【小説】一期一会 過去人との再会を祝う
「袖振り合うも多生の縁」という言葉がある。道端で袖と袖が触れ合った相手でも、前世で深く交わった相手かもしれない。ということだ。例えば、その人は命の恩人だったかもしれないし、親を殺した敵だったかもしれない。
わたしの場合、その縁は妻であった。
わたしはまだ幼かった。小学生になったばかりで夏だった。少し遠い町の花火大会に行った。たくさんの人がいた。母と右手をつないでなければ、すぐに波に押されてしまっていただろう。人がまばらの祭しか見たことのないわたしは、不安ながらもたくさんの灯に夢中になっていた。多くの細々とした音がわたしの耳に入る。神聖で騒がしい空気だ。
わたしはなかなか心地よく感じていたのだが、二つ下の妹にはそうではなかったらしい。父に肩車をされていたのだが、そこでびぇびぇと泣き出した。
わたしが父を見上げ、妹の泣き顔を見たときである。ピンク色の浴衣の袖が、わたしの左肩に触れた。
思い出した。
将来の約束をした可愛らしい幼馴染みを。簪を贈った美しい娘を。花嫁姿の女を。そして
“わたしたちは、これからも、こうしていられるのかしら”
“わたしが死んだら、生まれ変わったなら、なにになるのかしら”
“叶うなら”
“またあなたと生きたい”
病だった。子や孫に見とられ、彼女は逝った。わたしは泣いた。妻の名前を叫んだ。
そして、祭の中にいたわたしも泣いた。
今生ではもう彼女に会えないと分かったからだ。顔も見れなかった浴衣の娘、わたしの妻の生まれ変わり。袖が触れ合うだけの縁。
わたしがなにをした、なぜこれだけの縁しかわたしに与えないのだ!
幼いながらも、神を罵り泣きじゃくった。
「あらあら、お兄ちゃんまで泣いちゃった」
母はしゃがんでハンカチでゴシゴシと柔らかいわたしの頬をこすった。
中学からの友人が、わたしの顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「わからない…急に…ひどく懐かしくて」
大好きピンク色で作られた浴衣は、わたしの涙で少し濡れた。愛しさと悲しみで胸が溢れたが、何故なのかちっとも分からなかった。