始まり
俺はアーヴィング・ストルス。周りの人達からはアルって呼ばれてた。って言っても今俺は知り合いとか誰もいない街に来てる…。
いつも通り親父におやすみって言って部屋で寝たはずなのに、目が覚めると空飛ぶドラゴンの背中に乗せられてた。いや、乗せられてたって言うより、括り付つけられてたって言う方が正しいな。頬っぺたにドラゴンのゴツゴツした背中が当たって痛かったけど、なんせ身動きが取れなかったから仕方なかった。しかも絶賛目隠し装備中!
…景色くらいは楽しみたかったな…。
ドラゴンが着地すると同乗者がいたらしく、俺を括りつけてたロープと目隠しを外してくれた。間近で見るドラゴンはちょっと恐かったけど大人しいやつでよかった。降りた所はごく普通の道で、早朝だからか歩いてる人は少なかった。そしてその名前も知らない同乗者は「確かに送り届けたゼ。お前は今からあそこに見える都市に行って此処を訪ねろ。」って言いながら地図の書かれた紙片をくれた。そして俺を置いて去って行った。
今の誰だったんだ…!と思ったけど、さっきの人の口振りからすると親父にでも頼まれたんだろうな。…たぶん。
初めて村の外に出たことで高揚してる気分を抑えて、俺はその都市へ向かった。
「そこの兄ちゃん、ちょっくら見てかないかぃ?」
「……。」
今日だけでもう23回目だ。今の目的は買い物じゃない。華麗にスルーしてやる。さっき街の入口近くで初めて声を掛けられたときは、立ち止まって返事したせいで、その後延々と口説かれた。…くそぅ。
商業都市アワ。
サード領の特産物が一手に集まるこの街は商品の売買で盛んな都市だ。商人で溢れかえるこの街には様々な食物や日用品が並び冒険者にとっても魔物の素材を売ったり、武具を買ったりするのに便利な街だ。…って、さっきのオバチャンが言ってた。
人混みを掻き分け、客引きの言葉に耳を塞ぎ、地図を見ながら目的の場所へ向かう。
その建物はアワの街の中心から少し入口よりの所にあった。
「よぉ坊主、見ない顔だな。何か用か?」
建物の入口をくぐり、辺りを見回していると右手のカウンター越しに額から顎にかけて大きな傷跡の残る体格のいい男が声をかけてきた。
「えーと、冒険者になりにきた!」
「おーそうか、歓迎するぞ。俺はここのギルドマスターだ、よろしくな。」
そう、ここは俺の一番の目的地である冒険者ギルドだ。元Sランクの冒険者だった親父みたいになるのが俺の昔からの夢だった。
だからやっと親父は冒険者になるのを認めてくれたんだと思うと嬉しかった。でも、いきなり見知らぬ土地に置き去りにするのはどうかと…親父らしいっちゃ親父らしいか…。「冒険者になるんなら冒険者ギルドに行け!この村には無いがな!ガハハハ」、こうするしかなかったのかもな。
「冒険者になりたいならあっちの受付にいるミーナんとこに行ってくれ。」
「あぁ、わかった。」
ギルドマスターの指差す方を見ると俺よりは2,3歳上か?というような女性と目が合う。
「あ、えとこちらはアワの冒険者ギルド受付です。冒険者登録ですね?」
受付の女性が慌てた様子でにこやかに対応してきた。結構な美人さんだ。流れるような金髪に透けるような肌、青く澄んだ瞳に吸い込まれそうだ。世の中にはこんなに綺麗な人がいるのかと思ったが、…まぁ思っただけだ。
「ああ、よろしく頼む。」
「えーっと、あ、そうだ、身分証はお持ちでしょうか?」
さっき家から拐われて来たとこだから俺はそんなもの持ってない。
数年前から全国で身分証の所持が義務付けられた。ファースト領とか王様が住んでるとこくらいになると、住民の全てが所持しているらしいが、田舎となると全く馴染んでいない。…ってのも、全部親父から聞いたことだ。親父によると身分証は商業ギルドや冒険者ギルドでも発行出来るようになっているらしい…。
「田舎の村から出てきたばかりだから、持ってない。」
「わかりました。身分証を所持していないので、えーっと、こちらの用紙に記入をお願いします。」
