人生を無理矢理変えさせられた時 いらして下さい 天沼探偵事務所
彼は、胸ポケットの中からくしゃくしゃの煙草を出し
一本を口に咥える。
カキン ジャッ
手慣れた手つきでジッポに火をつけ、ゆっくりと煙草に
火をつけた。
ふぅ・・・。
お姉さん どこで俺の噂を聞いたか知らないけど
俺 殺しはしないから
「はい、知ってます。
ただ、どうしてもこのままなんて許せないから」
新宿、喧騒とした街中に立つ古いビルの一部屋。
そこに彼はいた。
ネットの中の都市伝説の様な人物。
でも、私は真剣に彼を探し、そして見つけた。
天沼探偵事務所。
そして、天沼 東次さんを。
私は、今まで抱えていた思いを全て彼に伝えた。
彼はただ、静かに話を聞いてくれている。
ふぅ・・・
彼はゆっくり吸い込んだ煙草を、窓に向けて吐く。
少しだけ開いた窓から、新宿の昼間の賑やかな音が
流れ込んで来る。
彼は、煙草を灰皿に押し付け窓を閉めた。
コイツがやった証拠 あるかい
彼は、私のスマホに映る男の顔を眺めながら
聞いてきた。
「はい。」
私はバックから、病院の中絶証明書、DNA鑑定書を
テーブルに出した。
ふーん
全て調べ済み か
彼はそれらの書類を眺めて、テーブルに戻し
立ち上がる。
身長は私よりずいぶん高い。細い身体付き。
洗ってるのかどうなのか、ボサボサな髪。
ヨレヨレな感じの白のシャツを腕まくりして
ボタンを二つ外して緩めた襟に、えんじ色の細い
ネクタイを雑に首に付けている。
同様にヨレた感じの黒のスーツパンツ。
黒い皮の靴もまた、くたびれていた。
彼は壁に掛けていたジャケットを取る。
その下にあった日本刀も手に取った。
途端に消える。
驚いた表情の私に彼は
報酬は成功報酬で200万 現金な
そう言って部屋の入り口まで歩き、扉を開いて
私を送り出す様に、手を扉の外に差し出した。
ーーーーー
曽根崎 玲央 大学生か
今時フェンダーミラーの古いトレノから眺める。
大学から出てきたその男は、女の子を二人連れて
正門から出てきた。
親が不動産屋の社長してるボンボン。
何不自由無く暮らしてるんだから そのまま何不自由
無く生きられないもんかねぇ
灰皿に潰したシケモクに火をつけ咥える。
ま 仕事だしな
その時まで 大事に使ってやりな
煙草の煙を外に吹き、再び灰皿に押し付けた。
しばらく、観察の日が続く。2週間程過ぎた週末。
今の時刻、23時過ぎ。
自宅から黒のワンボックス車で出かける様だ。
ゆっくりと後をついて行く。
コンビニで友人二人と合流。そのまま近くの繁華街に
向かった。繁華街の一本裏の道に路駐。
繁華街とはいえ、一本裏に入れば薄暗い。
そのまま30分程停まる。一人の若い女性が
ワンボックスの脇を通ろうとしたその時
スライドドアを一気に開け
バチィ!
スタンガンの音。
三人がかりで女性を抱え込み車に引き込む。
扉を閉めて走り出した。
クロ か
手慣れたもんだな
指に挟んでいた煙草を咥えて、そのまま車に
ついて行く。
ワンボックス車はしばらく走り、繁華街から離れて
工場地帯まで走り、倉庫の前に着いた。
一人が車から降りてシャッターを開け、車を中に
入れる。再びシャッターを閉めた。
ふぅー
煙を肺の奥まで吸い込み、ゆっくり吐く。
灰皿に煙草を押し付け
行くか
シャッターの前に立つ。
同時に女性の叫び声が中から聞こえた。
周りは同様に倉庫。この時間、声は誰にも届かない。
「いやー!!やめて!お願い!」
「うるせー!暴れんな!ここまで来てやめるわけ
ねーだろーが!」
気絶しているうちにベッドに括られた両足。
両手は手首で縛られてベッドに括られている。
一人がカメラを回し、一人が洋服を引きちぎって
剥がした。
「いやーーー!!助けてーーー!!」
女性の叫び声が響く。
こんな所に誰も来ねーよと言う男の声と同時
ガラガラガラ
こういう事を致す時にしては 不用心だなぁ
シャッターの鍵もかけずに始めるなんて
驚きこちらを振り向く男三人。
ガラガラガラ、ガシャン。
シャッターを閉めた。
「何で鍵締めてねーんだよ!」
「誰か来るなんて思わなかったんだよ!
