95話 氷の迷宮③
レクステッド城の門番に、列王からの紹介状を渡したレン。
「これは…確かに列王様の印で封緘されてますね、間違いなく本物でしょう」
「へぇ、分かるのか」
「城の門番ですからね、その辺りの教育は受けて…います…はい」
先程の自分の態度の悪さ、なのにそれなりの教育は受けているという矛盾に、自分が恥ずかしくなった門番であった。
「とりあえず案内を呼びますね、こちらはその者にお渡し下さい」
リ〜ン、リ〜ン…
これは、以前レイとマリーも使っていた魔道具だな、汎用品なのかな?売ってるのは見たことないけど。
ゴゴゴゴ…
グリフォンを倒した時と同じように、城入り口の横に扉が現れ、中から男が出てくる、姿勢よくこちらまで歩いてくると…
「ヴァルフ、こちらの方々は?客か?」
執事みたいな格好だ、なんか目線が失礼だな…
「は、はい、ザルド様…この方々は先程迷宮のバイオレットグリフォンを倒されまして…」
「何?誰が迷宮に入っていいと許可したんだ?」
「い、いやそれは…」
この門番、ヴァルフという名前なのか、で、この冷血執事がザルドか、少しヴァルフが可哀想だな、フォローしてやるか。
「いやぁすまないね、俺達がこいつの言う事を聞かないで、勝手に入っちゃったんだよ」
「ほう…それは困りますなぁお客人」
お客人とは失礼な言い方だな、様をつけろや。
「そうだったのか、入ってくれと言わんばかりに入口が開いていたのでな、迷惑掛けたな冷血執事のザルドさんよ」
「ははは、これは面白い事を言う、入口が空いていれば何処でも入ってもいいと?」
「育ちが悪いもんでな、世の中いい奴ばかりじゃないぞ?入られて都合が悪いなら、入口を閉じておくんだな」
「いえいえ、都合が悪い事などございませんよ、ただ、こちらにも準備というものがありますれば、正規の手順を踏んで頂きたかっただけですよ」
「なるほどねぇ、入った客を殺す準備かな?」
「いやいや、逆ですよ、ランクの低い開拓者ごときでは、すぐに死んでしまいますからな、それはレイス王も望まれない事、今回は運が良かったですな、死ななくて良かったですよ」
まさに実力主義の思想だな、まぁ、逆というのは嘘だろうけどな、運が良くてグリフォンなんか倒せるかよ。
「そうかぁ、それは心配を掛けたなぁ、すまんな開拓者になりたてなもんでな、血の気が多いんだよ」
「本当に運が良かったようですな、開拓者になってどれほどで?」
「う〜ん、2ヶ月経ってないかな?」
「ははははっ、これは驚いた、ひよっこも良いところですな…おっとこれは失礼、でも気を付けて下さい、強者には頭を下げておくべきですよ?」
「強者?何の話かな?」
「貴方のような、運が良いだけの弱者が、勘違いして命を落とされるのです、私のような強者に頭を下げるべきだと言っているのです」
「勘違いねぇ…」
勘違いしているのはどちらかな?さてどうするか、このまま口でやり合っててもつまらんし、空気の読めない変なやつになるか…すでになってるという意見は受け付けません!
「はいこれ」
「!?」
瞬光で近寄り、強引に執事の手に紹介状を握らせた。
「今のは…?ん?列王様の印?」
「ああ、サリーがな、レイスの様子を見てきてくれってな、ああ、サリーってのはサーレックの事なんだけど、体が鈍ってるっていうから、少し鍛錬してやったんだよ」
「は、ははははっ♪これは本当に面白い冗談を言う方だ、しかし小童、王の印を偽造するのは良い事ではないぞ?」
小童とは、化けの皮が剥がれて来たねぇ。
「そんな法律はこの世界に無いだろ?まぁそれは本物だけどな」
「ふん、口の減らないガキだな」
「はぁ、ここまで来るとつまらなくなるよなぁ、途中までは面白かったのに」
「何を言っている?」
「いいか良く聞けよ?それが偽物という証拠はあるか?まさかただの決めつけじゃないよな?まぁそれが偽物だったとしても構わんよ、実際俺も直接、列王に手渡された訳じゃないからな、でも、それが本物だったと言う事まで想定してるんだよな?列王の怒りにもし触れたなら…そこまで考えての発言なんだよな?お前は列王に勝てるからそんな事を言ってるんだろ?そうじゃなかったらただの馬鹿だからな?さらに俺はその列王を鍛える程の実力がある事も言ったよな?この世界において、かなりの実力者じゃないと言えないことだからな?さぁ考えろ、次の言葉を良く選んで発言しろ」
「う…うるさい!何をごちゃごちゃと言っているんだ!お前ごときが列王の使いな訳あるか!」
はい雑魚、なんだよこいつ、結局はただの決めつけじゃないか、少し威圧を放ってみるか、ふんっ!
