昭和恋愛物語
あたし、佐藤優子。
高校生になったばかり。
トレードマークの黄色のリボンで、毎朝ポニーテールにしてる。
残念ながら彼氏はいないけど、実は片思いしてるの。
相手は……きゃ!恥ずかしくて言えない!
ってこんなことしてる場合じゃなかった。遅刻しちゃう。
遅刻ぎりぎりに下駄箱に滑り込む。
「あれ……?」
靴箱に手紙が入ってる。
「なんだろう……?」
差出人は鈴木健二とある。
鈴木健二といえば……鈴木健二だ!
2度目の1年生だという、悪名高い不良さんだ。
「あたし何かしちゃったのかな……?」
あたしは首を傾げた。
鈴木さんは有名だし知ってるけど、鈴木さんはあたしのことなんて知らないはずだ。
入学したばかりだし、クラスも違う。
「きゃ!いっけない!遅刻しちゃうっ!」
我に帰って、慌てて教室に滑り込んだ。
危ない、危ない。
先生はまだ来てなかったし、手紙を開けてみる。
”昼休み、屋上に来い”
「一言だぁ……とりあえず行けば良いのよね」
屋上に行くのは初めてだ。
ドキドキしちゃう。
一応ノックして、扉を開ける。
錆ついていて開きにくい。
扉を開けると屋上にいた人の視線が集まった。
「ひぅっ」
こ、こわいっっ!
だって皆不良の人なんだもん!
眉毛ないし、髪の毛金色だし、リーゼントだし。
あのマスクの赤いばってんって、何か意味があるの??
鈴木さんが手で皆を制した。
「入れ」
「はい……」
うぅ、ドキドキするよぅ。
だって不良の人の近くに来たの、初めてなんだもん。
「佐藤優子」
「はいっ!」
思わずびくっとしてしまい、直立不動になる。
そんな様子を見ても、鈴木さんの態度は変わらない。
「俺のものになれ」
「はい喜んで!」
舎弟ってやつですね!
何であたしが選ばれたかはわからないけど、一生懸命頑張りますよ!
だってあたし……!
「何でもします!あ、ジュース買ってきましょうか?肩もみましょうか?」
鈴木さんのこと大好きだもん!きゃ、言っちゃった!
「……あ?」
あたしが鈴木さんを好きになったきっかけは、ある雨の日のこと。
雨の中、捨てられた子猫を抱いた鈴木さん。
『お前もひとりなのか。俺と同じだな……。一緒に、来るか……?』
だって!しびれちゃう!
元々、怖いけどかっこいい人だって思ってた。
ほら、すっごく真面目な人よりちょっとワルな人がかっこいいよね?
「伝わってませんぜ、番長……」
「…………………………………」
妄想で忙しかったあたしには、鈴木さんと舎弟さんの会話は聞こえていなかった。
うふ、うふふふふふ。
舎弟になってから4日目。
舎弟のお仕事って良い。
だって手作りのお弁当食べて貰えるんだもん。
他にも昼寝するから枕になれって膝枕だし!
舎弟になって良かった!
上機嫌で学校から帰る。
本当に浮かれてて、背後に忍び寄る影に気づかなかったんだ……。
◇
「大変です、番長!!」
「何だ騒々しい」
「これ、これっ!」
”女は預かった、返して欲しければ一人で埠頭2番倉庫まで来い”
そしてその証拠と言わんばかりに、優子の黄色いリボンが同封されていた。
鈴木は手紙をぐしゃりと握り潰した。
「優子……!」
◇
「鈴木さんは来ません」
あたしはこの人攫いに強い口調で言った。
だってパシリが捕まって1人で助けに来るなんてあるわけがない。
「来るさ」
「来ません」
「自分の女攫われて来ない男なんていないさ」
「女……?違いますよ、あたしはただのパシリです」
「はぁ?どこの世界に女のパシリがいるんだよ」
「ここに」
「…………」
何でそんな冷たい目で見られなきゃいけないのよ。
その時、倉庫の重い扉が開いた。
「来たな、鈴木……決着付けようじゃないか」
「ちっ」
鈴木さんの前にずらりと不良さんが並ぶ。
ひどい、卑怯だ!
鈴木さんは1人なのに!
どうしよう、このままじゃ鈴木さんがやられちゃう。
あたしが捕まってるばっかりに……!
落ち着くのよ、優子!
まずはここから逃げ出すの。
縄を解けば……ライターなんて持ってないし、どうしよう。
あ、ちょうどいいところに、釘があるわ。
これで何とかならないかしら?
釘を使い、ロープに切れ目を入れてみる。
やった!
ロープが古かったみたいで、少し力を入れるだけで簡単に切れてしまった。
不良さんたちに見つからないように、こそこそと逃げ出す。
「女が逃げたぞ!」
「優子っ!」
初めて名前で呼ばれてどきっとした。
こんな時なのに……。
「良かった、無事だな。早くここから逃げろ」
「そんな……そんなこと出来ない!」
こんな大勢いるのに、鈴木さん1人置いて逃げ出すなんて。
「言うことを聞けっ!」
強い口調に怯んでしまう。
だけど……ここで逃げたら女が廃るっ!
警官の娘をナメんなよっ!
◇◇
「怪我はないか」
「掠り傷です……」
「……無事で良かった」
夕日を背景に抱きしめられる。
厚い胸板が逞しく、心臓が跳ね上がる。
もうちょっと浸っていたいけど、言わなきゃいけないことがある。
「あの、面倒掛けてごめんなさい……」
「おー」
「怒ってないんですか?」
「おー」
「ゆ、許してくれるんですか?」
「おー」
「よかった……!じゃあこれからも舎弟でいて良いですか!?」
「おー……あ?」
「嬉しいです!私早く一人前のパシリになれるようにがんばります!」
「………………はぁ」
こうして、鈴木の苦難は続くのであった。
≪了≫
本当はスケバンデカのセリフ入れたかったんです……警官の娘はその名残ですね。
場面がころころ変わること、…が多いことが反省点です。
!の多様は仕様です。
ボス表記を番長に変更w鶏庭子様案です。