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自分を見極めに行ってくる 悠里 1

久しぶりのホイホイ部長(佐々木一弥32歳)と悠里の二人です。

悠里が旅行に行こうとしているのを一弥は指をくわえて見ているだけwww

久しぶりに母方の親戚からメールが届いた。そのメールが私の運命を大きく変えるだなんてその時はまだ分かってはいなかった。


「ところで……悠里?」

「何でしょう?一弥さん?」

いつもと変わらない金曜日の夜。私の家に一弥さん……彼氏でもある佐々木部長がお泊まりする様になって約一ヶ月たった。

私と同じベッドに一緒に眠るんだけども、そう言った関係にまでは至っていない。

社外プレゼンに出した企画が全て採用されてしまって、私達は休みを返上して仕事を続けている。

新年度になって替わった事は、私は昇級して主任待遇になった。一応総合職なのだけども同期の中では一番早いらしい。らしいというのは、同期との社内メールで知った内容で自分自身が体感したものではないから。

相変わらず、本社とは別のビルの中の営業企画部生活だ。

金曜日の夜なのに、翌日も出社なので身体を休める為に一緒に添い寝状態。

今の開発が終了したら、6月頃のはずだ。6月から夏休みが纏めて取れるので、皆そのご褒美の為に頑張っている様なものだ。

「お前、纏まった休暇の申請をしていたな」

「はい。一弥さん。夏休みと代休消化させて貰いたいんですが」

「別に構わないが、何処かに……旅行でも行くのか?」

「はい、ちょっと。祖母の方の親戚が揃うって言うので、久しぶりに会いに行きたいと言うか」

「そうか。それって遠いのか?」

「そうですね。少し遠いですよ。でも……それがどうかしましたか?」

「俺も一緒に行こうかなって思ったからさ。健在なのはその祖母だけだろう?」

「はあ?何を言っているんですか?婚前旅行するつもりですか?」

「そうだな。別にいいだろう?俺達は交際しているんだからさ」

「それはそうですが、それとこれは別ですよ。本社の部長会議と被るので今回は我慢して下さい」

私は、ぴしゃりとはねつけた。この性格は一弥さんとお付き合いしても変わるものではない。可愛くないなあと自分の事を思うのもお約束だ。

「そっか。部長会議は休めないな。今回は諦めよう。で、行き先はどこだ?」

「ルーマニアですけど」

「ふうん、そうかって。ルーマニア?あの……ヨーロッパの?」

「そうですよ。オーバーリアクションが売りのタレントさんを囲む会だと思ったのですか?」

「いやっ、そんな事は……なあ?」

「それは自白も同然だと思いますが?そう言う事なので、この旅行は一人で行きますよ」

「分かったよ。行っておいで。久しぶりに親戚に会うんだからな……楽しんでおいで」

「ありがとうございます。一弥さん」

「悠里……寂しいから毎日連絡くれよ」

「分かっていますよ。一弥さん」

彼と付き合い始めてから気がついた事がある。彼は社内ではしっかりしているけれども、実のところはかなりの甘えん坊だ。きっと末っ子に違いない。

彼に甘えられることは嫌ではないので、こうやって寝るまでのギリギリの所まで甘えている。

身体の関係がない事に不安がないわけではないけど、次の日も出勤じゃなくなるまではいいってはぐらかされてしまった。

まあね、私の方が恋愛経験値ゼロだから、少しずつ怖がらない様にしてくれているってこと。だから、最後まではしていない。

男の人ってそう言うの辛くないのだろうか?そうやって聞くと煽った悠里が悪いって言われちゃうから絶対に言わないけど。


「へえ、悠里ちゃん旅行に行くんだ」

「はい、祖母の方の親戚が久しぶりに集まるんですよ」

「それは楽しそうだね」

「そうですね四年ぶりに会うので楽しみですよ」

GW明けのある日、私の休暇申請を部の皆が知ることになった。

「それはいいけど、悠里。休み中の案件はどうなるんだ?」

「大丈夫ですよ。先方にはその事はお話ししてますので、若干前倒し進行にして貰ってます。なので、その前に私の開発は終了して先方が動くだけになります」

「成程。それならこっちも安心だ」

渡君がホッとしている。いつも私の問い合わせが不在の時に回答してくれていると聞いた事がある。

「お土産楽しみにしているよ」

「葵ちゃん、戻ってくる頃は有給消化じゃないの?」

「ちゃんとその日は出社するから連絡して」

葵ちゃんは、相変わらずな通常運転。四月になってから葵ちゃんの抱える業務が減った分最初は忙しかったけど、今になると皆慣れたせいか前よりはスムースかもしれない。

その代わり……葵ちゃんはずっと後回しだった資料の整理で悪戦苦闘中。

