97話 陰キャのレイス
カリンとセイト、2人の力でドラゴンを倒し、新たな道が開かれた。
「あれ?水晶が出てこないよ〜?」
「本当だ、どうなっている?」
「もしかして…攻略したんじゃないか?」
「え!じゃあお宝ゲット!?」
「おい、なんでそうなる、目的が違うだろ」
「弟よ…少しはマシになったと思っていたのに…」
「い、いやぁ、テンション上がっちゃって〜、えへへへ…」
とりあえず進まないと分からないかと、3人は扉を開けて進んでみた…
「ここは…」
「また扉だな」
「お城に戻った感じだね〜」
目の前には20mほどの幅広い1本の通路、床、壁、天井全てが真っ白に凍りつき、冷気が充満している、その先には大きな両開きの扉があった。
ゴゴゴゴ…
ガチャ…
「レン様方!攻略おめでとうございます!」
「んん?ザルドか」
通路の脇に扉が出現してザルドが出てきた。
あれは何処にでも扉を繋げられるのか?執事権限ってやつかもな、そういう魔道具を持たされているんだろう。
「はい!先刻は失礼な対応をすみませんでした、まさか本当に攻略なさるとは!」
「いや、最後のドラゴンはなかなか強かったぞ、深層第1区の魔物より強かったと思う」
「なんと!深層で狩りの経験が!?」
「ああ、メインの狩り場が深層だからな、まぁ、狩りと言うよりサリーの鍛錬に使うんだけどな」
「それは素晴らしい実力をお持ちですね!」
まぁ、開拓者じゃない体は続けたほうが良いだろう、騙して悪いなザルドよ。
「それで、あの扉が?」
「はい、氷王レイス様の自室になります」
「へぇ、謁見の間じゃなくて、自室なんだな」
「この城には謁見の間はございません、レイス様とお会いする時は、お客様とレイス様だけで会う決まりとなっております、ただ…」
突然歯切れが悪くなるザルド。
「どうした?」
「手紙は渡したのですが、いい返事ではなかったのです、しかし!迷宮を攻略したなら話は別です、きっとお会いになってくださるでしょう、それではご武運を…」
タッタッタッ…ガチャ、バタン…
えっ?これどうすんの?
「レンちゃん、執事さん帰っちゃったよ?」
「どうするんだ?」
「う〜ん、とりあえず扉の前まで行ってみようぜ」
「そうだね〜」
「では行こう」
―――
「大きな扉だ…」
「何も反応ないね〜」
「いちおう両開きっぽくなってるから扉だとは思うんだけど…開くのか?無理矢理はやめておきたいし」
『は、入ってくだされ…』
「「「え?」」」
パキ…ゴリゴリゴリ…
突然通路中に声が響いて扉が勝手に開き始め、その先には…さらに普通の木の扉があった。
「とりあえず進もう」
「「了解」」
ガチャ…
え…なんか、中は地球でよく見る、平凡なアパートの部屋って感じなんだが?