「あっ…う、うぅ…」
指向性の圧縮威圧だぞぉ、効くだろぉ?肩こりも治りそうだぜ、こんなもんかもな…
「はぁ、はぁ、貴様ぁ何をした!変な魔道具でも使ったんだろう!」
あれ?鼻くその匂いがしないぞこいつ、素か?素でクズなのか?凄い…鼻くそ以外だと初かも。
「おお!お前みたいなの初めて会ったぞ、凄いなお前!」
「ふん、今さら媚を売っても…」
「凄いクズ野郎だっ♪」
「な!?なんだと貴様ぁ!」
顔を真っ赤、どころか紫色にして地団駄を踏んで怒るザルド。
「カオスザルドだな…」
「ぶふっ!やめろレン、笑わせるな」
「凄いねぇ、進化したよ〜」
「ははははっ、セイス、退化の間違いだろ」
「「「ははははは♪」」」
「お、お客様、そのくらいで…」
「そうだな、分かった、少し趣向を変えよう」
レンはとりあえずレイスに会うまでの辛抱と、頭の悪そうなザルドを騙すことにした。
「レンちゃんどうするの?」
「良く見ておけ、あいつは知的を気取ってたが、所詮はあんなもんだ、簡単に騙せるよ」
「お手並み拝見と行こう」
「良くやったザルド!」
レンは突然、声に魔力と威圧を乗せて叫んだ。
「はっ?」
急に上から目線で褒められ、呆気にとられるザルド。
「俺は列王の使い、レン、開拓者だというのは嘘だ、氷王が元気にしているか、また城の者たちは氷王に良くしているかを探りにきたのだ!」
体を光魔法でうっすら光らせ、そんなデタラメを堂々と発言する。
「お前は俺の煽りにも、怒りはしたが手を出さなかった、だから、良く我慢したな、ザルツよ」
ザルツの肩に優しく手を置き、優しく見つめるレン。
「レ、レン様…」
『落ちるのはやぁ…』
『すごいな…これはもはや洗脳なのでは?』
『お客様…そんな偉い方々だったのですか?あ、あの私の醜態は…』
『あ、大丈夫だよ〜ヴァルフさんの事は良くやってたって報告しておくよ』
『あ、ありがとうございます』
「どうだ?少しは落ち着いたか?優秀なザルドよ」
普通だったら馬鹿にしているような言い方だが…
「は、はい!落ち着きました!ありがとうございます!」
「うむ、烈王様には良くできた優秀な執事がいるから、氷王も安心だとお伝えしておこう」
「ほ、本当ですかっ!?宜しくお願いします!」
ちょろいなぁ〜。
「それでザルドよ氷王様に会うことは可能か?」
「はい、レイス様に会うには2通りの方法がございます」
「うむ」
「1つはレイス様自ら会うと言われた方は、迷宮を攻略せずに会うことが可能でございます」
「なるほど、あと一つの会う方法は、迷宮を攻略する事、だな?」
「はい、ですのでまずは、私がこの紹介状をレイス様に…」
「いや、不要だ」
「え…」
「いや、その紹介状は持っていって見せるといい、だが、先程ザルドが言った通り、正規の手順とやらを踏み、迷宮に挑み、攻略してみせよう」
「で、ですが…烈王様の使い様に何かあっては」
「大丈夫、何があってもザルドに責任は負わせない、もちろん氷王様にもだ」
「そんな、どうして…」
「お前には先程迷惑を掛けたからな、罪ほろぼしだ、あと氷王様も、誰だか分からん奴と会うのなら、つまらない奴より、迷宮くらい攻略していたほうが興味も湧くだろう」
「なるほど、素晴らしいお考えです!」
よしっ!
「では早速私は、これをレイス様へお見せしに行って参りますので、あとはそのヴァルフに聞いてください」
「分かった、ありがとう」
「いえ、では!」
来た時のように姿勢良く、いや、来た時よりも少し胸を張りながら城内に戻っていくザルド…
「ちょろすぎねぇ?」
「うん…」
「洗脳完了だな」
「さてヴァルフと言ったか?」
「正規の手順とやらを宜しく頼む」
「いや、正規とかはありませんけど?」
「はぁ、やっぱりその場でついた嘘だったか」
「はい、手順があるとすれば、私が許可すればそれで完了ですね」
「了解だ、その水晶のある部屋とやらに案内してくれ」
「分かりました、こちらです」
ヴァルフが城の壁に向かって、自分がはめている指輪を近づけると、また同じように扉が現れた…ザルドが出てきたのは、城入り口の左側、今度は右側だ。
「こちらの部屋です、入って頂ければ分かると思います」
「分かった、世話になったな」
ガチャ…
中の様子を伺うと…部屋の中心に迷宮の中で見たのと同じ水晶が設置されている。
あれに触れば、迷宮の続きから再開出来るんだな。
「じゃあ続きといこうか」
「よし、やるぞ〜!」
「今度こそ完全攻略だな」
3人は微塵も緊張する事無く水晶に触れて、セーブポイントへ転移していった。




