ジョーカーは鼻で笑った。


[乗っ取るだなんて、人聞きの悪い。この身体は、このお嬢さんから貰ったのさ]


「嘘だ! ジーンがそんなことするわけ……」


[このお嬢さんは、何もかもが嫌になってしまったのさ。親や知り合いたちは、みんなファーメリーのことばかり。自分のことなんて、誰も見てくれやしない。思ってくれやしない。そんな世界に絶望したのさ。ボクが誘ったら、すぐに話に乗ってきたよ]


 さも、嬉しそうに語る。


 絶望が、至福の喜びだと言わんばかりに。


[チミも、この子のお友達になるんだろう? いいとも。おいでよ、大歓迎さ。この子も一人で寂しかったんだ。チミが一緒なら、きっと喜ぶだろうさ]


「違う! ジーンは助けてと言った! 本当は、ジョーカーになんて捕まりたくなかったはずだ!」


 ジーンは分かっていたはずだ、自分の行いが過ちであることを。


 でも、それを取り返しのつかないものにしてしまったのは、ここまでジーンを追いつめたのは、こいつじゃないのか。


[僕は彼女の、強い強い思いに同感して、手を貸してあげただけさ。嫌な現実から逃げるための力を、自分を追いかけてくる嫌なギフトを倒すための力を、憎きファーメリーをやっつける力を!]


 僕はこめかみを痙攣けいれんさせた。


 ミーシャをあそこまで満身創痍にしたのも、ファーメリーをあんな姿にしたのも、全部こいつだ。


[何にしても、もう後戻りはできない。この身体は返さないよ。この身体はボクのものだからね。操って人間の子供を狩るのもよし、新鮮なうちに食べちゃうのもよし! 思うがままさ]


「させるか、そんなことぉ!」


 僕は腕を伸ばす。


 ジョーカーの顔に届くか、届かないか。


 その寸前で、逆にジョーカーの腕が伸びてきた。


 その手が、僕の顔を掴んで握り潰そうとする。まるで、卵でも割るみたいに。


「ぐああっ!」


[たかがクソガキ一人に、何ができるっていうのさ]


 少し苛立った口調で、ジョーカーはドスの利いた声を吐く。


[反抗的な子供は嫌いだ。お前みたいな使えそうにない奴は、さっさと食っちまうに限る]


 ジョーカーは口を開いた。耳元まで裂ける、大きな口を。


[いったっだきまーす♪]


 僕の頭を、口の中の領域に突っ込もうとした時。


[んがっ!]


 その顔が横へ吹っ飛んだ。


 その弾みで、僕は解放され、地面へ落ちる。


 起きあがると、隣には二本の足が。


 見上げると、そこには一人の男が立っていた。


 茶色いスーツに身を包んだ、立派な紳士。


 手に持ったステッキを剣代わりに、ジョーカーに向けて構えていた。


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