「ここは…異世界だよな?」
「うむ、そのはずだ…」
「なんかほっこりするね〜」
部屋に入ると見慣れた造りの玄関、その先の床は1段高くなっており、ご丁寧にスリッパが3人分用意されていた、自然とレン達は靴を脱ぎ、用意されていたスリッパに履き替える。
ここはキッチンだな…普通の部屋なのに違和感しかねぇ…
キッチンからは扉が2つあり、どちらに入るか悩んでいると。
『む、向かって左の扉に入ってくだされ、拙者の部屋でござる…』
「「…」」
「ねぇレンちゃん…僕と同じ匂いがするのは気のせいかなぁ?」
「俺もそんな感じがする…」
「うむ、中学になったばかりのセイトと同じ口調だな、あの時は将来忍者になるとはしゃいでいてな」
「セイト…」
「姉ちゃん!バラさないでっ!」
「とにかく入ってみよう」
ガラララ…
扉は引き戸になっていて、中は6畳ほどのこじんまりとした部屋、水色の絨毯の上には、こたつと座布団、それ以外は何も無く、こたつの上には食べかけのフルーツと思われる何か、あとは機械の部品のようなものがちらほらと置いてある、そしてその前に仁王立ちをしてこちらを見つめている人物、目をギンギンに見開き、まさに必死といった表情である。
「は、はじめまして!拙者の作った迷宮を攻略せし者よ、よ、ようこそ我が城へ!せせ、拙者、ひょ、氷王レイス、と、申す者で、ござるぅ!!」
白の太いラインの入った緑色のジャージ、毛玉だらけで安っぽさが滲み出ている、上は大きめの黒Tシャツ、シャツの真ん中には白文字でデカデカと[不法入国者]と、縦に漢字で書いてある…
…
陰キャの匂いが…あ、氷王が泣きそう…髪は綺麗な黒髪ストレートで、顔はめっちゃ可愛いのに、オタク系女子なのか…ぐるぐる瓶底メガネでも掛けてたら最高だったが、残念ながら普通のメガネだ。
氷王レイスは左手を腰に置き、胸をそらし、右手を胸の上に置き、大声で自己紹介したのにも関わらず、3人から何も反応がないので目がうるうるしてきていた。
「…はじめまして、俺はレン」
「あたしはカリン」
「僕はセイトだよ〜」
「ほぅほぅ〜、3人とも黒髪とは…渡り人ですかな?」
レイス復活。
「そうだ、お前もだろ?勇者レイカ」
「「「!?」」」
え?なんでカリンとセイトまで驚いてんの?あれ…確かレイカの存在は知らなかったか、言い忘れてたな。
「な、なぜ…拙者の前世の名を…」
「お前、洗脳されてるんじゃなかったのかよ、されて無いだろ」
「拙者、元勇者故、その程度はなんて事ないのでござる」
「いや、でも初期の頃は洗脳されてて、変な魔道具作らされてただろ、俺達はこの世界に連れてこられたあと、その魔道具を使って色々されたんだが?」
「な、なんと!?そ、それは誠に申し訳ない事をしたでござる〜!」
流れるような素早い土下座だな、慣れてやがる…
「まぁいいよ、レイとマリーが心配…ていうか泣いてたぞ、お前は死んだと思ってるから」
「拙者も会いに行きたいのでござるが…」
「なんか動けない理由でもあるのか?もしかして、ルードか?」
「い、いえ、外に出たくないでござる…」
「おい、ニートかお前は…はぁ、でも普通で安心したよ、いや普通かどうかは分からんが、とにかく元気そうではあるな」
友達の心配より自分優先かよって思うけど、ニートってのはそんなもんだからな、あまり怒っちゃだめなんだ、それに俺も仕事を辞めていた期間はニートみたいな生活してたから、気持ちは分からないでもない。
「ははは〜、拙者、オープンニートでござるからな」
「なんだよオープンニートって、ニートなのかそうじゃないのか、どっちなんだよ…はぁ、それで?お前は引きこもって何をやってるんだ?」
「隣の部屋で物作りをしてますな」
「へぇ、まぁ予想通りっちゃ予想通りだな」
「見ていかれますかな?」
「そうだな、見学させてもらおうか」
「了承したでござる、ではついてきて下され」
ガラララ…
キッチンからの扉以外にあと2つの扉があり、その片方へと入ると…
「広っ!」
「なんだこれは…」
「レイカちゃん凄いねぇ、これは空間拡張の技術なの?」
およそ50㎡はありそうな大きな部屋、高い天井、床も壁も天井も全て金属で出来ていてとても近代的な作りだ、作業台のようなものがいくつも置いてあり、それぞれ作りかけの何かが置いてある。
