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アルの属性

 試験用の水晶を見て、ミーナは驚きの声をあげた。


「えっ…!?」

「な、なんだよ…。」


 水晶の中では未だに黒いもやもやしたものが渦巻いている。ミーナはというと、水晶を見て深刻な顔をしている。


「あるのは聞いてたけど、実際に見るのは初めてだわ…。」

「何か悪いのか?」

「その逆よ。」


 ミーナによると俺の属性は闇…。俺も闇なんて聞いたことがない。

 この世界で認知されている魔法属性は7つあるらしい…。五大属性の火、水、雷、土、風。火は風に、風は土に、土は雷に、雷は水に、水は火にそれぞれ強い。そのどれにも属さない無属性。ここまでは俺でも知ってる。というより6つだと思ってた。

 闇なんて属性を俺は知らない。闇属性の者は五大属性全ての属性を難なく使いこなせるらしい。だがミーナはすごいすごいって言うけど、俺のいた田舎では普通だと思う。親父は狩りのとき色んな魔法を使いこなしてたし、それを見たご近所さんも大した反応はしてなかったように思う。



 それをミーナに伝えると当たり前といった反応が返ってきた。


「それは当たり前よ。誰でも魔石を使えば得手不得手はあるけど、五大属性魔法は使えるもの。」

「そうなのか。」

「でも、属性は遺伝するからアルくんのお父さんは闇属性だったかもしれないわね。」


 その後、ミーナは「アルくんが突然変異の可能性も…。」とか言いながら考え込んでしまった。


「えっと…ミーナ?」

「んー…あ、ごめんなさい。とりあえず次に行きましょ!」

「お、おぅ…頼む。」


 水晶の台座から出てきたカードには属性が書き足されている。そのあとも昼休みを挟みつつ細々とした作業を経てやっとのことで俺はギルドカードを発行した。

 日は傾いて街は橙に染まろうとしてるから、ミーナが言った通り結構な時間がかかったようだ。


「これでアルくんも一人の冒険者ね。依頼の受け方とかは初回の依頼受注時に説明するから、早速、明日から来てね!早朝に集合よ!」

「あぁ、了解した。」

「じゃあ今日はお疲れさまでした。…あ、そうだ!アルくん宿はもう決まってるの?」

「到着してすぐにここに来たからまだだが…」

「ならここに泊まりなよ!ここは冒険者のために二階が宿になってるの!しかも朝夕二食付きで代金は出世払いよ!」


 そう言いながらミーナは既に宿泊施設利用申込書、とやらを書いている。俺に拒否権はないらしい。妙にテンションの高いミーナも気になるが、申込書を受け取ったギルドマスターも「おっ坊主、泊まるのか!」と何故かご機嫌だった。

 実際のところ金を持ち合わせていない俺にとって出世払いは好都合だったから、しばらく厄介になることにした。ちなみにこの出世払い、アワの街を離れても違う街の冒険者ギルドで請求されるという仕組みになっているらしい。なんだかすごい…。




 ギシッと音をたてる階段を二階へあがると、廊下の両側に扉が並び、扉に1から順に番号が焼き印されている。さっき貰った部屋の鍵には2って書いてある。たぶん1の部屋にもう誰かが住んでいるんだろう。とにかく2と書かれている扉を開けた。


「おー…」


 部屋の真ん中にベッド。

 テーブル、チェア、ソファー、ドレッサーと結構快適かも…。奥に見える窓からは表通りで行き交う人々がよく見える。景色も良い。

 そうだ、鎧欲しいな…。


 てことで装備を揃えることにした。

 ギルドが建っている大通りに出てみると、武器屋や防具屋など冒険者向けの店が多い。少し離れると道具屋や鍛冶屋、宿屋、食事処が並ぶ。細い裏路地にも色んな店がありそうだ。

 落ち着いたら、探険しなきゃなぁ…。

 とにかく最初の目的は防具だ。ギルドの向かいに建っている防具屋の方に足を踏み入れた。





 結果から言うと、防具屋の品揃えはよかった。黒光りする鎧や、肌触りの良さそうなローブが所狭しと置いてあり、目移りしないわけがなかった。…だが高かった。俺の所持金では額当てくらいしか買えなかった。


 ん?なんでお前金持ってるのかって?これはギルドから貰った支度金だ(借金ともいう)。


 支度金総額銀貨2枚。

 この世界の共通貨幣は硬貨だ。屑鉄貨が10枚で銅貨1枚、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚だ。


 支度金を貰った時は、これだけあれば装備一式揃えられる!と思ったが、ここは都会。物価は高かった。

 額当てだけあってもなぁ…


 てことで、防具は諦めて一つだけ武器を買うことにした。とりあえず選んだのはショートソードだ。あまり俺好みじゃないけど、店長のオススメだったし一番安かったんだ…。

 その後武器屋の店長の助言で道具屋に薬草とか、そういう消耗品を買いに行った。

 金が飛ぶってこの事か、と身をもって知った一日だった。

 …都会って恐い。ギルドに泊まることにしてよかったって今更ながら思う。出世払いだけど。




 ギルドに戻るといい香りが充満してた。このギルドは夜になると居酒屋になる。ギルドマスターが腕をふるってるらしい。店内ではミーナが忙しそうにしてた。


「アルくん!やっと返ってきた!じゃあこれあそこのテーブルに運んで!」

「っ!?」


 いつの間にか俺はうまそうな兎肉の丸焼きを持ってた。仕方なく指示されたテーブルに運んだが、その後閉店までウェイターとして手伝わされることになった。

 客が帰った後に出された晩飯が滅茶苦茶うまかったし、俺はギルドに出世払いと支度金って名前の利息の無い借金があるから文句は言えない。

 なんでも、新人冒険者はこれをさせられるのがアワの冒険者ギルドの伝統らしい。どうりで料理を運ぶ度に「おぉ!久々の新人か!」だの、「頑張れよ!」だの言われたわけだ。最初に説明しておけばいいのにミーナも人が悪い。

 当のミーナはギルドマスターと楽しく飲んでる。どうしてあんなに忙しいのに他のギルド職員はウェイターを手伝わないのか聞いたら、ミーナは日中は受付、夜はウェイターの仕事をする代わりにギルド二階の宿を利用させてもらってるらしい。1の部屋の利用者はミーナだったのか…。


 段々、ギルドマスターの話す声が大きくなってきた。うん、今の話さっきも聞いたな…。そう思ってたらミーナは「ちょっとトイレ。」って言って席を立ってから帰ってこなくなった。

  俺も寝ようと立ち上がるが、その都度ギルドマスターに捕まって逃げられない。…ミーナめ。


 深夜。

 ギルドの店内には、出来上がって始終ずっとご機嫌なギルドマスターと眠たそうに目を擦るアルの姿があった。





  次の日。


 二階から降りると既に受付にいたミーナが声をかけてくる。朝早いからか受付嬢はミーナだけだった。


「アルくんおはよう!昨日はよく眠れた?」


 ミーナは朝からフレッシュな笑顔を振り撒いている。ギルドマスターを俺に押し付けておいてよくそんなことが言えるなとも思ったが、俺の親父も毎晩ご機嫌だったから慣れっこだ。少しジト目で見返しながら答える。


「あぁ…よく眠れたよ。」

「何よ、その目は…。」

「いーや、なんでもない。」

「…はぁ、素直に謝るわ。シャガルフを押し付けてすみませんでした。」

「シャガルフ?」

「あ。ま、いっか。ギルドマスターの名前…よ。」

「…?」


 なんだか怪しい。隠す必要とかは無いはずだ。だがミーナはギルドマスターが近くにいないことを確認しているのか、受付の奥を覗いている。んー…やっぱり怪しい。


「そんなことより今日は初依頼でしょ!」

「ああ。そうだな。」

「初依頼のときはね、依頼の受け方とかルールの説明をするために、『ギルド職員もしくはギルドが認めたBランク以上の冒険者が引率する。』とされているの。」

「ふーん…。」


 何か嫌な予感が…。


「で?誰がついてくるんだ?」

「もちろん私よ。」

「…………。」


 やっぱりか。ミーナは満面の笑顔だった。



 数分後。

 依頼掲示板前に説明を始めるミーナの姿があった。その隣にもちろん俺もいる。

 冒険者にはFからAまでランクがあり、よっぽどのことがない限り最初はEから。Aランクの上にSランク、またその上もあるがそれは当分気にしなくていいらしい。そう言われると気になる。掲示板にある依頼は自分と同ランクまたはその1つ上下からしか選べないし、一度に一つの依頼しか受けることはできないらしい。


「次はランクの上がり方についての説明よ。」


 ミーナはなんだか楽しそうだ。ミーナによると自分と同ランクまたはその上の依頼をランク毎に、定められた一定期間以内に一定回数こなすと昇格で、自分と同ランクまたはその下の依頼を一定回数失敗すると降格らしい。そしてどのランクの依頼であっても連続で5回失敗すると降格となるらしい。

 一回聞いただけでは分からなかったが、よくよく聞くとこういうことだ…。

 例えば冒険者がBランクの場合、Aランク依頼を5回達成またはBランク依頼を20回達成で昇格してAランクへ。逆にCランクの依頼を5回失敗またはBランクの依頼を10回失敗、及び全てのランクの依頼を5回の連続失敗で降格してCランクへとなる。

 依頼回数は適当だか、簡単に言うとこんな感じか。とにかく失敗しなければいいと結論付けた。


「依頼書には依頼内容と報酬が記載されてるんだけど、依頼に失敗すると報酬の5分の1を支払わされるから、失敗はなるべく避けた方がいいと思うわ。これくらいかな?何か質問はありますか?」

「うーん…多分大丈夫だ。」

「分からないことがあったらまた聞いてね!じゃあ初依頼頑張りましょ!まずはEランク依頼からね!」

「おう!」


 そうして今日はミーナと依頼をこなしていくことになった。


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