94話 氷の迷宮②
迷宮内で変な遊びに巻き込まれたカリン、遊びの内容が理解できず、直接セイトを殴るという暴挙に出てしまった。
「まったくお前達は、少しはしゃぎ過ぎだぞ」
「姉ちゃん、本当に殴るのはルール違反だよ〜」
「ルールもくそもあるか!この馬鹿たれが!」
「ははっ、なんかこういうのも久しぶりだな、いいじゃないかカリン、心に余裕を持つことも大事だぞ?」
「それはそうだが、もう少し万人受けするものにしてくれ、私はゲームとかやった事がないんだ」
「それはすまんかったな、ははははっ♪」
地球にいた頃、高校生にもなって、皆と冒険ごっこをしていた時の事を思い出しながら、楽しく氷の迷宮を歩いていく3人。
「ん?なんか来るな…」
「うむ、微量だが気配を感じるな…」
「そうなの?」
ガシャ…ガシャ…
「「…」」
「鎧だ!鎧だよレンちゃん!」
氷の鎧がゾンビのように、ゆっくりこちらに向かって歩いて来ている。
本当に敵とエンカウントしただと!?
「これは…レイスとやらは楽しませてくれるねぇ、本当に渡り人かもしれないな」
「アイス・リビングアーマーが現れたー!」
「これは敵なのか?」
「一応俺が対応してみるよ」
そう言ってレンは1人で鎧の前へ。
「リスクリワード」
【100】
寝ていても負けないなこれは、念の為じっとしててみるか、敵じゃないかもしれないからな、お出迎えだったら目も当てられないし…
バシッ!ガスッ!バシッ!
「…うん、敵みたいだ、全然効かないけど」
パァン!
指先に魔力を込め、鎧をデコピン一発で吹き飛ばした。
「ステータス」
貯蓄 160052
「貯蓄は貯まらない、魔物ではないな、人工のものかもな」
「これも魔道具…なのか?」
「とりあえず攻略しようよ〜」
「そうだな、行くか」
その後、何体もの鎧とエンカウントし、倒しながら進むと―――
ん?
「なんか、雰囲気が変わったな…」
「そうか?あたしは分からないな」
さすがは全察知だな、これは、なんとなく自分の察知したい事を選択できるような気がする。
「多分だけど、2階?2層?に移動したと思う」
「本当だね〜」
「セイトも分かるのか?」
「うん、だってあれ」
先を指差すセイト…そこには氷の狼がいた。
「なるほど、階数というより、敵の雰囲気が変わったのを察知しなのかもしれないな、とりあえず道は合ってるみたいだから、また倒しながら行こう、同じようにお前達2人に任せるよ、レベルは上がらなくても鍛錬にはなるからな」
「任せろ」
「頑張るぞ〜!」
いい機会だと思ったので、途中で能力の貸与もしている。
―――――
氷の鎧、氷の狼、氷の熊、最後は大きな部屋に出て、ボスと思われる氷の巨大亀を倒した…そして進んだ先には…
「色が、変わったな…紫色だ」
「また鎧?」
「ふむ、色は違うが質感は氷だな」
「お前ら、油断するなよ?この世界、紫色は結構ヤバい魔物が多いから」
「当たり前だ」
「まずは様子見だねぇ、闇縛」
シルルルッ!
ガシャ!ガシャ!ガシャ…
「…あれ?動けなくなったね」
「あたしが攻撃してみよう、はっ!」
ザッ!
ドゴンッ!
カリンは高速で接近し、掌底を打ち込んだ。
ガラガラガラ…
「少し硬くなったが、弱いな…」
「手応えないねぇ」
「まぁ、こんなもんかもな、2人もまだ強くなってもらうけど、すでにこの世界では上位の強さだからな」
敵は今のところザンゲレベルって所だな。
「先へ行こう」
「「了解」」
紫氷の鎧、紫氷の蜥蜴、紫氷の巨大蛇…2人も少し苦戦するようになってきた、そして亀の時よりも広い部屋にたどり着いた。
バサッ、バサッ…スタッ
「こいつはグリフォンってやつじゃないか?」
デビル・ディアーにも劣らない大きさの敵が、天井から降りてきた。
「見た目はそうだねぇ」
「美しいな、それに強そうだ、少し紫色が濃くなったか?」
「よし、やってみろ」
「「おう!」」
シュ!ドゴッ!
カリンが接近、前足を殴りつけた。
パキッ…
「ふむ、表面が少し削れる程度か、硬いな」
サッ!
ドンッ!
グリフォンが前足で潰そうとしていたが、それを余裕で躱すカリン、空振った前足が床を叩きつけ、大きな音を鳴らす。
「動きはそこまで速くないな」
「いや、お前が速すぎるだけだと思うぞ?一般人だったら今頃ぺしゃんこだろ、質量は相当なものだから注意しろ」
「そうか…少し慢心していたな、改めよう」
「次は僕!黒雷!」
ドォン!
「グオー!」
「鳴いた!効いてる!次、黒蛇!」
ズドッ!
「グゥ…」
セイトの黒蛇で片翼が吹き飛ばされるグリフォン。
セイトも黒霧…いや、あれは本当に黒霧なのか?まぁよく分からんが、とにかく魔法を使いこなすようになったな、性格はあれだが、戦闘のセンスは悪くない、さすが厨二病だ。
「闇縛!」
ガシッ、ガシッ、ガシッ!