「うむ!そうでござる!この部屋で毎日物作りに没頭して、打倒ルードを目指しているでござる」
なに?打倒だと?やはり気付いていたか、そりゃそうか、殺されそうになったんだもんな…
「レイカ…お前は同志だ!俺も打倒ルードにこの異世界人生を賭けている!」
「おお同志とな!?初めて会ったでござる!」
「出来れば仲良くして欲しい、今日は土産も持ってきた…これだ」
ズシーン
部屋がかなり広く、それなりにスペースがあったので、首なしデビル・コールドリザードを出す。
「ふぉぉぉ!こんなの見たの初めてでござる〜!凄いでござる〜!凄いでござる〜!」
「良かったらやるよ、お返しもいらない、ルードに有効な物でも作ってくれ、まだ欲しかったら、なんでも狩ってきてやるぞ?」
「レン殿!…拙者の本当の名は、造麗華!仲良くして欲しいでござる〜♪」
「もちろんだ、この2人もルードに恨みを持つ、元勇者の2人だ、仲良くしてしてやってくれ」
「よろしくね〜」
「よろしく頼む」
「うっ…陽キャの気配が…」
「おい、それは俺からは陰キャの気配がするって事か?」
「そうなりますな!」
「そう…か、じゃあしょうがないね!心当たりしか無いからねっ!」
「レイカ、改めてあたしは紫水花梨だ、よろしく♪大丈夫、こいつは弟の紫水聖斗、見た目は陽キャだが、中身はレイカに負けないほどの陰キャ野郎だからなっ!」
「いや姉ちゃん言い方!家族を紹介する時の言葉じゃないよ!間違ってないけどねっ!」
「う、うぅ…」
突然、両手で顔を覆い泣き出すレイカ…
「おい!どうしたんだ!?」
「た、楽しいでござる…こんなに楽しいのは久しぶりで…レイとマリを思い出してしまったでござるよ」
「いや、外出ろよ…まぁ無理か、そのうち連れてきてやるよ」
「ほ、本当でござるか!?」
「ああ、楽しみにしていろ」
「よろしく頼むでござる〜♪では皆様にはこれを…」
レイカが手の平を上に向けると、そこにシュッと腕輪、指輪、ネックレスが出現する。
「おお、収納か?凄いなレイカは」
「ふふんでござる〜」
「まぁ、俺も使えるけどな」
「なんと!?さすがは陰キャ仲間!」
いや、さっき蜥蜴を出したの見ただろうが…
「おい、陰キャは関係ないだろ、それでこれは?」
「この3つのうち、好きなデザインを選ぶでござる〜、これは城の入り口から、この部屋に直接来るための通行手形みたいな物でござるよ」
「相変わらず凄い技術だな、俺は腕輪をもらおうか」
「あたしは指輪で」
「じゃあ僕はネックレスで〜」
「あとはレイとマリーも腕輪でいいかな…俺とおそろいだと喜びそうだから」
「了解でござる〜」
「よし、顔合わせも済んだし、そろそろ行くか?」
「もう行くのでござるか?泊まっていってもいいのでござるよ?」
「確かに宿もチェックアウトしちゃったし、こいつらのレベル上げの拠点も欲しかったから、都合はいいんだけど、本当にいいのか?」
「全然いいでござるよ〜、では皆の分の寝室をちょちょっと作ってしまいますぞ」
「呆れるほどの力を持っているな、俺でも真似できなさそうだ、そりゃ鼻くそにも目をつけられるわな」
「鼻くそ?」
「ああ、ルードのコードネームだ、鼻くそルードな」
「鼻くそルード、最高でござるな」
「神も認めるコードネームだ、世界に認識されるほど広めてやろうぜ」
「それは傑作ですなっ!はははは♪」
その後はレイカの部屋のこたつに入り、この世界にきた経緯や、レンと鼻くそとファーニックの関係なんかを話した、レイカだけでなく、カリンとセイトも驚いていたが。
「今日はもう寝るか、あ、能力は返還しておいてな」
「レンちゃんはなんで能力の利息をもらわないの?」
「能力の数値が端数になるのが嫌だからだ」
「そうか〜、気持ちは分かる」
「皆にこれを差し上げるでござる、これで夜もぐっすりでござる〜」
「こ、これはっ!」
「いいの!?やったぁ!」
「なんか、懐かしいな、これが普通だったんだがな…」
いつの間に用意したのか、ジャージを手渡された、レンは黒一色、セイトのは黒に白の龍の絵が描いてある、カリンは薄紫色だ。
この短時間で人の好みがよく分かるな、人を良く観察している証拠だ、陰キャ特有かもな、仲良くなれそうで良かったよ。
皆それぞれ、新しく作られた寝室へ向かい、貰ったジャージを着て、その着心地に驚きつつ眠りにつくのであった。




