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eternal charm  作者: みゃう
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トワとペンダント

「トワ!」


「トワ様!」


セレンとミアは泉から校舎の方に向かって走っていった。"恵の水"によって呪いから解放され正常な意識を取り戻した二人は、トワがどうなったのか知らないことに気づいた。頭がぼんやりしていた状態だった時は全く意識の内になかったが、"恵の水"に触れた途端、トワの苦しそうな姿が浮かび、急いで戻ってきた。


二人が校舎前の広場に着いた頃には、一部の院生や教師が自力で意識を取り戻し、まだ気を失っている院生の治療にあたっていた。広場は先ほどの静けさが嘘のように人の声が響き、人々は忙しなく動いていた。二人は辺りを見回しトワを探した。


「トワ様!」


先にトワを見つけたミアはトワに向かって走っていった。セレンもミアの後に続いた。トワは魔物がいた辺りで倒れていた。


「トワ!大丈夫か?」


セレンが心配そうにトワに呼びかけた。しかし、トワは声を発するどころかぴくりとも動かなかった。セレンとミアの胸の内に不安が広がった。


「セレン様、トワ様をあの泉まで運びましょう!」


ミアは不安をかき消すように早口で言った。





泉に着いてすぐに二人はトワに"恵の水"を与えた。"恵の水"はトワの身体に沁み込んだが、トワは先ほどと同じように何の反応も示さなかった。


「セレン様!どうしましょう!」


ミアは悲鳴のような声で言った。身体は小刻みに震え、今にも泣き出しそうだった。セレンは違和感を感じているようで何か考えながら眠り続けるトワをじっと見つめていた。何かが足りないような気がする。トワの身体のつま先から頭まで目を移すと、胸の辺りで視線を捕えられた。


「ペンダントがない!」


セレンはひどく驚いた様子で目を丸くしていた。セレンが感じた違和感はこれだった。トワはセレンが知っている限りずっと鍵の形のペンダントを肌身離さず身につけていた。それが、ないのだ。セレンは思わず辺りを見回したが、当然ペンダントは見つからなかった。


「広場でしょうか?」


ミアはいてもたってもいられないという様子でセレンに尋ねた。セレンはしばらく考えていたが、やがて首を横に振った。


「…魔物に奪われた」


セレンは遠くを見つめて呟いた。意識が朦朧としていたのではっきりとは思い出せないが、トワが聞いたこともないような悲痛な声を上げ、魔物に捕まり、最後の力を振り絞ってペンダントに魔力を込めた。しかし、トワの力もあの巨大な魔物には通用せず魔物の叫び声にかき消され、魔物がトワのペンダントを掴んだのを見た気がした。ペンダントを奪われたであろう瞬間のトワの魂が抜けたような目が思い出され、セレンは身震いするのを感じた。


「とにかく、トワを王宮に運ぼう」





「ペンダントとトワ様はどのような関係があるのですか?」


王宮に着いて、トワをベッドに横たわらせて開口一番、ミアはセレンに尋ねた。セレンは少し迷っていたがベッドの脇の椅子に腰を据え、心を決めた様子で目を閉じ、重い口を開いた。


「ペンダントはトワの魔力の源だ。それを奪われた今のトワにはほとんど魔力がない」


ミアは瞠目した。トワが魔法を使えないということがミアには想像できなかった。魔法とトワはあまりにも強く結びついていた。


「我々魔法使いは魔力を使いすぎると疲労を感じたり意識を失ったりする。強大な魔力の源であるペンダントを奪われたトワはショックで眠っているのだろう」


ミアは呆気にとられていた。トワの魔力の源がペンダントだということ。それを奪われたトワには魔法が使えないということ。ミアは頭で理解はできたが、実感は湧かなかった。


魔法使いは水や月など自然を魔力の源とする。だから、ミアは水源が近くにある時に、セレンは月が出ている時に魔力が強くなる。自分の魔力の源が近くにない時でも自身の内なる魔力によって魔法を使うことができる。しかし、トワの魔力はペンダントがすべて。ペンダントが奪われた今、トワに魔法は使えない。


「我が守ると言ったのに」


ミアの隣からセレンの苦しそうな悔しそうな声が聞こえた。見ると、セレンの目から一粒の涙がこぼれ落ち、やがてその流れは細い滝のようになった。震える手でトワの身体に触れ、眠り続けるトワの顔を見つめていた。


ミアはセレンがこのように感情をあらわにしているところを初めて見た。ミアが知っているセレンはいつも冷静沈着だった。セレンは今まで冷静を装っていたが、心を許せる者だけが周りにいる状況では、トワへの感情を抑えられなかった。


「セレン…」


セレンとミアの耳に聞き覚えのある、けれど聞いたこともないようなか細い声が触れた。


「トワ!」


「トワ様!」


二人が驚いてトワの顔を覗き込むと、まだ虚ろではあったがトワは目を開けていた。


「やっと気づいたか」


セレンは安堵し、肩の力がすーっと抜けていくのが分かった。眉毛が下がり、口角が上がった。


「セレン…」


トワはセレンの方に首を向け、セレンの名を呼んだ。しかしその声は氷のように冷たく、背筋がぞっとした。側で聞いていたミアは驚きを隠せなかった。いつか泉で見たトワのセレンへの熱い視線は微塵も感じられず、トワの目は生命が宿っているとは思えないほど無表情だった。


「トワ、魔力はどのくらい残っている?」


セレンはトワの氷のような目から視線を逸らして聞いた。トワの温かな眼差しをよく知っているセレンには今のトワの目はショックが大きすぎた。


「…魔力?なにそれ」


トワは不思議そうにセレンを見ていた。忘れているのではなく、魔力という言葉を生まれて初めて聞いたというふうな顔をしていた。


「覚えていないか?魔法を使うための力のことだ」


セレンは動揺していたが、トワが魔法のことを覚えていないはずがないと思っていた。トワの次の言葉に期待したが、その期待は見事に裏切られた。


「魔法?何のこと?」


トワは全く意味がわからないという様子で言った。セレンとミアは愕然とした。魔力の源であるペンダントを奪われたのだから、魔力が残っていないのは分かる。しかし、まさかトワが魔法を覚えていないとは夢にも思わなかった。


「トワ!何も覚えていないのか?王立魔法学院のことは?ミアのことは?」


トワは王立魔法学院と聞いて何か引っかかったようだが、すぐに鉄の仮面に戻ってしまった。


「トワ様。ミアです」


セレンの一歩後ろにいたミアが前に進み出た。ミアの声ははっきりしていたが、微かに震えていた。トワが自分のことを覚えていないことを危惧しているのだろう。不幸にもその予感は的中した。


「ミア…?」


魔力と聞いた時ほどではないが、やはりミアのことも覚えていないようだった。セレンとは王立魔法学院に入学するずっと前に出会っていたが、ミアとは学院で知り合ったため、うまく記憶に残らなかったのだろう。


トワは魔法だけでなく魔法に関する記憶も残っていないようだった。ミアは硬直していた。目に涙を溜め、今にもこぼれ落ちそうだった。あれほど慕っていたトワに忘れられたのだから無理もない。


「セレン様。トワ様をお願いします」


ミアは静かに告げ、横たわっているトワに背を向けた。表情は暗く沈み、俯いていた。ミアのことを覚えていないトワの側にいることはミアには耐えられなかった。


「トワ様…」


ミアは涙声で呟き、トワの部屋をあとにした。

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