黒い触手がグリフォンを拘束した。
「姉ちゃん!今!」
「おう!圧線!」
シュー!
ギギギィ!パキ〜ン!ズシーン…
カリンが水魔法でグリフォンを真っ二つにして戦闘終了。
「お前達も魔法の扱いが上手くなったな、上出来だ」
「レンのおかげだ」
「うんうん♪レベルも上げてないのに、こんなに強くなれるなんてね〜」
さて、道が無いがどうなる?
ゴゴゴゴ…
「おお?」
「扉だ!あれ扉だよ!」
「ふむ、そういう仕掛けなのか、亀の時とは違うんだな」
広い部屋の入り口、その向かい側の壁に扉が出現した、扉の横には台座がせり出てきて、水晶みたいなものが乗っている。
「あの水晶はなんだ?」
「罠か?」
「セーブポイント!」
「セイト…」
「あ!レンちゃん!なにその目は〜!呆れないでよ!」
さすがにそれは無いだろ、どうやってこの世界からログアウトするんだよ。
「とりあえず近くまで行ってみよう」
「そうだね〜」
「そうしよう」
3人は警戒しながら水晶に近づいていき…
「全察知」
「「…」」
「危険は…ないみたいだな」
「じゃあどうする?」
「う〜ん、どうするか…」
「3人で一緒に触って見るのはどうだ?」
「…そうだな、やってみるか」
「賛成〜!」
「よし、行くぞ…せ〜のっ」
ピカッ!
「「「!!」」」
―――
「ここは…」
「お前達は!アイスタートルの所は転移水晶は出ないし…まさかバイオレットグリフォンを倒したのか!?いや、ですか?」
「お前は…」
なんと城の入り口に転移してきてしまった。
「無視野郎じゃないか」
「誰が虫ですか!」
「違う、人の話を無視する、無視野郎だよ」
「いや、それは、ははは、すみません…」
「なんだ?やけに低姿勢だな、さっきと随分態度が違うじゃないか」
「はい…まさかバイオレットグリフォンを倒せるような実力者様方とは思わなかったもので…」
「お前なぁ、門番だろ?」
「は、はいぃ…」
「例え変な客でも、しっかり対応しなきゃ門番じゃないだろ、ああいう態度は、相手が変な客だった時にしろよ、お前が変なやつになってたら一生客が来ないだろ」
「す、すみませんでした!」
「それで?これはどういう状況なんだ?」
「はい、この城はレイス様のお力により、巨大な迷宮になっております」
「それは体験したから分かる」
「はい、それで、途中途中に強力な疑似魔物が配置されていまして、そちらを倒していただくと、一旦こちらに戻れる水晶が現れます」
「それも分かる、でも一旦とは?」
「はい、水晶には討伐者の履歴が記録されまして、別部屋になりますが、そこにある水晶に触れていただくと、同じ階層から再開できます」
「…」
「レンちゃ〜ん?」
セイトがニヤつき顔だ。
「セーブポイントだったねぇ、へへへぇ」
くそっ、ムカつく顔しやがってこいつは…
バコッ!
「痛っ!」
「レンをからかうな!」
「姉ちゃ〜ん、なんだよ〜、いいじゃないか、こういう時しか勝てないんだから」
「まぁいいよ、カリンありがとう、セイトもすまん、俺の負けだ、本当にセーブポイントだったよ」
「よしっ、勝ったからぁ…もう少し僕に優しくして!」
「そんな事でいいのか?じゃあお前が冗談言っても何も反応しないからな?からかうのが優しさだと思って接していたのに、セイトからしたらそうじゃなかったなら、寂しいが仕方がない、これからは真面目に接する事にするよ、もちろん鍛錬に関しても真面目に…」
「ちょ、ちょっと、ストップ!いや!ごめんなさい!ちょっぴり調子に乗りました!オーク串!それでいいよ!1本ちょうだい!」
「なんだよ我慢しなくてもいいんだぞ?嫌だったんだろ?からかわれるの」
「嫌じゃないよ!心の中ではおいしいって思ってたよ!今だってそう!そんなガチレス来ると思わないじゃん!」
「やっぱり面白いなお前は」
「もぉ〜、勘弁してよ〜」
「ほら、これでも食ってろ」
オーク串をセイトにあげるレン。
「わ〜い!やった〜♪」
さすが楽観視、感情の切り替えが早すぎる、普通だったらその言動で可愛い奴めってなるんが、セイトはそうならないんだよなぁ、不思議だ。
「馬鹿な弟ですまんな」
「いいよ、おかげで1人で旅するより楽しいしな、もちろんカリン、お前も含めてだぞ?」
「うむ!ありがとう!報いるように強くなろう!」
「はは、その調子だ」
「あ、あのぉ〜」
「ああ、すまんな、少しお喋りが過ぎたみたいだ」
「い、いえ、楽しそうで何よりです、それでいかがなされますか?列王様の使いだとか言われておりましたが…」
「ああ、そうだった…迷宮が楽しすぎて、本来の目的を忘れてたよ、ほいっ、これを」
サリーからの書状を手渡すレン。
さて、これで無事氷王に会えればいいが…




