迷い子と女の子
「ん……ここは……」
たった今ベッドから目を覚ました少女の第一声。
「目が覚めたか」
その少女の声に、一人の女性が反応した。
「アオ兄、目が覚めたよ!」
「ああ」
アオとルリも少女が目を覚ましたことに気が付いた。
少女の目には一人の青年、一人の小さな女の子。そしてもう一人。神々しいオーラを纏い、一際存在感を放つ女性が映っていた。
クリーム色の長い髪に紫の目。顔は精巧に作られた人形のように整っている。
「調子はどうだ?」
女性は少女に尋ねた。
「調子……。そうだ、私お腹が空いて倒れたんだった」
布団に包まれていた少女は上半身を起こす。
「あれ?」
少女は気になることがあった。
服装がいつの間にか制服に変わっていた。着替えた覚えはない。
「貴様が寝ている間に服を変えさせてもらった」
少女の考えていることはお見通しだといわんばかりに女性が答える。
少女はまだ状況が読み込めていない。ふと、近くにいたアオと目が合った。
アオは両手の平を前に出し、左右に振りながら
「い、いや、君が着替えさせられているときは部屋から出ていたから大丈夫。見てないから安心してくれ」
全力で否定した。もちろん本当に見ていないのだが疑われぬよう強く否定する必要があった。
しかし、大袈裟過ぎたのか「逆に怪しい」という目でルリには見られた。
そんなアオの言い分をお構いなくといった感じで跳ね除け、女性は続ける。
「その服は我からのプレゼントだ。普段から着るといい。もっとも、その服を着ることは強制であり、校則で決まっているがな」
制服を着ているのは少女だけでなく、アオやルリも着用していた。
女性の方はと言うと、制服を着用していなく全身青のドレスで身を包んでいた。ドレスには装飾品は付いていないがキラキラと輝きを纏っており、青のドレスも相まって星々が散りばめられた宇宙にも見える。
そんな全身オーラまみれの女性が一言。
「そういえば名乗っていなかったな。我の名はアステリア。この学校の校長……それと、この世界の神だ。よろしく」
「俺はアオ。えっと……よろしく」
「私はルリ! よろしくね!」
何が何だか分からないといった感じの少女だが、ひとまず三人の名前を把握する。そして次は自分の番だと口を開く。
「名前はシロ……。 …………………………あれ? 私……」
「名前以外何も覚えてないんだろ」
「え?」
「この世界に来たものは皆そうだ。記憶を失っている」
シロは理解する。確かに記憶がない。頭の中の引き出しが空っぽで、何も開示できる情報がない。
しかしさっきから気になる単語がちらほらあった。
「さっきから言ってる世界ってどういうこと?それに、神とか校長とか……この制服だって……」
「待て」
アステリアはシロの質問攻めを一言で制止する。
「そこから先はこいつに聞いてくれ。我は答えるのが面倒だ」
そう言って、アステリアはアオの首根っこを掴み、シロが座っているベッドに投げ飛ばした。
「俺の扱い雑だなぁ神様よ。……まあいい。えっと、シロだっけ?ひとまずウチ来るか?」
「この状況でナンパとは……きついな」
アステリアは蔑んだ目でアオを見ている。
「ちげぇよ、ルリも来るんだし二人きりじゃない。どうせここで話すのは駄目なんだろ?」
「ああ、我は今から寝るからな。早く出て行ってほしいところだ」
傍若無人なアステリアにアオは思わずため息が出る。
「はぁ……ってことらしい。場所を変えて話す」
「りょ、りょうかい!!」
シロは戸惑いながらも元気よく敬礼した。
アオ、ルリ、シロの三人はアオの部屋に着いた。
アオ達がいる場所は学校の敷地内。グラウンドの端に部室棟があり、生活できるようにアパートに改造されている。アオはその内の一室に住んでいた。
部屋に戻るなり疲れた顔をしているアオに、シロは声を掛けた。
「アオ、物凄く疲れてる」
「あいつと会うと疲れる」
「アオ兄、あいつ呼びはダメだよ」
ルリはすかさず注意する。
「いいんだよ、あいつで。それより飯にするか。シロ、こっちに来てからまだ何も食べてないだろ?」
「うん。もうお腹ペコペコだよぉぉ」
「待ってねシロちゃん。今からつくるから」
三人は食べ終わる。
「それじゃあ話すか。今から一週間ぐらい前の話になる……」
アオは話し始めた。