一度も無かったろうが!」
「まーいいじゃん。誰だか知らねーけど、見た限り
警察じゃ無さそうだしな。
俺、男を縛り付けてボコボコにもして
みたかったんだよ。」
カメラを持っていた玲央がカメラを置き、ニヤつく顔で
スタンガンを持った。
三人が顔を見合わせて汚く笑う。
どうやら標的は俺に変わった様だ。
「何にも持たねーで一人で来るなんてな。
大したヒーロー様だなー!」
ゲラゲラと笑う男三人。
スタンガンを持つ玲央がこちらに近づく。
バチバチ音を立てて威嚇しながら。
くくっ
かわいいもんだな
こちらの言葉と余裕の顔にイラッとしたらしい。
「余裕ぶっこいてんじゃねーよ!おっさんが!」
叫び走り出した。
左手を横に伸ばす。
空間から刀を出した。
抜刀
軽く腰を落とし、左手で腰に持った位置から
右手で居合い抜き。
抜き出された刀身は、薄く紫の光を纏いながら
斜め上に流れる。
ガシュ!
スタンガンを切り落とした。
流れる様に刀身を鞘に戻す。
は?
半分に切り落とされたスタンガンを眺め、何が
起きたのか分からないという顔の玲央。
「な、何で日本刀なんか。
それより!そんなもんどこから出した!」
カツーン!
刀の鞘で玲央の額を小突く。
「いってー!」
と、もがきながら後ろに転がる様に二人の所まで
下がった。
お前らが 質問出来る側ではないんだよ
胸ポケに入れた原型を留めない煙草の箱を出し
一本を口に咥える。
胸に仕舞い、スーツパンツの前ポケットから
ジッポを出し
カキン!
ジッ
手慣れた手つきで火をつける。
咥えている煙草に火をつけ、深く吸い込んだ。
ふうー
人差し指と親指で煙草をつまんで持ち、煙を
人の居ない方に吐いた。
ある人の依頼で お前らのな 人生を変えに来た
「は?何言ってやがんだ!
ふざけんな!何でテメェなんかの」
カツーン!
鞘でもう一度同じ位置を小突く。
「うがー!いてー!」
玲央がのたうち回った。
分からない奴だな
お前らは 意見出来る側ではないんだよ
手にしていた煙草を咥える。
抜刀
カキッ シュラ
刀身は薄ぼんやりと紫色を放つ。
「こ、殺す気か?!
こ、こんな所で殺せばお前だってただじゃ済まないぞ!
俺の親父が絶対にお前を許さないからな!」
ピュン!!
男の前髪と額が、少しだけ刀身に抉られる。
「うがっ!」
明らかに抉られた感触!
玲央は咄嗟に手で額を押さえた。
のたうつ姿に後ろの二人は
「ひっ!」
後退り逃げ出そうとする。
うーごーくーなー 聞き分けの無い連中だなぁ
そこから一歩でも動いてみろ コイツみたいに 余計な
とこまで斬られる羽目になるぞ
男二人は
「ひっ!」
と、足を止める。
「お、俺は玲央に頼まれてやっただけなんだ!
助けてくれよ!」
「お!俺もだよ!
玲央に無理矢理やらされただけなんだって!」
「お前らー!きたねーぞ!」
ピュン!