そりゃそうだ。準備室時代の頃から溜まっているから3年分はファイリングしないといけない。

「ところで悠里が行くのはどこ?」

「ルーマニアですが」

「ふうん、ちょっと……それは遠いだろう?」

「だから四年ぶりに私が行くんです。意味が分かりましたか?」

「成程な。それなら6月に夏休み取って行くのが正解だろうな」

課長たちも納得している。課長はお子さんがいるからお子さんの予定に合わせるだろう。

「悠里のお婆ちゃんがルーマニアの人なの?」

「違います。祖母の父がルーマニアから仕事で日本に来日したって聞いています」

「ふうん。それじゃあ、当時はハイカラさんだったわけだ」

「そうかもしれないですね。でも私は肌が白い位しか似てないですよ。髪も黒いですし」

「悠里、お婆ちゃんって確か……」

「祖父が亡くなってからはルーマニアにいます。だから祖母に会うのも四年ぶりになるんですよ」

「そうか。ゆっくりしておいでよ」

私の里帰り休暇はこうやって無事に受理された。


「ユーリ、身体の方はどう?」

久しぶりのスカイプで祖母と会話を楽しむことにした。

「大丈夫よ。おじさんの病院のお陰で」

「そう。あなたが先祖返りするなんて……」

「私は……気にしていないよ。この体質が、皆と繋がっている証拠だもの」

「それより……あなた、好きな人はいるのかい?」

祖母は不安そうに私を見ている。

「今は、好きな人……いるよ」

「そう、その人には打ち明けたの?」

嬉しそうな表情をしながら、祖母はやはり不安そうに私を見つめている。

「まだよ。ねえ、彼を仲間にしたら……彼はどの位生きるの?」

「あなたの能力次第だけど……さゆりより能力が高いはずだから……悠里が死ぬまでは大丈夫だと思うわ」

「分かったわ。今回は私一人でそっちに行くから。今回の里帰りでゆっくり考えてから決めるわ」

「ごめんね。ユーリ。あなたばかり……」

「そんな事を言わないで。私の身体は大丈夫だから。それじゃあ来月会えるの楽しみだよ。お婆ちゃん」

私は暫く祖母と差し障りのない会話を楽しんだ。


私には、人にはなかなか話せない秘密がある。祖母の父……私の曽祖父は世間で言う所の吸血鬼ってやつだった。故郷のルーマニアで命を狙われて、彼は日本にやってきて私の曽祖母と……恋をした。

生前の彼らの写真を私は見た事がある。年齢に割りに相当若いイメージが今でも残っている。そんな彼は、私の母が結婚するまで生きていたという。

祖母と祖父は築地の市場に近い今の家で小さな洋食屋を開いていた。

母が生まれて……父と結婚して……私が生まれて……見た目は幸せそうだったと思う。

少なくても私が先祖返りしている事が分かるまでは。

私に一族の事を話そうと決意した両親が二人揃って出先で連続殺傷事件に巻き込まれて無くなってしまった。その時の私は中学三年生。血を見ると口に含みたくなる衝動も祖母たちに説明されてすんなりと納得してしまった自分がいた。

祖母はこの件が引き金になってルーマニアの親族の元に身を寄せて暮らしている。

そして、私は見た目が日本人なので、ルーマニアの親族に頼って曽祖父と同じように日本で暮らしていて日本にいる一族をケアしてくれる病院を紹介してくれた。

そこで週に一度造血剤と輸血パックで補給をして今の生活を維持している。

元々自分の血を吸うだけでも満足だったらしい私は、誰も仲間にすることなくここまで生きてきている。

他の親族は、それなりに楽しんでいるらしかったが、私はそんな気分になれなかった。

彼は好きだ。好きだからこの秘密を話してしまいた。でも、彼がこの秘密を知って私の元を離れてしまったら……と思うと怖くてしょうがない。

そろそろ……決断の時なのだろう。この里帰りで、ゆっくりと自分と向き合おうと思う。


「そろそろだな」

「そうですね。6日後にはまた帰ってきますよ」

「そんなクールな悠里も好きだけど……寂しがって欲しいな」

ちゃんと彼の元に戻ってくると言うのに、どうしてこの人はこんなに不安そうな表情をするんだろう?

「本当にもう……困った人ですね。あなたの方が年上なんですよ。一弥さん?」

「こんなに俺が愛しているって言うのに……」

そう言うと私の身体をぎゅっと抱き締める。

「知っていますよ。誰よりもね。私だって愛していますよ。時間です。行ってきます」

私は掠める様に唇を重ねてからゆっくりと彼から離れて出国ゲートに向かって歩き出す。

私の自分のルーツを辿る旅は今から始まる。


まさかの悠里がヴァンプでした。ユーリってなるとそれっぽいでしょう?

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