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eternal charm  作者: みゃう
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トワの魔力

「トワ様、記憶が戻ったのですね!」


ミアは花が咲いたように笑顔になり、感極まって涙ぐんだ。


「ええ」


トワは前のような優しさを湛えた笑顔で答えた。


「よかった…」


セレンはトワの手をとり、胸に抱いた。普段はあまり感情を表に出さないセレンもこの時ばかりは涙が頬を伝った。


「まさかペンダントを奪われてこんなことになるなんて」


トワは落ち着いた声で喋ったが、内心驚いているようだ。胸の辺りでペンダントを握るような仕草をした。


「トワ、魔力は戻ったのか?」


セレンは期待半分、不安半分で聞いた。トワは少し躊躇ったが顔を曇らせて首を横に振った。後者が的中したようだ。


「魔力は戻ってない」


トワは魔力砲を放とうとしたが、何も起こらなかった。かなり落ち込んでいるようで顔を歪ませた。セレンとミアは心配そうな眼差しでトワを見ていたが、どう声をかけてよいかわからなかった。


「ペンダントを奪われたからだと思う」


トワはいたって冷静に言ったが、セレンとミアは驚きを隠せなかった。セレンは王族の大人たちからトワのペンダントのことを知っていたが、彼らは本人には知らせていないと言っていた。トワはもともと魔法に関する知識がほとんどなく、直感型の魔法使いだから余計なことは知らせない方がよいと考えたのだろう。


「どうしてそれを」


セレンは思わず聞いた。ミアはトワがペンダントのことを知らないことに驚き、不思議がっていた。


「夢で見た」


トワはなぜかミアの方を見て言った。ミアはトワに見つめられた理由がわからず不思議そうにトワを見つめ返した。


「ミア、何かしたのか?」


セレンはいまいち状況を掴めず不思議がっていた。ミアは少し考えていたが、すぐに思い当たることがあっようだ。


「透視魔法を使おうとしました。使えませんでしたが」


ミアはトワに教えてもらった魔法を使えなかったことを気に揉んでいるのか俯き加減で言った。それを聞いたトワは納得したように大きく頷いた。ミアとセレンはきょとんとした様子でトワを見ていた。


「夢でミアのことを思い出して、ミアの力を感じた。きっとミアが魔法を使おうとしたからだと思う」


トワによるとミアは使おうとした魔法は使えなかったが、魔力の源である水の近くにいて、トワのことを強く思っていたから水の精霊がミアの放った魔力をトワに届けトワに夢を見せたという。


それを聞いたミアは驚愕したがそれ以上に自分の力がトワの役に立ったということがたまらなく嬉しかった。


「トワ様、ペンダントを取り戻しに行きましょう!」


興奮気味のミアが意気込んで言った。セレンもそれに同意するように頷いた。


「待って」


二人の高揚とは対照的にトワは気の進まない顔をしていた。


「夢で学院に魔憑きが現れたときのことを思い出して、魔憑きは私の魔法に反応したんじゃないかと思った」


トワは恐る恐るといった様子で言った。トワの言葉を聞いたセレンとミアに衝撃が走った。トワの魔法に魔憑きが反応するということがどういうことなのか全く理解できなかった。


「私も詳しいことはわからない。けれど…」


トワは先ほどよりも俯き、険しい表情をしていた。冷たい空気がトワの部屋を支配した。


「それなら尚更ペンダントを取り戻した方がいい」


セレンは冷たい空気を切り裂くように勢いよく言った。


「トワのペンダントには何か秘密が隠されているかもしれない。取り戻して調べる必要がある」


セレンのきっぱりとした物言いにトワとミアは圧倒されたが、セレンの気概を感じ取り首を大きく縦に振った。


「ならば自力で魔法を使えるようにしなければ」


トワは熱い決意を固め、強い目を宿して言った。







「はぁ、はぁ、はぁ」


トワは肩で息をし思わずその場に座り込んだ。まずは魔力を蓄えるためにひたすら魔力砲を放つ練習をしたが、トワはくたくたになっていた。以前のトワなら魔力砲だけなら何日も放ち続けられたはずだ。


「こんなに疲れるなんて」


トワはペンダントが奪われたことによる魔力の消失がどれほど激しいかを身をもって思い知った。今までは高等魔法でさえ魔力の消耗による疲れを感じなかったが、今は最も基礎の魔力砲を放ち続けることでさえ疲弊していた。


側でトワの練習をずっと見ていたセレンとミアはひどく驚いていた。高等魔法も難なく使いこなすトワが魔力砲だけで疲弊しているというのはあまりに奇妙な光景だった。


「初めて魔法が難しいと思った」


トワは悲しそうに言った。魔法の記憶は戻っても魔力が戻っていないというこの状況はトワには耐え難いほど辛いのかもしれない。セレンとミアは落ち込むトワを何とか元気づけたいと思った。


「トワ様、休憩にしましょう」


ミアは努めて明るく言った。トワはミアの気遣いに微笑み、三人はその場を後にした。







王宮の中庭に着いた途端、トワは草の上に寝転がった。中庭は一面草で覆われていて、中央には泉があった。


セレンとミアもトワに続いて草の上に寝転がった。吹き注ぐ風はトワの疲れを癒した。こうして風に吹かれていると魔力を失った悲しみが和らいでくる。


「私の魔力が強いのはペンダントのおかげだったみたい」


ふいにトワが呟いた。トワは自分の魔力が自分自身の能力ではないことに落胆していた。魔力が強いことが自分のアイデンティティだったトワにとって、魔力を失うということはアイデンティティを失うことと同義だった。


セレンとミアは何と言ってよいかわからず黙っていたが、ふいにミアが口を開いた。


「トワ様は私が"メガロフィイア"になったとき、王族でも貴族でもない私に温かに接してくださいました。それがトワ様の本質です。魔力がなくてもトワ様はトワ様です」


ミアは突然がばっと身体を起こして熱のこもった口調で言った。いつになく真剣な眼差しでトワを見ていた。


ミアの突然の発言にセレンは度肝を抜かれたが、すぐにミアの言う通りだという風に微笑んだ。ミアの言葉を心に受けたトワはしばらく流れゆく空を眺めていたが、やがて優しく微笑み胸に手を当てた。


「本当だ。私は私。魔力があってもなくても」


トワは確信をもった様子で言った。髪が風になびき、まっすぐに前を見つめるトワの横顔は真の強さを湛えたかっこよさがあった。その様子を見たセレンとミアはトワが自分を取り戻したことを悟り、深い喜びと安堵を覚えた。


「練習再開」


心に光を取り戻し落胆の色を払拭したトワは魔法の練習に意気込んだ。


「軽い」


再び魔力砲を放ったトワが驚いた様子で言った。先ほどまでの必死さは微塵も感じられず、以前のように軽々と魔力砲を放った。トワの表情が緩み、みるみるうちに喜びで満たされていった。


手応えを感じたトワは手に魔力を込め意識を集中させた。トワの周りの空気が揺らぎ、色を帯び始め、目の前に夜闇に輝く星々が現れた。


「幻影魔法?!」


セレンとミアは驚きを隠せなかった。魔力砲だけで疲れ果てていたトワが幻影魔法、つまり高等魔法を成功させたのだ。これにはトワ自身も驚嘆していた。


「トワ様!」


久しぶりにトワの美しい魔法を見たからかミアは興奮気味に嬉々とした声を出した。セレンもトワの魔法が戻ってきたことに大きな喜びを感じていた。トワはペンダントがなくても魔法を使えたことに自分の可能性を感じていた。

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