ビクッと、三人が口を止めた。
キン!
小気味良い音を立てて、刀を鞘に納めた。
咥えていた煙草を、ポケットに入れていた携帯灰皿で
消して押し込む。
お前らの御託に 俺が付き合うと思ってるのか?
一つだけ教えてやる 俺はお前らの人生を変えに来た 殺しは頼まれてない
鞘で転がってる玲央の額を指した。
手をどけろ
「でも!」
反論しようとする玲央に向けて、再び鞘で突く姿勢を
取った。
「わか!分かったから!」
そっと手を退かす、が血は一滴も出ていない。
二人の男はギョッとした目で玲央を見る。
「な、何だよ!」
「ひ、額が、凹んでいる。」
ああ?と額を指で触れる。
痛みは無い、が、額が、刀が通過した形で明確に
抉れている。
この刀は 紫雪 と言ってな 妖刀だ
左手の刀を軽く持ち上げて見せる。
こいつは人を斬るとな 斬った先から治す
スッと鞘で玲央の額を指す。
つまり 斬られた先から修復されて その形になった
これで 腕を斬るとどうなる
「・・・血も出ずに、腕が、無くなる。」
御名答だ 腕や足を落とせば死ぬ可能性がある が
紫雪に斬られてもそれは無い
厳密に言うとな 元々無かったかの様に修復される
それによって 手術で再びつける事も出来ない
これで お前らの人生を変える
ゆっくり近づく。後ろの二人も腰が砕けてへたり込む。
完全に戦意喪失の三人に向けて
抜刀
ゆっくり刀を鞘から抜いた。薄く紫に輝く刀身。
「こ、こんなのってあるか!
いくらなんだって女襲っただけで腕無くすとか!
ふざけんな!」
叫ぶ玲央に刀身を向け
人の人生を 自分らの欲望で勝手に塗り替える様な奴が
自分の人生を 誰かに勝手に塗り替えられても 怒れる
道理はないよな
「う、くっ」
ガバッと立ち上がり逃げ出す様に走り出す玲央。
「玲央!一人で逃げるとかふざけんな!」
立ち上がろうとした二人に向け
ピ、ピュウ!
「ひ!」
それぞれに一閃。そのまま玲央に向かう。
あ、あれ?腕も足も、動く。か、空振り?
やった!
顔を見合わせて喜ぶ二人が勢いよく立ち上がる。
シャッターに向けて走り出そうとした、その時
ズルリ
ボタッ
服と、男根が、床へと落ちた。
そこに落ちている自分のモノを見つめ、自分達の
股間へ手を伸ばすと、綺麗につるりと
マネキンの様に何も無くなっていた。
へたり込む二人。
玲央はベッドの向こう側に行き、ロープを切るための
ハサミを手に取り、女性の首に当てる。
「お、俺に何かしてみろ!コイツを殺すぞ!」
はぁ
東次は深くため息を吐いた。
キン
刀を鞘に納めて、慣れた手つきで煙草を吸う。
俺はな 依頼で来たんだ この女性を守る為に
来た訳じゃない お前はナニも無くなり 罪も増える
ただそれだけだ 好きにしろ
「う、うう、うわぁー!」
ハサミを手に持ち向かってくる玲央。
煙草を咥えたままボソリと
抜刀
居合いで抜かれた刀は、斜め上に薄く紫の線を描き
ハサミを断絶。そのまま流れる様に下に行き
フシュ!!
ボタッ
玲央の男根を切り落とした。
ーーーーー
本当に あれで良かったのかい
新宿の事務所。依頼主の女性が目の前に座る。
「ありがとうございます。
良いんです。報告書を読ませて頂いて、とても
スッキリしちゃいました!」
笑顔で話す依頼主。
「これでまた、新しい人生を進めそうです。
本当にありがとうございました。」
お金を置き、出口で深く頭を下げて出て行く依頼主。
窓を少し開けて、窓の外の喧騒を聴きながら
胸ポケから煙草を出した。




