迷い子と買い物
「これで全部か」
青年は持っていたリュックのファスナーを閉め始めた。
「待って、これも」
少女は手に持っていたピーマンをリュックに入れようとする。
それを察知した青年は、まだ閉まり切っていないリュックの穴を右手で塞ぎ、阻止する態勢に入った。
「ルリ、俺がピーマン嫌いなことを知ってて入れようとしているのか」
「アオ兄、好き嫌いは駄目」
ルリと呼ばれた少女はリュックの僅かな穴から無理やりピーマンを突っ込む。
「はぁ……まあいいや」
アオ兄、もといアオはファスナーを完全に閉め、持っていたリュックを背負う。
「戻るか」
「うん!」
二人は店を後にする。
外に出ると空は真っ暗。
一直線に整備された道があるが他には何もない。辺りをほんのり照らしてくれている街頭が道の両脇に等間隔で置かれているぐらい。
道から逸れると街頭もない緑一色の森が一面に広がっている。
アオ達がいた場所は周りを見渡せば食料品だらけで所謂スーパーとなんら変わりない。
しかしスーパーと大きく違うところが……
「そういえば、あのお店はどうして全部の商品がタダなんだろ?」
ルリはふと思ったことをアオに問いかけた。
「さあ。店員もいなければレジもないし、そもそもお金の概念があるのかこの世界……」
「それに、取っても取ってもお店の品がなくならないよね。今度神様に聞いてみようかな」
「あの不愛想な神が態々そんなことを教えてくれるのかぁ」
「こら、アオ兄。神様に失礼だよ!」
ルリは犬にしつけをする飼い主のようにアオを注意する。
ルリに怒られたアオだが悪い気はしなかった。
アオもまた、犬を可愛がる飼い主のようにルリの頭を撫でた。
「もう、アオ兄! 撫でて誤魔化そうとしない!」
おさげにしている紺色の髪を揺らしながら、ルリはぷりぷりと怒っている。
それを見たアオは軽く微笑む。
そうやって二人で話しながら歩いていると、道の脇にある草むらからガサガサと音がした。
「アオ兄!」
驚いたルリは咄嗟にアオの方を見た。
「ルリ、俺の後ろにいろ」
アオは冷静にルリを自身の後ろへと誘導する。
「この世界に動物なんているのか? けど森へ入ったことは一度もないからもしかしたら……」
アオが推察しようとする間に、草むらから両手だけが姿を見せた。
「ヒッ……」
ルリは恐怖心からアオの服の裾を掴む。
よく見ると人間の両手で、ソレはどんどん前へ近づいていき、やがて腕が……やがて顔と全身が姿を現した。
ゾンビのような歩き方をしていたソレはの正体は少女だった。
暗闇でもはっきりと見える宝石のような輝きを放つ赤い眼。満月の光でさえ反射しそうな白く長い髪。
顔も整っておりまさに美少女。落ち着いた雰囲気で綺麗な美人というよりは、幼さが残っている可愛らしい少女といった感じだ。
「うぅぅぅぅぅ…………」
唸り声をを上げた少女はのっそりとアオ達のいる方へ近づいていく。
容姿以外は謎に包まれた少女を前にアオは嫌な汗をかく。
やがて目の前までやってきた少女は一言。
「おなか……すいた……」
バタッ!
少女はその場で倒れた。