まだ、助かる?
短編です
まだだ、まだ大丈夫。そう思ってこの一年を過ごしてきた。友人にも、家族にも心配されたけど、「大丈夫」と笑って過ごしていた。過ごせていた。そう、過ごせていたんだ。
深夜二時、明日・・・、正確には今日の昼の会議に必要な資料を作成していて、視界がぼやけた。気がついたら病院のベッドだった。偶然にも後輩がいてくれて、救急車を呼んでくれたおかげで、すぐに病院に担ぎ込まれたらしい。
目を覚ましてすぐに、両親が駆け付けてきて、病院の掛布団が滲むほど泣きじゃくられた。遅れてきた友人には、今すぐ会社を辞めろと言われた。
両親と友人の圧を受けて、珍しく会社が俺に有休をくれた。でも入院している期間だけだなんて、けち臭いよなぁ。
病院で検査を受けると、体中のあちこちに病気がある事が解った。長年の無理がたたったらしい。今まで何の症状もなかったのが不思議なくらいだと医者に言われた。
診断を貰ってしまうと、会社からは、有休を取り消され、結局退職を迫られることになった。
荷物を持って来てくれた後輩からは「結果オーライですよ先輩、俺も今月中には辞めるつもりしてたんで」と耳打ちしてきた。
俺は無職になった。
退院したら、通院しつつ、病気の治療に時間を割くように言われ、金もほとんどなかった俺は、実家に帰ることにした。
両親は俺を暖かく迎え入れてくれた。なんだかんだで、両親と一緒に過ごす方が安心できる。
病気の回復の為、病院に行っていない間は、ウォーキングなどをするように勧められた。言われるがままに家の周辺を歩く。
俺がブラック企業で働いていた間に、家の周囲はかなり変わっていたようだ。子供の頃入り浸っていた駄菓子屋は、綺麗な一戸建てに変わっていた。スーパーとパチンコ屋の名前が変わっていたし、コンビニが増えた。
知っているはずの町の知らない変化が楽しくなって、俺はウォーキングにのめりこんでいった。
ある日は、家から二時間かかる風呂屋まで、地図アプリを見ながら歩き、一っ風呂浴びて、電車で帰ってきた。
またある日は、ネットで有名なとんかつ屋目指して二時間半の大冒険をした。
初めの頃は脚が痛んだけど、慣れてくると、足の違和感も出なくなるし、二時間かかっていた風呂屋まで一時間半で行けるほど歩く速度が上がっていた。
そのころには、俺の病気は回復していって、医者には驚かれたし、俺もびっくりしている。ソレに体重がガクンと減った。ストレスで高カロリー飯ばかりだった俺の生活が、病気を皮切りに大きく変わって行った。
まさかこんなサプライズが待っているなんて、人生はなんて素晴らしいんだろう。
「先輩・・・先輩!」
後輩の声で目を覚ますと、見慣れたブラック企業の机に体を預けて眠ってしまっていた。
「あれ、お前今月で辞めるんじゃ?」
「はぁ?何言ってるんですか?辞められるわけないじゃないですか・・・」
困った様な表情の後輩は、俺の机に資料を置いて先に帰ってしまった。
真っ白なままのエクセルを見つめて、夢だったことを実感した。
妙にリアルで妙に清々しい、変な夢だった。
ふと視線を下に動かすと、凹んでいたはずの腹が、机に食い込んでいた。
——ここから入れる保険、まだ有りますか?——
ワンチャン・・・?




