98話 氷王の悩み
レイカに泊まっていって欲しいと言われ、レクステッド城に泊まって次の日…
「寝心地が半端じゃなかったな…」
レンは半透明のウォーターベッドのようなものに腰掛け、そう呟く。
「これも氷なのか?いや水か…相変わらずよく分からん技術だな」
コンッコンッ
「誰だ?」
『レン、起きていたか』
「カリンか、入っていいぞ〜」
ガチャ
「おはよう」
「ああ、どうした?」
「どうしたってお前、もう結構いい時間だぞ?レンこそどうしたんだ?」
「え?」
時計を出して確かめる。
「は?もう10時?」
「まぁ寝心地がいいからな、気持ちは分かるぞ」
「セイトは?」
「セイトは寝心地良すぎて逆に寝られなかったと言っていたよ、もう起きてる」
「意味分からん奴だな、寝心地良すぎれば寝れるのが普通だろ、まぁそこがセイトって感じだよな」
「ははっ、そうだな、レイカがご飯を食べてしまえと言っていたぞ」
「分かった、着替えて向かうと言っておいてくれ、レイカの部屋でいいんだよな?」
「ああ、こたつのある部屋だ、実はあたしも寝過ごしてな、先程起きたばかりなんだ、先行ってるから早く来い」
「へいへい、分かりましたよカリン女王様」
「うむ、よろしい」
バタン、タッタッタッ…
カリンもだいぶ罪悪感が消えてきたみたいでいい調子だな。
―――――
「ふぅ〜、食った食ったぁ〜、レイカ、お前すごいな、この世界でカツ丼が食えると思わなかったよ」
「ぬふふふ…拙者にかかればこんなものですぞ♪道具や料理などジャンルを問わず、作るということに関しては、地球にいた頃から得意だったのでござるよ」
「お前の名字に由来する何かか?」
「そのとーり!物造りが得意な家系だったのですぞ」
「造ねぇ、珍しい名字だよな、あ…」
だから通貨がクリなのかよ、なんで北はバレルなのにこいつだけ前世の名前なんだ?もしかして…
「レイカ、お前氷王レイスって自分で付けてないだろ」
「レン殿良くお分かりで!誰かが聞き間違ったか、適当に付けたのでござる〜、拙者納得いってないでござったよ〜」
「いや、そこは指摘して訂正しろよ」
「いやぁ、拙者こんな性格でござるからな、ちょっと対人恐怖症でござって…」
「うん、まぁしょうがないな、もう20年にもなるんだ、諦めろ」
「もうとっくに諦めてるでござる」
「さてどうするかなぁ、まだ鍛冶場は出来てないだろうし、東国に戻ってもやることないし、拠点も出来たし、2人のレベル上げも兼ねて、良さそうな素材でも探しに深層第2区でも行くか?」
「いいね〜それ、行こう!修行じゃ〜!」
「そうだな、そろそろあたし達もレベル上げてもいい頃だな」
「レベルね…」
サリーに聞こうと思ってたけど、こいつも何か知ってるかな?
「なぁレイカ、なんで地球人が転移してきて、レベルがあるんだ?」
「え?転移…で、ござるか?」
あ、ヤベぇ…やっちまった、まぁいいか、レイカなら大丈夫だろ、自力で洗脳も解いたんだし、ディアー討伐も騙されていた事を分かってるだろう。
「レイカ、俺達は鼻くそに転移させられて、無理矢理この世界に連れて来られたんだが、…お前達も、つまりはレイカ、レイ、マリーの3人も転移で連れてこられた可能性が高いんだよ」
「拙者達が…」
どうなる?
