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最果てのホライズン  作者: 椎名乃奈
第四章 やくそく
35/60

【035】


「相変わらず、困った顔が可愛い奴だな」


 その声は、透き通るようにスゥの耳に突き刺さった。


 しかし。


 振り返ったところでその声の主はいなかった。けれど、確かにその声はスゥの耳に聞こえていた。まるで、空から降って来るように――ハッとして、スゥは空を見上げた。そこには、箒に乗ったアンリエッタがいた。


「アンリエッタさんッ⁉」


「クロードに連絡をされて来てみれば、自分達を危険に晒したくない。かと言って、スゥも危険に晒したくない。動けない大人は、木偶より邪魔だな」


 いつものように、そう一つ毒を吐くと激しく咳き込んだ。


 クロードがアンリエッタを呼んだと言うことは、意識を取り戻したと言うことだった。取り敢えず、スゥはそれだけでも安心することが出来た。けれど、目の前にいるアンリエッタの咳き込み方は恐らく流行り病によるものに違い無かった。


「アンリエッタさん、もしかして――」


「なあ、スゥ。ちょっと、流行り病に毒されちゃってね。その生薬とやらは、人間の街まで取りに行かねばならんのだが、どうしてもって言うなら生薬を取りに行かせてやらんことも無いが、どうする?」


 アンリエッタはニヤリと笑みを浮かべた。


 それは。


 どんなに病に侵されようが、いつもと何ら変わらないアンリエッタがそこには居た。それだけで、スゥは落ち着きを取り戻すことが出来た。スゥは、一つ深呼吸をし、大きな声で返事を返す。


「行きます。行かせて下さいッ!」


「良い返事だ。準備が出来たらワタシの所へ来な。あと、病に侵されている者の中から、早急に治療する必要のある者をリストにして持って来な。完治こそ無理でも、進行を遅らせることは出来る。まだ、罹って日の浅い奴は看病に回れ。皆で手分けするんだ」


 アンリエッタの言葉で、大人達は活気が戻った。


 それは。


 自分が何をすべきかと言うことが明確となったおかげだろう。


 スゥは、アンリエッタを心から尊敬した。普段の印象とは違い、自分も病を患っていると言うのに街の危機に立ち上がるアンリエッタは、スゥの目に格好良く映った。


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