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こんな夢を観た

こんな夢を観た「干物男を発見する」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/07/17

 公園の木陰でソフトクリームを食べていると、ツーッと大きなクモがぶら下がってきた。

「ふふっ、クモなんかに驚くものか」内心、ドキッとしたが、どうにか持ちこたえる。

 ふうっと息を吹いて揺らしてやると、慌てたように糸をたぐって逃げていった。

「そう言えば、ここしばらく志茂田を見てないなぁ」

 友人の志茂田ともるは、手足がひょろっと長く、面と向かっては言えないが、クモにそっくりだ。

 家もそう遠くないことだし、ちょっとのぞいてこようかな。


 玄関のチャイムを鳴らす。しばらく待つが、出てくる様子がない。

「留守かな」わたしはポケットから携帯を取り出すと、志茂田に掛けてみた。

「……はい」志茂田が出た。なんだか、力のない声だった。

「今、どこにいるの?」わたしは尋ねる。

「どこって、家にいますとも、むぅにぃ君」

「えー、チャイム鳴らしたんだけど」わたしは文句を言った。

「聞こえていましたよ。あれは君でしたか」と志茂田。「大変に申し訳ないのですが、上がって部屋まで来てもらえませんか。玄関の鍵は開いていますから」

 どういうことだろうと首を傾げながら、わたしは家に入った。


 ベッドで仰向けに横たわった志茂田が、弱々しく手を振る。

「やあ、よく来てくれました、むぅにぃ君」すっかり干からびていて、見る影もない。

「どうしたの、その体っ?!」びっくりして駆け寄る。

「このところ太り気味だったので、思い切ってダイエットに挑戦してみたのですよ。いささか無理をしすぎてしまい、ご覧の通り、すっかり脱水症に」

「脱水症なんてもんじゃないよ、まるで、ミイラじゃん」思わず取ったその手は、カサカサとしていて、今にもボロッと崩れてしまいそうだ。なんとなく、カツオ節の香りが漂う。


「とにかく、水を飲まなくちゃっ」わたしはキッチンへ行って、冷蔵庫からペット・ボトル入り麦茶を持ってきた。

「すいませんねえ」ペット・ボトルをラッパ飲みしながら、志茂田は言う。「なんと言いますか、わたしは掛け値なしの『干物男』ですねえ、あっはっはっ」

 水分を補給するにつれ、だんだんと張り艶が出てきた。

「これだけじゃ、全然足らないね。ちょっと、飲み物を買ってくるから」わたしは小走りで、近所のスーパーまで買いに行く。


 水や麦茶ばかりじゃ栄養にもならないな、と考え、トマト・ジュースとオレンジ・ジュース、それにドクター・ペッパーを買った。


「ただいまぁ」さっそく、トマト・ジュースを志茂田に飲ませてやる。

 ごくごくと喉を鳴らしながら、息継ぎのついでにぼそっと言う。「こんなときに何ですが、実はわたし、トマト・ジュースはあまり得意ではないのですよ」

 わたしは聞こえないふりをして、構わず飲ませ続けた。

 よっぽど水気が抜けていたのだろう、志茂田の肌はトマト色に染まってきた。さっきよりは、断然、健康的に見える。  

「リコピンはお肌にいいんだよ」わたしは声を掛けた。


 続いて、オレンジ・ジュースを飲ませる。こちらは嫌いじゃなかったらしく、積極的に飲んでいく。

「ぷはあっ、オレンジ・ジュースはやはりいいですねぇ。生き返った気分ですよ」

 黄色くなった顔でにこにこと笑う。体もだいぶ膨らんできて、もうほとんど、以前の姿を取り戻していた。


「ドクター・ペッパーも買ってきたけど、さすがにもう入らないよね?」わたしは500ml入りをレジ袋から出して見せた。

「もちろん、いただきますとも。ドクター・ペッパーこそ、我が命の水ですからね」

 そういうと、ひったくるようにして飲み出すのだった。

 見る見る体の色が変わっていく。どす黒い風船そっくりだ。

「針で突いたら、ミックス・ジュースが吹き出してきそう……」率直な意見を口にするわたし。

「あはは、そうかもしれませんねえ。これに懲りて、もう無理なダイエットはやめにしますよ、むぅにぃ君」


 清涼飲料水の甘ーい香りが、部屋いっぱいに広がっていた。

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