開戦前2
帝國は多額の賠償金を課されられながらも工業化に成功し、首都は工場で溢れかえっていた。
これは驚いたなぁ。10年前はぽつぽつと田畑か空き地があったが今では工場しかないじゃないか。
兵器作りにはいいと思うが、これじゃあ食後の一服が不味い。
町まで4時間近くある。
それまでひと眠りでもするか。
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「兵士諸君! これから我が帝國の偉大なるレオハルト皇帝の御言葉を放送する。兵士諸君は心して聞くように。皇帝陛下万歳」
そんなアナウンスが列車内に響いた。
俺はそんな言葉で起きてしまった。
あぁ、俺の隣にいるいかれた奴の元凶か。
確か今の皇帝は20年前の皇帝と違う奴だったな。
初めて声を聞くから聞いておくとでもするか。
若干のノイズ音が入りそれは始まった。
「親愛あるヴェニア帝國兵士の諸君!私が皇帝レオハルト・ヴェニアである。
諸君らは20年前の屈辱を覚えているかね?
多くの兵士達が蹂躙され、力のない市民達が虐殺され、そして女子供は犯され…
それはそれはとてもとても悲しき事であった。
しかし其れは今や遠き過去の事である‼
諸君、武器を取ろうぞ。
諸君、敵を蹂躙しようぞ。
諸君、敵国を火の海にしようぞ!!
諸君らは我が国の正義の剣なのである!
そう、この闘争は正義の闘争である!
全ては復讐の為に!! 」
「皇帝陛下万歳!! ヴェニア帝國万歳!!」
放送が終わると同時に若い奴らがこう叫んだ。
士官だけじゃなく下士官や兵達も狂っているのか。
「そろそろ町に到着する。兵士諸君らは武器と荷物を取り、あらかじめ各々に指定されてある地点に集合するように」
何事もなかったようにアナウンスが再び響いた。
俺はさっさと列車を降りて武器と支給された荷物を持って指定された地点へと走った。
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地点に着くとそこには装甲兵員輸送車、突撃砲そして戦車があった。
段々と人が集まり二人の将官が前に出て来た。
「私が第15師団の師団長を務めるハルトマン少将である。これから君達は戦車師団と共に行動し、戦車師団の支援をしてもらいたい」
「初めまして。私は第2戦車師団師団長のヨハン中将である。先程少将が話したように君達には我々の支援をしてもらいたい。期待しているぞ」
「以上だ。分隊ごとに輸送車に乗るように。どの輸送車に乗るかは番号で識別できる。急げ。もう時間はないぞ」
俺は自分の分隊ナンバーが書かれた装甲車へ乗った。
「よう、久しぶりだな」
「オットーじゃないか! 何十年ぶりだ?」
「15年ぶりじゃないか? お前中尉か…出世したなぁ。じゃあ俺はお前に対して敬語で話さなくちゃいけんのか?」
「なんだ? お前曹長のままか。俺とお前の中だから階級なんて関係ねーよ」
「ならよかった。そんなにお前がひねくれてなくて。俺は一度退役してよ。しばらく予備役だったんだが、2年前にまた招集が掛かってよまた戻ったんだ。」
久々の戦友の再開で俺はとても嬉しかった。
「よし、シャウス兵長は操縦、レオナルド一等兵は機関銃手をそして俺が車長と通信手を兼任する。オットー曹長は俺の補佐を、後の者は索敵を頼む。この機は中隊長機である。そのことを肝に銘じておくように。以上だ」
このハーフトラックはすぐに歩兵達が展開できるよう後方がオープントップになっている。
「よし! 第5中隊、他の隊に遅れぬように全車両前進!」
一斉にエンジンの音が鳴り響き数十機の輸送車が多くの突撃砲そして戦車と共に走り始めた。
ついに開戦である。