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失われた夏の日に花束を。  作者: たかしま るあ
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プロローグ

初投稿です。暇つぶしに書いてます。更新不定期。

――失われた夏の日に花束を。


もう会えない人がいる。

その人は存在すらしていなかった。

そういうことになったのだ。


それでもわたしはここに通っている。

あの人の記録が失われた日から毎日。

どれくらいの時が経ったのだろうか、周りは殆どいなくなった。

自然の摂理だ。

年老いればいづれ死ぬ。

そう、人間はいづれ死んでしまう生き物なのだ。

それが早まってしまっただけのこと、何故そう思えないのだろうか。

わたしは人間でなくなってから思考も変わってしまったのだろうか。


「御琴様?」


「ああ、いたのね白呪」


「私が後ろに立っていること、気づいておられると思っていました」


「貴方はわたしがそんなに有能にみえるのかしら」


誰かのために何もしてあげられないのに。


「貴女様は、誰よりも聡明で誰よりもお強いでしょう?」


「あら、そんな幻想」


「そろそろご自身のこと認められてはどうです?」


「そうねぇ…」


小さな塔に目を向けると、自ら供えた花が風を受けて揺れていた


「私めも覚えていないこと… それ程に固執しているのが何か気になりますねぇ」


「誰も何も知らなくていいの、何にもなかったのだから」


「ほぉ… ということは、」


「それ以上話すと殺すわよ」


「申しわけございません、何でも興味を持ってしまう性質なので」


「あなたが気にすることじゃないわ、」


何故覚えていないのか薄々気が付いているくせに。


「白呪、あなたは本当に性格が悪い」


「お褒めの言葉、ですね」


「そう思えるのならそう思ってなさい」


察しがいい白呪にはいろいろ迷惑をかけているし、そろそろわたしは、


「ねぇ、白呪」


「…なんでございましょう」


「わたしを神の祝福から解放してくれる?」


「何を… 何を言っているのですか!」


貴女様がいない世界など私は…

なんて。


これ程まで自分が愛されていることを初めて知った。


それでも


「わたしはやり直したいの、」


こんな未来、想像してなかったッ…


溢れてくる、気持ちが全部。

これも一緒に失ってしまったと思ってたのに。


「貴女様の涙は本当に綺麗です、けれどそれは見たくない… 貴女様のお願いを承りましょう」


「本当?」


「お疑いですか?」


「疑ってるわけじゃないわ、ただわたしが世界軸を移動するのに許してもらえたことなんてなかったから」


「世界軸を移動なんて、そんな危ないことさせませんよ」


「じゃあ、どうやって…」


「ひとつ、貴女様に隠していたことがあるのです」


「隠していたこと?」


「ええ、私めのアビリティについてです」


「貴方も、持っていたのね」


「秘密にしていたことは謝ります、私のアビリティは―――――」


ひゅんと吹き抜ける風、白呪のアビリティは聞こえなかった。


「アビリティが風の音で聞こえなかったの、もう1度教えてくれない?」


「聞こえなかったのならそれでよいのです」


このアビリティなら貴女様の思念体のみ同じ世界軸の過去におくることができます。


「そう… それなら、今のわたしはどうなるの?」


「空っぽになります、ですが貴女様は過去をやり直して上書きすればよいのです」


「上書き… それは禁忌に触れない?」


「貴方様は何も気にされなくてよいのです」


「…分かったわ、ありがとう」


「では何年前にお送りしましょうか?」


「今から――年前の4月、わたしが高校2年生のときに」


「承りました、貴女様の体は私めが責任をもって供用させていただきます」


「お願いするわ、この塔の下に埋めておいてほしいの」


「ええもちろん、そうしたら私がここに花を手向ける理由ができます」


貴女様の気持ちは受け継ぎますよ、と。


「流石だわ、白呪」


「どれほどの時を貴女様と過ごしたとお思いですか」



「そうね、あとのことはよろしく」



「御琴様、過去の私は礼儀もなっておらず迷惑ばかりかけると思いますがどうかよろしくお願いします」



ポゥン…


白い、意識が飛ぶ、ああ、わたしは、上手く、やり直せるのかな、

最後に、見えたのは、悲しそうに、寂しそうに、笑う、貴方


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