自分は田舎から出てきたことにして、名前、生年月日、出身地などを書いていく。
「…アーヴィング・ストルスくんね。私はミーナ。今は臨時で受付嬢だけど、いつもは冒険者してるの。だからちょっと手際が悪いのは勘弁してね。これからよろしく、アーヴィングくん。」
ミーナはそう言うと受付から握手を求めてくる。不意討ちだ。握手って気づくのにも少し時間がかかった。俺の住んでた村では握手とかしたこともされたこともないからタイミングが分からない…
「えっあ、ああ。昔からアルと呼ばれてる。気軽にアルと呼んでくれ。よろしく。」
「わかったわ。じゃあアルくん、手続きしてくるから椅子にでも掛けて待っててね。」
ミーナはにこやかな笑顔のまま受付の奥に用紙を持って行ってしまった。先輩冒険者なら仲良くしといた方がいい…多分。
空いてる椅子に腰かけ、ギルド内の様子を見渡す。受付はミーナ以外にも数人いて、みんな忙しそうだ。先輩となる他の冒険者は今はまばらだ。複数人で何やら言い合っている奴等、隅の方でイビキをかいて寝てる男、依頼書を眺めてる二人組…。年齢層は様々だか皆頑丈そうな装備に身を包んでいる。上が服一枚なのは俺くらいだ。お、あの人が着てる鎧かっこいい…。
数分後、ミーナが来た。
「アルくんの出身地って最近できたの?」
「ん?最近かどうか分からないが、俺は生まれてからずっとその村で育ったぞ?」
「えーおかしいな…。その村の名前が登録されてないのよねー…。すっごく僻地にあるの?」
「……んーと…ここよりは僻地だ。」
「そりゃこのアワと比べたら田舎なんて全部僻地よ。この村はフォース領にあるのよね?」
「多分…?」
その後なんやかんやと質問されたが、実はここまで竜に括り付けられて来たと言ったら「大人をからかっちゃ駄目よ。」と言われてしまった。
どうして信じてくれないんだ…。
結局俺の出身地はすっごく僻地にある地図に載らない村ということになった。
質問攻めの後、ミーナに連れられて俺は別室に来た。 ミーナは部屋に四つ設置されている石板の一つの前で、左側から何も書かれていない金属製のカードみたいなのを入れながら、説明を始めた。
「今からギルドカードを作ります 。この石板の上に手を置いて、名前を言うだけでいいんだけど……まあやってみれば分かるわ!」
「おい、適当だな…。」
苦笑いしながら手を伸ばす。ブンという音がして石板に青く模様が浮かび上がった。
「細かいことは気にしないの。それじゃあ名前をどーぞ。」
「…アーヴィング・ストルス。」
青い模様が消え、ビッっという音と共に次は右側からカードが吐き出された。ミーナがそれを取って間違いがないか確認してからまた隣の部屋に連いて来いと言う。
「えーと、終わりじゃないのか?」
「そうね…、まだまだかかると思っといた方が後でがっかりしないってくらい、時間がかかるわ。」
「……。」
次の部屋にはさっきとは違って4つの水晶が設置されていた。そのうちのひとつの前に座らされる。水晶が置いてある台座にもカードを入れる部分がある。
「それではアルくん。今から魔法の適性試験を始めるわ。覚悟してね!」
「お…おう。」
ミーナがウインクしながら言った。
「って言っても属性がわかるだけだから、試験って名前だけど不合格とか無いから安心してね。てことで、この水晶に手をかざして下さい。」
この世界には魔法がある。そしてこの世界の生き物は皆、属性を持っている。
人は魔石を使って魔法を発動させる。自分の属性に合った魔石を使うと威力が増したり疲れにくくなったりする。
一部のエルフだとか、ビーストだとかはそんな魔石とか無くても魔法が使えるんだ。…ってのも親父の受け売りだが。
俺自身村から出たことが初めてだからよく知らない。
兎に角、水晶に手をかざしてみる。
水晶はというと…黒いもやを出し始めた…。
小説を投稿するのって難しいんですよ。
ちょっと使いこなせてない感が否めないです…笑