「うん、分かったでござる…この世界に来た時から拙者はこの姿のまま…なんとなく違和感を感じてはござったが、やはりそうであったか」
「レイカ…お前は凄いよ、普通だったら鬱になっていてもおかしくないと思う」
「それはレンちゃんもだけどね〜」
「うむ、2人とも尊敬するぞ、あたしだったらこんな世界に独りきりでは、とっくに精神を病んでいたか、死んでいたかもな…」
「ぬふふっ、拙者には物作りという大いなる趣m…使命がござるからな、退屈せずに済んだのでござるよ」
「趣味ってお前…まぁいい、役に立ってるのは間違いないんだ、立派な使命だよ」
「そうでござろう!ふっはっはー♪」
さすが引きこもりだな。
「それで、御三方は第2区に行かれると?それほどの実力でござるか?」
「主にレンちゃんがね」
「あたし達だけじゃ無理だな」
「レン殿…貴殿はいったい何者でござるか?」
そりゃそうなるよな…
「俺には…レベルが、無い」
「なんと!?それでなぜそれほどの力を?」
「それに関しては、多分だが鼻くそは関係ないと思うんだが、実は俺は…」
レイカに、この世界に来た経緯、鼻くそとファーニックの関係、どんな企みをしているか、などを昨日よりもより詳しく説明していく。
「むぅ…なるほど、拙者なんかとは比べ物にならぬ程過酷な道を歩んでおりますな、でもまぁ強さの秘密は分かり申した、同情したい所ですが、今はレベルですな」
「同情はいらん、別に俺は落ち込んでない、こいつらにも言ったが、今では良かったとすら思ってるんだよ」
「そうですな、恐らくその状況じゃなければ女神とやらにも会えなかったであろうし、今だに鼻くそ共の計画なんかも分からず仕舞い、そして拙者との出会いも無かったでござろうしな」
「ああ、普通にこの世界を楽しんで、いつの間にか鼻くその手のひらの上で転がされ、いつかは深層の魔物に食われる運命だったかもな」
「それでレベルなのでござるが、恐らくその管理人候補者?として神に選ばれたのが原因かもしれないでござるな」
「やっぱりそう思うよな」
「話の流れから、世界が拙者らにレベルを授けてるのでござろう、強くなって魔力を作れと」
「そうなるな」
「レン殿は神の加護なのか、それともレベルなんて無粋な物を授けなくとも、大量の魔力を作ってくれると、世界に認識されたのかもしれないでござる、さすがにこれは予測するしか無く、サーレック殿にも分からぬであろうな」
「まぁ、そんな所だよな、俺の考えと大体一致している、少し心の靄が晴れたよ」
「意外とレン殿は、口で言うほど気にしていないのでござろう?半分はどうでもいい事、でもなんとなく謎を知りたい、そんな所であろう」
「ははっ、お見通しか、ただ認識を共有する誰かが欲しかっただけかもしれんな、レイカと会えて良かったよ」
「そ、そんな、拙者など、ただの引きこもりで…」
「そんな事は無いよ、もう俺達は友達だ」
「そうだよ〜、たまに遊びに来るからね〜」
「うむ!あたしも末永く仲良くしてほしいな!」
「もちろんレイやマリーもいるぞ?」
「う、うぅ…マイ、ベストフレンズ…」
「なんでそこで英語なんだよ、そこは友よ、だろ」
「この喋り方も疲れるのでござる…」
「もうやめてしまえ」
「い、いや、もう少し…」
「恥ずかしがりやさんだな、まぁ自分のペースでいいよ、さて、じゃあ深層に行くか」
「そうだね〜、時間は有限だよ〜」
「セイトのくせに良いことを言うじゃないか」
「あ、またそういう事を姉ちゃんは!茶化さないでよもぅ!」
「…」
レイカがなんかもぞもぞしているな、分かりやすいな〜、目泳ぎすぎだろ、なんか言いたい事があるのか?
「…レ、レン殿!」
「ん?どうした?」
「拙者も連れて…いや、やっぱりやめておく、でござる…」
「いやバレバレだから、はぁ、素直に外に出たいと言え、恥ずかしがらなくてもいいだろ」
「だってぇ〜」
「だってもへったくれもあるか、じゃあ行くぞ、デビル・ディアーと戦ったんだ、それなりの強さなんだろ?」
「しかし、外は怖いでござる…」
「でも自分を変えたいんだろ?」
「そうなのでござるが…」
「ごちゃごちゃうるせぇ、なんかあったら俺が守ってやる、とにかく行くぞ、早く外行きの服でも作れ」
「りょ、了解したでござる!」
タッタッタッ、ガラララ…
「レンちゃんちょっと強引じゃない?」
「いいんだよ、ああやって無理矢理連れ出してくれる人を待ってたんだよあいつは、20年もな…」
「うむ、あたしも同じ意見だ、レンのような強引な殿方を待っていたのだろう」
「そうかぁ…人の心は複雑だね」
「おいカリン、殿方限定じゃないだろ、男でも女でもどちらでも良かったはずだ」
「まあ、それはそうなんだが、お前…気付かないのか?」
「分かってる、だが俺は常に自然体なんだ、別にレイカを落とそうなんて思ってないからな?勘違いするなよ?」
「守ってやる、なんてかっこいいこと言っておいてか?了解した時のレイカの嬉しそうな顔は…もう遅いと思うがな…」
「それ以上言うな…」
「2人ともどうしたの?」
「セイト…お前はそのまま主人公でいてくれ」
鈍感系のな…
「主人公?僕の時代が…来る!?」
ふふふ…黒歴史の幕開けだな。
すぐに調子づく楽観視の忍邪、果たして歴史に名を刻むことが出来るのであろうか、そしてレイカは…よりにもよって、人間不信で難攻不落のレンに恋をしてしまった、カリンは出来れば上手くいって欲しいと心の中でレイカを応援していた。